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全国信用金庫大会における総裁挨拶要旨

2003年 6月24日
日本銀行

 本日は、このような席にお招き頂き、誠にありがとうございます。信用金庫業界の皆様方におかれましては、地域に密着した金融活動を通じて、地域経済の発展と、各地の方々の生活の充実に貢献しておられます。皆様方のご努力に対しまして、深く敬意を表したいと思います。

 また、皆様方には、日本銀行の本店も支店も、政策や業務の運営に日頃から多大なご協力を頂いております。本席をお借りして、改めて厚くお礼申し上げます。

 本日は、(1)最初に、最近の経済情勢と金融政策運営について、(2)続いて金融システム面の課題について、お話ししたいと思います。

 わが国の経済は、このところ全体として横這い圏内の動きを続けています。先行きについては、経済・金融のあらゆる側面を点検しておりますが、このところ少し弱含みとなっている輸出とか生産の動きが今年の後半以降、着実に立ち上がってくれば、これまでの国民的努力で、かなり調整が進んでいることもあるので、経済の前向きの良い循環が働き始めると考えています。ただ、日本経済は世界経済の中に組み込まれています。グローバル化の時代ですから、世界経済の動きを抜きにしては、なかなか経済の見通しはつけられません。必ずしも海外経済頼みということではありませんが、グローバル化の時代といった視点がどうしても必要です。

 海外経済の動向については、本年春頃までの大きなリスク要因であったイラク情勢にかかる不確実性は、幸い解消しつつありますが、今後海外経済が期待通り素直に回復に向かうかは今のところ、まだ少し予断を許さない状況が続いています。

 米国経済については、連銀を含めた米国の政策当局者、あるいは市場関係者等の間では、総じて強気の見方が多くなっています。当初のシナリオ通り、今年の後半以降は、そんなに早くはないにしても、回復に向かうというシナリオを崩しておられない方が多いようです。ただ、私どもが見ている限り、米国の産業界が、設備投資に対して積極的に取り組むという感じが少し乏しいという点が若干気になっています。

 米国の物価情勢については、世界的なディスインフレーションという基本的な方向の中で、米国の連銀においても、インフレ率の低下を心配しております。インフレ率の低下と、今後の米国の景気の回復とが、どう関連するかということが、今、多くの方にとっての疑問になっているわけです。そういう意味で、今日と明日、米国の連銀においては、FOMC(連邦公開市場委員会)が開催されるため、そこでどういう金融政策上の決定がなされるか、米国経済についてどういう判断が示されるか、について世界の関心が集まっているという状況にあります。

 欧州は、内外需が低調に推移するもとで、景気は減速傾向にあります。また、東アジアは、比較的順調に推移していると思っております。しかし、最近では、多少輸出の増勢鈍化や新型肺炎(SARS)の影響などから、経済の動きは一頃に比べて幾分緩やかになっています。

 日本経済については、株価、為替相場の動向を含めた金融資本市場の動きがもうひとつのリスク要因とみられていました。その中で、りそなの問題が起こったわけですが、我々として不安感を増幅させないための手だてを講じてきました。その結果、幸い、最近の金融市場は、りそな問題の影響もみられず、安定を維持しています。長期金利は、足許では幾分上昇の動きがみられるものの極めて低水準で推移しています。また、株価は、欧米での株価上昇などを背景に、最近では9千円程度まで持ち直しています。ただ、実体経済の動向や金融システムを巡る情勢等を勘案すると、金融資本市場や企業金融面に関するリスク要因には、引き続き注意していく必要があると考えています。

 以上のような経済金融情勢のもとで、3月20日のイラクでの戦闘開始以来、日本銀行も緊張感を高めて政策運営を行なっており、4月、5月と日銀当座預金残高目標の引き上げを実施しました。こうした日本銀行による追加資金供給もあって、金融市場における流動性を巡る不安感は払拭されています。

 問題は、潤沢な資金供給が経済活動の拡大にさらに効果的に結び付いていくかどうかということです。そのためには、金融システムの早期健全化により金融仲介機能を強化していくことが不可欠であると同時に、金融政策面では、金融緩和の波及メカニズムの強化を図ることが重要な課題であると考えています。

 こうした観点から、日本銀行は中堅・中小企業関連の資産担保証券の買入れを開始することとし、先般、そのスキームの骨子を決定しました。わが国の資産担保証券市場は、潜在的なニーズの強さと比較すると、現在までのところ、インフラ整備の遅れや取引慣行面での馴染みの薄さなどの要因を背景に、現在、十分拡大するには至っていません。今後、この市場が拡大すれば、市場型間接金融という新たな金融仲介ルートの定着・拡大に繋がり、企業金融の円滑化に資することになると思います。もちろん、市場作りというものは、市場関係者の皆様が自らなさることで、市場は自己回転的な発展を遂げていくものであります。しかし、日本銀行としても、資産担保証券の買入れが、揺籃期にある市場の発展の契機となることを強く期待しています。また、市場整備の面では、民間市場関係者との十分な協力が何よりも重要であるほか、関係当局や政府系金融機関とも適宜連携を図り、資産担保証券市場の発展を支援していきたいと考えています。

 次に金融システム面について申し述べます。わが国金融システムの健全化はまだ道半ばであり、引き続き厳しい状況にあると言わざるを得ません。

 言うまでもなく、その背景には、不良債権の問題が、前進しつつもまだ尾を引いていることがあります。不良債権の経済的価値のより正確な把握、すなわち資産評価を厳正に行い、引当を十分行って、きちんと償却していくということについては、各金融機関でしっかりと行われるようになってきています。これからは、さらに進んで、企業の再生を図る段階にきていると思います。企業の抱える問題はそれぞれにたいへん異なっておりますが、金融機関がその企業の本当に将来性のある部分に着目して、そこを活かして企業のランクアップを図れば、企業再生を通じて金融機関も自らの収益力の向上につなげていくことができます。このように、単に後ろ向きに不良債権の処理をしてきた段階とは異なり、現在は前に進んでいく段階にきていると思います。金融機関は、こうした企業再生のみならず、今後どのような新たな業務展開が可能か、収益力をどのように高めていくか、という前向きな発想に変わってきていると思います。

 実際、企業の再生については、産業再生機構の業務開始をはじめ、政府において種々の施策が着実に実施されてきています。民間の金融機関におかれましても、幅広い努力を是非して頂きたいと思っておりますが、すでに、地域金融機関を含め個別の金融機関におきまして、こうした施策に呼応する形で企業再生支援に対する取り組みを強化する動きが広がっています。信用金庫の経営にあたられている皆様方におかれても、日頃より地元中小企業の経営動向をきめ細くフォローし、取引先企業と掘り下げた対話を行っておられるだけに、企業再生に向けた対応には、日々腐心しておられることと拝察します。

 地域経済が全体として停滞している中にあって、こうした努力を行っていくことは、決して容易なことではありません。しかし、地域経済と共に歩んでおられる皆様方にとって、地元中小企業の再生を通じて地域経済の活性化に寄与していくことは、自らの経営基盤を維持していくうえでも避けては通れない重い課題です。もとより問題解決に向けた決め手や妙案といったものは、なかなかありませんが、個々の取引先の再生可能性をしっかりと見極めつつ、前例や過去の経緯にしばられることなく、必要な手を早め早めに打って頂きたいと思います。この点、皆様方には一層のご尽力をお願いする次第です。日本銀行もこの点のノウハウについて、必ずしも十分とは言えませんが、蓄積した成果については皆様方にも提供させて頂きたいと思っています。

 次に、金融機関の収益基盤の強化も、重要な経営課題です。皆様方におかれましては、既に経営の合理化に取り組むとともに、個々の中小企業と密着しながらも、金融取引慣行の見直しを図るという非常に難しい問題に直面しておられます。現下の厳しい金融経済情勢のもとで、こうした努力を具体的な成果につなげるのは、決して簡単なことではないと思います。しかし、収益基盤の強化は、不良債権処理と金融仲介機能強化の観点からも重要であり、皆様方には、引き続き粘り強く取り組んでいかれ、1日も早くより良い具体例を出して頂きたいと思っております。先程、私どもの資産担保証券買入れの取り組みについてお話を致しましたが、こうした資産担保証券市場がうまく発展していけば、リスクに見合った金利設定につながる仕組みの芽が出てくるのではないかと思います。かなり間接的ではありますが、皆様が個々の取引先との取引慣行を新しい姿に変えていくことにもつながるきっかけになることを願っております。

 今後、こうしたご努力が成果をあげ、信用金庫業界が、益々、発展されていくことを祈念し、ご挨拶に代えさせて頂きます。

 ご清聴有難うございました。

以上