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総裁記者会見要旨 2021年1月21日(木)
午後3時半から約55分

2021年1月22日
日本銀行

(問)本日の会合の決定内容についてのご説明からお願いします。

(答)本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針について、現状維持とすることを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利については、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行います。また、長期国債以外の資産の買入れ方針に関しても、現状維持とすることを全員一致で決定しました。ETFおよびJ-REITは、当面、年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する保有残高の増加ペースを上限に、積極的な買入れを行います。CP等、社債等については、2021年9月末までの間、合わせて約20兆円の残高を上限として、買入れを行います。今回の決定会合では、「貸出増加を支援するための資金供給」および「成長基盤強化を支援するための資金供給」について、貸付実行期限を1年間延長することも決定しています。

本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、経済・物価の現状と先行きについての見方を説明致します。

わが国の景気の現状については、「内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、一部で感染症の再拡大の影響がみられますが、持ち直しています。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は増加を続けています。また、企業収益や業況感は、大幅に悪化した後、徐々に改善しています。設備投資は、業種間のばらつきを伴いながら、全体としては下げ止まっています。雇用・所得環境をみますと、感染症の影響から、弱い動きが続いています。個人消費は、基調としては徐々に持ち直していますが、足許では、飲食・宿泊等のサービス消費において下押し圧力が強まっています。金融環境については、全体として緩和した状態にありますが、企業の資金繰りに厳しさがみられるなど、企業金融面で緩和度合いが低下した状態となっています。先行きについては、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の回復や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、改善基調を辿るとみられます。もっとも、感染症への警戒感が続く中で、そのペースは緩やかなものにとどまると考えられます。特に、当面は、感染症の再拡大の影響から、対面型サービス消費を中心に下押し圧力の強い状態が続くとみられます。その後、世界的に感染症の影響が収束していけば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、わが国経済は更に改善を続けると予想されます。

次に、物価ですが、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比をみますと、感染症や既往の原油価格下落、Go Toトラベル事業の影響などにより、マイナスとなっています。予想物価上昇率は弱含んでいます。先行きについては、消費者物価の前年比は、当面、感染症や既往の原油価格下落、Go Toトラベル事業の影響などを受けて、マイナスで推移するとみられます。その後、経済の改善に伴い物価への下押し圧力は次第に減衰していくことや、原油価格下落の影響などが剥落していくことから、消費者物価の前年比は、プラスに転じていき、徐々に上昇率を高めていくと考えられます。予想物価上昇率も、再び高まっていくとみています。

前回の見通しと比べますと、成長率については、政府の経済対策の効果などを前提あるいは背景に、2021年度を中心に幾分上振れています。物価については、概ね不変です。ただし、こうした先行きの見通しは、感染症の帰趨やそれが内外経済に与える影響の大きさによって変わり得るため、不透明感がきわめて強いと考えています。今回の見通しでは、感染症の影響は、先行き徐々に和らぎ、見通し期間の終盤にかけて概ね収束していくと想定しています。加えて、感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下せず、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されると考えていますが、これらの点には大きな不確実性があります。そのうえで、リスクバランスについては、経済・物価のいずれの見通しについても、感染症の影響を中心に、下振れリスクの方が大きいとみています。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。また、引き続き、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)」や、国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、ETFおよびJ-REITの積極的な買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていきます。そのうえで、当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。

(問)今月、緊急事態宣言が発令されたことを踏まえまして、経済とか企業活動への影響についてお伺いします。特に、昨年12月の前回会合で「特別プログラム」の延長などを決定されましたが、その後の経済情勢の変化を受けて、追加的な企業支援の必要性などについて、総裁のご所見をお伺いします。

(答)新型コロナウイルス感染症の再拡大の影響から、既に11都府県に緊急事態宣言が発出されており、対面型サービス消費を中心に、経済には下押し圧力が強まっています。もっとも、現時点では、銀行借入やCP・社債発行などの外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されています。政府と日本銀行の資金繰り支援策は、金融機関の積極的な取組みとも相俟って、効果を発揮していると考えています。前回会合では、「特別プログラム」の期限延長と運用見直しを行うことで、引き続き、企業等の資金繰りを支援していくことを決定しています。日本銀行としては、このプログラムを含めた「3つの柱」による現在の金融緩和措置をしっかりと実施していくことが重要だと考えています。もっとも、企業等の資金繰りには依然として厳しさがみられています。また、感染症の再拡大が経済や金融に及ぼす影響には大きな不確実性があると認識しています。従いまして、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる方針です。

(問)前回の会合で発表されました、3月をめどに公表される予定の金融政策の点検の検討状況について教えて頂きたいのですが、総裁は12月の経団連の講演で、点検に関しまして、長く続けることで仕組みが硬化してしまっては、何にもならないというご発言をされています。特に、今、購入がずっと続いているETFの買入れなどについては、この硬化といえるかもしれませんが、現時点で、この仕組みの硬化という懸念がある部分については、どういう点にあるとお考えでしょうか。

(答)より効果的で持続的な金融緩和のための点検については、3月の金融政策決定会合を目途に議論し、結果を公表する予定であり、今回の会合では、今後の点検作業の方向性について執行部から報告して、認識の共有を行ったところです。具体的には、第一に、大規模な金融緩和が金融環境や経済・物価情勢に及ぼした影響について、4年前の「総括的な検証」を踏まえ、その後の状況を含めて点検するということです。その際、この4年間、イールドカーブ・コントロールの枠組みのもとで、その運営や資産買入れなどの各種施策が所期の効果を挙げているかという点が重要な点検項目となります。第二に、金融緩和が金融仲介機能や金融市場の機能度に与える影響、副作用についても改めて点検します。この面では、金融緩和が長期にわたっており、更に継続することが予想される中で、その影響は累積的な性質を持つ点を考慮する必要があると思っています。

現在、点検の作業を行っている最中であり、ご質問の点を含めて、個々の施策の具体的な評価を示すことは差し控えたいと思いますが、現時点でお話しできる大きな問題意識というのは、次のようなことだと考えています。まず第一に、副作用をできるだけ抑制しつつ、効果的な金融緩和を実施するということです。もともとイールドカーブ・コントロールは、この二つのバランスを取りながら金融緩和を行う枠組みですが、この間の経験や現下の情勢を踏まえて、費用対効果の面でより効果的な運営ができないか模索していく必要があると思っています。第二に、金融緩和の長期化が予想される中で、平素の運営において持続性を高めるとともに、経済・物価・金融情勢の変化が起こった際には、機動的に対応できるようにしておく必要があると思います。こうした状況の変化に応じて、よりメリハリをつけた運営を行うことが考えられるのではないかと思います。第三に、点検の重点は副作用対策ではなく、あくまでも、効果的な金融緩和を行ううえで、副作用は不可避ですが、これに配慮しながら、いかに効果的な対応を機動的に行うかというのが、問題意識であるといえると思います。

いずれにしても、このような問題意識に立って点検を行い、2%を実現する観点から、より効果的で持続的な金融緩和を行うための工夫があるのであれば、実施していきたいと考えています。もとより、それぞれの施策をどう見直すかといったことは、点検の結果次第ですので、今の段階で具体的な変更を念頭に置いているわけではありません。今申し上げたような問題意識のもとに、点検を行っていくということになります。

(問)まず、物価についてですが、今回、緊急事態宣言で、飲食店が閉店時間を早くしたり、展望レポートでも対面型サービス消費を中心に下押し圧力の強い状態が続くとみられるとなっています。この辺りが、物価に与える影響、供給制約などもあると思いますが、Go Toトラベルとか原油価格の下落については触れていますが、見通しでみると若干ですがプラスに作用しているということになっている中で、この緊急事態宣言が与える物価への影響についてはどのようにみられていますか。

次に、3月に公表される金融政策の点検について、先ほどの問題意識の中で副作用対策ではないというご発言がありましたが、どうしてもその効果的な政策をとろうと思えば、副作用も強くなると思うのですが、その辺のバランスについてはどのようにお考えでしょうか。

(答)今回の展望レポートでも、経済の成長見通しと消費者物価の見通しについて委員方の中央値をお示ししていますが、前回10月の見通しと比べると、実質GDPは、2020年度の中央値が-5.6%で、10月時点の-5.5%から0.1%ポイントの引き下げになっています。他方で、2021年度は+3.9%で、10月の+3.6%から0.3%ポイント上振れ、2022年度も10月の+1.6%に比べると+1.8%と0.2%ポイント上振れています。物価については、2020年度の足許の状況をみますと、10月時点の-0.6%に比べて0.1%ポイント上方修正され、-0.5%となっています。2021年度も+0.5%で、10月の+0.4%よりも0.1%ポイント上振れており、2022年度は+0.7%で、10月と同じです。実質GDP成長率の方は、2020年度が若干下振れて、2021、2022年度が上振れていますが、物価の方は、あまり大きく振れておらず、10月の見通しと概ね変わらないということになります。

確かに、緊急事態宣言が発出されて、対面型サービス消費を中心に下押し圧力が強まっています。実質GDP成長率にはそれなりの影響が出てきていますので、2020年度の成長見通しはマイナス幅が少し拡大しました。他方で、そうした対面型サービスでも、この段階で価格を下げて需要を取り込もうという動きはあまりみられていません。まさに緊急事態宣言のもとで外出やその他の消費者の行動が変わり抑制されていますので、そのような時に価格を下げて対面型サービスの需要を拡大するという動きにはならず、緊急事態宣言のもとで対面型サービスを中心に下押し圧力が強いことから、成長率については2020年度を若干引き下げましたが、それが物価の方に大きく影響するといった状況にはなっていないわけです。また、2021年度、2022年度については、経済対策があり、基本には世界経済の回復もありますので、政府のかなり大規模な経済対策や日本銀行が引き続き緩和的な金融環境を作り出していくことによって、実質GDP成長率は上振れていますが、他方で、物価上昇率は殆ど変わっていないということです。現時点でのこのような経済の動きは、通常の動きとやや異なっている面もあると思いますが、いずれにせよ、物価の動きについては、引き続き注視していくということに変わりはありません。

それから、点検については、まさにイールドカーブ・コントロール自体が、経済への効果と副作用とのバランスをどう取るかということを考えながら作った仕組みであり、基本的に金融緩和の効果を発揮していると思います。他方で、市場機能といった面について、色々な議論が出ていることも事実です。そうした点を踏まえて、この4年間のイールドカーブ・コントロールのもとでの金融政策の効果と副作用のバランスをよく点検し、より効果的、より持続的な金融緩和策、金融緩和の運営方法があれば、当然そういったものを採用していくことになります。基本的な考え方は、あくまでも経済・物価に対する十分な緩和効果を追求することですが、他方で、やはり副作用にも引き続き配慮していく必要がありますので、点検をしていきます。

(問)バイデン氏が米国の大統領に就任しましたけれども、バイデン氏の経済対策への期待と、一方で追加の経済対策を打つことにより財政赤字が拡大して長期金利が上昇して円高になる懸念はないのか、ということを伺います。

また、緊急事態宣言に関連してなのですが、昨年春の前回の緊急事態宣言と、今回の緊急事態宣言の経済へ与えるインパクトはだいぶ違っているとみていらっしゃいますか。一方で、緊急事態宣言が、現状では2月7日までですけれども、これがだらだら延長になってしまった場合、更に景気へのインパクトは大きくなりますでしょうか。

(答)バイデン大統領の就任については、私ももちろん注目していましたが、他国の政治情勢について具体的にコメントするのは差し控えたいと思います。ただ、何といっても、米国の政策運営は、米国経済だけでなく世界経済あるいは国際金融市場に大きな影響を及ぼすので、その観点から引き続きよくみていきたい、注視していきたいと思っています。それから、財政赤字が拡大して金利が上昇しドル安円高になるという点は、普通マーケットの方は逆をおっしゃっています。つまり、財政赤字が拡大して金利が上がるとドル高円安になり、ドル安円高になるとはおっしゃっていません。ただ、その点も含めて、バイデン政権の政策運営については、引き続き注視していきたいと思っています。

それから、昨年の緊急事態宣言は、地域的にも内容についても非常に広範であったと思います。今回は、全国一律ではなく、11都府県で行われており、また、飲食等に特に感染の拡がりの原因があるということで、そういったところに集中して緊急事態宣言としての抑制的な対策がとられています。そうした違いがありますので、今回の方が、ある意味で経済安定と感染防止、感染の抑制とのバランスをみて実施されています。これは、欧米諸国も同じで、現在の緊急事態宣言やロックダウン等も、昨年とは少し違い、地域や業種などを絞って、より効果的に、しかし経済活動をあまり阻害しないように、という形で行われており、そういった違いがあると思います。ただ、昨年のように1か月程度で終わるのか、あるいは更に続くのかという点について、長く続けば、それだけ経済に対する影響も大きくなってくるのは、その通りだと思います。今のところは、政府は1か月で、ある程度感染の拡大が抑制されるとの見通しで実施しておられると思います。いずれにせよ、内外の感染の状況については、引き続きよくみていきたいと思っています。

(問)イールドカーブの評価について伺いたいのですが、先ほどお話も出た通り、アメリカの金利が上昇してきている中で、日本の金利も少し上がったものの、相対的に抑制されているという声も出ているかと思います。それで、もっと長期や超長期の金利の変動が大きくなるとか、上がりやすくなるということを求める声もマーケットでは出ていると思うのですけれども、これはまさに3月の点検でも論点になるかと思います。現状で総裁の、長期金利、超長期金利の変動・上昇の必要性についての考え方を教えてください。

(答)先ほど申し上げたように、また従来から申し上げている通り、イールドカーブ・コントロールという枠組みは、現在まで適切に機能していまして、この枠組み自体を変更する必要はないと考えていますが、そのもとでの具体的な運営については、より効果的で持続的な金融緩和を実現する観点から、点検の対象となります。点検結果を先取りするようなことは差し控えたいと思いますが、イールドカーブについては、これまで二つのことを申し上げてきました。すなわち、2016年9月の「総括的な検証」において、超長期金利の過度な低下は、保険や年金などの運用利回り低下などの影響を及ぼす可能性があると指摘しましたが、現在でも、こうした認識に変わりはありません。他方で、現在は、新型コロナウイルス感染症の拡大が経済に打撃を与える中で、債券市場の安定を維持し、イールドカーブ全体を低位で安定させることが大事な状況であると考えていることも申し上げてきました。そうしたことを踏まえて、イールドカーブ・コントロールの枠組みを維持しつつ、そのもとでの具体的な運営について、より効果的で持続的な金融緩和を実現すべく、点検を進めていきたいと思っています。

(問)物価のリスク要因について、伺いたいと思います。総裁がおっしゃいましたように、確かに値下げが広範化していないフェーズかとは思うのですが、一方で、今月日銀が公表した需給ギャップについては、2期連続でマイナスになっています。これはなかなか無視できないのではないかと思います。同じタイミングでは、潜在成長率が10年振りにマイナスになったという公表もされているわけですが、再びデフレに陥るリスクはないのかどうか、この場でも議論になっていますけれども、黒田総裁のご所見、問題意識を改めてお伺いできればと思います。よろしくお願いします。

(答)従来から申し上げている通り、中長期的な物価の動向には、理論的に分析すると大きく分けて二つの要素があります。一つは需給ギャップであり、もう一つが予想インフレ率、インフレ期待だと思います。足許では、インフレ期待がやや弱含んでおり、他方で需給ギャップがマイナスになっていますので、物価上昇率に対する引き下げ要因になり得るというご指摘は、その通りだと思います。ただ、生鮮食品を除く消費者物価の指数は、足許で-1%近くになっていますが、中身をよくみてみると、原油価格の下落の影響やGo Toトラベルの影響、その他一時的な要因がかなりあり、そうしたものを除いたベースでみると、小幅ながら依然としてプラスで推移しています。現状そうなっているという点も、よく認識しておく必要があると思います。

それから、先ほどサービス価格との関係で申し上げましたが、通常のように需要が減っているのではなく、外出抑制や宿泊を見送るなど消費者が感染を予防するために対面型サービスを意図的に抑制しています。そういうときに企業側で価格を下げて需要を取り込もうというインセンティブはあまりないということも、考えておく必要があろうと思います。成長率が昨年ガタッと落ちて、今年度全体でみても-5.6%になろうという状況ですが、それに対して、現実の物価や予想物価上昇率は、それほど極端には下がっていません。金融危機からくる不況や、あるいは自然災害で設備等が破壊されるという状況とは違いますので、将来において新型コロナウイルス感染症が収束した場合に経済活動も元に戻りやすいということは、企業側も家計側も考えておられると思います。そうしたもとで、感染症の影響によって足許の需給ギャップが大きく下がるなどしていますが、これが直ちに物価あるいは中長期でみた予想物価上昇率に大きなマイナスの影響は及ぼしていないのだと思います。そういう意味でデフレのリスクが非常に高いとはみていません。ただやはり、ご指摘のような潜在成長率が低下しているのではないかといった点もよくみていく必要があります。物価動向、その基礎にある需給ギャップや予想物価上昇率などは、十分注視してまいります。しかし、現時点でデフレリスクが非常に高まっているというようにはみていません。

(問)成長率見通しについてなのですが、2020年度の実質成長率見通しは、10月時点の展望レポートでは、その見通しの前提として、広範な公衆衛生上の措置が再び導入されるような感染症の大規模な再拡大はない、と想定しているということだったのですが、実際にはその前提が大きく変わって、11の都府県で緊急事態宣言が出されるという状況になりました。この前提が大きく変わったのに、-5.5%から-5.6%という、これくらいの修正で済むのかな、という素朴な疑問があるのですが、その点どうみていらっしゃるか、お伺いします。

そして、2021年の最初の金融政策決定会合後の会見ということでお伺いしたいのですが、この1年の中でも総裁が特に注視するトピックというのは何でしょうか。

(答)まず第一点ですけれども、昨年10月時点の見通しでそうしたことを申し上げたのはその通りですが、その後の経済の実態として、ご承知のように、世界的に製造業や貿易、わが国にとっては輸出や鉱工業生産が、以前予想していたよりも強く回復し、ほぼ新型コロナウイルス感染症の拡大以前のレベルに戻っているという状況も考慮されているわけです。他方で、昨年末から感染症が拡大し、今年に入って11都府県に緊急事態宣言が行われて、対面型サービスに強い下押し圧力が効いているという状況もあります。しかし、政府の経済政策については、日本銀行が行っている金融政策も含めてですが、特に政府の経済対策は、主として2021年度の経済の押し上げに効いているわけですけれども、2020年度の経済についても、それがない場合に比べれば当然サポートする力があります。こうしたことから、2020年度の実質成長率の見通しが特に楽観的であるとはいえないと思います。そうした両面をみながら、各委員が出した見通しの中央値であろうと思っています。なお、2021年度と2022年度、特に2021年度には、経済対策の効果がかなり織り込まれていると思います。

今年について云々というのはなかなか難しいのですが、昨年皆さんが言っておられた不確実性が何だったかというと、一つ目はコロナ、二つ目は米国大統領選挙、三つ目が英国のEU離脱問題だったわけです。コロナ感染症については、まだ続いていますし、第2波、第3波で拡がっている地域もありますが、他方で、対応の知見もたまってきていて、特にいよいよワクチン接種が次第に拡がっていくという明るい見通しもあります。米国の大統領選挙については、あまり他国の政治情勢について何かいうのも失礼ですが、バイデン大統領が就任されて、昨日の就任式も非常に平穏に行われ、かなり矢継ぎ早に新しい政策を打ち出されています。それから、英国のEU離脱の話については、昨年末の土壇場で英国とEUの合意がなされて、自由貿易協定ができました。1月に入って新しい体制になり、一部の入管のところでトラックが停滞しているなど色々なことがいわれていますが、昨年懸念されていた合意なき離脱の可能性といった状況では全くなくなっているわけです。そういった意味で、昨年の懸念材料の三つのうち、コロナはまだ続いていますが、二つはスムーズな滑り出しになっています。コロナの方も、ワクチンが本格的に、今年の前半には先進国で相当接種が進み、途上国も年内か来年前半までには進むのであれば、世界的にみてコロナ感染症は収束に向かっていくことになると思います。いずれにせよ、現時点で一番私どもが注目しているのは、やはりコロナの感染症がどのようなペースで収束していき、経済に対する悪影響がどのように払拭されていくか、ということかと思います。

ここからは全然記事にして頂く必要のない話なのですが、私は昔からドイツに非常に関心がありまして、大昔にドイツの某大学でドイツ語の研修・講習にも参加したことがあります。ご承知のように、ドイツのメルケル首相は、15年間首相をされて今年辞められます。秋にドイツの総選挙があり、新しい首相が誕生するわけですが、ドイツは、単独でも日本の経済に次ぐ大きさですし、EUの中では最大の経済規模で欧州のある意味で一つの中心ですので、その動向には個人的に関心があります。もっとも、日本銀行総裁として何を一番注視すべきかといえば、やはりコロナに尽きるのかなと思います。

(問)政策点検で二点お伺いします。一点目は、点検の結果を公表する3月の会合時点で経済・物価・金融情勢に変化がなければ、点検の結果を受けて追加緩和といった金融政策の変更が行われることはないと考えていいのか、確認になりますがご所見をお願いします。

もう一点ですが、点検の内容を先取りすることは避けたいとおっしゃられている中で、あえて具体的に聞いて申し訳ないのですが、市場ではETFを株価水準が高い時に買い入れるのは避けるべきだとか、長期金利のコントロールについて、現在の変動許容幅をもっと拡げるべきだといった色々な意見が聞かれます。こうした点も点検に当っては、排除しないということでよろしいのか、総裁のお考えをお願いします。

(答)3月会合で、スタッフが点検したところを踏まえて色々な議論がなされると思いますので、その時点の金融政策決定会合でどういった決定がなされるかということを、今から先取りして申し上げるのは差し控えたいと思います。いずれにせよ、質問で意図されたようなことはよく分かりますが、次回の金融政策決定会合における議論と結論を私が先取りして何かを申し上げるのは適切ではないと思います。

二番目のご質問も、先ほど来申し上げている通り、イールドカーブ・コントロールのもとでの政策の運営といいますか資産買入れに関しては、今ご指摘の両点も含めて点検の対象になると思いますが、どのように行うのか、どのような結果になるのかを予断を持って申し上げるのは、全く適切ではないと思います。

(問)政策を効果的にするといった場合なのですが、おっしゃったように需給ギャップとインフレ期待によって2%の達成を目指すといった場合、どちらも今弱い状態の中で、効果的というのは、より長く続けることによって、長い時間をかけてじっくり目指すということなのか、それともこの波及チャネル自体についても、どれくらい今日本で効いているのかを検証したうえで、もっと違うやり方、枠組みは変えない中でも、チャネルについてもちょっとオープンに議論していくということなのか、その辺をちょっと伺いたいと思います。

また、副作用の一方で効果とおっしゃった場合、政府が今成長戦略で色々ポストコロナを見据えた政策を打って、企業の色々な設備投資を後押ししたりしていますが、そういったものもやはり長期的には2%の物価目標達成に帰すると思うのですが、そういう政策を日銀として後押しをするスキームを考えたり、そういったことは点検で議論になり得るのでしょうか。

(答)両方とも具体的なことはこれから点検しますので、先取りして申し上げるわけにはいきません。趣旨は、先ほど申し上げたように、効果的、持続的な政策運営、イールドカーブ・コントロールといった枠組みを維持したもとでの資産買入れ等について、様々な効果を点検して、改善すべきところがあれば改善する、ということです。

次に、政府の政策との関係というのは、個々に政府と政策をリンクして行うことはあまりありませんが、例えば現在の資金繰りの特別オペなどは、明らかに政府による無利子・無担保融資のバックファイナンス的な意味もあって、両者がうまく協調して効果を持っているということだと思います。しかし、点検の関係で何か特別なことがあるというように前もって申し上げることはできないと思います。

(問)マイナス金利政策についてお伺いします。2016年1月の決定から今年で5年になるわけですが、総裁はこの会見でも副作用という言葉を使われていますけれども、マイナス金利政策というのは、利鞘が低下している銀行の経営者には非常に不人気な政策だと思います。総裁はかねがねこの政策は効果が副作用を上回っているとおっしゃっていますが、この5年間を振り返って、改めてこの効果と副作用をどのようにみられているのか、教えてください。

(答)この点も当然、点検の対象ではあるのですが、従来から申し上げているように、私は効果が副作用を上回ってきた、従って続けてきたということだと思います。いずれにしても、マイナス金利の問題は、欧州などでも色々な議論がなされていますが、わが国の場合は、かなりきめ細かいシステムにして、直接的に金融機関の収益に大きなダメージを与えるようなことがないようにしつつ、金融緩和を進めているということです。

(問)財政政策の話で恐縮ですが、感染拡大に伴う経済対策として、改めて国民一律に現金を支給するとか、そういった政策について麻生財務大臣は否定的な考えを示しています。この現下の苦しい日本経済の現状を踏まえて、黒田総裁はこの一律給付金の必要性とか効果について、どうお考えでしょうか。

(答)財政政策、特に個別の政策について、私が何かコメントを申し上げるのは適切ではないと思います。ただ、ご承知のように、貯蓄率がかなり上がり、支給した給付金は、全部が消費に回るのではなくて、むしろ貯蓄に回っているのではないかという議論もあり、効果について色々な疑問も出てきているわけです。他方で、貯蓄に相当回ったかもしれませんが、それが一定の安心感を与えて、消費者の行動がもっと消費を絞るということにならなかった可能性もあります。その辺りを政府においてよく研究して頂きたいと思います。

(問)LIBORの公表停止について、対応の時限が迫ってきていますけれども、金融機関ですとか、対応の進捗状況ですね、海外対比とかでお伺いしたいのと、今年が対応の本番かもしれないのですが、懸念すべき課題などがあれば教えて頂きたいと思います。

(答)LIBORについては、日本はしっかり対応していると思います。ただ、金融機関だけでなく一般企業にも影響がありますので、その辺りまで含めて十分対応をして頂く必要があると思っています。他方で、ドルLIBORについては、一定の経過期間を設けることになっていますが、その他はそうなっていませんので、やはりしっかり対応していく必要があると思います。

今年、何か特に金融システムについて大きな問題があるとは考えていません。ご承知のとおり、バーゼルIIIも着実に実施されており、一部は新型コロナウイルス感染症拡大に対応して、実施を延期すべきものは延期するといったことはしていますし、新たな規制といったことも今のところ考える必要はないと思います。金融システム自体については、ノンバンクの問題が欧米では特に大きく議論されていますが、日本ではそれほど大きな問題になっていません。CBDCについては、日米欧の中央銀行ともに、今導入する計画はないですが、研究は強化していくということで、皆一致していると思います。

(問)今、株式市場では、不況が続けば株価が上がるという非常に歪んだ相場観が出ているように思います。なぜそうなっているかといえば、日銀やFRBによる大規模な緩和が今後も続くからというマーケット参加者の読みがあるわけですけれども、こういう歪んだ相場観を作っている金融政策というのは問題ではないかというふうに私は思うのですが、総裁はこの状況についてどのような見解をお持ちでしょうか。

あと、こういう相場観を形成している金融政策からの脱却というのは、ますます難しくなっていると思うのですが、かねて総裁は出口戦略について、今議論するのは時期尚早だとおっしゃってこられましたが、さすがに8年経って時期尚早というのはないと思います。3月の点検では、本当に今の金融政策から安全に出られるのか、脱却できるのかということを議論すべきだと思うのですが、その点はいかがでしょうか。

(答)株価につきましては、このところ世界的に上昇しているということは事実であり、基本的には市場参加者の将来の経済、あるいは企業収益の見通しを反映したものだと思っています。逆に言いますと、市場参加者の多くが、今後も世界経済の持ち直しが続いて企業収益も回復していくと予想しているのだと思います。ワクチンに関する前向きな動きなども、こうした見通しを後押ししていると思います。他方で、足許で再拡大している新型コロナウイルス感染症の状況などを含めて様々な不確実性があり、こうしたもとで株式市場のボラティリティは依然としてどこの国も高く、引き続き日本銀行としても内外金融市場の動向を注視していきたいと思っています。

現時点で大幅な金融緩和の出口を検討するのは時期尚早だと思います。日本に限らず、欧米も皆10年越しで金融緩和を続けていますが、今出口に向かっている中央銀行はありません。

(問)先ほどの、イールドカーブについてと同等の答えということかもしれないのですが、より具体的にですね、レンジをどうするかというのが、債券市場の中で、今、注目されている点です。総裁の方から、この点について、今の時点でおっしゃれることをお聞かせ願えますでしょうか。

(答)特に申し上げることは、今のところありませんが、イールドカーブ・コントロールのもとでの10年物国債金利について、ゼロ%程度ということで、そのレンジについてかつて一定のことを申し上げていて、今の時点で何かそれを変えるですとか、どうこうすることを決め打ちしているわけではありません。点検の中で色々な議論は出てくるとは思います。

以上