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総裁記者会見要旨(5月23日)

2002年5月24日
日本銀行

―平成14年5月23日(木)
午後3時から約40分

【問】

景気の認識について、政府は先週金曜日に月例経済報告で、景気は「底入れ」しているとの表現を使った。一方で、昨日発表された日銀の金融経済月報では、「底入れ」との表現はなく、若干日銀の方が慎重な見方をしているとの印象を受ける。総裁は、今、日本の景気が「底入れ」したとの認識はあるか。景気の現状について、まず認識を伺いたい。

【答】

「底入れ」という言葉は、日本銀行ではあまり使わない言葉である。言っていることはそれほど違っているとは思わない。昨日公表した「金融経済月報」でお示ししたとおり、私どもの表現によれば、「輸出の増加や在庫調整の進展を背景に、生産が持ち直しつつあるなど、悪化のテンポは緩やかになっている」とみている。

今後、景気は全体として次第に下げ止まっていくと予想される。ただし、雇用・所得環境の弱さなどを踏まえると、輸出や生産面にみられる前向きの力が、非製造業や中小企業、あるいは家計部門へと拡がっていくには、なお、かなりの時間を要するとみられる。

我々の景気判断は以上のようなものである。政府の判断と比べて、認識が大きく異なっているということではないと思う。

先程の、雇用とか所得環境へ波及していくのに時間がかかるという点は、米国のケースでも、90年代の初め頃、ジョブレス・リカバリーといった、生産性は伸びていくけれども所得とか雇用が遅れて伸びていった例がある。そういうようなことなのかどうか、よく判らないが、私どもは、そういう判断で「底入れ」という言葉は使っていない。認識が、政府と日銀の間で大きく異なっているとは思わない。

【問】

ペイオフが解禁されて1か月半経っているが、この間、預金の動きを見てみると、一つは、定期預金から普通預金へ、もう一つは都市銀行への預金の集中が見られるのではないかと言われている。そうした中で、信用金庫や第2地方銀行の一部から、来年4月の普通預金のペイオフ全面解禁を延期して欲しいとの要望の声が挙がっている。総裁はこの点、どのように見ているか。

【答】

今年3月末にかけて、定期性預金がかなり減少する一方、流動性預金が大幅に増加した。こういった背景に定期性預金のペイオフ解禁が影響していることは事実であると思う。

ただ一方で、業態別や個別金融機関別の預金の動きをみると、流動性預金や定期性預金の動きに比べれば、相対的にはかなり小さい動きだったと言っても良いかと思う。こうした動きの背景には、様々な要因が影響している。一概に原因を特定することはできないように思う。ただ、預金者や市場の金融機関経営を見る目は、かなり厳しいと言える。

先程ご指摘の通り、来年4月からのペイオフ完全解禁を円滑に実施するために、金融機関は、様々な課題に鋭意取組み、信認回復に努めていく必要があると思う。私自身は、決めたこの方針はなるべく実施してもらいたいと思っている。

【問】

完全ペイオフ解禁に向けた金融の安定という観点で、金融庁は、地域金融機関の再編を押し進める方針を示しているが、この点、日銀として、どのような対応を考えているのか。

【答】

大銀行については、4月1日で再編がおおよそ一巡したと言っても良いと思う。ご指摘の地域金融機関の再編は、既に起きてはいるが、地域金融機関というのは非常に多いので、再編をどう進めていくのかというのは、もちろん、第一義的には、金融機関自身が判断すべきものだと思う。ただ、金融機関が収益力の向上や経営基盤の拡大を図っていく目的で合併を行うというのは、金融システムの安定の観点から見ても、望ましい一つの選択肢であると思う。

また、そうした合併を促進していくために、何らかの具体的な施策が打出されるのであれば結構なことだと思うし、私どもも、そういう方向で力になれるようなことがあるならば、なっていきたいと思う。

特に、海外には、日本の地域金融について、オーバー・バンキングではないか、というようなことを言う人もいる。海外から見れば、地銀、第2地銀、あるいは信金、信組、さらに農協といったものまで金融行為をやっているわけであるから、非常に多いということは言えると思うし、郵便局というものも大きな機能を果たしてきたと思う。

【問】

最近日銀の当座預金残高は、目標とされる上限15兆円程度に戻りつつあると思うが、こういった調節を行なっている判断として、金融機関の資金繰りは落ち着きを取り戻したというように見ているのか。また、今後の金融機関の資金需要によっては、当座預金残高を15兆円以下に──10兆円~15兆円というレンジがあるわけだが──さらに落としていくように考えているのか。

【答】

金融市場では、大手行のシステム障害を背景にして、新年度に入ってからも、流動性需要がかなり高止まりしていたと思う。それが最近になって、徐々に落ち着いてきているのではないかというように思う。15兆円すれすれのところまで下がってきたというのも、そういうことではないかと思う。

ただこれだけ市場金利が低く下がっている中では、やはり流動性需要というのは、かなり大きく変動する可能性があるものだというように思う。

従って、先行きの当座預金需要の動向を予測するということは非常に難しいわけだが、日本銀行としては、金融市場の状況を注意深く見極めながら、現在の金融市場調節方針のもとで、引き続き潤沢な資金供給を継続していきたいと思っている。

【問】

政府は来月半ばを目処に第2弾となるデフレ対策をまとめるという方針を示しているが、その中でデフレ対策ということで、総裁は今どういった施策が最も重要でかつ効果的だとお考えか。特に今回は税制改革がその中の柱であり、かつ総裁はこれまでも税制改革の必要性はずっと述べられているわけだが、そのデフレ対策という観点からどういった税制対策が今望ましいとお考えか伺いたい。

【答】

経済財政諮問会議などでもこの問題は議論されているわけだが、日本経済がデフレから脱却していくためには、金融システム面や経済・産業面での構造改革を通じて、民間需要が活性化されていくということが何よりも重要だということを、まず第一に申し上げたいと思う。

それから政府・与党がまとめる対策というものについて、そういった取り組みを粘り強く進めるうえで、意義のあるものとなることを願っている。

税制もその大きな項目の一つである。経済活動に大きな影響を与えるインフラのひとつであるだけに、重要な課題だと思う。具体的な検討に際しては、民間部門の活力をどう引き出すか、経済・金融のグローバル化にどう対応していくか、といった観点がポイントになっていくと思う。

日本銀行としても、引き続き、デフレ脱却に向けて、潤沢な資金供給を通じて金融市場の安定と緩和効果の浸透に全力を挙げてまいりたいと思っている。期末・期初の恐れられた嵐の危機を一応過ぎて、やや静かに、一時的かどうか分からないけれども、凪の状態になっているわけである。

今この時期に一部に明るさの見え始めた景気をさらに大きく明るくしていくためには、やはり先程申し上げたように、民間の企業・経営者が製造業・非製造業を問わず前向きな経営・技術の開発、こういったことをやることによって、経営を活性化してもらいたい。民間の需要を創造(クリエイト)して欲しい、そしてまた開発して欲しい、拡大していって欲しい。こういうことが大切であると思う。今ならその効果は大きく作用すると思っている。

繰り返しになるかもしれないが、これらの民間の開発を助長していく一つは、政府サイドの対策、これと同時に私は、特に今ここで銀行とか民間金融機関というようなものが、良い案件、悪い案件に対してそれぞれ適切なかたちで対処して、本来の金融機関がやるべき信用仲介機能というものを十分に発揮していってもらいたい。そのことによって民間の需要というものはクリエイトされていくし、伸びていくのだというように思う。こういう動きが始まっていけば設備投資も伸びていくだろうし、一般消費者のマインドも明るくなっていくだろうし、景気が次第に良くなっていくのではないかと思う。

我々としては、今後この点を頭に入れて内外の情勢変化を注意深く見ていきたい。マクロであれミクロであれ、適切な施策をタイミング良く採り上げていけるようにしていきたいと思う。

【問】

昨日、8か月振りに外為市場で介入があったようである。昨日の金融経済月報にも書いてあるように、今、日本経済を下支えしているのは輸出というのが多分大きくあると思うが、そういう観点から見て今回の円高局面を総裁はどうお考えになっているのかということを伺いたい。

【答】

今、円高の局面ということだが、昨日、今日というような話ではなくて、昨年来の円ドルの動きをずっと見ていくと──図表を見ればすぐ分かるが──、ご記憶だろうと思うが、昨年の上期というのは、大体120円~125円のところだった。それが9月に同時多発テロが起こって、116円位まで急激なドル安円高が起こったわけである。それから日本の不良債権の問題とか金融機関の自己資本が大丈夫かとか、構造改革の効果がどうなっていくかとか、そういった内外の不安が日本の方に集中してきて、昨年の11月頃からずるずると円安に、いわば日本売りというのが起こっていったように思う。今年の3月に135円位まで来て、年度を越えて4月になってから、ここでやはりドル安のいくつかの要素が出てくると同時に、円安の流れは年度を越えてやや一服という状況になって、円が強くなってきたということではないかと思う。現在の変動為替相場の下では、その時その時の二国間の相対的な経済変化に対応して、市場がそれを先取りして相場が動いていくということは、私も長年の経験の中で十分承知しているし、市場というのはそういうものだと思うし、為替相場というのもそういうものだと思う。

今回の場合、今申し上げたようにドル安と円高の動きが、米国のサイドでのいくつかのドル安要因、具体的には、株価とか企業業績とかテロリズムの可能性といったようなことが、ここへきて出てきたと同時に、日本サイドでは、心配された年度初の危機を乗り越えて、景気の一部に明るい要因が出てきたということで、株価も上がるし、為替相場の動きにも変化が生じてきたということではないかと思う。ただ、動きがやや急激であったということはいえるし、このところのやや急激な為替相場の動きに対応して、いわゆる為替の安定化のために為替市場で必要な措置が採られたということは、私は良かったと思っている。

介入の効果についての評価とか、あるいは為替相場のあるべき水準については、これ以上コメントすることは差し控えたいと思う。

【問】

今の話の補足だが、動きが急激だったことに対する対応としては適切であったということであるが、動きの方向について、今、相場の流れがこういう方向にあると理解している、ということでよいのか。

【答】

市場はそうじゃないか。それが今後どう続くかはわからない。少なくとも、4月に入ってからの円高とドル安は、そういう方向で動いてきたのだと思う。それが相場を作っていった。急激になってきたから、昨日の介入で相場の急激な変動による影響──為替というのは、あらゆるところに影響を与えてくる──を抑えるために介入があったということではないかと思う。

【問】

今の円高水準が日本経済の景気回復に与える影響について、どうご覧になるか。

【答】

私は水準については申し上げない。ただ、先程も申し上げたように、今の水準が円高と言うが、昨年の前半はそういう水準であった一方、今年になってからは初めての水準である。今後どうなるか、もう少し市場を見ていかないといけないと思う。

よくファンダメンタルズという言葉が使われるが、非常に不明確な言葉だと思う。私も長い間、半世紀にわたり為替をやってきた。中央銀行でも、ロンドンでもニューヨークでもやったし、日本にいても国際通貨制度の色々な議論や創設に関与した。70年代、80年代の初めまで日銀にいて、その後、市場へ出て、民間の商社で為替で痛い目にあったし、随分泣かされることも、喜ぶこともあった。その後、経済同友会代表幹事ということで、財界のリーダーとして色々な人達の意見を聞いた。日本では、やはり円安というのが、日本を支えてきたということは確かであると思うし、輸出主導でここまで伸びてきた国であるから、円安が喜ばれるというのは自然な流れだと思う。

しかし、為替市場というものは、そういうものでもない。中央銀行の人達がファンダメンタルズと言う時には、もちろんその時の景気とか物価とか金利ということもあるが、その奥にある、例えば労働の生産性の問題や、技術力や資本力、それから一番大事な、為替と関係が深い国際収支──特に、経常収支あるいは資本収支の流れ──を考えている。日本の場合は労働の生産性が、ここへ来て少し相対的に落ちてきているかもしれないが、一貫して非常に高い国であったし、それから技術も進んでいたし、それに加えてバランス・オブ・ペイメントという面では、1980年代以降、経常収支の黒字が続いているというのは、他に例がない。経常収支が概ねGDPの2%と4%の間で20年以上黒字を続けている。それと同時に、資本の方はどうかというと、残高ベースの対外債権超過(ネット・エクスターナル・アセット)という数字でみると、日本は1兆2千億ドルの対外債権超過である。そういう国も他にはない。もちろん外貨準備も入っているが今のレートで150兆円くらいになる。

日本には随分外資も入ってきているが、外へ出て運用されている資本も随分ある。そういうものが儲けをどんどん送ってきている。そのようなことを、市場はちゃんと知っている。円安になれば景気がプラスになるかもしれないし、輸出が伸びていくかもしれない。そうかと言って、そう簡単にできるものでもない。市場は大きいし、ファンダメンタルズということもある。私もよく逃げる時にファンダメンタルズという言葉を使わせてもらうが、評論家とかエコノミストがおっしゃることよりも、本当に体を賭してやっておられる人達が、これからは売りなのか買いなのかということを考える際の材料になるファンダメンタルズというものを、やはりよく見ていく必要があると思う。そういうことを考えれば、今年の初めに起ったような日本売りというものを心配する必要はあるにしても、基本的にはそんなに円が弱い通貨であるとは、私は思わない。

【問】

引き続き為替について伺いたいが、米国が介入について否定的で、ヨーロッパもそれほど肯定的ではないという状況の中で、現在日本が為替に介入するということについて、どうお考えか。

【答】

それはやはり、今、円ドル相場が133~134円というところから、123円まで落ちたわけだから、そういった急激な変化をさらに続けさせないためにやったということであれば、これは為替の変動を抑えるための介入であったと思う。

他の国も、よほど相場が変動して、貿易や経済の動きに支障がでるようなことがあれば介入するだろうが、そう簡単に市場が動くものではないということも事実であるから、相場が動けばすぐ介入だというのは、米国などではないと思う。

【問】

今回の金融政策決定会合の前に塩川大臣から一層の緩和をしてほしいとの発言があった。2月の会合でも、政府の方の外での発言というものが話題になり、政府の発言は決定会合の場で行なってくれとの趣旨を要請した経緯があると思うが、また、外からこうした発言が出たことについて、どうお考えか。また、あらためて要請する考えはあるのか。

【答】

私は何も聞いていない。大臣が何をおっしゃったのか、そのようなことは。皆さんがお聞きになっているのかどうか、それも知りませんが。

【問】

しかし、そうした外での発言はやめてくれというようなことを、2月の会合の時にも話し合われたかと思うが。

【答】

それは、金融政策というものは私どもが決めることだから、言われたからやるというものではないと思う。

【問】

ルールとしては、政府の関係者は会合の中で発言するということがあるのか。

【答】

それは、財務省と内閣府の代表者が出ているわけだから、必要であれば、その場で意見をおっしゃると思う。竹中さんも良く出てくださっている。

【問】

先程の為替の話で、昨年の前半、120円から125円の動きであったということをあえて言われたということは、水準的には、その辺りが目安となるということか。

【答】

それは、私が見た表がたまたま昨年の上期から書いてあるから、そう言ったのであって、その前はもっと高かった。110円台であったし。

【問】

深い意味はないということか。

【答】

深い意味はない。

【問】

冒頭の景気の話の確認のため伺いたいが、政府と大きな見解の相違はないというと、全く同一ではないと捉えられるが、総裁は今年、来年に向けて何をもって一番のリスク要因だとお考えか。そこが微妙に違うところではないかと思うが、リスク要因をどうみているのか。

【答】

それは、4月30日の決定会合で決めた「経済・物価の将来展望とリスク評価」のなかに、5つのリスクが書いてある。それが全部起こり得るリスクだと思う。もちろん、米国のことも書いてある。それをご覧頂きたい。

【問】

米国の格付会社であるムーディーズが日本の国債の格付けをさらに一段階引き下げるのではないかとの観測が強まっており、金融市場でも話題となっているが、引き下げが妥当なものかどうか、総裁のお考えを伺いたい。

【答】

やるかどうか、私は全然知らない。もちろんムーディーズとかS&Pとか非常に有名な会社なのであろうが、日本の国債残高が、先進国中で水準として最高であるということで、日本国債に対して内外の市場の目は非常に厳しいというのは、自然な流れかもしれない。

このため、財政規律に対する市場の信認を確保していくことは、極めて重要な課題であると思う。

しかし、わが国の潜在力(ポテンシャル)をみると、質の高い労働力とか技術力とかは、非常に高いものがあるし、経常収支の黒字だとか、高水準の対外純資産、外貨準備も含め世界一であるから、そういうことを考え、また、日本の貯蓄力——民間の1,400兆円を超える(GDPの3倍近い)貯蓄を家計が持っているということ——を考えると、そんなに日本は弱いか、というように思う。その辺のところをあまりムーディーズなどはお考えにならないで決めているのではないかという懸念すらする。

日本としては、金融システム面や経済・産業面の構造改革をたゆまずに進めていって、日本経済のそういった潜在力を引き出していくことができれば、これは長い目でみて、わが国経済全体、ひいては国債の信認を高めることに必ず繋がっていくものだと信じている。だから、今、格付けを下げるのは、いささかおかしいのではないかと思う。

【問】

最近の国会の審議をみていると、銀行の自己資本の算定の根拠となっている税効果について、もっと厳しくした方がよいのではないかとの議論が出ているが、総裁はどうお考えか。

【答】

この問題は、私が言い始めた面もあるのだが、国会でもずいぶん有名になってしまった。先月15日の記者会見でも申し上げたかと思うが、繰延税金資産の計上は、日本だけでなく、欧米でも会計上、広く認められている。一方、銀行の自己資本規制上の取扱いをみると、わが国では会計上認められた額をそのまま算入できるのに対し、海外では米国や英国のように自己資本への算入を厳しく制限している国もある。米国は、1年、または10%という規制がある。日本はそういうこともない。このように内外で自己資本比率規制上での取り扱いが異なっているということは、例えば、税制上、不良債権の無税償却がどの程度前広に容認されているのかということで、この点では、米国では無税適用の認定がわが国よりも緩やかであるといわれているし、自己資本比率規制以外の制度環境の違いも、こういうところに反映されているかと思う。私が申し上げたかったのは、我が国の会計制度や自己資本比率規制のルールが良い悪い、甘い辛いといった単純な比較の問題ではなく、あくまでも現行のルール、それに基づいた繰延税金資産の計上を前提としたうえでの金融機関の中長期的な課題ということではないかと思う。繰延税金資産というのは、将来の収益に対する税金の前払い的なものであるから、収益力を強化しなければ、資産としての意味はない。今後の収益力の向上と資本基盤のさらなる強化を図っていくことは重要だと思う。

より正確に言えば、米国の場合は、Tier1の10%、もしくは1年分のいずれか小さい方を採ってよいということになっている。日本の場合、会計監査人が良いといえばこれが通るということで、その辺はかなり扱いが違うと思う。欧州諸国については、私が聞いている限りでは、やっている国もあるが、それは極めて少ないと聞いている。

日本の場合、今、決して自己資本が少ないとは思わない。10%はかなり高い水準にあると思う。これから出てくる不良債権に対し、引当を積むというのは、それはそれでひとつの整理方法である。ただ、必要なことは、先般金融庁が出した方針にもあるように、オフバランスにしなければいけないということなのである。

最終処理を前倒しにしていくためには、やはり資本が要る。1年で50%、2年で80%、3年目で全てをオフバランスにするといわれている。これが実現すれば、結構だと思う。しかし、それには資本が要るし、不良債権の方もおそらくは減ってはいかないわけで、それをみた上で、今後の償却方法を考えなければならないと思う。一方で、RCCなどができて売却する方法とか、あるいは最終処理のやり方についても、色々検討が加えられていくことだと思う。銀行でも学校とか病院とか、あるいは第3セクターへの貸出が焦げ付いているということもずいぶん多いのではないかと思う。そういったものをどう扱っていくかということも考えていく必要があると思うし、これからオフバランスにしていく方法を十分考えながら、金融機関が収益を増やすと同時にこういった資本の調達の道を作っていく必要があると思う。

以上