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日本銀行本店本館・免震化工事

2017年3月
日本銀行

1.はじめに

日本銀行本店本館(地上3階・地下1階、以下「本館」)は、日本近代建築界の先駆者であった辰野金吾(嘉永7年~大正8年<1854年~1919年>)によって設計され、今年(平成29年)で築121周年を迎えます。日本人建築家による、最初の本格的な明治洋風建築であり、現存する最も重要な建物の一つとして、昭和49年(1974年)には、国の重要文化財に指定されています。

本館は、過去、関東大震災(大正12年<1923年>)をはじめとする災害等に見舞われていますが、被害を受けつつも建物の倒壊は免れ、その後、復旧工事や改修工事を経て、今日に至っています。こうしたなか、東日本大震災を契機に、首都直下型地震等による被害想定が切り上げられたことを踏まえ、更なる耐震安全性の確保を図り、中央銀行としての業務継続力を一層強化するべく、平成28年(2016年)10月から免震化工事に着手しました。

  • 日本銀行本店は4つの建物で構成されており、北側に新館、東側に旧館、西側に本館、そして通りを挟んで南側に南分館がある。

2.工事のポイント

「免震化工事」とは、建物の地盤あるいは建物の下部とその上部の建物を切り離し、その間に作った空間に、免震装置(鋼板とゴム板を積み重ねた「積層ゴム」で出来ています)を挟み込む工事のことです。地震の揺れを免震装置が吸収することにより、建物の振動を小さくする効果があります。

こうした免震化工事は、歴史的な建造物を含めて、最近では、一般的に行われていますが、本館の免震化工事では、通常の免震化工事と異なり、工事内容や施工方法でいくつかの工夫をしていますので、以下でご紹介します。

工事内容での工夫(1)→ 本館を「まるごと」免震化!!

本館建物の構造イメージ。詳細は本文のとおり。

本館の建物は、鉄筋や鉄骨を使うことなく、外壁の石と内側の煉瓦をともに積み上げて出来ており(石積煉瓦造)、この建物が分厚く強固なコンクリートのまな板(「ラップルコンクリート」と呼ばれる基盤)の上に載っているという特徴があります。

今回の工事では、この特徴を活かして、コンクリートのまな板の周囲と下に空間を設け、その空間の下に新しい土台をつくり、土台と「まな板」の間に免震装置を設置することにしました(本館をラップルコンクリートから「まるごと」免震化!!)。

  • 本館免震工事のイメージ。コンクリートのまな板の周囲と下に空間を設け、その空間の下に新しい土台をつくり、土台と「まな板」の間に免震装置を設置するイメージ図。

こうした工事内容は、基礎下免震工法(免震レトロフィット)と呼ばれており、重要文化財での採用事例もみられ始めていますが、本館のような延床面積1万m2超の歴史的建造物でラップルコンクリートから上をまるごと免震化する事例は、設計業者によると今回が初めてです。

本館地下には、延べ100個超の免震装置を設置して、総重量7.5万トン(東京スカイツリーの鉄骨総重量の2倍)の本館を下から支えます。

工事内容での工夫(2)→ 隣接する建物と「まるごと」免震化!!

本館は、旧館(地上5階・地下4階)に隣接しています。旧館は、辰野金吾の弟子のひとりであった長野宇平治(慶応3年~昭和12年<1867年~1937年>)の設計により、建築されました(昭和13年<1938年>竣工)。旧館は、鉄骨や鉄筋が入った構造となっているため、これらの支柱を利用して免震装置を設置することが可能であったことから、平成18年~21年にかけて、本館に先行して免震工事を実施しています。

今回工事を行う本館と旧館では、各々に免震装置が設置されるため、大きな地震が発生した時に、このままでは建物同士が衝突し、損壊する恐れがあります。このため、本館と旧館を連結することにより、こうしたリスクを回避する工夫をしています(隣接する旧館と本館一体で「まるごと」免震化!!)。

最近では、予め計画した新築建物同士を接合して免震化する事例はあるものの、今回の工事のように、既存の免震建物(旧館)と一体化して免震を行う事例は、設計業者によると初めてです。

  • 旧館と本館一体で「まるごと」免震化しているイメージ図。今回工事を行う本館と旧館では、各々に免震装置が設置されるため、大きな地震が発生した時に、このままでは建物同士が衝突し、損壊する恐れがある。こうしたリスクを回避する工夫として、本館と旧館を連結している。

施工方法での工夫 → 建物・工事も「まるごと」安全に!!

今回の免震化工事では、国の重要文化財でもある建物を毀損しないように十分配慮する必要があります。加えて、本館は日本橋の中心部に所在し、周囲を道路に囲まれて車両や通行人も多いうえに、敷地いっぱいに建物がたっています。このため、工事作業中の安全確保に加えて、自然災害(地震など)も含めて、建物の耐震性と安全性を十分確保することも重要です。

鋼管杭のイメージ図

こうした観点から、今回の工事では、工事期間中、本館建物を頑丈な多数の鋼管杭(延べ500本)で支えることはもちろん、掘削エリアを細分化しバランスよく掘削するなど、様々な工夫をしています。

3.今後のスケジュール

平成28年秋から着工した工事は、本館外周の掘削から始まり、本館地下の掘削、新たな土台の構築、免震装置の設置を経て、最後に隣接する旧館・新館との接続工事を行い、平成31年夏に完成する予定です。

  • 工事スケジュールのイメージ図。平成28年秋から着工し、平成31年夏に完成する予定。

(本館前庭の掘削状況)

  • 本館前庭の掘削状況の写真

4.おわりに

本館については、今回の免震化工事により、その耐震安全性が一層高まり、中央銀行としての業務継続力が強化されることとなります。今後も、一般の方々の見学を含め、日本銀行の業務に活用していくとともに、将来にわたり歴史的建造物(重要文化財)である本館の価値の保持にも努めていきたいと考えています。

(参考)教えて!にちぎん