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総裁記者会見要旨(4月15日)

2002年4月16日
日本銀行

―平成14年4月15日(月)
午後3時から約55分

【問】

みずほグループが統合再編の直後から、システムで大規模なトラブルを起こしている。この日本最大の銀行が起こしている決済機能という基本部分のトラブルについて、総裁はどのようにご覧になっているのか、その辺のご見解と、金融庁の方は業務改善命令を含めて対応を取る方向で検討を進めているけれども、日銀としては何かそういった対応をお考えか。もう一つは、みずほに限らずこうしたシステム・トラブルの再発を防止するという観点で、日銀として何か対応を考えているか、この三つについて伺いたい。

【答】

みずほの件は、4月1日から統合が実施されてスタートする時にこういったことが起こって、本当に上手く行けばよいがと祈っていた訳だけれども、何せ世界第一位の銀行ということだから、やはり新しい電子決済システムというのは、ああいうのを見ていると恐いものだなと思う。量的に非常に多いから、実験もやったに違いないと思うけれども、多量の決済が集中した時に、やはり思わぬことが起こったということではないかと思う。

預金取引、口座振替といった銀行業務の根幹をなす部分で混乱を生じた訳で、たくさんの顧客に影響を与えたということは、大変遺憾だと思う。

みずほグループには、復旧に全力を挙げるということと、2度とこういった事態を起こすことがないよう原因の究明と体制の整備に努めてもらいたいと思う。そのような努力を通じて、1日も早く預金者等の信頼を取り戻すことを願っている。

この間、日本銀行では、みずほ銀行と日々密接な連絡を取りながら、銀行間の決済が円滑に進めるよう努めている。また、みずほグループに対しては、今回の件に関して、詳しい報告を求めているところである。

今回のトラブルは、金融機関のシステム依存度が高まる中で、統合をきっかけとして、そのリスクが顕現してきたものだと思う。日本銀行では、そうしたリスクを注視している。本年度の考査においても、重点的に調査することにしたいと思っている。

監督の責任がどうのこうのということがあるのかもしれないが、日本銀行は、中央銀行として、決済システムの円滑な運営を図る立場から、みずほグループから1つはシステム統合の進捗状況について報告を受けてきている。2つ目には不測の事態が生じた場合にもきちんと対応して頂くようにお願いをしてきた。

先方からは、「システム統合というのは予定通り進んでいる」という説明を受けていたが、結果的に顧客取引を中心とした障害が発生して、顧客に大きな影響が生じたことは大変遺憾だと思う。

電子取引に関しては、日銀法の第37条でも、金融機関等に対する一時貸付というところで、「日本銀行は、金融機関その他の金融業を営む者であって政令で定めるものにおいて電子情報処理組織の故障その他の偶発的な事由により予見し難い支払資金の一時的な不足が生じた場合であって、その不足する支払資金が直ちに確保されなければ当該金融機関等の業務の遂行に著しい支障が生じるおそれがある場合において、金融機関の間における資金決済の円滑の確保を図るために必要があると認めるときは、第33条第1項の規定にかかわらず、当該金融機関等に対し、政令で定める期間を限度として、担保を徴求することなくその不足する支払資金に相当する金額の資金の貸付けを行うことができる。」という項目がある。

これでお分かりのように、こういったことが、今後電子情報による処理が非常に広く大きく多量に行われる中で起こることは、あり得るということを予め考えていた。リスクというのは、クレジット・リスク、マーケット・リスク、そしてこのオペレーショナル・リスクというのが、今のバンキングの3つのリスクだと私は思っている。その3つ目が非常に遺憾ではあるけれども、こういったケースで出てきたということは、非常に残念なことであったと思うが、今後もこういった事は起こるのだということを考えていかねばならない。今度の場合は、金融市場を乱すということは、今の所なかったと思っている。対顧客の振替と決済、これが顧客には非常に大きな迷惑をかけた訳で、バンキングのイロハのイだから、この点は私どもがどうこう言うよりも、銀行自身が自らの生存を維持し、伸びていくために最も必要なことでつまずいたという意味では、銀行自身が、やはり随分悩み苦しみ、これが1つのケースになって、皆注意をするように変わっていくであろうというふうに私は思っている。

この件をどう処理するかといったようなことは、これからの問題で、まだ完全に解決したということでないから、一刻も早く安定を取り戻すように願っている訳で、その上で報告を頂いて何が原因であったのか、これからどういうふうな対応をしていくのかということが、今後の課題だというふうに申し上げたいと思う。

【問】

みずほの問題で、実は統合の前の段階で、早くもデータ処理の関係でやや遅れが出ていたのにもかかわらず、統合をしてしまったというようなことが表面化しているけれども、先程色々報告は事前に受けていらっしゃったということだが、日銀として報告を受け、何らかの指導をする余地があったのか、例えば延期を促すとかであるが。そこはやはり報告ベースで聞いたところ問題がなかったので、それはちょっと無理で、報告の方に問題があったのか、その辺りの見解はどのように持っているか。

【答】

それはおそらくみずほも随分試験運転をされたに違いないと思っている。私どもも2000年(問題)の時とかRTGS化で、年末、お正月にかけて大改革をやった時には、日銀の職員も随分事前の試験運転を、週末に出てきてやっている。その上で、多少のトラブルがあったにしても、上手く行けたというような経験をしているから、私どもの第一線も、その辺の所は十分みずほにもアドバイスをしていたに違いないというふうに思う。

ただ、これだけの大きな銀行が3つの違った機械を使って統合するということが、やはり思わぬところにトラブルが残ったというようなこととしてしか考えられないし、また非常に大きな銀行であるだけに、取引が大量で想像以上に取引が決済されていたということが、今になって、これはやはり大変なことだなというふうに思った次第である。

【問】

少し話題を変えたいと思う。先週末に、金融庁が特別検査の結果を公表した。不良債権の処理額は特別検査の影響だけで、ほぼ2兆円程度増えるというような発表があったが、この検査によって、金融システムあるいは金融機関の財務に対する懸念というのは払拭されたのか、その辺りのご見解と、金融庁の発表によれば、──金融庁というよりは個別の銀行が発表しているのだが──この検査結果を反映させても自己資本比率は大手行の平均で、10%台半ばを確保するということである。総裁はかねがね日本の銀行の自己資本不足について、いろいろご意見をおっしゃっているが、これで日本の銀行の自己資本不足の懸念はなくなったのか、まだあるのか、その辺りのご見解を伺いたい。

【答】

不良債権処理額が昨年の11月の見通しで6兆4千億円と言っていたのが、7兆8千億円に増えた訳である。リスク管理債権残高がどういうふうになっているのかという数字はまだ出ていないので、その辺の所はまだこれから色々影響があることかと思うけれども、特別検査の実施によって主要行の不良債権処理が促進されたということは、やはり評価すべきことだというふうに思う。私どもとしても13年度決算で、主要行の自己資本比率が概ね10%を維持できたということは認識している。

ただ、景気の状況や構造改革の進展を踏まえると、今後も新規の不良債権の発生とか既存の不良債権の更なる劣化というものが続く可能性は高いと思う。

各金融機関は、今回の結果も踏まえつつ、特別検査の対象企業はもとより、それ以外の企業についても、経営・財務状況をチェックする必要があると思う。

また、そうしたチェックを踏まえて、不良債権を適切かつ迅速に処理して、資産内容を改善するなど収益力の強化に向けて一層の自助努力を行うことが重要であるというふうに思う。自助努力という場合、収益を増やすということが、今残された唯一と言ってよいかどうか分からないけれども、主要な方法ではないかというふうに思う。株についても株価が下がって、保有株は含み損ということになっているし、自己株についても下がっているから、自己の株の増資というようなことは、なかなか難しい情勢だというふうに思う。いかにして収益を増やして、それで自己資本を増やして償却をしていくか、あるいは引当金を増やしていくかということが、これからの課題であるというふうに思う。

以前から申し上げているとおり、今後さらに不良債権処理を進めていく場合に、その過程で、自己資本が十分とは言えなくなる事態も想定される。

こうした状況の下で、金融システム全体の安定について疑問が呈せられるような事態に陥った場合には、公的資本注入といったようなものも含めてタイミングを逸せず早めに対応していくことが必要であると思う。

私どもとしては、今後、考査等の機会を通じて、金融機関の不良債権の処理状況、財務内容等の実態把握をしていくとともに、金融庁と密接に連絡を取りながら、経営健全化へ向けた努力を促して参る所存である。

【問】

それに関連して、金融庁では大手行に対して、一年を通じた専任検査体制を取り、継続的に見ていくという検査方法に改めると発表しているが、これに連動する形で、日銀の考査は何か手直しというか、やり方を変えるといった検討はしているのか。

【答】

別に考査のやり方を直すということは、今は考えていない。実質常駐検査体制というものが実際どのように運営されていることになるのかもまだ分からないので、確たることは申し上げられない。

私どもとしても、これまで実地考査、オフサイト・モニタリングを両輪にして金融機関の経営実態の把握に努めてきているので、今後もこうした枠組みを変える必要は基本的にはないと考えている。

実地考査のタイミングについても、取引先の状況等に応じて、考査先の有するリスクの大きさ、課題の所在などに応じて、引き続き弾力的に対応していくことになると思う。

考査というのは、ご承知のように、日銀の取引先の金融機関と私どもの取引関係での上でのアドバイスのツールであるから、よく向こうの経営方針あるいは経営の進め方を聞いた上で、私どもの方でここはこうしたほうがいいのではないか、経営上このような所にもう少し力をいれたらどうかといった様なことをアドバイスして、中長期的に取引先金融機関が健全に発展していくように指導するのが、私どもの考査である。従って、もちろん決められているルールに従って審査することは審査しているが、日銀考査というのものは、取引先に対するそういったアドバイスの方法であるということを頭に入れて頂ければありがたいと思う。その辺は多少ステイタスが違うということがあるので、同じ所へ行くことも有り得るかもしれないし、その辺のところは、金融庁の行政指導と私どもの取引先との考査というものは、そういった意味での狙いや、やり方が多少違うことがあっても元々おかしくないことだと思っている。

【問】

ペイオフ凍結解除から2週間経つが、これまでの金融市場のペイオフ後の推移などについて、総裁はどのような見方をしているのか。

また、来年3月末を期限に普通預金も全額保護の特例がなくなるが、今、預金は普通預金に逃げ込んでいる様な状況も見受けられるので、来年3月あるいは4月のインパクトの方が大きいのではないかとも言われている。その辺りを含めて総裁の見解を伺いたい。

【答】

4月入り後、まだ2週間であり、状況を評価できるような段階ではないが、これまでのところ具体的に何か問題が起きているということは聞いていない。So far(これまでのところ)goodということだと思う。

今後、各金融機関は来年度のペイオフ全面解禁に向けて、内外市場や預金者からの一層の信認向上に努める必要があることは、これまで繰り返し申し上げているが、我が国の金融システムにとって、不良債権問題が依然として最大かつ喫緊の金融機関の対処すべき課題であり、この点についてさらに努力していくことが必要である思う。それぐらいのことしか今の段階では申し上げられないが、銀行もずいぶん苦しかったと思うし、かなりの資金が動いたことは確かだと思う。しかし、これによって何が起ったという所までは行っていない。

【問】

先日の金融経済月報でも、景気の悪化テンポは幾分和らいできているとある。それに先立った日銀の3月短観も、下げ止まりではないかと言われている。景気は下げ止まった、あるいは下げ止まりつつあるという見方について総裁のご見解を伺いたい。

【答】

先週末公表した金融経済月報でお読みになったと思うが、景気の現状については、「全体としてなお悪化を続けているが、そのテンポは幾分和らいできている」と表現した。前月はご記憶だと思うが、景気の下押し圧力は弱まりつつあるが、全体としては悪化を辿っている、であった。従って、これよりは多少明るいと言えるかもしれない。

今更繰り返すことでもないが、設備投資や個人消費などの国内最終需要が弱めの動きを続けている一方で、海外経済の回復傾向を背景にして、わが国の輸出は増加に転じつつある。 また、国内の在庫調整は多くの業種で一段と進捗しており、生産も下げ止まりつつある。さらに、3月短観に見られたように、企業の業況感についても、製造業を中心に悪化に歯止めが掛かっている。先行きについては、かなり明るく上を向いていると申し上げてもよいかと思う。

先行きについては、輸出の順調な回復が果たして続いていくかどうかであるが、そうした状況が続く限り、いずれ生産の増加や製造業を中心とする企業収益の持ち直しを通じて、景気が全体として下げ止まりに向かう方向にあると考えてもよいと思う。

ただ、心配なのは海外経済の回復テンポには不確実な要素が少なくないほか、内需の弱さを踏まえると、景気の脆弱な地合いはまだ続くとみられる点である。こうした中で、内外の金融・資本市場が不安定な動きを示すような場合、実体経済にその悪影響が及びやすいという点には、引き続き留意する必要があると考えている。

【問】

みずほグループのトラブルのことで伺いたい。総裁は海外の経験も豊富であるし、アメリカあるいはヨーロッパの金融機関の色々な統合もご覧になっていると思うが、アメリカのケースでは、合併する場合には、システム面のトラブルを少なくするために、具体的なオペレーションは3行に残すにしても、どこか一つの金融機関がリードして仕切るケースが多いと思う。今回は、その進め方自体にも、3行それぞれの思惑が相当あって、時間が掛かったのではないか、という指摘が専門家の間からも出ている。そういった観点から、今回の統合の進め方について、見解を伺いたい。

【答】

最初に「世界第1位の大銀行」だと申したが、第一勧業銀行にしろ、富士銀行にしろ、また日本興業銀行にしろ、その道ではそれぞれ世界で有数の大銀行であった訳で、そういう銀行が3つ、この時期で統合すること自体、私どもにとっては、勿論、歓迎すべきことでもあるし、こういうものが上手く進んでいくことによって、金融システムが安定化していくことになるだろうと期待していた訳である。

ただ、アメリカの銀行等でも、例えば、JPモルガンとチェースが一緒になるという時に、私も驚いたのであるが、一昨年9月に決めて、その年の12月に合併が行われている。そういう意味では、今度のことは非常に時間が掛かっている。

その背景に何があるのかということは、これは日本特有のメインバンク制といったようなこととか、これまで採ってきた護送船団方式であるとか、財閥のシステムであるとか、そういったものが背景にあって、取引先を納得させるように合併に持ち込んでいくのには、色々な障害物があったに違いないと思う。

それから、支店の配置にしても、少なくとも第一勧業と富士は、全国あるいは海外において、同じような地域に出て競争していたのが、一緒になっていくということである。更に、興銀のように金融債を中心にして長期の貸出をやって日本の産業をここまで育て上げてきた大きな実績を持つ銀行が一緒になる訳である。これらがひとつになって一緒に進んで行くのは、随分色々な障害や妥協があったに違いないと思う。

それにしても、これだけの時間を掛けて、いざ実行に移す段階で、あのようなことが起こったということは、やはり全体の決済システムのオペレーションが近代化され電子化されている、新しい時代の変化ということであり、未だ日本でも、恐らく海外でも、あれだけ大きな取引が一緒になっていくということは、例がなかったと思う。

そういうことを考えると、今回、あのようなことが起こったことは悲しいことではあるが、それを上手く乗り越えて行ってくれればいいが、と思っているところである。今のところ、顧客が非常に大きな迷惑を受けているが、それが他に伝わったり、市場や海外に影響を与えたりということにならなかっただけでも、今後の一つの経験として、役に立てていってもらいたいと思う。

3行の経営者も、色々なことを充分考えて、討議もされたはずだと思うが、やはりいざ実施してみると、そう簡単なことではないし、頭に描いたものが上手く行かなかったということもあったに違いないと思う。その辺の事情については、私どもも、落着いたところで良く報告を聞いて、今後の参考にして参りたいと思っている。

【問】

みずほの問題に関連して、3月末までの日銀考査において、システム障害が起きる可能性について、当該グループに指摘はしていたのか。

【答】

みずほグループからシステム統合に支障が生じているというような報告は受けていない。考査についても、システム統合の進捗状況等について、ヒアリングはしていたが、考査は実施していない。

今回のケースでは、経営統合前ということもあり、考査実施ではなく、日々のモニタリングを通じて情報収集をしていた。

【問】

新聞記者等の間でも、相当事前から懸念の声は上がっていた。それ以上に内部情報について把握し得る立場にある日銀が、ヒアリングはして何も言っていないというのは、金融庁検査で言っていることも踏まえると、ちょっと違和感を感じるが、その辺の考査体制については、どのようにお考えか。

【答】

先程も申し上げたが、みずほグループには、システム統合の進捗状況について報告して下さいということと、不測の事態が生じた場合にもきちんと対応して頂くようにお願いをしてきている。

先方からは、システム統合は予定通り進んでいるという説明を受けていたが、結果的に顧客取引を中心にした障害が発生して、顧客に大きな影響が生じたということは大変遺憾である。

ただ、私どもも、期末とぶつかっていたし、何が起こるか分らないということは、十分警戒をしていた。私どもが最も心配するのは、金融市場で支障になるようなことが起こると、システムの安定が崩れていくという点であり、そういった意味でも、この3行は十分に資金を手許に置いてあり──その部分が日本銀行の当座預金になって入ってもいる訳であるが──、そういったことを十分心掛けてやっていた。それが、私どもの責任だと考えている。

顧客に対する扱いというのは、これも色々言うべき事があるのかもしれないが、顧客に信頼されなかったら、バンキングは成り立たないのであるから、そこのところは、自助努力でやるべきことだと思う。

【問】

昨年の秋以降、国会答弁等で、総裁は、大手行について7%台とか具体的な数値を示しながら資本不足について話しているが、先程お話されていたことを聞いていると、大手行が資本不足であるという認識を撤回されたような印象を受けるがどうか。

【答】

従来のBIS規制で計算されるのは10%であるが、これだけ償却・引当をしても(それだけ)残っているというのは、これは十分あり得ることであるし、これくらいはなければならないことだと思う。そういった償却・引当分が、言わばバランス・シートから落ちないで残っている分を、繰延べ税金資産といったようなことで5年間も延ばしていくことは、他の国ではやっていない──アメリカは多少やっているが──し、日本が自己資本にそれをカウントしているのは、最も「甘い」と言ってもいい。

そういうことを考えると、やはり、私は、中長期的に収益力の強化ということがない限り、償却をやっていく資金がないはずであるから、そこが一番問題だと思う。その考え方は全然変わっていない。

不良貸出の残高がどのように動いているのかということと同時に、このことはこれからの課題として未だ残っていると思っている。

【問】

そうすると、税効果会計等について、カウントが甘いということについては、制度自体を見直すべきだとお考えなのか。

【答】

制度自体については、今ここで急いで変えることもないと思うが、実態としてそういうものだということは知っておく必要があると思う。

【問】

総裁が銀行の自己資本不足を指摘されることと、預金保険法102条で言う公的資金発動の構成要件は直接的にリンクされている話なのか。もし、されていないということであれば、いわゆる危機の恐れという部分で、「その恐れが早まる」、あるいは「その恐れが来る蓋然性が高くなる」ために早急な手当てが必要なのだと言う趣旨でおっしゃているのか。

【答】

ちょっと、意味が良く分からないが、ご承知のように公的資本を入れたりする時は、金融危機対応会議──総理が議長になって、私も含めて6人──で集まって、どこかの銀行で何かが起こる、あるいは全体の金融システムが不安になるといったような時には、議長である総理の決定で公的資本の注入が出来るというのが102条であり、今も、これからむしろ、そういったことが起こる可能性がないではない、ということを頭に置いておく必要があると思う。しかし、それは必ず起こるものではない。今、自己資本不足といっている訳ではないので、そのことは間違えないで頂きたいが、中長期的な課題であることは間違いないと思う。不良債権を、なるべく早期に対応、減らしていくということが日本の銀行への信認であり、日本の国への信認に繋がっていくし、それは日本の銀行の格とか、国債の格とか、そういったものに直接、間接に響いてくることもあり得るというふうに思う。であるから、早くそれをなくしていくということが、構造改革の第一歩であるということを、総理を始め、今の内閣の方々、皆おっしゃっておられる訳だと思う。

【問】

特別検査は、大手銀行の体力の範囲内である程度行われたと思うが、まだまだ1.9兆円という不良債権処理の追加処理が十分かどうかというのは非常に疑問が残っていると思う。総裁としては特別検査の第二弾、第三弾を、大手行、あるいはさらに地銀などのクラスまで拡大して、この際徹底的に不良債権処理をやった方がよいとお考えか。

【答】

不良債権処理は可及的速やかにやるのがいいと思うが、タイミングとその方法については、まだまだ議論する余地は十分あると思うし、下手をすると却って不安をあおるようなことが起こり得るということも十分考えておかなければいけないと思う。だから、今はこれでいいのではないかと私は思う。

【問】

議論の余地があるというのは、不良債権処理をあまり急ぎ過ぎると銀行自体が危なくなって大変なことになるという意味か。

【答】

それは、やり方にもよるであろう。今、これで決めて大体10%の自己資本を維持していくことが出来るということが分かった訳であるから、それはそれで構わないと思うが、中長期の課題としては、今の不良債権がどういうふうに動いているのかというのは、今景気が悪い訳であるから、不良債権はむしろ増える方向であると考えていいのではないかと思うし、既に入っている不良債権の中から、さらに悪くなっていくということも十分あり得ると思うので、そういうことがこれから起こっていくようになれば、やはり何らかの支障が起こってくるかもしれないということではないか。特別検査というのは約150社を対象に、短時間に随分ご苦労なさってああいう検査をやられた訳であるが、検査されたところでも、その過程で随分変わってきているし、それからまだ検査の対象になっていないところから、特に非製造業の中堅・中小、そういったところに不良債権が多いということは、色々な統計で出ているから、そういう所からどういうことが起こってくるのかということは、将来をよく見ていかなければならないところだと思う。要するに、今までの検査の対象外、あるいは検査した所でもどういうふうに変わっていくか、そのところはおそらく、今後検査官を事実上常駐されるというようなことで、ある程度フォロー、ウォッチしていくことが出来ると思うが、そういった問題はまだまだこれですべて解決したものではないと思う。

【問】

ただウォッチしているというだけなのか。

【答】

それはタイミングで何が起きるかということである。それを見てからでないと。

【問】

デフレ対策について、総裁はかねがね追加的な税制改革、あるいは規制改革の必要性をおっしゃっているが、経済財政諮問会議の席でも、税制改革については減税を先行すべきだという議論が出ている。この点についてどのようなご見解か。

【答】

まだ議論が始まったばかりだから、減税についての具体的な案はこれからだろうが、「公平、中立、簡素」というものを、「公正、活力、簡素」というように事実上変えていった方がよいのではないかという点で、諮問会議で大体意見が纏まっているように思う。そういうことで、税制改革についても、経済の活性化ということを重点に置いて、これからの税制を作り直していくということが大切だと思う。そのことが民間需要を引き出すうえで非常に大きな力になっていくと私は予てから思っていたが、いよいよそれが実現しつつあるということは、非常に喜ばしい方向だと思う。

【問】

今週末にワシントンでG7が開かれ、総裁も出席されると思うが、日本経済の回復の遅れに対して海外から厳しい目が続いている。この点について、どのような主張をするのか。また、先程も出たが、日本の金融機関のコア・キャピタルの不足を総裁は前々から指摘している。この点についても、G7の場、もしくはその周辺の場で説明するのか。

【答】

聞かれたら意見を言わなくてはならないが。今度のG7は一日あるかないかという極めて限られた時間で議論しなくてはならない中で、サーベイランス──各国の情勢──のほかにも沢山議題があるから、そういう問題の討議にかなりの時間を取られるのではないかと思う。

G7というのは、各国の話をする会議というよりも、世界経済で今、何が起こりつつあるのか、それに対してIMFその他を中心に各国に何ができるのか、どうすればよいのか、というようなことを3~4か月に1回集まって議論をする場所だとお考え頂きたい。

もちろん、その場所で、今、日本がやりつつあることを説明する機会はあるし、個々の中央銀行総裁にも、お目にかかる機会があるから、話ができると思っているが、会議としては大きな課題があるので、その点について私もこれから準備をしようと思っている。まだ、今のところ何をどう答えるかというところまでは、準備していない。

【問】

銀行の収益力を高めることだと、おっしゃるとおりだと思うが、大手銀行は、今年度から中堅・中小企業向けを中心にリスクに見合ったリターンを求め、金利を引き上げるという行動をほぼ一斉に始めようとしている。すでに日銀短観でも金融機関の貸出姿勢について、企業側の厳しさ、認識度合いは強まっている。これが景気に与える影響等、総裁からみるとどう映るのか、また、景気に与える影響を含め、今後、こういう動きが強まった場合、日銀としてはどういう行動が考えられるのか、伺いたい。

【答】

中堅・中小企業の不良貸出が非常に多いということは——特に4業種が多いわけだが——、これはだんだん皆さん分かってきておられると思うが、銀行は銀行で収益力を増やさない限り自分達の首を絞めるということになるから、これまでのように株の含み益で不良貸出を償却していく、あるいは償却引当ての資金にあてるということはできなくなってきている。方向としては含み損になっているわけであるから、そういう情勢の変化が起きているし、みずから増資をするといってもできない。そうすると儲けを増やしていくしかない。その儲けは貸出の金利で稼ぐか、これまで以上のリストラをやってコストを減らして行くか、そうでなければ新しい仕事を見出して、今も既にやっているようだが、例えば直接金融のお手伝いを証券と組んで地方でも行って、顧客の、あるいは家計の蓄積した資金を引き出して行くといったようなことをして手数料で稼ぐということを始めている。私はこれはいい傾向だと思う。悪い、先行き見込みのないといった中小企業を、中小企業なるが故に救って行く、貸して行くということは、これはやはり無理な話である。いい方向にリードしてあげるとか、それは地方をよく知っている銀行としてはやるべきことだと思うし、だめなものには高い金利をとって、リスクが多い訳であるから、リスクが多いところに金利をたくさん取るということはバンキングとしては常識である。将来性のあるよいところには安い金利で貸しても、リスクの多い企業には高い金利を取るというのは自然の流れだと思うし、これができなければ銀行は成り立たない。そういうことを去年の秋頃から動き出したということは、私は健全な動きだと思っている。それは地方にとっては痛いところはあるかもしれないが、それはやはりほかの道で考えて行かないとだめだと思う。

【問】

「ほかの道で考えなければならない」という点について、中央銀行として何かできることはあるのか。あるいは、経済財政諮問会議のメンバーとして何か考えていることはお有りか。

【答】

それは色々とあると思う。雇用の創出とか、あるいは新しい事業を地方で開発して行くといった面でも、活力のある起業家は既に動き始めていると思うし、その辺の調査は日銀でもやっている。どういう構造改革が地方で起こっているかという点については、色々と情報をもらっている中で、現に動き始めているということは私も感じる。しかし、そういうものはもう少し時間がかかると思う。

【問】

山一向けの特融は、いつ頃、どのようなかたちで解消されるのか、お聞かせ頂きたい。

【答】

これは今、約1,400億円まで減っている。一頃は3千億円近くあったと思う。それがまだ減るのかどうかは分からない。この問題については、宮沢大臣も国会で、「大蔵省で保証することを約束している」ということをおっしゃっているので、何らかのかたちで政府が保証してくれると思っている。

【問】

その保証の議論を近くはっきりさせるというつもりはあるのか。

【答】

まだ、そこまでいっていない。まだ、(特融残高が)減る可能性もあるかもしれないので。

以上