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岩田副総裁記者会見要旨 (10月 1日)

2003年10月 2日
日本銀行

―平成15年10月1日(水)
午後4時30分から約35分間
於 ホテル仙台プラザ

【問】

懇談会での意見交換などを踏まえて、東北地方の経済の現状についてどのようにお感じになられたか。本日、発表になった短観結果なども踏まえてお答え頂ければと思う。

【答】

本日、懇談会で経済界の方々とお話をする機会があり、大変貴重なご意見を頂いたと思っている。東北地区の景気は、先行きについては明るい兆しが出てきている──これは、日本経済全体と共通している──が、全国の平均的な姿と比べると、なお厳しいという印象を持っている。本日、仙台支店が発表した東北短観の業況判断D.I.をみても、「業況は悪い」と答える企業の割合が全国を上回る水準にあり、しかも、その改善テンポも緩やかなものにとどまっている。ただ、本日の懇談会のお話にもあったが、先行き明るい兆し──例えば、設備投資について言えば、これまで落ち込みが激しかったということもあるが、前年に比べプラスになることなど──もいくらかあると思っている。

全国と比べて東北地区の景気の方がなお厳しいという要因については、幾つかあろうかと思う。1つは、建設業の方からのお話にもあったが、当地の建設業のウエイトがかなり高いということである。これは、国、地方を合わせた公共工事が全国的にも減少しているが、特に当地の場合には、建設業のウエイトが大きいということで、経済に与えるマイナスのインパクトが全国よりも大きくなっているということだと思う。

2番目には、デジタル家電関連など、需要が好調な業種もあるが、一方で生産拠点を中国等アジアにシフトするというようなこともあって、雇用の増加については、まだ慎重な姿勢を続けていることである。

3番目は、冷夏の影響とか、あるいは地震が今年は3回あったというようなことも、当地の個人消費が全国平均と比べて、弱めになっている一因と言えるかと思う。

その一方で、個々の企業をみてみると、新規需要を開拓する、あるいは経営体質を強化するということで、懸命に努力されていると実感した。また、産官学の連携による技術開発、あるいは、ベンチャー企業支援についても、取り組みがかなり進行しているのではないか、という印象を持った。さらに、美しい自然、温泉など、観光資源を活用して、観光産業を発展させようという動き──去年の経済財政諮問会議においても、観光は重要な産業であると打ち出している──が、当地においても広がっているのではないか、様々な努力が行われているのではないかと思った。こういう努力が実を結んで、東北経済が活性化することを期待したい。

【問】

只今のお話にもあったが、東北地方特有の事情として、冷夏の影響や地震の問題がある。こうした当地特有の問題が東北経済に与える影響を、全国などと比べてどのようにみているか。

【答】

先程、冷夏と地震の影響について触れたわけであるが、幾つか悪い影響が及んでいる面があるのではないかと思う。1つは、これは全国共通であるが、冷夏ということでエアコンが売れない、あるいは夏物衣料が売れないという点である。2番目は、当地において、農作物、特にお米の生産について、収穫がかなり減ることが見込まれている。そういうことで、個人とか企業のマインドがマイナスの影響を受けているのではないか、ということが考えられる。

その一方で、全体として東北経済は厳しいが、その中で生産がいくらか増加する、あるいは設備投資が、特に製造業を中心にして持ち直す動きがみられるなど、明るい兆しが少しずつ出始めているのではないかと思う。地域経済は、いろいろな特殊要因でもって悪影響を受けるということがあると思うが、日本経済全体に明るい兆しがみえてくる、世界経済も輸出の関係で良くなっている、あるいは、企業収益がこれまでの努力が実って改善し始めている、そういう経済全体の動きの中で、このような特殊要因というものを位置付けていく必要があるのではないかと思う。

【問】

量的緩和と為替について何点か伺いたい。まず、副総裁は、8月18日のインタビューの際に、「日銀は今年に入って10兆円の追加の資金供給を行う一方、財務省は9兆円の介入を実施したことが為替レートを安定化させる方向に働いた」とおっしゃられた。その後、9月のG7をきっかけに為替レートが大きく動いたが、この間、財務省では9月中に4兆円程度の介入を行った。現在の為替の振れは、その間に日銀がさらなる量的緩和を行わなかったことにも原因があると言えるのか。次に、先程の懇談会の中で、「為替が安定的に推移することが極めて重要で、デフレ脱却のためには欠くことのできない要件」とおっしゃられた。量的緩和が為替レートの安定化に資するのであれば、量的緩和を拡大することも考えられると思う。現在の為替の状況をみて、次回以降の政策決定会合で、為替レート安定化のために量的緩和を拡大するという考えはあるのか。あるいは、副総裁ご自身が、量的緩和を提案する考えはあるのか。

【答】

極めて一般論であるが、ある国が、金融政策を引き締めた場合と緩和した場合に、為替レートがそれぞれどう変動するかということを考えると、他の事情が一定であれば、明らかに緩和政策を採った方が、短期金利は下がる方向に、また、為替は自国通貨安の方向に動くと思う。

先程の懇談会で、日本銀行は99年から現在に至るまで、ゼロ金利の中で量的緩和を採ってきたと申し上げた。緩和の度合いを何で測るのかについては、日銀当座預金、マネタリー・ベース、M2+CDなどいろいろな指標があるが、例えば、マネタリー・ベースでみても、日本銀行は極めて大胆な金融緩和政策を採ってきたし、また、それが結果的に、為替レートを安定化させる効果を発揮してきたと考えている。為替レートは、長期金利と共通するところがあり、金融政策だけで決められるかというとそうではない。もちろん、金融政策もある程度の影響──安定化させる方向での影響──を及ぼしていることは事実であるが、円・ドルレートで言えば、日本と米国の景気回復のスピードとか強さが違えば、それによっても影響を受けるし、経常収支の赤字・黒字によっても影響を受ける。金融政策ですべてが決まるということではない。

8月18日の記事についてであるが、先週、内閣府の国際セミナーでも同様のことを申し上げた。すなわち、今年に入ってからの為替介入額は、財務省の発表によると、現時点では13.5兆円、先月までは9兆円程度であった。一方、年初からの日本銀行の追加的な流動性の供給額は計10兆円──3月2兆円、4月5兆円、5月3兆円──で、偶然ではあるが、為替介入額と追加的な流動性の供給額がほぼ同額であった。このように、国内の流動性の供給と介入を併せて行うと、事後的には、「非不胎化政策」と呼ばれる政策を実行したのと同じ効果が出る。また、これも結果的にはであるが、日本銀行が米国債を購入するのと同じ経済効果が生じる、ということを申し上げた。

次に、介入額の増加と量的緩和の拡大についてであるが、日本銀行は、今年に入ってからの10兆円の追加緩和を実施した過程でも、あるいは99年からのマネタリー・ベースを大幅に増やしてきた過程でも──現在も前年比+20%程度増やしているが──、為替レートを目的として緩和政策を採ってきたわけではない。あくまでも、国内金融市場の安定化あるいは国内景気回復の足取りを確実にして、最終的にはデフレを脱却し、物価の安定を図ることを目標に金融政策を行っている。したがって、追加緩和額と介入額が同じでなければならない、ということではないと認識している。

今後も、金融政策の最終目標は何かという観点から、さらに緩和を進めるべきなのか、あるいは現状のスタンスを続けるべきなのか、議論していきたい。

【問】

本日の全国短観の結果について、改めて特徴点とそれに対する評価を伺いたい。また、今回の短観調査では十分に為替要因が織り込まれていないと思うが、為替要因を今後のリスク要因としてどの程度重要視しているか。

【答】

まず、短観についてであるが、ほぼマーケットが事前に予測・期待していたとおりの結果になったと認識している。特に、大企業・製造業の業況判断D.I.が、2000年12月以来初めて、+1と水面上に出てきた。これは、基本的には明るい兆しというふうに考えて良いと思う。同時に中小企業でも、まだ水面下ではあるが、大企業・製造業とあまり変わらない改善幅を示していることからみて、明るい兆しが、これまでの大企業・製造業だけだった状況から、少しずつ中小企業にも波及しつつあるのではないかというように思う。また、これと同様のことが設備投資計画にも言えるかと思う。先程の懇談会でも申し上げたが、2003年度の名目ベースの設備投資は、ソフトウエアも含めると、前年度比+2.3%の増加となる計画であるが、GDPのデフレーター(設備投資)が足許▲6.9%のマイナスであるので──こうしたマイナス幅が今後も続くかどうかはわからないが、かなりのマイナス幅が続くと仮定すれば──、実質ベースの設備投資は相当強い数字ではないかと思っている。

90年代以降を振り返ると、景気回復局面は過去2回あり、今回が3回目である。1回目は93年から97年、2回目は99年から2000年、そして今回は、2002年の1月からであるが、過去の景気回復パターンと今回の景気回復パターンを比較すると、今回は、在庫水準が非常に低く、これは、95、96年の景気回復時に似ていると思う。今後は生産、出荷が増えるにつれて在庫が増えるかたちになるかと思うが、このパターンは米国経済が回復したパターンとも同様だと思う。

また、99年から2000年の局面は、輸出とIT関連を中心とした設備投資の増加で景気回復が進んだわけであるが、今回の回復パターンも、輸出と設備投資が主導しており、GDP統計では、むしろ設備投資の寄与度の方が大きいという姿になっている。このように、GDPの成長率自体も良い数字となっているし、需要項目別にみても、99〜2000年と同様の回復パターンになってきたのではないかと思っている。

次に、為替レートについてであるが、ご指摘のように短観調査表の回収は、為替レートが動き始めた9月20日前後以前に9割方の回収が終了していた。したがって、為替レートを全く考慮していないということではないが、為替レートが動いていることを考えた上で回答した企業は非常に少ないと思われることから、今回の短観結果には、為替レートの変動要因は十分には織り込まれていないと考えて良いかと思う。為替レートの変動の影響については、先程の懇談会でも、輸入の方からみると円高の方が良いとか、輸出からみれば円安が良いとか、いろいろなご意見があったが、現在の日本の貿易収支の黒字幅──輸出・輸入のシェア──からみると、圧倒的に輸出の方が大きいことから、企業収益を減少させる効果がより強く働くと思うので、今後とも、為替レートの動きには注意を払っていく必要があると思う。

【問】

先程、懇談会の冒頭で総裁挨拶要旨を代読されたが、総裁挨拶要旨に副総裁ご自身の言葉として、デフレ脱却に関する内容を付け加えられていることから、総裁よりも現在のデフレの現状を厳しくみておられるように感じた。デフレに対する現状認識、およびデフレ脱却に向けどのような方策が必要と考えておられるのか伺いたい。

【答】

懇談会では、冒頭、総裁挨拶要旨に多少補足を加えて説明し、その後の質疑応答は自分の言葉で申し上げたこともあり、少しニュアンスが違ったように感じられたかもしれないが、デフレに対する考え方については、総裁と私は全く同じであると考えている。現状、デフレ脱却が金融政策にとって最も重要な課題であるという認識についても、何の相違もないと思っている。

それから、デフレ脱却のためにどのような手段を採るべきかということについては、現在の量的緩和を将来も続ける、消費者物価指数の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上になるまで続けるという点で、総裁と私の間には全く意見の違いはないと考えている。なお、今はデフレ状態にあるが、将来たまたま特殊要因により消費者物価指数の前年比上昇率がゼロ%以上になることがあっても——その時には、特殊要因を除いたらどのくらいかという判断を求められるが——、特殊要因が剥げればまたデフレ状態に戻ってしまうこともあるだろう。また、例えば特殊要因がいくつも重なったりするなど、非常に微妙なケースが生じるかもしれない。「現状の金融政策を変更するのではないか」という憶測が一部のマーケットで流れたことがあるが、私自身は、デフレ脱却が明確になるまでは今の金融政策を変えないということが大事だと思っている。

デフレ脱却は殆ど不可能に近いのではないか、との考えをお持ちの方もマーケットにはおられると思うが、私は今の金融政策の枠組みをきちっと続けることに加え、財政政策についても、本源的な赤字をゼロにするという中長期の目標を掲げているので、そうした組み合わせにより必ずデフレ脱却は可能であると考えている。

【問】

過去に日本銀行から個人の研究論文として公表されたものの中に、「わが国の消費者物価指数は、1%程度の上方バイアスがある」というものがあったと思う。現在コミットしている「消費者物価指数の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上になるまで金融緩和を続ける」という「ゼロ%」は、こうした上方バイアスを前提とすれば、実質的には「マイナス1%」ということになるわけであるが、この上方バイアスをどのようにお考えか。

また、「安定的」という点について、例えば一定期間をとって移動平均を計算したときにゼロ%以上となる場合を指すというように、いろいろな考え方があると思うが、どのような定義により判断すべきなのかお聞かせ頂きたい。

【答】

物価については、わが国だけではなく米国でも欧州でも、物価指数としてどのようなものを採用すべきなのか、物価指数には偏りがどれくらいあるのか、といった研究が随分行われている。また、物価指数の前年比が一時的にプラスになったとしても、またデフレの状態に戻ってしまうという可能性がどれくらいあるのか、ということについても、いろいろな研究が行われている。米国の連邦準備制度理事会でも、1996年7月の議事録に載っているとおり、上方バイアスは明らかにあり、米国では1%くらいという議論がなされている。日本銀行でも、部分的ではあるが、金融研究所などでいろいろ検討しており、現在の消費者物価指数で考えると、おそらく0.5〜1%くらいの上方バイアスが存在する可能性もあると言えようかと思う。

また、各国の中央銀行で議論になっている点として、世界経済にはいろいろなショックがあるわけであるが、マイナスのショックを受けた時に直ぐにデフレになってしまい、ゼロ金利の世界に陥るということがないように、バッファーがあった方が良い、ということがある。この点、物価の安定ということをどのように考えるのか——数値的な表現というか、数値で定義したらどのようなことになるのか——という検討が、日本銀行を含めた多くの中央銀行でなされているのが実情であると思う。そこでの結論ないし大まかな合意としては、ゼロ%であればやはり上方バイアスの問題があるし、直ぐにデフレに陥るリスクも極めて高いということもあるので、いわば上方バイアスと、直ぐにデフレに陥らないためのバッファーという両面を考えて、物価の安定を捉えていくべきではないか、ということが挙げられるのではないかと思っている。

私自身の個人的な見解として、物価安定を数値的に定義したらどのようなものかと問われれば、+1〜2%くらいではないかと以前インタビューでお答えしたことがあるし、議論の整理ということで申し上げれば、今もそのように考えている。

それから、「安定的」という意味をどのように考えるかというもうひとつのご質問については、人によっておそらく幅があると思う。ご質問の中にもあったとおり、たまたま1か月間だけ消費者物価指数の前年比上昇率が+0.1%となっても、移動平均で少し長めの期間を計算すれば、やはりマイナスである場合は安定的ではないとか、そのレンジはゼロ〜+1%であるとか、あるいは、+1%という安定数値の領域まで考えた方が良いのではないか、といった考え方などもあろうかと思う。そこは、いろいろな考え方があり得るように思う。

【問】

金融システムについて、先程の講演の中で、ペイオフの解禁や新しい公的資金注入制度は必要である、という話があった。大手銀行の平成15年9月期決算は、上方修正が相次ぐ予想となっているが、不良債権問題と銀行の経営問題について、どのように考えているのか。また、地域金融機関については、不良債権問題がまだ重荷になっていると思われるが、こうした地域金融機関は、今後どのような経営をしていくべきなのかについても見解を伺いたい。

【答】

まず、大手銀行の平成15年9月期決算については──まだ正式に発表されていないが、民間の調査機関が各行にヒアリングし、収益がかなり改善しそうだとか、ある先では当初予想の3倍くらいの収益が上がりそうだ、といった報道もなされているが──、株価の上昇や景気が持ち直してきたこと、企業再生ビジネスが次第に拡大しつつあること、などが追い風になっていると思われる。

平成17年4月にペイオフの完全解禁が予定されている一方で、大手銀行は、平成17年3月末までに不良債権比率を半減するという目標も立てられているが、従来に比べると、不良債権の処理について、見通しが明るくなってきていると考えている。これまでのわが国の不良債権問題を例えて言うと、深い川があり、底がどこなのか水が濁って見えない状態であったが、現在では、底が深いことには変わりはないが、どうやら底が見え始めたのではないか、まだ問題は残っているが、問題解決の道筋がかなりはっきりしてきたのではないか、そういう点をマーケットも評価し始めたのではないか、と考えている。

次に、公的資金の注入については、基本的には収益の改善や資本の充実は、個別の金融機関が努力すべき問題であるが、過去の不良債権の処理に伴い資本が不足してしまう場合、特に、ペイオフの完全解禁まで期間が限られているほか、一定期間内に不良債権を処理しなければならないという制約条件の下で目標を達成するためには、どうしても公的資金が必要になる場合があり得る。今後、これまでの審議会での議論も踏まえて、新しい公的資金注入のスキームが作られることが望ましいと考えている。

最後に、地域金融機関の活性化については、大手銀行と地域金融機関は置かれている状況が違うが、共通するのは「リスクに見合った金利設定の必要性」であると考えている。例えば、中小企業向け貸出については、十分リスクを考えて行うわけであるが、個別のリスクだけで考えるのではなく、総合的なリスク管理として、それらをポートフォリオ・バランスの中で管理していく必要があると思う。そうすることによって、今回のように長期金利が上昇して、地域金融機関のバランスシートに対してマイナス・インパクトを与えたとしても、これを総合的なリスク管理の観点からみると、国債を持っていれば長期金利が上がるとキャピタル・ロスが発生するが、一方で、貸出金利をリスクに見合った水準まで引き上げるためにはむしろ追い風になる、というように考えることができるのではないか。こうした総合的なリスク管理は、地域金融機関だけではなく、全ての金融機関において必要なことであると思う。

以上