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事業再生実務家協会設立総会における総裁挨拶要旨

2003年 4月24日
日本銀行

 ただ今ご紹介いただきました日本銀行の福井でございます。

 本日は、「事業再生実務家協会」が、かくも多くの方々の賛同を得て設立されましたことを、心よりお慶び申し上げます。

 また、日本において事業再生の仕組みを築き上げることを、積極的に支援しておられる平沼経済産業大臣、谷垣産業再生担当大臣をはじめ、ここにご出席の皆様方の日頃のご努力に対し、改めて深く敬意を表しますとともに、本日、こうしてお招きいただきましたことに対し、厚くお礼申し上げます。

 せっかくの機会でございますので、事業再生との関連で、私自身感じておりますところを、若干申し述べさせていただきたいと存じます。

 第一に、わが国においては、これまで、とくに高度成長が長く続いた状況の下では、企業にとってはある意味で恵まれた環境が保たれ、企業再生の重要性があまり認知されないまま推移して参りました。事業再生というと、何か後ろ向きの雰囲気が伴うのも、このためだと思います。

 しかし、近年に至り、グローバル化の進展やイノベーションの加速など経済の大きな局面変化を背景に、わが国においても企業の新陳代謝が激しくなり、事業再生を円滑に進めることが、経済の発展に欠かせない重要な条件の一つ、との認識が次第に定着しつつあるように窺われます。

 事業再生は、その過程において、企業経営者や債権者、株主との間でものの考え方や複雑な利害関係の調整など、難しい課題を乗り越えなければならない訳ですが、それだけに、高い専門性を備えた実務家の方々が、早い段階から再生のプロセスに関与し、新しい工夫が凝らされて、はじめて成果に結びつくものでありまして、この点は、諸外国の経験に照らしても否定し得ないところであります。

 事業再生実務家協会にご関係の皆様方が、今後のご活躍を通じ、わが国において事業再生を円滑に進めて行くプラクティスの確立に寄与されることを、強く期待いたします。

 私ども日本銀行といたしましても、機会あるごとに、これからの日本経済にとって事業再生というお仕事が如何に大きな意義を持つかを訴えて参りましたが、今後とも、皆様方の取り組みを、金融面からの知的サポートという形で支援させていただきたいと考えております。

 第二に、事業再生の分野においても、市場メカニズムを有効に活用することが極めて重要であることを、強調させていただきたいと存じます。

 事業の価値やリスクが正確に評価されなければ、投資家にインセンティブを感じさせる形で事業再生のプロセスを進めることが出来ません。リスクに見合ったリターンが得られそうだと感じられて、はじめて事業再生に投資家が積極的な関心を寄せて来るものといえます。専門家の方々が事業の価値をそれぞれの尺度で評価し、リスクを取ろうとする投資家が競い合う結果として市場で価格が成立し、これをベースに事業再生をめぐる一連の動きが加速するという姿が基本となるべきものと考えられます。

 この点、先般発足した産業再生機構におかれても、対象企業について、当初から市場での評価ということを念頭におきながら、手許で必要な処理を施した後は、極力早期に市場を通じて企業再生ファンドその他民間の手に移すなど、市場メカニズムをフルに活かすような取り組みが行なわれることを期待したいと思います。

 事業再生の分野とは少し視点が異なりますが、日本銀行では、金融政策の効果波及径路を強化することを狙いとして、民間企業、とくに中小企業の信用リスクを評価し、取引する市場を発展させようと、目下具体策の検討を急いでおります。市場での評価という点で共通するところもあろうかと思われますので、皆様方からも是非お知恵を拝借いたしたく、よろしくお願い申し上げます。

 最後に、事業再生実務家協会のご発展と皆様のご健勝を祈念いたしまして、私からの挨拶とさせていただきます。

 ご静聴、誠に有難うございました。

以上