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総裁記者会見要旨 (7月2日)

1998年 7月 3日
日本銀行

—— 平成10年 7月 2日(木)
午後 6時30分から約20分間

【問】

本日、政府・与党で取り纏められた「金融再生トータルプラン」についての評価如何。これで日本の金融システム不安というものが除去されるのかどうか、それからこれを受けて総裁として金融界にどういった行動を望むのかという点を聞きたい。

【答】

本日、「政府・与党金融再生トータルプラン推進協議会」が開かれて、私も出席して帰ってきたところであるが、「金融再生トータルプラン」の取り纏めに対してどういう感じでいるかということをまず申し上げる。

現在の日本経済にとって、「景気の回復」と「金融システムの建直し」の二つがなるべく早く実現することが最大の課題であるということは、先般も申し上げたが、この面で講じるべき措置は可能なものから早急に具体化を図っていく必要があるというふうに思う。この点で、今回の「金融再生トータルプラン」に盛られている諸施策は不良債権問題を一刻も早く解決し、わが国金融システムに対する市場の信認の回復、それから金融の再生への展望の明確化ということを実現するために不可欠な措置であって、今後これが早期に実現されるべきものと願っている。

日本銀行としては、諸施策の実施に必要な法整備ができるだけ早期に図られることを期待するとともに、主要19行への集中的な考査を含めて、金融監督庁や大蔵省との連携を図りながら、中央銀行の立場から金融の安定と再生という、わが国に課せられた重要な課題の達成に最大限の努力を払っていく考えである。

同時に民間金融機関に対しては、日本版ビッグ・バンの本格化も踏まえて、情報開示の拡充を含め、自主的かつ積極的に新たな経営環境への対応を進められることを強く期待したいと思う。

なお会議では、総理からも金融システム安定化に向けての強い決意が表明された。日本銀行としても金融監督庁および大蔵省とともに、わが国金融の再生に向けて、強い決意をもって取り組んで参りたいというのが、私の今の感想である。

【問】

公的ブリッジ・バンク制度については、健全でない借り手の救済にまで繋がるのではないかとか、これによって投入される公的資金──日銀からの借入も含まれる──が非常に膨大になってしまうのではないかという点も指摘されているが、それらについてはどう考えているか。

【答】

ブリッジ・バンク制度については、一つには、金融機関の破綻に際して、民間の引受金融機関が登場しない場合でも、金融システムの安定と預金者保護を確保し、迅速に金融の危機管理が行える体制を作るということ、二つには、民間の引受金融機関が登場しないために、善意かつ健全でありながら、新たな取引銀行を見出せない借り手の対策に資する体制を整備すること、こういうことが狙いである。このことが、今回の「金融再生トータルプラン」に盛り込まれたことはご承知のとおりである。

日本経済の現状を踏まえると、金融機関の破綻処理に当って、健全な取引先や地域経済に悪影響が及ばないように配慮するといった視点も重要であると認識している。

こうした観点から、ブリッジ・バンク制度は「景気の回復」と「金融システムの建直し」という日本経済が直面する二つの課題を実現する上で、必要な施策であるというふうに考えている。

日本銀行からも資金が出るかということを含めて答えるが、各ブリッジ・バンクの設立に当って、預金保険機構が「平成金融再生機構」——これは一種の持株会社であるが——を通じて出資を行うことが想定されている。また、各ブリッジ・バンクが、他の民間金融機関に承継されるまでの間、善意かつ健全な借り手に対する融資を維持、継続していくという上で必要な資金について、預金保険機構が「平成金融再生機構」を通じて貸付を行うということも想定されている。預金保険機構が、以上の出資・貸付を実施するための財源としては、「金融危機管理勘定」の財源である3兆円の交付国債、それから政府保証の下での民間金融機関ないし日本銀行からの借入——これは限度額が10兆円で、両方で13兆円になる訳であるが——これらの仕組みが充てられることになる。従って、仮に日本銀行の資金が利用されるとすれば、現行の「金融危機管理勘定」による政府保証借入枠の範囲の中で行われることになると思う。

【問】

先日の記者会見で、総裁は自己査定結果の自主的な情報開示について言及したが、その情報開示の具体的な方法についての総裁の考えを改めて聞きたい。

【答】

この前は具体的にどうするということを申した訳ではなく、方向として自己査定、自己開示、そしてまたそれによって自己の判断で──自主的な判断で──なるべく早く償却を行っていくということがこれからのビッグ・バンの中で、銀行が生き延びていき、そしてまた内外からの信頼を得、あるいは預金者からも「この銀行なら大丈夫だ」ということになる政策だと──経営だと──思うので、その方向を申し上げた次第である。

具体的に、何と何といったことは言っておらず、これからそれぞれの銀行が考えていくべきことだというふうに思う。

【問】

金融機関の破綻──ブリッジ・バンクに移行する場合の破綻──とは何を指しているのか──債務超過になれば破綻なのか、あるいは自己資本比率が2%とか1%とか0.5%とかになれば破綻なのか。それは誰が決めるのか──金融監督庁になるのか、それとも銀行そのものが「債務超過です」と言えば、破綻になるのか。

【答】

私はちょっと法律的あるいは会計的に詳しくないので、自信を持っては言えない。債務超過になり、自己資本でカバーできないということになれば、破綻ということになるのではないかと私は思うが、これは後で事務方から法的な解釈を聞いて頂きたい。

【問】

情報開示の点で重ねて聞くが、「何と何を具体的に開示するかは銀行の判断である」旨先程言ったが、先日の会見では、「第2分類を含めて開示すべきだ」ということをはっきり言ったように記憶している。少し考えが変わったのか、それとも考えに変わりはないのか。

【答】

(先日は)方向を申し上げたのであって、第2分類については「(自己開示には)第2分類も含まれることもあるだろう」ということは言ったかもしれないが、その辺ははっきりしたことはまだ(言えない)。各銀行が決めるべきことである。「これは危ない」ということを感じれば、それぞれの銀行が自己査定をして自己開示をしていくべきものだと申し上げたつもりである。

【問】

自己開示については全銀協を始め、今のところ非常に否定的な意見が多いが、それについてはどのように考えているか。

【答】

やはり、銀行にとっては今まで全部「護送船団方式」でやってきた訳である──左右を見ながら同じことをやっていれば間違いなかった訳であろうが──、これからはそういうことではいけない訳である。それはやはり銀行にとってはかなり痛みが出るところもあるはずであるが、しかしそうだからといって、時代がこれだけ変わり、バブルが弾けて7年かかってまだ不良資産、不良貸出の整理ができていないということでは、やはり、これからますます信認を失っていくことになる訳である。その痛みを乗り越えて、自ら判断して再生を図り、内外の信認を繋ぎ留めていく──銀行というのは正に信用によって成り立つ企業体であるから、痛みを感じるところが生じるというのは止むを得ないことだと思う。但し、だからといって、このままでやっていったら、全部が敗者になってしまうということではないか(と思う)。

【問】

ブリッジ・バンクに受け継ぐ際に、善意かつ健全なものであるかどうかの基準はどうなるのか。一方で総裁は自己査定結果の開示というのを求めているが、その基準の作り方、あるいは活かされ方というのはどういう形になるのか。

【答】

(金融機関が)自己査定するものを日本銀行あるいは金融監督庁が定期的に考査・検査をすることになる。それは「金融危機管理審査委員会」の下に置かれた「審査判定委員会」というのが、破綻金融機関から公的ブリッジ・バンクに継承される善意かつ健全な債務者に対する債権とそれ以外の債権との仕分けを、「金融危機管理審査委員会」の議決を経た適正な基準に従って行う。

【問】

例えば、所謂「第2分類」の債権は、どういった扱いになるのか。

【答】

先程も申し上げたように、第2分類が特にどうかということを申し上げたつもりはない。銀行が自分の判断で自己査定して、自己開示して、なるべく早く償却していくということが再生の道であるということを申したつもりである。

【問】

金融監督庁と連携を図りながら、19行について集中的な考査を行うということであるが、要するに最近行ったところも含めて、改めて19行について全て考査を行うということか。

【答】

それはまだ決まっていないが、日本銀行としても主要19行を対象に金融監督庁と連携しながら集中的に考査を行っていく。最近行ったばかりのところをもう1回やる必要があるかどうかは、事務方の判断にもよるが、19行全てについて日本銀行としても金融監督庁と連携しつつ、ここ2、3か月のうちに考査をしたいというふうに思っている。特に、不良貸出を中心にした考査ということになるはずである。その辺は、金融監督庁ともこれから話合い、打合せながら両方で重ならないようにやっていくようになるというふうに思っている。

【問】

検査と考査というのは、性格が違うものだと思うが、考査の結果は金融監督庁の検査と同じような扱いになるのか。

【答】

考査の結果は金融監督庁に全部報告をすることになっている。

【問】

考査の結果、債務超過と分かったような時に、その結果は金融監督庁が業務停止命令を行うような根拠となるのか。

【答】

その辺の細かいことは、事務局に聞いて欲しい。

【問】

極めて大事なことだと思うが、どうか。

【答】

大事なことに違いないと思うが、そこまでまだ話し合っていないと思う。それは事務局に聞いて欲しい。私の方ではまだ聞いていない。

【問】

極めて短期間に19行もの銀行に対し、精度の高い考査ができるのか。

【答】

先程から申し上げているように、不良貸出を中心に考査をするということになろうかと思う。

【問】

制度が整う前に、市場に厳しく見られ、金融機関の自律的再編が進むとの見方もあるが、それに対する見通し如何。

【答】

市場は動くのが速いので、明日のこと、先のことは分からない。

この間のケースをご覧になっても、あっという間に引出し、解約が起こる。先のことはなかなか言えないが、そういうことが起きる時にも、すぐに対応できるようにしておかなけばいけないと思う。

今度のケースは、──今週に入って、比較的市場が静かになってきていることをご覧頂いても──、いかに大きな日本への信認の材料に、原因になっているかということを知らされた思いである。

【問】

金融機関に対して、自発的に生き残りをかけて再編等を模索してほしいということか。

【答】

自分達のところで、自己査定をして、自己開示をなるべく早くするだけでは駄目である。償却をして、バランス・シートから落としていくことによって、キャッシュ・フローが良くなっていく訳であるから、そういうことを、「それぞれの銀行が始めて下さい」、「始めて頂くことを期待します」ということを、この前申したつもりである。

不良資産の早期解決というのは、政府筋でも、大体、あのような方向で、——アメリカなんかでもそうであろうが——この前、サマーズ財務副長官が来て言ったこともそうである。皆、日本の経済の先行きについては、不良債権の整理というものが、どの程度、どういうスピードで行われているかということが、世界の注目の的になっているということは疑いのないことであると思う。

【問】

日銀は、先月の長銀考査で、長銀が債務超過に陥っていないという判断をしているとの見方があるが、金融監督庁が今月検査に入っても債務超過になることはあり得ないという認識か。

【答】

それは、私どもの方でやる訳ではないので、分からない。私どもがやっている限りでは、まだ債務超過にはなっていない。

【問】

増渕審議役からの補足説明をお願いする。

【答<増渕審議役>】

先程質問に出た金融監督庁検査と日銀考査の違い、および「破綻」の定義について申し上げる。

金融監督庁の検査は法律に基づいて行われて、それによって一定の必要がある場合には、処分・対応がされるという法的根拠があるものである。日本銀行の考査は、ご案内の通り、契約に基づいて行われるもので、それをもって直ちに検査と同じ効果を持たせるということはあり得ない。

次に「『破綻』とはどういうことか」というご質問があったが、これは預金保険法で明確に定義があって、「預金払い戻しの停止またはそのおそれのあるような場合」ということであるので、「債務超過の場合」には「破綻」ということになると思うが、債務超過でなければ「破綻」でないということでもない。逆に言えば資産超過であっても、預金保険法上の「破綻金融機関」になることはあり得る。

以上