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総裁談話・三重野 康 元日本銀行総裁のご逝去を悼む

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2012年4月19日
日本銀行

三重野元日本銀行総裁のご逝去の報に接し、まことに痛惜の念に堪えない。

三重野さんは、昭和二十二年に日本銀行に入行された後、四十七年にわたり日本銀行に職を奉じられた。日本銀行では、経済安定本部への出向やニューヨーク事務所勤務を含め、内外で幅広い経験を積まれた後、総務部長、営業局長、理事、副総裁を経て、平成元年十二月に第二十六代総裁に就任された。

三重野さんが総裁を務められた時期の日本経済は、バブルがピークを迎え、やがてその崩壊に伴う景気後退へと繋がる困難な状況にあった。同時に、多額の不良債権処理発生から金融システムの安定維持が大きな課題となっていった時期でもあった。この間、三重野さんは、日本経済を物価安定の下で持続的な成長経路に移行させるために、冷静な情勢判断と深い洞察力をもって政策運営に当たられた。三重野さんは、先進国がその後相次いで直面することとなる「物価の安定」と「金融システムの安定」という二つの使命の同時達成に、先進国の中央銀行総裁として最初に直面し、これに真正面から取り組まれた総裁であった。そうした困難な状況の中にあって、三重野さんは日本銀行の役職員に対して、終始一貫して「中央銀行の物指し」をしっかりと持ち、これを磨き続けることの大切さを説かれた。

三重野さんは、豪放磊落にして細やかな気遣いをされる方であり、また、豊かな人間性と深い教養を兼ね備えた方であった。そうしたお人柄を慕って、私も含め内外の多くの人が集まった。仕事の面では、信条とされた「事に臨んで逃げるな」という言葉が、ご自身の変わらぬ姿勢を表す言葉であった。

内外経済を巡る不確実性が大きいこの激動の時代に、尊敬するセントラルバンカーである三重野さんを失ったことはこの上ない損失である。ご冥福を心よりお祈り申し上げたい。