このページの本文へ移動

「日銀探訪」第28回:システム情報局新日銀ネット構築運行課長 中村泉之

「磨き上げ」テストで障害防止=新日銀ネット構築運行課(1)〔日銀探訪〕(2014年12月24日掲載)

システム情報局新日銀ネット構築運行課長の写真

日銀システム情報局の開発部隊は、システムのアプリケーションプログラム担当と、ネットワークやコンピューターなどで構成されるシステム基盤担当に大別される。今回取り上げる新日銀ネット構築運行課は、基幹業務などに用いられるホストコンピューター系のシステム基盤構築を行う部署だ。また、システム情報局が所管するシステムの運行管理業務も一手に引き受けている。

同課は、日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)の刷新について検討を重ねてきた行内のタスクフォースの業務を引き継ぎ発足。現在も、新日銀ネットの基盤構築が業務の柱の一つとなっている。中村泉之課長は、経営陣が最初の段階で「新日銀ネットは新しい技術を採用し、柔軟性や利便性の高いシステムを構築する」という方針を打ち出したことで、方向性が明確になったと指摘。この基本方針を確実に実現できるよう「委託先と十分に連携を取って業務要件を設計書に落とし込み、日銀の担当者がこれを丁寧にチェックした」と話す。また、構築したシステムのテスト段階では、当初予定のものに加えてシビアな条件下でシステムを動かす通称「磨き上げ」テストも実施し、障害につながる可能性を最大限排除したという。中村課長のインタビューを3回にわたって配信する。

「当課は、総勢100人弱、4グループで構成される。新日銀ネットのシステム基盤部分の構築作業のほか、現行の日銀ネットの基盤構築・維持管理作業、現在稼働中の各種システムの運行管理が主業務だ」

「新日銀ネットのシステム基盤は、『本体システム』『端末システム』『照会帳票システム』『コンピュータ接続システム』から成る。汎用(はんよう)性が高く、今後の発展が期待される最新の情報処理技術を採用。具体的には、プログラミング言語、データベース管理ソフト、システム連携などで新技術を導入した。開発に伴う技術的な作業は委託先を中心に行うが、実際につくろうとしているシステムがこちらの期待通りのものになっているかどうか、当課の担当者が設計書を丁寧にチェックした。作業は大きな負担だったが、日本の決済を支えるシステムをつくるという高い士気で取り組んでいる」

「新日銀ネット構築プロジェクトでは、日銀ネットと連動する行内のさまざまなシステムの改修作業も行っている。こうしたシステムと新日銀ネットが連携して正しく動くかどうかを確認するには、システムをつなぎ合わせた横断的なテストが不可欠。その際、どういった内容を確認するか、どういう日程で進めていくのかなど、関係部署間で緊密に連携して詰めていく必要がある。当課がこの調整の指令塔となり、横断的テストの円滑な実施に努めている。また、複数の部署にまたがる課題が見つかったときに速やかに対応できるよう、関係部署の課長・企画役クラスで構成する会議も設けた」

「当初予定していたテストに加え、シビアな条件下でシステムを動かし、擬似的な障害を発生させた上で安定性を確認するといった、磨き上げと呼ぶテストも実施し、システムの品質確保に全力を挙げている」「休日作業の日程調整では苦労した。金融機関が参加するテストやその準備、日銀内部でのテスト、システム移行の準備など、休日にしか実施できない作業が多数ある。限られた休日をいかに効率よく活用するかで頭を悩ませたが、複数作業を相乗りで実施したり、深夜を含めた連続作業としたりするなどの工夫で乗り切ってきている」

障害発生時は対応チームが迅速復旧=新日銀ネット構築運行課(2)〔日銀探訪〕(2014年12月25日掲載)

システム情報局新日銀ネット構築運行課は、日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)などホストコンピューター系システムの基盤構築を行う一方、稼働後にはシステム障害への対応などの維持管理業務にも携わっている。中村泉之課長は「ホスト系システムに障害が発生すると社会的に非常に大きな影響を与える可能性があるため、維持管理業務は大変重要だ」と指摘する。また、金融機関が日銀ネットを通じて決済指示を行ったり、照会結果の確認をしたりする際の端末トラブルなどに関する問い合わせには、決済などの業務に影響が出ないよう、きめ細かく対応しているという。

「当課は、ホストコンピューターのシステム基盤部分の構築・維持管理を担当している。システム基盤部分は、ハードウエアや基本ソフトウエア(OS)、アプリケーションソフトの処理の流れを制御して全体最適化を図るシステム共通基盤、稼働状況をモニタリングする監視システム、障害時などに自動的に復旧作業を行う自動運転システムなどから成る。システム構築では、全体設計、ハードウエアや基本ソフトウエア製品の選定・調達と設定、システム共通基盤などの構築、検証テストによる機能確認などを行う」

「稼働開始後には、システムで採用している製品のバージョンアップなどの作業に加え、障害発生時に迅速かつ的確に復旧対応していくことが大変重要な任務だ。ある程度想定される障害については、発生時に自動復旧できるよう、あらかじめリカバリー機能を作り込んでおく。しかし、自動で復旧できない障害が発生することもあるので、局内の関係者で『障害対応チーム』をつくり、深夜時間帯も含めて当番を割り当て、万一に備えている」

「今年1月に稼働開始した新日銀ネットの第1段階開発分の総合運転試験では、実践的な障害対応の特別訓練を行った。まず障害対応チームの中で、問題を解析する担当、全体をコントロールする担当など、メンバー間の役割分担をより明確化。次に、メンバーに事前に知らせずに障害を起こし、対応力を試す『ブラインド型』訓練を実施した。最後に、障害対応中にチーフが倒れた事態を想定し、残りのメンバーだけで復旧に取り組む訓練も行い、一部の高いスキルを持つメンバーに依存しない体制の構築を目指した」

「金融機関が日銀ネットに決済指示を行ったり、照会結果を確認したりする際の手段としては、『日銀ネット端末システム』と『コンピュータ接続システム』の二つがある。このうち後者は人手を介さずに機械同士が直接接続するシステムで、事務量の多い大手金融機関や集中決済機関などが主な利用者。どちらのシステムも、日銀ネットとの接続には専用ネットワークを用いるほか、送信データも暗号化するなど、セキュリティー対策をしっかり講じている。これらの対外接続用インフラの構築・維持管理も当課の仕事だ」「日銀ネット端末システムは、以前は専用の端末を利用していたが、現在では一般のパソコンを端末として日銀ネットを利用できる。日銀本支店のほか、全国500以上の金融機関などで利用されている。パソコンは各金融機関で準備するため、新しいパソコンを準備するところもあれば、古いパソコンを繰り回して使うところもある。ソフトウエアが古かったり、過去の設定が残っていたりすると、トラブルの原因になりがちだ。通常は電話で対応するが、場合によってはパソコン自体を持ち込んでもらい、こちらで確認することもある。決済などの業務に影響が出ないよう、迅速できめ細かな対応を心掛けている」

24時間体制でシステム見守る=新日銀ネット構築運行課(3)〔日銀探訪〕(2014年12月26日掲載)

稼働後のシステムが正常に動いているかどうか監視したり、ユーザーからの利用方法に関する問い合わせに対応したりするのも、システム情報局新日銀ネット構築運行課の主要業務の一つだ。平日は24時間監視し、重大な障害の発生時には、局内の関係者で構成する対応チームを緊急招集して復旧に当たる体制を整えている。

中村泉之課長は「新たなシステムの稼働開始に当たっては、開発部署から運行部署への引き継ぎに注意している」と話す。運行要員がシステム運用に必要な技能に習熟するには、開発部署との緊密な連携が欠かせないという。

「当課には、日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)をはじめとするシステム情報局が所管するシステムすべての運転監視や障害対応などの運行管理業務を専門に担当するグループがあり、開発部門とは区別した運営体制を取っている。システムがある東京・府中、日本橋、大阪の3拠点に要員を分散配置。府中では平日は24時間体制を取っているほか、委託業者も活用して監視を続けている」

「多種多様なシステムで起こる障害に、限られた要員で的確かつ迅速に対応するため、ユーザー部署とシステムごとに重要度や保守レベルについてあらかじめ話し合い、『サービスカタログ』にまとめてある。具体的には、影響の大きさや復旧までにどれだけ時間をかけられるかなどを考慮して障害を複数のタイプに区分し、それぞれの保守レベルを決定。障害発生時にはこの枠組みに照らして、メリハリのある対応を行う」

「また、局内のアプリケーション開発、インフラ構築、システム運行の各部署から要員を選定して『障害対応チーム』を編成。障害対応責任者が必要と判断した場合には、同チーム要員を緊急招集し、復旧対応に当たらせる。障害発生時には、当課と同チームが一体となって対応策の検討や回復作業に携わる」

「発生した障害は、影響度合いに応じてランク別に管理し、発生件数や内容などを局内のほか役員にも報告する。府中電算センターの被災などに備えて、業務継続計画(BCP)関連の各種訓練にも参加し、有事対応力の強化にも努めている」

「新たなシステムの稼働を始める際には、運行業務・体制にどのような影響が出るかを見極めて、人繰りや設備点検対応などを検討していかなければならない。新日銀ネットは現行システムとは全く異なる最新のIT技術を採用しており、当課にも運行ノウハウが蓄積されていなかったため、第一期分の稼働開始時には、数カ月前から開発部署と運行部署が一丸となって実際にシステムを動かしながら運行習熟を図った。その際、開発部署が作成したマニュアルの点検を行い、より使いやすく修正した。こうした取り組みにより、稼働初日から順調にシステムを運行できている」「新日銀ネットのシステム基盤構築に当たっては、現行システムの構築にも携わったベテランから入行後間もない若手まで、意識的に幅広い人材を集めた。これだけ大きなシステムの更新はめったになく、基幹業務システムを構築する際の勘所を若手に継承しつつ、次世代の人材育成も進めていく良い機会と考えたからだ。スキルの高いベテラン層が、開発や障害対応などさまざまな局面でとことんまで取り組む姿勢を見せることが、若手層への良い刺激となっているように感じている」

(出所)時事通信社「MAIN」および「金融財政ビジネス」
Copyright (C) Jiji Press, Ltd. All rights reserved.
本情報の知的財産権その他一切の権利は、時事通信社に帰属します。
本情報の無断複製、転載等を禁止します。