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【挨拶】全国証券大会における挨拶

全国証券大会における挨拶

日本銀行副総裁 山口 廣秀
2009年9月17日

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目次

はじめに

 本日は、全国証券大会にお招きいただき、誠にありがとうございます。証券業界の皆様には、日頃から、私ども日本銀行の政策や業務運営について多大なるご協力を賜り、厚くお礼申し上げます。

 私からは、最近の金融経済情勢や日本銀行の政策運営、ならびに金融システムの現状と課題などについて、私どもの考えをお話しし、ご挨拶に代えさせて頂きたいと存じます

最近の経済金融情勢

 最初に、世界経済の動向から、ご説明します。

 リーマン・ブラザーズが破綻した昨年9月以降、米欧の金融システムや国際金融資本市場が動揺する中で、世界経済は、同時かつ急速に悪化しましたが、本年春頃から下げ止まりの動きをみせています。その背景としては、まず、各国中央銀行による潤沢な資金供給や、米欧金融機関に対する積極的な公的資本注入などが効を奏し、市場参加者の極端な不安心理が後退する中で、国際金融資本市場が安定を取り戻しつつあることが挙げられます。次に、大幅な減産による在庫調整が世界的に進捗したことが挙げられます。さらに、各国において展開されてきた大規模な景気刺激策の効果が現れてきていることも指摘できます。こうした世界経済の持ち直しに向けた動きは、しばらく継続するとみられますし、このところ新興国の回復傾向が明確となっていることは心強い材料です。もっとも、今回の世界的な景気後退には、2000年代半ばにおける欧米諸国を中心とした様々な過剰の蓄積と、その巻き戻しの過程で生じる企業や家計のバランスシート調整という要因が働いています。今後の世界経済回復のモメンタムは、こうしたバランスシート調整がどう進むかに大きく依存していますが、この点については、依然、不確実性が高いと判断しています。

 このような世界経済の動向を前提にしながら、次に、わが国の経済情勢についてご説明します。わが国経済は、昨年秋以降、米欧を大きく上回る景気の落ち込みを経験しました。これは、世界経済の急速な収縮によって、耐久消費財や資本財等の需要が大きく減少したため、わが国の得意とする自動車や電気機械、一般機械といった先端的な製造業が強い影響を受けたことが背景にあります。

 もっとも、本年春以降、世界経済が下げ止まりの動きを辿るにつれて、前向きのメカニズムが働いています。具体的には、内外の在庫調整が進んだことなどから、自動車や電子部品を中心に、輸出や生産の回復傾向が明確化しています。この間、公共投資が経済対策の進捗から増加を続けており、経済活動を下支えしています。このように、わが国経済も、世界経済と同様、本年春以降、前向きの動きが明確化してきています。ただ一方で、設備投資や個人消費といった国内民間需要は、厳しい企業収益環境や雇用・所得環境が悪化する中で、弱い動きが続いています。

 わが国経済の先行きについてみると、今後、世界経済が持ち直しに転じていく中で、わが国の輸出も増加を続けると見込まれるほか、これに伴う企業収益の回復や各種景気刺激策の効果などから、設備投資や個人消費も徐々に回復に向かうと考えられます。日本銀行では、先行きに関する中心的な見通しとして、「本年度後半以降、わが国経済は持ち直していく」という姿を想定しています。

 もっとも、こうした見通しを巡る不確実性は、依然大きいとみています。リスク要因としては、新興国の回復といった上振れ要因が生じていますが、国際的な金融経済情勢や企業の中長期的な成長期待など景気の下振れリスクが高い状況が続いています。日本銀行としましては、こうしたリスク要因に十分注意しながら、引き続き、内外の金融経済情勢を丹念に点検していきたいと考えています。

 次に、物価動向について申し上げます。生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、昨年夏に2.4%と高い伸びを記録した後、縮小傾向を辿りました。足もとは、前年における石油製品価格高騰の反動などから、物価の下落幅が拡大しています。もっとも、秋以降は、石油製品価格高騰の反動の影響が薄れていくとともに、景気の持ち直しによって経済全体の需給バランスが改善していく中で、物価の下落幅は縮小していくと考えられます。こうした物価の見通しにも、引き続き、大きな不確実性があります。昨年秋以降の急激な景気の落ち込みを反映して、経済全体の需給が大きく悪化し、その改善テンポも緩やかとみられます。したがって、物価の下落圧力が相応の期間続く可能性が高く、企業や家計の中長期的な物価上昇率の予想が下振れることがないかどうか、丹念に点検していきたいと考えています

金融システムの動向

 次に、金融システムの動向について、ご説明します。

 内外の金融界にとって、この1年間は激動の局面でした。昨年9月のリーマン・ブラザーズの破綻を契機に、それまでの「サブプライム・ローン問題」から「国際金融危機」へと問題の局面が変化し、わが国金融システムにも、市場の機能低下、株価の下落、実体経済の悪化など、様々なルートを通じて影響が波及することになりました。市場機能という点では、わが国でも短期金融市場や国債市場における市場流動性が低下し、中でもレポ取引が大きな影響を受けたことが一つの特徴でした。皆様におかれては、市場の最前線で、フェイルの多発をはじめとする急激な環境変化に直面され、様々な対応に努められたことと思います。

 その後、国際金融システムは、各国政府・中央銀行による金融安定化策の効果浸透もあって、危機的な状況をほぼ脱し、現在では落ち着きを取り戻しつつあります。ただ、米欧の金融システムには脆弱性が残り、わが国でも厳しい企業業績を反映し与信コストの増加が続く可能性があるだけに、内外の金融システムの先行きについては、引き続き注意深くみていく必要があると考えています

金融システムの強化に向けた国際的な取り組み

 こうした中、今回の金融危機の経験を踏まえ、金融システムの強化に向けた国際的な検討が進められています。その対象は、金融監督・規制のあり方や市場インフラの整備、さらには報酬体系の見直しなど、多岐にわたります。先般開催された20か国財務大臣・中央銀行総裁会議でも、こうした点について活発な議論が行われました。

 このように国際的な議論を重ね、必要な対応策を講じていくこと自体は、過度のリスクの蓄積と将来の金融危機の発生を防ぐという観点から、必要なことであると思います。ただ、国際的に金融制度を見直す場合には、各種の規制強化の動きが、全体として金融・経済活動にどのようなインパクトを及ぼすかについて、しっかり検討し、実施の手順や時期についても十分に配慮する必要があります

市場インフラの整備

 さて、先ほど申し上げたように、現在国際的にも議論されていますが、市場インフラを整備し、金融資本市場の機能を向上させていくことも、金融システムの安定につながる重要な課題です。

 わが国における最近の市場インフラ整備の取り組みをみますと、証券業界では、本年初に、主要な有価証券に関するペーパーレス化の総仕上げとして、株券電子化を円滑に実現されました。関係各位のこれまでのご尽力にあらためて敬意を表したいと思います。日本銀行では、本年7月、稼働開始後約20年を経た日本銀行金融ネットワークシステム——いわゆる「日銀ネット」——について、新しいシステム構築に関する基本方針をお示ししたところです。また、今回の金融危機の経験を踏まえると、フェイル慣行の見直しを始めとするレポ市場の機能強化の取り組みや国債決済期間の短縮なども、今後検討を要する事項であると考えています。さらに、事柄の性質はやや異なりますが、災害やパンデミックが発生した場合に備えた業務継続体制の整備も、重要な課題の一つと言えます。

 日本銀行としては、以上申し上げたような点を含め、証券界を代表する皆様方とともに、市場インフラの整備に努めていく所存です

日本銀行の政策運営

 最後に、これまで申し上げました経済物価情勢の展開や金融システム面の動向を踏まえた日本銀行の政策運営について、簡単に申し述べさせて頂きます。

 日本銀行では、昨年秋以降これまでの間、金融面からわが国経済を支えるため、様々な政策対応を行ってきました。政策金利を0.1%まで引き下げるとともに、金融市場の安定確保や企業金融円滑化を支援するため、CP・社債の買入れ、企業金融支援特別オペレーションを始め、各種の措置を講じてきました。また、金融システムの安定を維持するために、金融機関保有株式の買入れの再開、金融機関に対する劣後ローンの供与といった措置も実施してきました。これらの措置には、中央銀行の政策手段としては異例の措置もありましたが、経済・金融の厳しい状況に照らして、時限措置として実施することが適当と判断しました。こうした各種時限措置の今後の取り扱いについては、企業金融や金融市場の状況をしっかりと点検した上で、その改善度合いに応じて、適切に判断していきたいと思います。またその際には、時限措置が市場機能の自律的な回復を却って阻害しないか、という観点から点検していくことも大事なことと考えています。

 日本銀行としましては、当面、景気・物価の下振れリスクを意識しつつ、わが国経済が物価安定のもとでの持続的成長経路へ復帰していくため、中央銀行として引き続き最大限の貢献を行っていく方針です

おわりに

 以上、皆様方のますますのご発展を祈念し、私からのご挨拶といたします。ご清聴ありがとうございました。

以上