このページの本文へ移動

ニューケインジアン・モデルを用いたインフレと社会厚生に関する分析:日米を事例に

English

2019年6月27日
嶺山友秀*1
平田渉*2
西崎健司*3

要旨

本稿では、ニューケインジアン・モデルを用いて、社会厚生を最大化する定常状態インフレ率に関して分析を行った。日本と米国について、経済構造やゼロ金利に直面した期間の違いをモデルに組み込み、インフレのコストとベネフィットに影響を与える4つの代表的な要因、すなわち、(1)価格の硬直性、(2)貨幣保有の機会費用、(3)名目賃金の下方硬直性、(4)ゼロ金利制約の影響を、モデルの非線形性を踏まえて評価した。分析によれば、社会厚生を最大化する定常状態インフレ率は、日米ともに2%近傍であるとの結果が得られた。もっとも、プラスのインフレ率が必要となる主因は、日本ではゼロ金利制約、米国では名目賃金の下方硬直性と、両国において異なる。また、定常状態インフレ率が2%近傍から上下1%ポイント程度乖離しても、社会厚生が低下する程度は限定的なものにとどまるとの結果も確認された。金融政策の時間軸効果(フォワード・ガイダンス)を勘案すると、社会厚生上許容されうる定常状態インフレ率の下限が切り下がることも分かった。ただし、ゼロ金利制約に関連するパラメータの不確実性などを踏まえると、計測された定常状態インフレ率に関する結果は相応に幅をもってみる必要がある。

JEL 分類番号
E31、E43、E52

キーワード
インフレーション、社会厚生、ニューケインジアン・モデル、名目賃金の下方硬直性、ゼロ金利制約、フォワード・ガイダンス

本稿は、東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局第8回共催コンファレンス「近年のインフレ動学を巡る論点:日本の経験」(2019 年4月15日開催)の導入セッションにて報告された。
本稿の作成に当たり、青木浩介氏、一上響氏、北村冨行氏、黒住卓司氏、Susanto Basu 氏、Yuriy Gorodnichenko 氏、Joshua Hausman 氏、Peter Ireland 氏、日本銀行でのセミナーおよび上記コンファレンス参加者から有益なコメントを頂戴した。記して謝意を表したい。もちろん、本稿のあり得べき誤りは、全て筆者たち個人に属する。なお、本稿に示される内容や意見は、筆者たち個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行企画局 E-mail : tomohide.mineyama@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail : wataru.hirata@boj.or.jp
  3. *3日本銀行企画局 E-mail : kenji.nishizaki@boj.or.jp

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局(post.prd8@boj.or.jp)までご相談下さい。転載・複製を行う場合は、出所を明記して下さい。