ホーム > 日本銀行について > 講演・記者会見・談話 > 講演・記者会見(2010年以前の過去資料) > 記者会見 1998年 > 三木審議委員記者会見(12月3日) 要旨
三木審議委員記者会見要旨(12月3日)
平成10年12月3日・栃木県金融経済懇談会終了後の記者会見要旨
1998年12月8日
日本銀行
——平成10年12月3日(木)
午後5時から約50分
【問】
本日の栃木県金融経済懇談会の模様如何。
【答】
(冒頭、懇談会席上における挨拶を概略説明。) 懇談会の出席者の方から伺ったお話の中から、特にこれはというお話をご紹介させて頂く。
まず1つ目は、8月の集中豪雨により那須地区は相当の被害を被り、その被害総額は800億円にも上ると言われる。このため、栃木県の景況感は、全国レベルよりも更に厳しいものになっている点は否めないとのことであった。
2つ目として、去る4月1日に新日銀法が施行されたということもあって、日銀と政府との関係についてもご質問があった。これに対しては、新日銀法が透明性と独立性を理念としており、あくまで日銀の金融政策運営は、政府から独立した形で行われていること、金融政策決定会合には政府から大蔵大臣、経済企画庁長官ないしはその代理の方が必要に応じて出席されるが、議決権はないことなどをご説明した。ここで言えることは、同じ日本の国の政策を行っている訳であるので、当然のことながら、政府の政策との整合性については、常に念頭に置かねばならないと考えているが、あくまでも私どもの金融政策は、独立したものとして日本銀行がきちっと判断を行って決めているということである。従って、9月9日に金融緩和を決定し、11月13日に企業金融の円滑化を企図したCPオペ拡大、臨時貸出制度、社債等担保オペの3つの措置の導入を決定したが、いずれも政府に相談したということはなく、日本銀行の政策委員会が、諸般の情勢を勘案したうえで決定してきたものであることを申し上げた。
3つ目は、中小企業の現状についてである。特に足利地区は、大企業を支える中小企業の町ということで、かつては織物の町というところから発展し、戦後は大企業の受け皿として加工・組立産業の技術を担ってきた企業が多くある。その中で、切磋琢磨してきた結果、技術レベルは世界に冠たるものがあるのではないか。地元の商工会議所では、このようにして中小企業に蓄えられた独自の技術を活かし、またエリア内で技術を相互に交換したり、あるいは地元大学の研究所のノウハウと融合させることによって、新製品開発の推進に注力しているとのことであった。こうした努力によって、地域的基盤を高めるとともに、日本経済を支える技術を中心とした中小企業づくりを進めているということを伺った。私は先程、企業はさらなるリストラを求められており、財政・金融政策と民間企業努力の「合わせ技」でこの難局を乗り越えることが大事であると申し上げたが、企業としてマーケットニーズを汲み上げ、それに見合う新技術を開発し、新商品を開発するという需要喚起の努力が、政府の財政政策、日銀の金融政策と組み合わさることがベストである。この足利の中小企業の動きはそれにマッチするものであって、大変心強く思った次第である。
4つ目として、貸し渋りの問題についてもお話があった。これについては、銀行と企業の両サイドからお話があったが、まず銀行サイドについては、地銀、第二地銀などは、地元企業と長いお付き合いをされてこられ、地元密着型の経営を行ってこられた訳であり、不良債権処理等、経営の健全化を図る中でも、銀行として信用仲介機能をきちんと果すことが大事であるとの認識であった。そうした認識の下でいわゆる貸し渋りという事態に陥らないように努力しているし、地元企業からは、貸し渋りがあるという声は聞かれていないとのことであった。金融再編の動きの中で、リージョナルバンクを目指す銀行が出てきているが、当地の地銀、第二地銀は地元密着型のリージョナルバンクとして、機能を果しつつあるという感じを受けた。
かたや企業側の声としては、制度金融に関して、10月から受付が開始された信用保証制度の信用保証枠の拡大は、特に地方において大きな効果が出ているとの意見が強く出ていた。
【問】
大手行については公的資金導入の意向を表明しているが、地銀、第二地銀については、未だ明確な声は聞かれていない。これら地域金融機関は、どのように対応すべきか。
【答】
それは、各行個別のお考えで、自己責任に基づく経営判断により決めるべきことである。銀行は、収益性や資本効率を考えた経営を今一番強く求められている。各行が可能な限りリストラ努力や不良債権処理を行った結果、残念ながら過少資本に陥った場合には、大規模な公的資金注入の仕組みが用意されている訳であるから、手を挙げられれば良いと思う。
折角このような仕組みができた訳であるし、銀行にとって、これはおそらく経営を立て直す最後のチャンスだろう。各行は、どのような経営を行っていくのか、中期の経営計画をきちんと策定し、その実現に向けて進んでいくということが必要である。そうした中で、地銀、第二地銀についても、公的資金を導入しようというところがこれから出てくるのではないか。このような仕組みが作られた背景には、不良債権をきれいに落として早く健全な体質にして下さい、という狙いがある。延いては、日本の信認の問題にも繋がることであり、各行はきちんと対応していって頂きたい。
【問】
銀行は、公的資金を導入する結果、株式数が増えることを懸念して、思い切った公的資金注入に踏み切れないということもあると思うが、このような懸念は、見方によっては消極的スタンスとも言えると思う。この点に対する考え方如何。
【答】
それは、企業経営者の立場として、当然気にして然るべき問題である。企業はマーケットの中で生きていく訳であるし、今後は資本市場から資金を調達するという動きが益々強まっていくと思われる。そのような中で、企業にとってマーケットから信認を得ることは非常に重要であり、そうした信認の一つが、上場会社の場合は株式である。株式が増えることにより、配当リスクが高まり、株価が下がることが懸念されるが、これを念頭に置くのは経営者としては当然のことである。
ただ、各行はそうしたことを念頭に置きつつも、不良債権処理も含めて自行の経営を今後どうするのかという判断で公的資金導入の問題について考えていくことになると思う。
【問】
栃木県の金融情勢に対する捉え方如何。
【答】
日本銀行では支店長会議という四半期に一度の会議があり、33の支店によって地方の金融経済を把握し、万全の手が打てるようにしている。ただ、全都道府県に支店を置く訳にもいかず、また、これだけ交通網が発達していることもあり、北関東エリアでは群馬県に前橋支店を置いているが、栃木県、千葉県、埼玉県には支店はなく、本店で見ている。また、金融システムについては全国の中で捉えているので、栃木県だけを採り上げて言うのはなかなか難しい面がある。ただ、言えることは、当地で地銀、第二地銀はともにリージョナルバンクとして地域密着、現場密着型で相対的にではあるが非常に機能しているのではないかと思っている。先ほどの懇談会でも貸し渋り問題について企業経営者からの反発はあまり出ていなかった。
【問】
今日発表になった7~9月のGDPは、実質で前期比-0.7%、年率換算で-2.6%と4四半期連続のマイナスとなり、戦後最悪を更新したが、これに対する評価如何。
【答】
この動きは私からみれば織込み済み、見通しの範囲内の数字であると思っている。経済が急激に落ち始めたのは5月、6月位からであるので、7~9月は実物経済の現場からみると更に悪化して二番底になるのではないかという懸念を抱えたまま走った四半期であった。そのため、日銀は9月9日に一層の金融緩和措置を採った訳であり、今、それを裏付ける数字が出たなと思う。
【問】
9月決算で、ほとんどの銀行が「自行の基準で判断すると、不良債権は引当て済みである」と発表しているが、実態はそうではないのではないかという懸念も強いと思う。この点の判断如何。
【答】
銀行にとってはマーケットの信認が一番大切なものである。従って、銀行は自己査定を自主的に開示することにより、マーケットの不安を取り除くとともに、リストラを行い、不良債権を早く処理する道筋をつけて、マーケットの信頼を得ていくことが一番必要だろう。その過程で、残念ながらマーケットで打たれることもあり得ることを想定して、政府は大規模な公的資金を用意しているのであり、仮に過少資本に陥いるということになれば、銀行は公的資金を注入するために手を挙げて頂いて結構である。ある意味では大量に注入を受けて、それによって早く健全な方向に持っていけるようにすべきではないかと思う。その意味で、まず最初に自己査定の自主開示を行うべきだと思う。
【問】
現在、自己査定の自主開示を行っている金融機関は少ないが、これについてどう思うか。また、現在導入が見込まれている公的資金は、不良債権を処理するのに十分か。
【答】
自己査定の自主開示を行っている金融機関はまだ少く、これからの問題だと思う。現在、いわゆる金融2法の実際の運用ルール——私は、この運用ルールが一番大事だと思う——が逐次決まりつつある中で、各行が自己査定をきちんともう一度見直して、それを自主開示していくという方向になるとよいと思っており、またそれを期待している。
それから、どういう不良債権をどういう形で処理していくかということは、あくまでも個別行の問題であるので、それを積み上げたトータルの数字をもって、多いとか少ないとかの評価は言えないと思う。私は、各行が一刻も早く収益性と資本効率の改善を狙った新しい健全な銀行にリストラをし、また中期的に見た自分の銀行の「生き様」を創り上げて、それに向かっていってほしいと思う。政府もそれを期待して公的資金注入の枠組みを作ったと思うので、出来るだけこれを利用してほしいというのが政府の気持ちではないか。日銀もそう考えている。
【問】
大手都銀は既に資本注入に手を挙げたのに対し、地銀はまだこれから考えるという状況であると思うが、資本注入については、大体いつ位までに最終判断すべきと考えているか。
【答】
これはまさに個別行の問題であり、各行がどういう意見か分からないが、1つ言えることは、資本注入の方法は主に優先株になると思うので、当然、株主総会の決議を経なければならない。臨時株主総会は手続をするのに事務的な手続だけであれば2週間位で足りるが、その前に色々と決めなければならないことがあることを考えると、やはり2か月前くらいには肚を固めなければならないと思う。このため、来年の3月決算に間に合わせるためには、そろそろぎりぎりという感じではないか。
【問】
このところ長期金利が上昇しており、マーケットには国債買切りオペの増額期待が出ているが、如何か。
【答】
国債の買切りオペについての日本銀行の考え方は、総裁も何度も申し上げているとおり、発行銀行券の増額の範囲内で行うということになっており、この考え方は変えていない。
以上
(参考)
第3回栃木県金融経済懇談会出席者
(五十音順)
- 足利商工会議所会頭
- 板橋 敏雄
- 株式会社栃木銀行頭取
- 市川 秀夫
- 仙波糖化工業株式会社社長
- 魚住 昭義
- 東邦建株式会社社長
- 亀田 好二
- 栃木県商工会連合会会長
- 川崎 和郎
- 栃木県産業協議会会長
- 栗原 義彦
- 株式会社コジマ副社長(代理出席)
- 小島 由三
- 滝沢ハム株式会社社長
- 瀧澤 貞夫
- 栃木県信用金庫協会会長
- 束原 民範
- 株式会社宮副社長(代理出席)
- 長井 隆夫
- 栃木県農業協同組合中央会副会長(代理出席)
- 野中 孝
- 栃木県中小企業団体中央会会長
- 橋本 吉夫
- 株式会社下野新聞社社長
- 早川 仁朗
- 栃木県観光協会会長
- 八木澤 一郎
- 栃木県商工会議所連合会会長
- 簗 郁夫
- 株式会社足利銀行頭取
- 柳田 美夫
- 日本関税協会栃木地区理事
- 和田 恭三
(以上17名)