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須田審議委員記者会見要旨(10月6日)

2004年10月7日
日本銀行

──平成16年10月6日(水)
午後13時30分から約30分
於 下関グランドホテル(下関)

【問】

 本日の金融経済懇談会での議論も踏まえ、山口県の景気の現状について、どのようにみているか。

【答】

 本日の金融経済懇談会では、ご出席の皆様から、(1)「製造業、大企業、都市」を中心とする足許の景気回復の恩恵が、なかなか「非製造業、中小企業、地方」にまで波及していないこと、(2)先行きの地域経済を考えた場合、「人口の減少、少子・高齢化」といった問題とどう向き合っていくのか、(3)大河ドラマ「武蔵」の放映、金子みすゞブーム、錦帯橋の架け替え等に伴う観光客の一時的な増加はあったものの、リピーターを如何にして増やしていくかが悩ましい、といったお話を伺った。伺ったお話はいずれも簡単には解決できない難しい問題だと思う。

 「非製造業、中小企業、地方」への景気回復の波及については、先程の挨拶でも述べた通り、前向きの循環が明確化すれば、「非製造業、中小企業、地方」の明るさも増すと思うが、企業側としてもただ待つのではなく、「選択と集中」など弛まぬ努力を続ける必要があると考えている。また、「人口の減少、少子・高齢化」については、金融経済懇談会の席上、「魅力的な街づくりが必要」とのお話を伺ったが、まさにその通りであるほか、「観光」については、全国的に地名度の高い名所、史跡、自然、産物が多いものの、広い県内に点在しているこうしたものをいかに結び付けていくかがポイントだと思う。なかなか妙案はないが、挨拶でも申し上げた通り、「行ってみたいけど遠い」を「遠いけど行ってみたい」に変えるための工夫を是非お願いしたいと思う。

 山口県は、近代日本の礎を築いた明治維新の志士を輩出したように、次代を担う人材の宝庫と言える。このような力は、構造調整には必須のものであって、観光に限らず時代を切り拓く新たな動きが、私の故郷でもある大好きな山口県から出てくることを期待している。

【問】

 山口県の景気の現状について、製造業と非製造業の景況感の格差は拡大しているのか。

【答】

 製造業と非製造業の景況感の格差は拡大しているというよりも、なかなか縮小しない状況にある。製造業の景況感に早く非製造業が追い付くことが、今後の重要なポイントと考えている。現状は、それがなかなか見えてこない状況にある。

【問】

 山口県は製造業を中心に輸出関連企業が多いが、中国の経済動向についてどのようにみているか。

【答】

 中国では、固定資産投資が当局の抑制策を受けて一旦増勢が鈍化した後、再び伸びが高まっているほか、個人消費や輸出も増勢を維持しており、内外需とも力強い拡大基調にある。加えて、景気の過熱リスクも内包している。もっとも、こうした足許の景気は、沿海部を除いて地方政府主導の投資が牽引していることにも注意が必要である。また、中国は最重要政策課題の一つとして、農業、農民、農村といった三農問題を抱えており、2億人の農民のうち半分は実質的な失業者とも言われている。この人々に雇用機会を創出することが中国にとっては急務であるが、これが捗々しくない模様である。このような雇用問題に代表される都市部と農村部の格差が拡大傾向にあるという点が大きな問題と言える。

 いずれにせよ、中国の活況は、最大の消費地である米国依存の部分がかなりあることは否めないほか、電力など生産のボトルネックの問題や先程述べたような国内の二極化問題もあり、今後も中国経済の動向については、注意深くみていきたい。

【問】

 中国経済の動向が日本経済に与える影響をどのようにみているか。

【答】

 中国当局は、経済をソフトランディングさせ、来年にかけて成長率を少し抑えていこうと考えているように見受けられるが、先程述べたような三農問題等もあるため、あまり成長率を下げるわけにはいかないと思われる。ソフトランディングの過程で、それが三農問題に跳ね返ったり、失業が減らないという問題になれば、ソフトランディングしようとしてもソフトランディングできないという状況もあり得るという難しさがある。一方で、過熱させていると、どこかでハードランディングになってしまう可能性もある。このように、ソフトランディングさせようとしても、下手をすると中国国内の構造問題からより大きな問題が出てくるかもしれないということである。そこをうまくナローパスを通ってソフトランディングさせていくことは結構難しいのではないかと思う。ただ、どちらかというと当面はハードランディングするというよりは、過熱が続く可能性のほうが高いと考えている。

【問】

 中国経済は差し当たり問題がないということか。

【答】

 中国独自の問題は中国当局が対応できるとみているが、一方で中国は米国への輸出地としても大きな役割を果たしており、米国経済あるいはIT産業が予想以上に減速した場合の中国への影響は無視できない。このため、そうした外生要因も中国経済にとってのリスクファクターとしてみていかなくてはならないと思っている。

【問】

  1.  まず一点目は、先程の挨拶で、日本経済のメインシナリオとして、成長はやや減速するが潜在成長率を上回る成長が期待できるとしているが、潜在成長率をどの程度とみているのか。

  2.  次に二点目は、メインシナリオのもとで需給ギャップ改善から消費者物価のプラス転化が展望できる一方で、個人消費の回復がみられないため、消費者物価の上昇圧力は強くないとしているが、消費者物価の見通しについてどのようにみているのか。

【答】

 潜在成長率は、その計算方法をどうするかとか、あるいは数字の上では物価のバイアスといった問題もあり、幅をもってみる必要がある。そうした中で、今現在では2%程度と想定している。

 消費者物価については、本日の挨拶でも述べたように生産性の上昇や賃金抑制の程度に大きく影響される。つまり、ユニット・レーバー・コストが今後どうなるかということであるが、生産性はある程度伸びる一方で、賃金抑制も強く残るのではないかと思っている。つまり、原材料、素材等の価格上昇は収益で吸収できるが、その結果として賃金が上がらないため、消費が増えていくことはそれほど強く期待できないと考えている。そのため、消費者物価の上昇圧力は非常に弱いとみている。

【問】

 10月29日の「経済・物価情勢の展望」(いわゆる「展望レポート」)において、政策委員の来年度のコアCPIの見通しが発表されるにあたり、先週末に「日銀が+0.1~+0.2%のコアCPIの上昇見通しを示す方向で検討に入った」との報道が一部でみられたが、現時点で政策委員は具体的なコアCPIの見通しを提出したのか。

【答】

 報道があったことについては承知しているが、展望レポート時に示す見通し計数については、来週の政策決定会合終了後、自分のシナリオを描き、見通しを作るといった作業を開始する予定である。また、見通しの計数については誰がどういう数字を出したか最後までわからないようになっている。そういう意味では、こうした記事は私自身全く考慮に入れていないし、マーケットに影響を与えるとも思っていない。

【問】

 現時点では、政策委員のコアCPI見通しが出ていないとしても、仮に日銀の執行部がアサンプションとして用意している数字が報道されたのであれば、政策委員の独自性や信頼性──須田委員は5月の講演で各委員が独自性をもって見通しを示していると説明しているが──に問題が出てくるのではないか。

【答】

 私は常日頃、気になる記事が出た際には、その内容について確認したりすることもあるが、本件についてはそもそも私が記事として出ることを想定している世界とは程遠いものであったので、これに対して何か説明する必要があるとは考えていない。

【問】

 金融経済懇談会に出席された方からも観光客のリピーターが増えないといった発言があったようだが、山口県に観光客のリピーターを増やすにはどうすれば良いか、山口県出身者として何か良い考えはないか。

【答】

 山口県は「行きたいけど遠い」という実感があり、これを変える必要がある。点在している山口県の観光地を簡単に巡れるようなシニア向けのパック旅行も一つの方法ではないだろうか。残念ながら、現在東京に住んでいて山口県のそうしたツアーが普通に目に入ることはない。観光を伸ばしたいのであれば、「これだけ素晴らしいものがあるのだから来てくれて当然」という意識ではなく、自分たちから積極的に働きかけることが大切だと思う。現在、全国各地が観光に力を入れているが、各観光地が観光客を奪い合うのではなく、お金と時間のあるシニア層に働き掛けるなど、潜在需要を掘り起こす必要があると思っている。

【問】

 金融経済懇談会の出席者から日本銀行の金融政策に対し、何か要望はあったか。

【答】

 漸進主義の政策を行うことにより、金利がゆっくりと上昇することが望ましいといった意見があったほか、日本銀行は量的緩和政策を消費者物価指数によりコミットしているが、企業側は価格引下げ努力を行っているのに、物価上昇が良いといわれるのは如何なものか、といった意見があった。

【問】

  1.  まず一点目は、潜在成長率を2%程度とみているとの話であったが、先行き4~6月の実質GDP成長率である年率+1.3%を上回る水準になると想定しているのか。

  2.  次に二点目は、来年度のコアCPIの予想が+0.1~+0.2%というレンジであるという一部の報道について、委員は想定している世界とは程遠い内容と言われたが、それは記事における見通しが高すぎるのか、低すぎるのか、そもそもどういった意味合いの答えなのか。

  3.  最後に三点目は、挨拶で触れられた漸進主義についてであるが、量的緩和政策解除前も漸進主義的な政策運営を考えているのか。

【答】

 4~6月の実質GDP成長率は1~3月に積み上がった在庫が4~6月に減少したという要因などがあって低下しているが、潜在成長率を考えるに当たっては、こうしたことを均してみる必要がある。潜在成長率は少し長めの概念で捉えるべきであり、均してみれば今後も潜在成長率より高い水準を維持するのではないかと考えている。

 先程申し上げた一部の報道についての感想は、報道されたこと自体に対する印象であり、記事にあった数字について述べたものではない。見通しの計数については、これから考える予定である。現在、消費者物価はゼロ近傍のところにあるわけだが、見通しは民間の見方や日銀内部での分析などいろいろなものを考慮しながら作っていくつもりであり、今のところは全くわからない。

 漸進主義は、非常に不確実であるということが前提にあって、かつその不確実な世界で先を見通しながら金融政策をアカウンタブルにやらなくてはならない時に考えられる一つの方法である。量的緩和を解除した後というのは、何が起こるか想定できないので、量的緩和の効果がどのように出ているか、マーケットや国民の見方はどうか、我々の経済情勢の判断は正しいのか、といったことをみながら少しずつやっていかざるを得ないと考えている。量的緩和政策の解除までについてはコミットメントがあるので、とにかくそれを守っていく。

以上