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近年の中小企業の生産性動向

2021年10月25日

  • 飯田智之*

要旨

本稿では、中小企業に関する大規模データベースを用いて、わが国の中小企業における近年の生産性動向を分析した。

計測結果によると、中小企業の全要素生産性(TFP)成長率は、リーマン・ショック以降、(1)存続企業内における技術革新の停滞や資源効率の悪化(内部効果の低下)に加え、(2)企業間の資源配分の効率性低下を背景として、全体として伸びが鈍化している。この間、低生産性企業――生産性の低い状態が続いている企業――のシェアは、上昇傾向を続けている。

そこで、そうした低生産性企業のシェア拡大が、相対的に生産性の高い企業のパフォーマンスに、どのような影響を及ぼしていたかを実証的に検証した。その結果、低生産性企業のシェア拡大は、低生産性企業に生産要素(労働投入)が集まることを通じて、生産性の高い企業の要素投入や付加価値創出に有意な悪影響を及ぼしていたことは確認された一方、生産性の高い企業のTFP成長率には直接的な悪影響を与えていないことがわかった。この実証結果は、低生産性企業のシェア拡大は、生産要素の資源配分の歪みを通じて、中小企業全体の生産性低下に寄与しているものの、定量的にはより大きな内部効果の低下を説明する要因とはなっていないことを示唆している。

なお、本稿では、個別企業のTFPを計測する際に、データ上の制約から、企業が支払う人件費を業種別の一人当たり賃金で割ることで労働投入量(従業員数)を推計して用いている点などには留意が必要である。

JEL 分類番号
D61、D62、O47

キーワード
中小企業、生産性、資源配分

本稿の作成過程では、青木浩介氏、伊藤洋二郎氏、亀田制作氏、川本卓司氏、木全友則氏、倉知善行氏、陣内了氏、須合智広氏、高橋耕史氏、土屋宰貴氏、中島上智氏、長野哲平氏、中村康治氏、平木一浩氏、八木智之氏、ほか日本銀行の多くのスタッフから有益なコメントを頂いた。記して感謝の意を表したい。ただし、あり得べき誤りは全て筆者個人に属する。本稿で示されている見解は、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *日本銀行調査統計局(現・総務人事局) E-mail : tomoyuki.iida@boj.or.jp

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