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【挨拶】全国証券大会における挨拶要旨

全国証券大会における挨拶要旨

日本銀行副総裁 西村 清彦
2008年9月18日

 本日は、全国証券大会にお招きいただき、誠にありがとうございます。証券業界の皆様には、日頃から、私ども日本銀行の政策や業務運営について多大なるご協力を賜り、厚くお礼申し上げます。

 私からは、最近の国際金融資本市場の動向及び金融システム面の課題、ならびに経済・物価情勢と金融政策運営について、私どもの考えをお話しし、ご挨拶に代えさせていただきたいと思います。

 まず、最近の国際金融資本市場の動向及び金融システム面の課題について、ご説明します。

 国際金融資本市場の動揺の発端となった米国サブプライム・ローン問題が表面化してから、1年以上が経過しました。しかしながら、グローバルな金融市場では、大手投資銀行の破綻等により、むしろここにきて不安定さが増しています。最近における金融市場の緊張の高まりに対し、わが国も含め各国中央銀行は、流動性供給面での対応などを通じて、市場の安定に努めています。

 わが国金融システムへのサブプライム・ローン問題の影響をみますと、わが国金融機関の関連損失は、証券化商品への投資家としてのエクスポージャーに係るものが大半であったこともあり、各金融機関の経営体力の範囲内で吸収可能な規模に止まっています。また、大手投資銀行の破綻の影響を踏まえても、全体としてわが国金融システムの安定性に深刻な影響を及ぼすとはみておりません。もっとも、国際金融市場の動揺が続いている中で、わが国の金融市場の動向や個別金融機関の資金繰り等については、一層きめ細かくモニターしていく必要があると考えています。

 また、米国では、実体経済の停滞から、商業用不動産ローン、消費者ローンなどの延滞率が上昇し、これが金融機関の資産内容の一段の悪化と、さらなる信用収縮をもたらし、これがまた景気に悪影響を与える姿、つまり、金融資本市場、資産価格、実体経済の負の相乗作用が懸念される状況となっています。こうした負の相乗作用が、いつ、どのように収束に向かうのか、引き続き注視していく必要があると考えています。

 サブプライム・ローン問題においては、リスク管理という面で様々な課題が指摘されていますが、「証券化」を含め金融技術革新自体は、投資家・資金調達者双方の多様なニーズに応え得る新たな金融商品を生み出すとともに、金融機関に対しより高度なリスク管理の手法を提供するものであります。

 大事なことは、どのような金融技術を使う場合でも、リスクを正確に認識し、管理することです。この点、日本銀行としては、新たな金融技術にかかる適切なリスク管理のあり方について調査・研究を重ね、その成果も踏まえつつ取引先証券会社に対するオフサイト・モニタリングや考査の際に活かしていきたいと考えております。

 また、金融資本市場の機能を向上させていくためには、市場インフラの整備も重要です。この点に関連し、日本銀行は、決済システムの安全性・効率性の向上を図る観点から、来月、「次世代RTGS」プロジェクトを実施する予定にあります。日本銀行取引先の皆様におかれましては、その円滑な実施に向けて、引き続きご協力をお願い申し上げます。この間、証券業界では、有価証券ペーパーレス化の総仕上げとして、来年初の株券電子化を円滑に実現するため全力を尽くされているものと承知しております。また、災害等が発生した場合に備えた業務継続体制の整備に向けても着実な努力が続けられているところです。

 これらの取組みは地道なものではありますが、金融資本市場の効率性向上や頑健性の強化を通じて、必ずやわが国経済の持続的成長に繋がっていくものです。日本銀行としては、引き続き、市場関係者の皆様方とともに、市場のインフラ整備に努めていく所存です。

 次に、経済・物価情勢と金融政策運営についてご説明します。まず、景気の現状判断と中心的な見通しですが、わが国の景気は、エネルギー・原材料価格高や輸出の増勢鈍化などを背景に、停滞していると判断しています。先行きは、当面停滞を続ける可能性が高いものの、国際商品市況が落ち着き、海外経済も減速局面を脱するにつれて、次第に緩やかな成長経路に復していくと予想しています。また、物価面をみますと、消費者物価は、エネルギーや食料品の価格上昇などから、7月の前年比は2.4%と、消費税率引き上げの影響で物価が上昇した1997年度を除くと、16年振りの高い伸びとなっています。先行きは、当面現状程度の上昇率で推移するものの、その後は、国際商品市況が落ち着いて推移する下で、消費者物価の上昇率は徐々に低下していくと予想されます。

 こうした経済・物価見通しには不確実性が大きく、様々なリスク要因を十分念頭に置く必要があります。国際金融資本市場の不安定さが増しており、また、世界経済には下振れリスクがあります。国内でも、エネルギー・原材料価格高による所得の海外流出によって、内需が下振れるリスクがあります。設備や雇用面で調整圧力を抱えていないとはいえ、景気の面では下振れのリスクに注意が必要だと考えています。逆に、物価面では、エネルギー・原材料価格の動向、家計のインフレ予想や企業の価格設定行動の変化など、上振れるリスクを意識しています。

 このように、現在は、景気の下振れリスク、物価の上振れリスクの双方に注意が必要な局面にあります。日本銀行としては、引き続き、経済・物価の見通しとその蓋然性、上下両方向のリスク要因を丹念に点検しながら、それらに応じて機動的に金融政策運営を行っていく方針です。また、最近の米国金融機関を巡る情勢とその影響を踏まえ、円滑な資金決済と金融市場の安定をしっかりと確保していくことが、日本銀行の大事な責務であると考えています。

 最後になりましたが、皆様方の益々のご発展を祈念して、私からのご挨拶といたします。ご清聴ありがとうございました。

以上