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総裁記者会見要旨(6月19日)

2001年6月20日
日本銀行

―平成13年6月19日(火)
午後3時から60分

【問】

先日公表された1−3月のGDPは、2期振りにマイナスに転じた。日銀も、昨日公表した金融経済月報で、「景気は調整を深めつつある」と、景気判断の下方修正をしているが、改めて今景気はどういう局面にあるのか、それに基づいて当面の金融政策をどう運営するお考えか、伺いたい。

【答】

景気の現状については、昨日公表した金融経済月報でご覧頂いたとおり、「輸出の落ち込みを主因に生産の大幅な減少が続くなど」──いわゆる「調整」という言葉を使っているが──「調整が深まりつつある」と見ている。前月に比べて判断を更に慎重化させたと言って良いと思う。

米国や東アジアなどの海外経済、とりわけ情報関連の需要が世界的に低迷を示している。こうしたことを背景にして、輸出が減少している。日本の企業の収益の環境も、やはり厳しさを増してきているのではないかと、これによって設備投資も減少に転じつつあるのではないかと思う。この間、家計の所得環境だが、今のところ、なお底固さを維持していると言って良いと思うが、今後こういった調整が深まっていくということであれば、労働時間が減少するとか、生産の減少の影響というものが、家計の所得に響いてくる可能性があるということが懸念される。

我々としては、こうした経済の姿について、輸出の減少を起点とする経済の下押し圧力が、生産調整から設備投資とか雇用の調整に波及していくというメカニズムに注目して、「調整」という表現を使ってきているわけである。

こういう情勢をどう表現するかについては、色々あると思うが、我々としては、4月の早い段階から「調整局面」ということを言っており、私どもの景気の先行きに対するリスク評価の中に十分入っている過程だと思っている。3月に、「物価が継続的に下落することを防止し、持続的な経済成長のための基盤を整備する」という断固たる決意の下に、思い切った金融緩和に踏み切ったわけである。その後この政策を継続しているのも、こういった厳しい情勢判断に基づくものと考えて頂きたいと思う。

【問】

景気の先行き懸念が強まっていることに加え、経済財政諮問会議が出した基本方針素案の中では「金融政策は必要に応じて量的緩和策の拡大をすることが期待される」ということが盛り込まれた。総裁としては、どのような情勢になれば、一段の緩和策が必要になってくると考えているのか。

【答】

皆さんまだご記憶だと思うし、3月19日のステートメントをご覧頂ければお分かりかと思うが、先行きのかなり厳しい情勢悪化にも対応しうるような「懐の深い」仕組みを作ったつもりである。

まず第1に、現在の資金供給量はきわめて潤沢であり、所要準備を超える超過準備──所要準備4兆円を超えて5兆円の当座預金──を置いてもらっているわけである。金融緩和の程度をみると、金利はゼロ金利政策時代を更に下回っている。

第2に、消費者物価を利用した明確なコミットメント──消費者物価が安定して前年比ゼロ%以上となるまでという時間軸──もセットしてあるわけで、今後情勢が更に悪化して緩和をもっと継続するという期待が強まっていく場合には、これによって、より長めの金利が低下するという、自動の調整メカニズムが組み込まれている。

このように、金融市場では資金がジャブジャブの状態である。問題は、そうした資金が金融システムの外側にいる企業等に行き届いているかどうかということである。その意味で、我々としては、構造改革に向けた政府の取り組みや企業経営の面で、現在の強力な金融緩和策をうまく利用するような、前向きの動きが出てくること、即ち各種の構造改革が民間主導で動き出していくことを強く期待している。そのうえで、もしIT関連分野等で世界経済がまた少しおかしくなるとか、あるいは新内閣のもとでの構造改革の進展に伴い、破綻企業がかなり大きな影響を与えそうだ、といったような事態などが今後起こってくるというような時になれば、今後とも、適切な金融政策運営に努めていく方針である。

「一段の金融緩和をやるのでは」とか「やれ」とかいう話が新聞等にも随分書かれているが、私どもとしては、この間の金融政策決定会合では今このジャブジャブな緩和状況の中で、そういうことを考える時期ではないと考えている。やはり構造改革が動き出して、経済全体が前向きに、特に民間主導で動き出した時に初めて私どもの3月に採った措置が効果を挙げるということを、あの時にはっきり言ったつもりである。それを先取りして、私どもはあれだけ思い切った手を打ったわけである。今ここで資金を更に出してみても、それがどういう影響を与えるかということは、今までの経験から非常にはっきり出ているわけである。

今日は皆さんに、私が最近外国の方や政治家の方々に、金融を更に緩和した時にどういう影響が出るかということを、過去の実例から簡単なグラフにして説明をさせて頂いている、そのグラフを見て頂いて、ご説明したい(別添資料を配布)。

これは、1995年から2000年まで5年間の毎年の平均伸び率をグラフにしたものである。(棒グラフの)一番左がマネタリーベース、即ち日本銀行が出す銀行券および当座預金。これは毎年7.9%増えている。その次の段階で、M2+CD(マネーサプライ)、預金とCDを足したものは3.3%しか増えていない。更にその右側の民間銀行貸出がどうなったかというと、5年間平均で−0.4%である。これでは企業にカネは流れない。こういう状況で経済がどう動いたかというと、過去5年の平均で名目GDPは僅か0.6%、実質GDPは1.3%、消費者物価(CPI)はほぼ横這いの0.1%となっているわけで、実体経済は殆どプラスになっていない。

私どもの方でいくら資金を出しても、それが企業に回りあるいは個人の資金になったり、色んな民間の経済活動を活発化するというところには至っていない。(グラフに戻って)真ん中の国債の発行残高は毎年10.7%ずつ伸びている。銀行が保有する国債を見ると、銀行は預金を集めても貸出先がないというか、むしろ国債をこのように年平均で15.4%増加するような投資を行っているということである。

このように国が資金を調達してそれで財政投融資その他に使っているわけであるが、それがご覧のように経済のプラスにはなっていないということを見て頂きたいと思う。

このような状況でいくら私どものところで、マネタリーベースやM2+CDを更に増やすようなことをやってみても、このままでは経済は活性化もしないし、GDPも増えてはいかないと思う。よくliquidity trap(流動性のわな)という言葉が使われるが、──流動性をドンドン投込んでいっても、植物に水をいくらかけても、その植物が大きくなっていかないということの裏には、やはり何か、土地が悪いとか、肥料が悪いとか、日が当たらないとか色んなことがあるわけであり、そういうものを植物が育つようにしていきながら水をかけていかない限り、いくら水をかけてもジャブジャブになってしまうだけで、植物は育っていかないということを、このグラフでご想像頂けると思う。基礎体力が育たないで、トラップの中でむしろ植物が勢いを失ってしまうような可能性さえあるわけである。金利が特に低いだけにそういった懸念もある。

構造改革と金融政策というものは合わせ技でよく両方を見ながら調整していかなくてはいけない。私どもは既に3月19日に現在の情勢をも考えに入れた上で、あれだけの手を打ったわけで、その結果として市場金利はゼロ金利の時よりも更に下がっているし、社債とかCP(コマーシャル・ペーパー)といったようなものも、かなり市場には行き渡っており、残高は増えている。そういうことを見ても、この3月の金融緩和の効果は、かなり出てきていると判断している。今ここで更に水をかけてみても、どれだけの効果があるか、却ってマイナスになる可能性すらあり得るわけで、その辺のところをよく見ながら、今後の金融政策を決めていきたいと思っている。

幸い新内閣が、「構造改革なくして景気回復なし」ということをはっきり言われて、構造改革に手を打ち始めておられる。これは、私どもとしても、「待っておりました」と言いたいところである。企業には非常に大きな債務が残っており、銀行の不良債権も残っているといったところから始まって、もっと民間企業が前向きに本当にグローバルな市場の中で売れるものを作っていく、ということが必要なのではないかと思う。それがやはり構造改革というものの実態ではないか。政府が色々な手を打ち、税制を改め、あるいは行政の在り方を変えていくということになっていくと、民間の方も必ず動き出すと思う。

最近安くて良い輸入品がドンドン入ってきているし、流通市場を見ても、良くて安いものはドンドン売れている。例えば、有楽町にあった「そごう」の建物に、カメラ屋さんが入って、朝から連日並んでいるという動きを見ても、決して消費が縮まろうとしているとは思わない。安くて良いもの、あるいは、良いものは高くても買っていくというのが、現状ではないかと思う。

多少脱線したが、そのような考え方で、私どもは3月の措置を採った。そして、またアメリカが中心になってやや激しい景気の下降が起こった──私どももこれだけ早くそういう降下が起きるとは思っていなかったが──、その結果として世界中が金利を下げ、金融緩和あるいは景気対策に手をつけているというのが現状ではないかと思う。ここでむやみやたらに資金を出してみても、それが日本の経済にプラスになるかどうか。外国では日本はもっと資金を出せと言われるかもしれないが、日本のことは私どもが一番よく知っているわけで、資金が海外に流れていって潤えば、海外の人たちは喜ぶかもしれないが、そのために日本銀行が資金を出すのは全く馬鹿げたことだと思う。そういうことも含めて、巷の声や政治家、海外の声を判断して頂きたいと思う。

【問】

先日の金融政策決定会合の席に竹中経済財政担当大臣が自ら出席され——これは、かなり異例なことだと思うが——、いろいろ意見をされたと思うが、この時どういう発言を行い、どういう議論があったのか。

【答】

新日銀法19条をご覧になって頂ければ、分かるかと思うが、「財務大臣又は経済財政政策担当大臣は、必要に応じ、金融調節事項を議事とする会議に出席して意見を述べ、又はそれぞれの指名するその職員を当該会議に出席させて意見を述べさせることができる」とあり、今までも、経済企画庁では尾身長官、あるいは堺屋長官も出てこられたわけで、今回、竹中大臣が出てこられたことが、非常に珍しいことではないと思っている。

私どもとしては、前回の決定会合に竹中大臣が自らご出席になって、構造改革を含めた経済情勢等に関しての認識を直接にご説明頂いたことは大変有意義であったと思っている。しかし、政府からの意見表明の内容を含め、金融政策決定会合における議論の内容については、約1ヶ月後に議事要旨を公表するまで、対外的には申し上げられない規則になっているので、現時点ではこれ以上、竹中大臣が何を言われ、どういう説明をされたかという質問に対するお答えは差し控えたい。

【問】

不良債権処理に関し、現在、民間を中心に債権放棄ガイドラインの策定作業が進んでいるが、日銀としては、このガイドランの必要性と効用について、どのように考えているか。

【答】

ガイドラインとして、どういうものが出てくるのか、よく分からないが、経営が非常に困難な企業の私的な整理を行って再建を図っていくこと、あるいは利害関係者間の調整プロセスの公正かつ円滑化を図ることを目的として、そういうものをスムーズに進めていくためのガイドラインが出来るということは、結構なことだと思う。

私的整理についてのルールというものが関係者間で合意されることにより、そのプロセスの公正かつ円滑な推進が図られるとすれば、それは非常に望ましいことだと思う。こういった不良債権の処理、あるいは直接償却といったことが、なるべく早く合意され、行われていくことは望ましいと、私もかねてから申し上げてきたが、このガイドラインが近く発表されれば、その線にのっていろいろ話が進んでいくのではないかと思う。

【問】

先日発表された都銀の決算で、東京三菱銀行がかなり自己査定の厳格化を進めて不良債権残高を増やしたことが波紋を呼んでいるが、東京三菱銀行が査定を厳格化したことに対する評価と、リスクに見合った金利が取れていない債権の査定のあり方に対する考え方如何。

【答】

決算にしても、不良債権の自己査定基準にしても、いずれも自行の判断でやっていかれるものである。各行ともこのところの厳しい経済環境を踏まえた自己査定、償却引当を今回やられたと思っている。東京三菱銀行の場合は、公的資金も入っていないし、かなり思い切っておやりになったんだろうと思っている。タイミングとしても、思い切っておやりになったというふうに私は評価したいと思っている。

もとより、金融機関の自己査定とか引当というのは金融検査マニュアルに基づいて、各行自身が各行の実情に即して基準を策定して、自らの経営判断で実施していくものであって、債務者企業の将来の業況見込みとか、あるいは金融機関の損失発生見込みとか、そういうものに一定の幅が生じることはあり得ることだと思う。大切なことは、各金融機関が刻々と変化していく金融情勢を踏まえ、かつ取引先の業績の変化を踏まえ、絶えず債務者の経営や財務内容を的確に把握しながら必要に応じて債務者区分の変更とか、あるいは追加引当を自主的な判断で時を失せず行っていくということが経営を良くしていくことになると思う。企業の場合で言えば、自社の改革を行っていくことになると思う。そういう傾向が出始めたということは、一つの変化であり、進歩であると思う。いずれにせよ、金融機関にしても企業にしても、今やグローバリゼーションというか、世界が一つの市場になっているわけであるから、グローバル・プレーヤーとして一刻も早く内外の信任の回復、あるいは収益性の向上、そういうものが求められていくことが極めて重要なことだと思っている。特に大きな銀行にとって、今大切な課題というのは、一つは不良債権の償却を早くしていくこと。二つ目は、保有株を例えば自己資本との比率などからいって、もう少しmoderate(適度)な保有に切り替えていくということ。三つ目は、いかにして収益を増やしていくかということ。先程申し上げた表のように、貸出があれだけ下がっているわけで、それで収益を増やしていくということはやはり期待しにくいことである。良い貸出先をもっと求めて、あまり利益を生まない取引先については別途の指導をしていくということが必要である。その他に、良く言われる、今でも1,400兆円もの大きな家計の金融資産──住宅金融その他の債務を差し引いても1,000兆円ぐらいある──を持った国は殆どない。それだけの資産を持っている日本の金融社会というものは、今まではご承知のように、護送船団方式というもので、どこに金を預けても金利は同じだし、銀行が潰れることはまずなかったというようなことが──これまた珍しいやり方であったと思うが──ここにきて変わってきたわけであるから、貸出だけではなくて、投資信託もそうかもしれないし、あるいはアメリカにたくさんあるファンドといったものを作って、銀行が取引先の顧客に直接投資をお世話していくなど、色んなやり方を皆さん考えておられる。そういうことによって、皆収益を増やそうとしておられるわけである。そういうものを、政府としても、今後色々と対策を考えながら育てると言ったらおかしいが、競争をフェアにして、銀行の収益が上がっていくように取り計らって対処していくべきではないかと。今、新内閣になって郵政の民営化とか、あるいは公的金融の整理というものが、今度の基本方針にもはっきりと書かれている。これが非常に大きいのも日本の非常に大きな特色である。今の1,400兆円のうち、55%というのが預貯金──であるから約750兆円ぐらいの預貯金があるわけで──その中で恐らく260兆円程度は郵貯だと思う。そういう郵政のお金は運用部を通って公的金融機関──これも7、8行あることは皆さんご承知の通りである──の資金になって、市中に貸出をやっている。「民がやるものは官はやらない」と総理はあそこまではっきりとおっしゃっているわけであるから、民と市場で競合するというのはやはりおかしなことだと思う。なぜならば、官であれば、貸出が焦げ付いても直接の損に繋がることはまずないであろうし、税金がかかるということもないわけで、貸出の金利についても、ある程度の補助金的色彩のあるものもあるであろうし、そういうものが同じ市場の中で借り手を探して競争し合うということは──民がやれることを官がいつまでもやり続けるということは──、総理の言っておられる構造改革の第一の原則に反するものではないかと思う。構造改革というのは色々な取り方があると思うが、一つは「民がやれることを官はやらない」、そのことによって小さい政府というものが出来てきて合理化が行われていく。「セルフヘルプ」ということで自分の責任でリスクをとって、仕事をしていって、勝つものは勝っていく。これは、イギリスでサッチャーもそうであったし、アメリカでレーガンも10年近くかかって、今の経済成長、「双子の赤字」とか「英国病」とか米、英それぞれ問題があったが、それを克服して今日の健全な経済を作り上げてきたわけであるから、日本はバブルの整理で多少遅れてしまっているが、今からでも遅くなく、それを実行していく。もう一つは、その過程で規制をなくして(deregulation)──全部なくすことはできないかもしれないが──規制を撤廃して市場の原理に任せて、競争原理を活かして効率化を図っていく。これが今まさに世界を動かしているグローバリゼーションである。そういうことをやろうとしておられるわけであるから、どれだけ期間がかかるか分からないが、方向としては、私は間違っていないと思うし、早く米英がやったような道を辿っていくべきだと思っている。

リスクに見合ったリターンが取れていない貸出先に対してどう対応するかといったご質問もあったが、私どもは、ここにきて何らかの新たな方針をこれについて決めた事実はない。ただ、金融機関が貸付債権などの資産の保全と適正な利潤の確保を図る上では、国民の大切な預金を預かっている以上、これは当然なことだと思う。具体的な方策として、資産のリスクとリターンのバランスの確保に努めていくとともに、仮に先行きを展望してもそれが確保し難いと判断される場合には、自己査定や引当て等の面で適切に対応していくことも重要だと思う。これは先程申し上げた通りである。このところ内外の市場の評価が非常に厳しくなり、日本の金融機関のあり方を見ている。収益性の向上とか信任の回復を求められている大手行にとっては、特にこれらが重要な課題になっていると思われる。

【問】

米国経済の影響で輸出が悪くなった場合、日本の景気の下押し要因となり、そういった場合には追加的措置も考えられるのではないかと先日国会で答弁されていたが、輸出がかなり悪化した場合、一段の円安を日銀としては考えているか。

【答】

円が安くなるということは、日本の輸出には有利かもしれないが、やはり近隣諸国にとっては大きな痛手で、世界全体として経済を収縮させていくことになってしまう。市場というものがあるのだから、日本は経常収支も貿易収支も黒字である以上、そういうことが出来るかということである。為替相場が急激に変動したりすれば、その時は多少安定化の必要があると思うが、今、日本の経常収支は黒字であり、しかもまだGDPの2%以上の経常収支の黒字が続いているわけである。アメリカは逆に経常収支はGDPの4%の赤字であるから、ドルの方が強くなって、円の方が安くなっていくというのはおかしいのではないか。もう一つは、わが国の対外純資産であるが、外貨準備を入れて12月末で1兆ドルを越えている。アメリカの方は1兆6、7千億ドルのマイナスである。要するに、そういうものはアメリカに投資されているわけである。1兆ドル以上の外貨資産の金利収益が、仮に平均5%としても、年間500億ドルは黒字になって、何らかの形で日本に入ってきているわけであるから、これは円を強くするファクターである。こういうものを無視して円を安くしていくということが正しいことであると私は思わない。

【問】

追加的な金融緩和という場合、一般的には当座預金残高を引き上げることがイメージされるが、当座預金残高を5兆円に維持しながら、長期国債の買い入れ額を増額する場合は、一段の金融緩和になるのか。

【答】

まだそのような必要はないので、考えていない。3月19日のステートメントでは、必要が生じた時には長期国債を銀行券の発行残高を上限として買うこともするとは言っているが、その必要はない。

一時、札割れが生じたけれども、中期国債を買い入れオペの中に入れるなどの措置を実施してから、非常に順調に資金供給が進んでいる。金利は下がり、CPとか社債など調達サイドでは非常に調達しやすくなっている。民間のベースで買い手も出てきているというような動きがあるのは、良い傾向だと思う。日本は間接金融主体で、直接金融のウエイトは、これまで13%と、米国の55%──米国の場合は逆に間接金融で預貯金を通じて企業などに資金が出ていくのが11%だが──とは非常に大きな違いがある。このように間接金融の比重が高い国というのは、大国としてはあまりないと思う。これからは直接金融の市場を作っていくのが大きな課題だと思う。

【問】

小樽支店の廃止について、先日、資料館として残すという歩み寄りをした上で地元と合意したわけだが、もう一方の北九州支店では、地元との話し合いも殆どできていないような状況だと認識している。今後、北九州側との話し合いをどのように進めていくのか、また、その過程で支店の廃止・撤廃という今の案を見直して提案する可能性はないのか。

【答】

小樽についても、初めは地元は非常に反対された。そのことで私どもも、地元との話し合いに力を入れた。小樽というところは私も父の関係で小樽に住んでいたことがあるので良く知っているのだが、戦前は小樽を中心に、ニシンの漁があり、北海道の石炭などの港になっていた。そういうものを活かすような形で、私どもの辰野金吾設計の古い立派な建物を残して、それを民間の小樽・北海道の金融の歴史とか、小樽の発展の歴史とか、そういうものの資料館として日本銀行が持ったまま残していくということを、先方も喜んで頂いた。私どもも、そうしたことができれば、小樽支店の長い歴史の中でも良いことだと思ったので、両方が満足したと思っている。

北九州についても、まだ、本当の意味での話し合いが行われていないので、これからお互いが信頼しあって、どうすれば地元にも私どもにも良い解決策が出てくるかということを話し合っていければと思う。地元にも喜ばれるようなやり方はあると思う。日本銀行のリストラは、97、98年頃から随分やってきた。最後に残ったのが支店の問題で、交通事情などの変化から今まで支店が必要だったところが、近隣の支店で十分カバーできるということがわかった。支店を置いておけば地元には喜んでもらえるとは思うが、経費面からみると、支店を一つ減らすということは大きな節減になる。当初の私どもの考え方は変えていない。

いずれにせよ今後の北九州の進め方については地元の経済情勢なども考慮しながら、じっくり考えてまいりたいと思っている。

【問】

構造改革の重要性について色々指摘されたが、小泉政権で取り組んでいる構造改革のスピードについてはどのような印象をお持ちか。株価をみると、政権発足時の水準まで戻っているが・・・。

【答】

私も経済財政諮問会議のメンバーであるが、ここのところ特に6月末まではかなり頻繁に行われているのはご承知のとおりだと思う。相当なスピードで基本方針が纏まりつつある。あれが纏まれば、その方針ですぐに手が打たれていくのではないか。ただ、参院選があるので、それで一月ぐらい遅れることはあろうかと思うが。構造改革というのは、元々方針が決まったら、民間主導でやるものであるから、何も政府の指示・指導を受けなければできないものではないと思う。方向さえはっきりわかってくれば、民間の皆さんが動き出すのではないか。民間の構造改革は、相当進んでいると思う。それを一層ここで効率化し、合理化し、大成させていくというのが、これからの課題であるし、そうなってくれば、経済は自ずから成長していくと思う。

金融は、今のところは資金が十分付いているから、それを必要なら使ってもらう。また、予期しない大きな資金が必要となるという時には、私どもはその時に次の手を考える用意は十分持っているつもりだ。

【問】

先程金融機関の自己査定についての総裁のご所見があったが、柳沢金融担当大臣は現在の基準は適切であるし、将来を予期したような引き当ては出来ないのではないか、と反論している。この点について端的に伺いたいが、今の銀行の査定とか引き当てはまだ甘い部分があると、先程、市場の厳しい評価という発言もあったが、そのような認識を総裁はお持ちなのか。

【答】

良いとか悪いとかは申しかねるが、私共が重視して言い続けているのは、経済情勢がどんどん変わっていって、構造改革面でも色々手が打たれつつある。そういう時に銀行にとって今まで要注意であったものがもっと悪化している可能性が十分ある。あるいは、要注意でなかったものが要注意に入ってくる、要管理に入ってくるということが次々に起こっているに違いないわけである。そういうものを金融庁にしても私どもにしても検査し考査するとしても、そうしょっちゅうやっているわけではないから、銀行がそれぞれ自主的に判断して対処していくことが必要ではないか。よく言われることは、ここ4~5年、全国銀行の不良貸出が30兆円まで減った後、そのまま動かないでいる。これはどういうことかということをよく聞かれるわけであるが、ずいぶん償却をしているにも拘わらず、減っていかないということは、次々に予備軍候補の中からそこへ入ってくるものがあると考えざるを得ないわけで、そういうことを早い時期に手を打っていくことが大事ではないかと思う。

【問】

3月19日の決定会合の時点で予見できなかったものとして、政府の財政運営姿勢の変化があると思う。緊縮財政の方向性がかなり見えてきて、来年度の予算編成では国債発行額を30兆円に抑制するとか、3兆円減らすとか、景気が悪くなっても補正予算を組まないとか、そういう緊縮財政をどのように評価なさるのか。これは構造改革だからしょうがない、やるべきだというお考えか。

【答】

量の問題より質の問題ではないか。道路特定財源にしても、今までは問題にならなかった。それを今度、歳出を多様化していくことによって、一定の使途にしか使えなかった資金を他の用途にも使えるようになってくる。これはひとつの例であるが、そういうことが行われていけば、財政自体も合理化され、歳出も削減されていくのではないか。財政投融資にしても、一般会計からかなりの資金が行っていたわけであろうが、その分をどれだけ減らして行けるのか、というのがこれからのひとつの課題ではないかと思う。財政投融資の性格、量より質が変わって行くということが大切であるし、そのことを政府は今一所懸命やろうとしているのではないか。必ずきっと実現されると思っている。

【問】

確認だが、先程植物のたとえを出されたと思うが、あれは当座預金残高を6兆、7兆円とした場合、現況下で今の日本の経済にとってはマイナスになるかもしれないとの理解でよいか。

【答】

それは、そうではない。そういう具体的なものと結び付けているわけではないので。やはり、liquidity trap(流動性のわな)という言葉は、よくあちこちで学者が使ったり、エコノミストの方々が使っておられるが、私共が金融の中枢にいて感じることは、やはり先程の指標で示した通り、いくら金を注いでも経済が活性化していくということではないということである。やはり、構造改革というものが必要だということを、私もずいぶん今まで言ってきたつもりであるが、構造改革が今度実現しつつあるということは非常にうれしいことだと思うし、同じ水をかけるにしても、日の当たる良い場所に植えられて、肥料が与えられて上手く育っていく。そこへ水が上手くかかっていけば、立派な植物が育ち、実がなるということを、例を引かして頂いた。

以上


別添

  • 金融の量的指標と経済活動 マネタリーベース、M2+CD、民間銀行貸出、銀行保有国債、国債発行残高、名目GDP、実質GDP、消費者物価の1995年~2000年の変化率(前年比、%) マネタリーベース:7.9 M2+CD:3.3 民間銀行貸出:-0.4 銀行保有国債:15.4 国債発行残高:10.7 名目GDP:0.6 実質GDP:1.3 消費者物価:0.1