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植田審議委員記者会見要旨(4月24日)

平成14年4月24日・群馬県金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

2002年4月25日
日本銀行

―平成14年4月24日(水)
午後2時30分から30分間
於 群馬ロイヤルホテル

【問】

本日行われた群馬県金融経済懇談会についての感想如何。

【答】

日本経済全体と同じように当地も苦しい状況にあるということを含め、色々な方々から色々な側面のお話を伺った。そういう中でも、明るい動きとか、暗い部分を乗り越えようという努力が、民間企業の方々の態度にも行政の方々の態度にもみられた点が印象に残った。

もう少し具体的に申し上げれば、企業サイドからは、「新商品開発に努めたり、特別の技術を磨いていかない限り前向きな力は出てこない、あるいは生き残れない」といった決意—努力だけではないもの—がかなりはっきり伝わってきた。また、行政サイドからも、単純に補助金等をばらまくのではなく、自助努力しようとしている企業等を応援するような仕組みを提供する観点から具体的なことを提示しようという話が聞かれた。例えば、群馬県から産業技術センターに関連した話があった。これは、私なりに理解したところでは、中小企業が個別に開発したり開発途上の技術が、より高度なもの、価値の高いものになるような仕組みを行政側が提供するということだったと思う。このように、経済全体にはまだ色々問題が残っている中でも、前向きの動きがみられている。当地では、そういう努力が続けられているだけでなく、これを醸成する空気があるというあたりが非常に印象的であった。

【問】

不良債権処理について伺いたい。今日の植田委員の話は、政府の言っているような不良債権処理のペースでは不十分であり、さらに加速して行うべきであるとのご認識にあるものと理解したが、それで宜しいか。

【答】

そこまで強くは言っていない。例えば、先ごろ公表された特別検査の結果などをみても、不良債権処理が着々と進んでいることは確かだと思う。ただ、少なくとも市場の一部等には、そうした動きを評価しつつも、「新規不良債権の発生や不良債権の一段の劣化といった事態が先行き生ずる可能性がかなりの確率、規模で見込まれるが、これにどう対処するのか」とか、「本当に悪くなった時点になってから対応する、ということで良いのかどうか」という議論や疑問のようなものがあるのも確かかと思う。

【問】

景気動向の先行きについて伺いたい。過去何回かの景気循環において、下降局面では必ず金融危機が起きている。今度の回復局面もかなり弱いと思われるが、不良債権処理や構造調整もあまり進まない状況で、次の下降局面を迎える場合には危機が起こりうる可能性が高いとお考えか。

【答】

今度の回復がどのくらいのものになるかは終わってみないと分からないが、取り敢えず見えていることは製造業主導のものになりそうだということと、これに対して、不良債権問題等の構造問題の根深い部分の多くが—全部ではないにしろ—非製造業に関わっていることである。今度の回復の中でこういう問題がどのくらい解決するかについては、やはり予断を許さず注意深く見守っていく必要があるかと思う。構造問題、不良債権問題があまり改善せずに次の下降局面を迎えた場合には、色々厳しいことも覚悟しておかなければいけないということは言えるかと思う。

【問】

地価について伺いたい。地価は、かなり調整が進んだとみるべきか、まだまだ調整が不可避なのかについては、どのようにお考えか。

【答】

この点にはっきりとお答えすることは難しい。ただ、ピークからものすごい規模の下落が生じたことは明確だ。100のレベルであったものが30になるとか、商業地では20以下になる程の調整が起こった。それでは、今後更に同じペースで下落するのかどうか、あるいはどこまで下落すれば十分なのかということについては、はっきりした答えはないと言わざるを得ない。土地に対する収益率(レント÷地価)がある程度まともな水準になれば調整が終わったということだと思うが、その水準が具体的にどの程度かということを判断するのは難しい。

【問】

二点伺いたい。一点目は、先ほどの基調説明の中で、「ポリシー・ミックスの困難さは、一時的な拡張的財政政策によって緩和されうる」という発言があったと思うが、具体的にはどういうイメージを持っておられるのか。二点目は、今後さらに厳しい景気の下降局面が訪れうる可能性があるという趣旨のご発言をされたと思うが、そうした場合、かなり限界に近づいている金融政策について、今後どういう手段を採り得るとお考えか。

【答】

  1. 一点目については、財政の状態は非常に苦しいが、一時的にある程度の規模の拡張的な政策を採れないというわけではないと思う。その際のポイントは、一時的な拡張であって長期的には健全な姿に戻すというビジョンを持っているということと、前向きの動きを支援するようなものが望ましいということの2つであると思う。その上で、具体策としてどういうものが望ましいかという点については、金融政策を担当する者としては立ち入らないのが礼儀だと思う。

  2. 二点目は、一段と金融経済情勢が悪化した場合に金融政策の追加手段があるのかということかと思う。これについては、既に日本銀行内外で色々な形で議論されているし、我々の議論の一部も議事要旨によってある程度公表されている。講演ではこの話題に触れなかったので、本日は具体論には立ち入らないが、一般的な話として、これまでとは違う手段に踏み込んだ場合の得失は注意深く検討されなくてはいけないということと、そういう手段をとる場合、少なくとも一部は他の政策とのオーバーラップが必然的に出てくるようなことになる点についてどう考えるかということを指摘しておきたい。

【問】

「他の政策」とは、財政政策のことか。

【答】

財政政策は一つの例で、他の政策とのオーバーラップも考え得る。

【問】

先日公表された議事要旨によれば、国債買いオペを長期金利に働きかける手段と位置付けることの是非について、金融政策決定会合の場で議論されていたようであるが、委員はこの議論に前向きなのか、またはどのようにお考えか。

【答】

私がどう考えているかについては発言を差し控えさせていただくが、長期国債買いオペは、理屈の上では少なくとも二つの位置付けが可能だと思う。一つは、日本銀行が現在使っている位置付け、すなわち、流動性を供給するための一つの手段としての位置づけである。もう一つは、国債需給に直接の影響を与えて—あるいは、やや技術的に言えば、リスクプレミアムを通じて長期金利に働きかけることで、経済への影響を作り出そうという考え方である。

現行の政策は、明らかに、一番目の考え方に基づいて実行されている。その上で、もう一段踏み込んで申し上げれば、講演の中でも説明した通り、ここまでくると単純に流動性をたくさん供給するという政策の効果がどれ程のものであるのかという疑問符がつくかもしれない。他方、二番目の位置付け、すなわち、リスクプレミアムを通じて国債価格ないし国債利回りに働きかけるという位置づけを採用した場合には、大きさだけでなく方向も含めてリスクプレミアムにどういう影響を与えることができるのか非常に不確実である。これら両方の問題を考えると、どちらの位置付けが良いのかは非常に難しいが、少なくとも現在は、一番目、すなわち流動性供給の一手段という位置付けで長期国債買いオペを使っているということである。

【問】

金融政策の評価についてお伺いしたい。リザーブターゲットを導入した時に植田委員は、(リザーブターゲットは)ゼロ金利政策の裏側であるとの説明をされていたように思うが、仮にゼロ金利政策を継続していたとしても、流動性供給は需要見合いではあるが無限に増やすことができることを考えれば、結果的には現状とあまり変わらない政策対応になったとも考えられる。ゼロ金利政策と時間軸とを組み合わせるのと、リザーブターゲットをやったこととの違いは何かあったのか。

【答】

まず一つ申し上げられることは、去年3月にゼロ金利プラス時間軸の形で出発したとすると、その前のゼロ金利政策の際の金利(コールレート)の最低値である0.02%ないし0.01%を最低到達点とみなし、その辺で金利を安定させるような流動性供給を行うことになった可能性がかなりあったということである。これに対して今回は、量を沢山供給してみるということで始めたので、金利がどこに行くかについて必ずしも確固たる目標を持っていたわけではなかった。その結果、オーバーナイトレートは0.001%という、去年の3月までは思ってもみなかった水準まで低下したということが言えるかと思う。勿論、最初から0.001%まで下がると思ってゼロ金利政策プラス時間軸を使っていれば同じ結果をもたらしたであろうが、多分、そこまでは見通せなかったと思われるので、予想以上の金利低下が短期金融市場に発生した面はあろうかと思う。ただ、この0.01%と0.001%の差がどれくらいの意味を持つかということは、また別の問題である。

それから、量を増やすこと自体が、ゼロ金利プラス時間軸を上回る効果として、「具体的には良く分からないが—経済主体の「期待」に大きな影響をもたらすのではないか」との考え方もあったが、これについては、はっきりした効果が確認できていないところだと思う。付け加えると、量が金利を通じない形で直接的に経済に影響を与えるのではないかという部分にも期待していた面があるが、これもはっきりした形では確認ができていないということだと思う。

【問】

物価の見通しについて伺いたい。先程の講演の中で、CPIはまだ下がり続ける可能性もあるとおっしゃられた。しかし、例えば去年と比べると、ユニクロやマック現象と言われるような事もなくなったし、国際商品市況も上がっていて、円安にもなり、景気もそれほどではないが明るい兆しが見えているという状況である。それでも、この先まだCPIが下がり続ける可能性があると見ているのは、どういった理由からか伺いたい。

【答】

確かに、CPIのうちで財の部分についてはポジティブな要素が出てきており、下落幅が拡大していくことはないという面が出てきているかも知れない。これに対し、講演で申し上げたのは、賃金は明らかに下がっていることと、CPIのうちでサービスの価格は理屈の上では賃金と連動する可能性が高いということからみて、賃金の下落がサービス価格にマイナスの影響を与える結果、CPI全体にも相応の下落圧力をかけ続ける可能性があるので、注意深く見なければならないということである。しかし、賃金とサービスの価格との連動の程度についても、過去のデータを見る限り、必ずしもはっきりとしたことを指摘できる状況でもないので、今後もデータを見なければ何とも言えない。

【問】

総裁は銀行の自己資本比率について、通常のTierIではなく、公的資金と税効果資産を除いたものを指してコアキャピタルという概念を使っておられるようである。銀行の自己資本が本来あるべき水準よりも少ないのではないかという点に関する金融政策決定会合の議論は、これまでの議事要旨でははっきり読み取れないが、委員としてはどのような考えをお持ちか。

【答】

現在のルールでは、公的資金の部分と税効果の部分についても自己資本と認めるということである。ただ、総裁がおっしゃるように、中長期的に金融機関の収益率が上がってくることで自己資本が充実しないと健全な姿になっていかないという指摘は正しいと思う。ただ、足許についてみれば、税効果に関しては、これを自己資本として認めるかどうかという問題より、むしろ、一部の金融機関では5年分の課税所得という税効果の上限に達しつつあることの問題の方が大きいように思う。

【問】

金融政策について伺いたい。日銀は3月、4月と景気判断を上方修正された。普通であれば、景気判断の変更は、3ヵ月とか4ヵ月といったラグを経て金融政策の変更に反映されると思われるが、今回の場合は、昨年3月に日銀が明確にコミットしているように、CPIコアの上昇率が安定的に0%以上で推移するまでは、現状の政策を続けるといわれている。そうすると、景気判断の改善が続くような状況になったとしても、CPIコアの上昇率が0%以下であれば、日銀としては量の拡大であるとか、デフレ対策という意味での金融政策を続ける必要性があるとの理解でよいか。

【答】

然り。ただ、日本銀行は、「当座預金の量が幾ら以上ということをCPI上昇率がプラスになるまで続ける」ということを約束している訳ではない。

【問】

それでは、「CPIコアの上昇率が安定的にゼロ以上で推移するまでは、日銀は量の面から金融緩和を継続していく」との理解で良いか。

【答】

然り。

【問】

つまり、CPI上昇率が安定的に0%以上になるまでのコミットメントの対象は、リザーブターゲットという枠組みであるとの理解で良いか。

【答】

然り。

【問】

ということは、現在10兆円から15兆円であるターゲット水準についても、経済動向の変化等により引下げることもあり得るということか。

【答】

それは、理屈の上では排除されていないと思うが、私の頭の中ではあまり可能性の高いものではない。

【問】

少し先の話しになるが、いずれデフレは克服されるであろうと思う。ただ、政府がデフレ対策という名の下に今進めている政策は、財政問題と絡めた将来のインフレ政策であると思う。野党の一部からも緩やかなインフレはやむを得ないとの声が出ている状況である。日銀としても、財政問題と絡めてみると、将来的にはある程度のインフレは容認せざるを得ないと考えているのか。

【答】

財政問題と絡めるという問題意識は我々にないと思う。ただ、中長期的にどれくらいのインフレ率が望ましいかという議論は、別途、中央銀行の政策のあり方としてあり得るものだと思う。現在、我々が世間に対してはっきり申し上げていることは、現行の政策の枠組みは、ゼロインフレを通過するところまで続けるということである。

なお、更に申し上げれば、ゼロインフレというのは、中長期的に日本銀行が望ましいとみるインフレ率とは必ずしも同じとは限らない。

以上