このページの本文へ移動

「中期経営計画(2024~2028年度)」の策定について

2024年3月22日
日本銀行

1.はじめに

この中期経営計画は、2024年度から2028年度までの日本銀行の業務・組織運営の基本方針を定めたものである。

本計画では、日本銀行が中期的に達成すべき課題を明確に定め、それらの達成状況を適正に評価していく観点から、対象期間を5年間とし、計画内容を基本的に固定する枠組みを採用している。

その上で、環境変化への対応力を確保するため、本計画の開始から3年度目を目途に中間レビューを行うほか、大きな環境変化が生じた場合には、本計画の内容を柔軟に見直す方針としている。

2.日本銀行の行動原則

日本銀行は、わが国の中央銀行として尊重すべき普遍的な理念を、以下のとおり行動原則として定め、役職員が日々の業務を遂行する際に常に意識すべきものと位置付けている。日本銀行は、この行動原則に基づく、政策・業務運営の適切な遂行を通じて、国民からの信認を確保していく。

公益の実現

日本銀行法に定められた目的と理念1を達成することにより、公益の実現を図る。

透明性の確保

外部との様々なネットワークを通じて、政策や業務についての説明責任を適切に果たす。

業務の質の向上

環境変化を適切に捉え、中央銀行サービスの質を高めていく。

公正な職務の遂行

役職員一人一人が、高いモラルを維持しつつ、公正に職務を遂行する。

経営資源の効果的・効率的活用

業務および組織の運営に当たっては、経営資源を効果的・効率的に活用する。

  1. 日本銀行法第1条において、日本銀行の目的を銀行券の発行、通貨及び金融の調節、信用秩序の維持と定めているほか、第2条において、物価の安定を通じて、国民経済の健全な発展に資することを、通貨及び金融の調節を行うに当たっての理念と定めている。

3.環境認識および経営指針

中央銀行を取り巻く環境をみると、コロナ禍以前から、デジタル化の進展に加え、気候変動を含むESG、SDGsへの意識が一段と高まっている。また、コロナ禍の期間を経て、グローバル化の変質や地政学リスクの高まりが目立つほか、グローバルに低インフレと低金利環境からの変化が生じている。国内では、人口減少・高齢化等の社会変化が引き続き経済・金融に大きく影響している。自然災害の激甚化等の影響も目立っている。外部環境を巡る不確実性が増し、環境変化のスピードが速まっているもとで、日本銀行の政策・業務が直面する課題は、拡がり、また複雑化している。

日本銀行は、こうした環境認識のもとで、わが国の中央銀行としての役割を適切に果たしていくため、この中期経営計画において、以下の4つを経営指針とする。

(1)使命達成に向けて組織力を高める

日本銀行の使命である「物価の安定」および「金融システムの安定」の達成に向けて、企画・立案力や調査・研究力、業務遂行力、これらを支える組織運営力を高めていく。

(2)変化を的確に捉える分析力を磨き、丁寧な対話に努める

適切な政策・業務運営を実現していくため、変化を的確に捉える分析力を磨くとともに、政策・業務運営が内外の幅広い経済主体に影響を及ぼす点を踏まえ、丁寧な対話に努めていく。

(3)デジタル社会にふさわしい高度で安定的な中央銀行サービスを提供する(DX推進)

デジタル技術の活用等を通じて業務遂行力やこれを支える組織運営力を高めながら、デジタル社会にふさわしい高度で安定的な中央銀行サービスを提供していく。

(4)中央銀行員としての誇りとやりがいを支える職場を作り、強い現場力を発揮していく

日本銀行員が、政策・業務運営を通じた公益の実現という責務を担うことを常に意識しつつ、誇りとやりがいを持って職務に取り組める職場を作り、強い現場力を発揮していく。

4.業務運営面での取り組み

業務運営面においては、以下に掲げる課題に重点的に取り組んでいく。

(1)金融政策運営に資する適切な企画・立案

物価安定のもとでの持続的成長を実現していくため、不確実性が増している外部環境の変化を的確に捉えながら、金融政策運営をしっかりと支えていく。

こうした観点から、内外の金融経済情勢や市場動向について、デジタル技術等も用いた分析手法の高度化、統計データの活用やミクロ情報の集積・活用等を一層進めながら、調査・分析を機動的に行っていく。長い目でみて適切な政策運営等に資するよう、基礎的な研究にも着実に取り組んでいく。

また、「金融政策の多角的レビュー」の結果も踏まえつつ、金融政策の効果や影響を不断に検証することを通じて、機動的に政策の企画・立案を行っていくとともに、適切な金融調節を実施するために必要な体制の整備にも取り組んでいく。

(2)金融システムの安定・機能度の向上

金融システムの安定確保の観点から、金融経済環境を巡る不確実性の高まりやデジタル技術の進歩など、外部環境の変化を踏まえて、データ整備や分析の高度化を図りつつ、考査・モニタリングを通じて、経営・業務体制やリスクプロファイルの複雑化が見込まれる金融機関の経営実態・課題を的確に把握し、金融機関に適切な働きかけを行う。また、金融機関が金融仲介機能を円滑に発揮していくための経営課題を共有し、必要な取り組みを後押ししていく。

上記のような環境変化が金融システムや金融機関経営に及ぼす影響を見据えつつ、金融システムに関連する政策の企画・立案に際し、引き続きマクロプルーデンスの視点を重視していくほか、日本銀行の取引先の適格性判定や貸出関連などの業務に関しても適切に企画・立案、運営していく。

金融システムの安定確保のため必要な場合には、個別金融機関ないし金融市場に対して、最後の貸し手機能を適切に発揮する。

これらの課題に取り組むに当たっては、国内外の関係機関との連携を一層強化していく。また、金融システムの動向に関して、取り組みの過程で得られた情報等を踏まえつつ、「経済・物価情勢の展望」を決定する金融政策決定会合において適切な報告を行う。

(3)決済サービスの高度化・市場基盤の整備

わが国の決済システム全体の安全性と効率性の確保・向上の観点から、金融市場インフラへのオーバーサイトを適切に行っていく。また、基幹システムである日銀ネットの運営者として、その機能を有効に活用し、クロスボーダー決済の円滑な実現に向けて送金電文の国際標準化に適切に対応していく。

CBDCについては、パイロット実験の着実な推進等を通じ、内外の関係者と適切に連携しつつ、その発行に関する国民的な判断の前提となるよう、技術面、制度設計面の検討を続ける。また、国際的な議論にも貢献していく。

市場インフラに関しては、市場機能が環境変化に応じて適切に発揮されるよう、内外の市場関係者等と密接に連携しながら、調査企画・基盤整備に取り組んでいく。

これらの課題に取り組んでいく過程では、デジタル技術等を含め、金融取引、決済、金融市場インフラ等に影響を及ぼす内外の環境変化や議論、取り組み等を的確に把握した上で、得られた知見を活用し、日銀ネットを含めた国内の決済システムの高度化や市場基盤整備に資するよう、中央銀行の立場から貢献していく。

(4)中央銀行業務の安定的かつ効率的な遂行

発券業務については、2024年に実施予定の改刷対応を円滑に行うとともに、改刷後の現金還流への対応を含め、現金の受払い、鑑査等の業務を確実かつ安定的に遂行する。また、キャッシュレス化の進展等を受けた現金の流通や民間の現金関連事務の取扱い等に関する動向を的確に把握しつつ、それも踏まえた安定的かつ効率的な現金供給網の維持・構築を図っていく。

銀行業務では、日々の日本銀行当座預金の決済や金融市場調節を正確かつ安定的に遂行する。また、保有外貨資産の管理、外国為替の売買、外国中央銀行等や国際機関による円貨資産の運用等に協力するための業務等を適切に行う。

国庫・国債業務や外国為替平衡操作など国の事務の取扱いについては、多種多様な事務を確実に遂行するとともに、政府からの実務面の要請にも適切に対応する。

各種の統計作成業務については、必要な基準改定を含め、安定的に遂行するとともに、統計整備にかかる内外の議論等に積極的に貢献していく。

日銀ネット等重要システムの運行など、以上に掲げる取り組みを支える日々の業務について、万全を期す。

これらの業務遂行に当たっては、事務量の変化、デジタル技術の進展、業務の相手方を取り巻く環境変化等を見極めつつ、適切な事務処理体制等のあり方を検討していく。

業務継続の面では、これまでの自然災害の経験や地震等に関する被災想定の見直しに加え、自然災害の激甚化やサイバー攻撃、感染症の影響なども踏まえつつ、日本銀行の経営資源を有効に活用しながら、有事への対応力を維持・強化していく。

(5)変化する国際情勢に対応した国際分野での取り組み

金融政策、金融・決済システムやこれらに関連する調査・研究、さらには銀行業務など、中央銀行が行う業務の幅広い分野で、海外当局との協調・連携等が高度化・複雑化しながら進展している。また、国際的に展開される新しい取り組みや議論が、各国中央銀行の政策・業務運営に及ぼす影響も増している。

こうした状況に的確に対応していく観点から、国内の関係機関や市場関係者等と密接に連携しつつ、わが国の中央銀行として、国際的な議論等において主導的な役割を果たしていくとともに、その過程で得られた成果や知見を自らの政策・業務運営にも活かしていく。

また、国際通貨金融システムの安定確保の面で、適切な役割を果たしていく。アジア地域においても、協力関係強化を促進しつつ、域内金融セーフティネットの整備に貢献していくことを通じ、アジアの通貨金融システムの一層の安定化を促す。

以上の取り組みに当たっては、各国当局や国際機関等との連携を適切に図っていく。

(6)地域経済・金融に対する貢献

現在の本支店・事務所を各地域における業務の拠点として有効に活用し、各種業務の安定的な遂行や金融経済情勢の把握、効果的な情報発信などを通じて、中央銀行の立場から地域経済・金融に貢献していく。

すなわち、現金の円滑な流通を確保するとともに、決済や国庫・国債関連サービスを適切に提供していく。これらの業務に関しては、災害時の業務継続に万全を期していく。

また、各地域の企業や金融機関の動向等に関して、各方面とのネットワークを強化しつつ、ミクロ情報や地域の金融経済情勢を的確に把握し、政策・業務運営に活かしていく。同時に、時々の政策・業務運営やその背後の考え方等について、各地域で丁寧に説明していく。

(7)対外コミュニケーションの強化

日本銀行に対する信頼が幅広く得られるよう、国民各層に対して対外コミュニケーションの強化を図っていく。

こうした観点から、金融機関、市場参加者、内外の関係機関や学界等に加えて、企業や経済団体など幅広い主体との間でネットワークを維持・拡充し、コミュニケーションを密にしていく。

また、ホームページやソーシャルメディアなど、多様な媒体を有効に活用し、情報アクセス性の向上を図りつつ、重層的な情報の受発信に努めていくとともに、本支店・関連施設における見学等にかかる対応も充実させていく。

これらの取り組みを通じ、政策・業務運営に関して、適切な情報発信を行いつつ、丁寧な対話に努めていく。

国民の金融リテラシー向上の面では、金融広報中央委員会の機能を金融経済教育推進機構に円滑に移管するとともに、日本銀行としても、同機構と適切に連携しつつ、本支店・事務所を通じて、引き続き貢献していく。

5.組織運営面での取り組み

(1)組織運営面の課題

組織運営面においては、本支店・事務所の各部署が十分な連携を図りつつ、以下に掲げる課題に重点的に取り組んでいく。

業務プロセスの変革

中央銀行の政策・業務を取り巻く環境の変化に加え、日本銀行における人員構成や働き方の変化等を踏まえ、これにスピード感を持って柔軟に対応していくため、業務プロセスの変革や業務の不断の見直しに取り組んでいく。

こうした観点から、外部の知見も吸収しつつ、デジタル技術を適切に活用し、事務プロセスの抜本的な見直しやデータ利活用を一段と進めることを通じて、安定的・効率的な事務の遂行や調査・分析力の向上、有事への対応力の強化など、業務運営の高度化に取り組んでいく。

これらを組織全体として効果的に推進していくため、必要な体制整備を図っていく。

多様な人材が活躍する環境作り

経済社会を巡る環境や働き方の変化等を踏まえつつ、中央銀行としての役割を適切に果たすために必要な人材の育成・確保を図る。

その際、各人がやりがいを持って主体的に職務を遂行できる環境を整備する観点から、キャリア形成の支援やワーク・ライフ・バランスの充実等に向けて、必要な取り組みを推進していく。また、リサーチやIT等の高度な専門性を有する人材や、グローバルに活躍できる人材の育成・確保を戦略的に進めるとともに、組織全体としてITリテラシーの一層の向上にも取り組む。

さらに、全ての人材が個人として尊重され、持てる力を最大限発揮できるよう、女性や高年層などの活躍の場を拡げるほか、障がい者雇用に積極的に取り組むなど、ダイバーシティをさらに推進していく。

これらの課題に取り組むに当たっては、職員のエンゲージメント向上の視点を重視し、そのための施策を適切に推進していく。

業務リスクの適切な管理

日本銀行が国民からの信認を確保していくためには、業務全般にわたり安定的で確実な事務遂行を維持していくこと、および公正な職務の遂行を確保することが必要である。

こうした観点から、人員構成や働き方の変化を踏まえつつ、業務リスクの効果的な管理に向けて、組織横断的な取り組みを行っていく。その際、デジタル技術の積極的な活用とその適切な維持・管理や、業務プロセスの変革を通じて、業務リスクの低減やリスク管理の効率化を進めていく。

また、社会的適合性を意識したコンプライアンスの徹底や、サイバーリスクへの対応を含めた情報セキュリティ対策の推進に、引き続き取り組んでいく。

(2)経営資源に関する事項

人員

本計画で掲げた課題を着実に達成するため、必要な人員については増強を図りつつ、業務全般の一層の効率化に努めていく。毎年度の定員(常勤職員数の最高限度)については、こうした基本的な考え方に沿って、決定し、公表する。

経費支出

本計画に掲げた課題を着実に達成するため、必要な経費は確保していく一方、支出全般の一層の効率化に努めていく。毎年度の経費予算については、こうした考え方に沿って、決定し、公表する。

6.事後評価

本計画に掲げた業務・組織運営面での課題を着実に実行し、機動的な資源配分の見直しに繋げていく観点から、毎年度、本計画のもとで実施した具体的施策の達成状況を評価し、公表する。また、計画全体の達成状況等を踏まえ、次期計画の策定に関する検討を行っていく。

照会先

政策委員会室経営企画課

Tel : 03-3277-2390(直通)