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総裁記者会見要旨 2021年3月19日(金)
午後3時半から約65分

2021年3月22日
日本銀行

(問)本日の会合の決定事項と、点検の結果について総裁からご説明のほどお願い致します。

(答)本日の決定会合では、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検を行いました。その結果、基本的な政策の考え方としては、2%の「物価安定の目標」を実現するためには、引き続き、経済・物価の押し上げ効果を発揮している「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続していくことが適当です。そのためには、持続的な形で、金融緩和を継続していくとともに、経済・物価・金融情勢の変化に対して、躊躇なく、機動的かつ効果的に対応していくことが重要であると判断しました。

こうした観点から、次のような政策面での対応を行うこととしました。第一に、金融仲介機能に配慮しつつ、機動的に長短金利の引き下げを行うため、「短期政策金利」に連動する「貸出促進付利制度」を創設しました。具体的には、日本銀行が金融機関の貸出を促進する観点から行っている各種資金供給について、その残高に応じて、「短期政策金利」に連動する一定の金利をインセンティブとして付与する仕組みです。この制度は、金利引き下げ時の金融機関収益へ及ぼす影響を、当該金融機関の貸出の状況に応じて、一定程度和らげます。これによって、金融仲介機能への影響に配慮しつつ、より機動的に長短金利の引き下げを行うことが可能になると考えています。この制度では、付利金利の水準に応じて三つのカテゴリーを設けています。すなわち、付利金利が、「短期政策金利」の絶対値であるカテゴリーII、それより高い金利のカテゴリーI、それより低い金利のカテゴリーIIIの三つです。今回、カテゴリーIの適用金利を0.2%、対象を新型コロナ対応特別オペのうちプロパー分、カテゴリーIIの適用金利を「短期政策金利」の絶対値である0.1%、対象を新型コロナ対応特別オペのうちプロパー分以外、カテゴリーIIIの適用金利をゼロ%、対象を貸出支援基金および被災地オペとしました。各カテゴリーの付利水準および対象となる資金供給は、今後の状況に応じて、必要があれば、金融政策決定会合で変更します。併せて、実際の政策金利残高と完全裁定後の政策金利残高の乖離を縮小させるため、補完当座預金制度におけるマクロ加算残高の算出方法の調整を行いました。

第二に、イールドカーブ・コントロールについて、平素は柔軟な運営を行うため、長期金利の変動幅はプラスマイナス0.25%程度であることを明確化しました。同時に、必要な場合に強力に金利の上限を画すため、連続指値オペを導入することとしました。イールドカーブ・コントロールの運営としては、10年物金利について、プラスマイナス0.25%程度で変動することを想定しています。また、超長期金利については、過度な低下は、長い目でみて、経済活動に悪影響を及ぼす可能性があるとの認識に変わりありません。もっとも、特に、新型コロナウイルス感染症の影響が続くもとでは、イールドカーブ全体を低位で安定させることを優先して、イールドカーブ・コントロールの運営を行っていく考えです。

第三に、ETFおよびJ-REIT買入れについては、点検の結果、市場が大きく不安定化した場合に、大規模な買入れを行うことが効果的であることを確認しました。こうしたことを踏まえ、ETFおよびJ-REIT買入れについては、感染症への対応の臨時措置として決定したそれぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限を、感染症収束後も継続することとし、必要に応じて、買入れを行うこととしました。また、ETF買入れについては、個別銘柄に偏った影響ができるだけ生じないよう、今後、指数の構成銘柄が最も多いTOPIXに連動するもののみを買い入れることとします。

以上に加え、金融政策運営にあたり、金融システムの動向に一層目配りするため、今後、年4回の展望レポートを決定する金融政策決定会合において、金融機構局から報告を受けることとしました。

なお、本日の決定会合においては、金融市場調節方針について、短期金利は、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用すること、長期金利は、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行うことを賛成多数で決定しました。また、CP等、社債等については、2021年9月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行うことを全員一致で決定しました。なお、CP等、社債等については、感染症対応としての買入れを終了した後も、一定の買入れは継続します。

次に、経済・物価動向について説明します。わが国の景気の現状については、「内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している」と判断しました。先行きのわが国経済は、新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の回復や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、改善基調を辿るとみられます。もっとも、感染症への警戒感が続く中で、そのペースは緩やかなものにとどまると考えられます。特に、目先は、昨年秋以降の感染症再拡大の影響から、対面型サービス消費における下押し圧力は続くとみられます。その後、世界的に感染症の影響が収束していけば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、わが国経済は更に改善を続けると予想されます。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、感染症や既往の原油価格下落の影響などにより、マイナスとなっています。予想物価上昇率は弱含んでいます。先行きについては、経済の改善に伴い物価への下押し圧力は次第に減衰していくことや、原油価格下落の影響などが剥落していくことから、消費者物価の前年比は、プラスに転じていき、徐々に上昇率を高めていくと考えられます。リスク要因としては、新型コロナウイルス感染症の帰趨や、それが内外経済に与える影響の大きさといった点について、きわめて不確実性が大きいと考えています。更に、感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下せず、また、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されるかについても注意が必要です。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。今回の点検では、このオーバーシュート型コミットメントが実践している「埋め合わせ戦略」が、適切であることも確認されました。日本銀行では、このコミットメントを継続していく考えです。また、引き続き、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)」や、国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めてまいります。そのうえで、当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。

日本銀行は、今回の政策対応によって持続性・機動性を増した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、強力な金融緩和を粘り強く続けていく考えです。

(問)今回、長期金利の変動幅を、プラスマイナス0.25%程度と明確化しました。これまで、プラスマイナス0.1%の倍程度ということでしたので、拡大したと受け取れるのですが、総裁は、5日に国会で長期金利の変動幅について、拡大する必要があるとは考えていないと述べていましたが、今回拡大した背景について、説明をお願い致します。

(答)金利の変動は、一定の範囲内であれば、金融緩和の効果を損なわず、市場の機能度にプラスに作用します。この点は、今回の点検で改めて定量的に確認したところです。こうした観点から、2018年7月に「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」を行った際に、市場機能の維持と金利コントロールの適切なバランスを取るため、長期金利の変動幅については、「概ねプラスマイナス0.1%の幅から、上下にその倍程度変動し得る」こととしました。今回、長期金利の変動幅を「上下にプラスマイナス0.25%程度」と明示したのは、これまでやや幅を持って表現していたものを明確化するもので、変動幅を拡大したわけではありません。

なお、2018年7月に「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」を行った後、いったん長期金利の変動幅が拡大し、国債市場の機能度は改善したのですが、その後、変動幅が結果的に狭くなるということが起こりました。そうしたもとで、金利の変動は一定の範囲内であれば、金融緩和の効果を損なわずに市場機能にはプラスに作用するという点検の結果を踏まえ、市場機能の維持と金利コントロールの適切なバランスを取る観点から、長期金利の変動幅を明確化することが適当だろうと考えたわけです。

(問)短期金利に連動する「貸出促進付利制度」を、今回導入しました。いわゆる副作用を抑制する策だと思いますが、マイナス金利の緩和効果を相殺することにならないでしょうか。この辺りのお考えをご説明願います。

(答)この「貸出促進付利制度」は、金融機関の貸出を促進する観点から行っている各種の資金供給について、「短期政策金利」と連動するインセンティブを付与するものです。具体的には、金融機関の貸出を促進する観点からバックファイナンスを行っている各種の資金供給について、その残高に応じて一定の金利を付利し、その付利金利が「短期政策金利」と連動するようにする制度です。追加緩和によって「短期政策金利」を引き下げる場合、本制度によって付利金利が引き上げられ、金融機関の貸出を更に促進する仕組みになっています。従って、この「貸出促進付利制度」は、マイナス金利のもとで、金融機関の貸出を促進することで金融緩和の効果をより浸透させることを狙いとしており、マイナス金利政策と整合的であり、むしろ、これを補完するものです。インセンティブを付与して、貸出を促進させて、金融緩和効果をより浸透させるというものであると考えています。

(問)まず、ETF買入れの変更についてですが、6兆円の目安をなくしたところは、今後の出口に向けた正常化の一歩というとらえ方をしてもいいでしょうか。また、今回の発表資料の背景説明でETFについての買入れの留意点が書かれており、そこではこれまで総裁が否定されていたようなコーポレートガバナンス面への影響とか、いわゆる一部の銘柄の間接保有比率が高まり過ぎているとか、日銀の財務の健全性の問題といった留意点を指摘されていますが、やはりこういう問題が大きいから買入れを見直さなくてはいけないということなのでしょうか。

また、付利制度について、金融機関の収益の悪化を和らげる、影響を和らげるという意味では、これはいわゆる日銀による補助金というか、やはりマイナス金利を深掘りするために金融機関に補助金を出すということであれば、緩和の限界に直面しているのかといった辺りの認識を伺いたいと思います。

(答)ETFにつきましては、新型コロナウイルス感染症の影響に対応して、上限を12兆円と倍増したわけですが、それを今後も維持して、その中で必要に応じて弾力的に買入れを行うということです。ETFの買入れを減らそうとか、あるいは出口とか、そういうことを考えているわけでは全くありません。むしろ今後とも、必要に応じて十分なETF買入れを行う、あるいは行えるように持続性と機動性を強化したということです。留意点云々については、指摘されていることに対応して、こちら側の考え方を述べたものです。ETFは諸外国にもありますが、日本と同様に資産管理会社が適切に株主権を行使していますので、それ自体として問題になるということはないと思います。それから、現時点で日本銀行の保有しているETFを通じて、東京証券取引所の時価総額の7%程度を保有していると思いますが、それによって、株式市場の機能が損なわれていることはなく、むしろ、従来から申し上げているように、機動的なETFの買入れによってリスク・プレミアムが拡大するのを防止して、株式市場が健全に機能するようにしているということかと思います。

それから、この新しい付利制度は、長短金利を更に引き下げる必要が出たときに、政策金利は今の-0.1%を更に深掘りすることになるわけですが、一方で金融機関の収益に一定の影響を与えるとよく言われており、その結果として金融機関の貸出が制約されることのないように、むしろこうしたインセンティブを付けることにより、金融機関が一層貸出をしやすくすることを狙っているわけです。金融緩和に限界がある、マイナス金利の深掘りはできないとおっしゃる向きがありますが、私どもは、そういうことはなく、むしろ今回の付利制度によって長短金利を更に引き下げることがより機動的に可能になったと考えています。

(問)今回の一連の政策パッケージといいますか、政策修正に絡むことなのですが、今回の措置で緩和を長持ちさせるということになるかと思いますが、それで本当に物価は上がっていくのでしょうか、2%を目指していくのでしょうか。足許、今日のCPIも弱かったですが、総裁の、物価を今回の措置で押し上げることができるのかというところの自信の程といいますか、そういったところを教えてください。

次に、今の緩和策が、株とか為替、金利とか市場の安定にはつながっているのですが、今そちらの方により重点が置かれてしまっている、物価が弱いから緩和を続けるというよりも、どちらかというと、市場の安定とか、そこを崩してはいけないので、緩和をちょっとやめられなくなっているのではないかという見方もあるかと思います。この点について、総裁のご見解を教えてください。

(答)まず、公表文でも点検の背景説明等でも述べています通り、2%の「物価安定の目標」は堅持していますし、これをできるだけ早期に実現する観点から、引き続き粘り強く金融緩和を続けていきます。そういう意味で、今回、金融緩和をより効果的に、また持続的にするための様々な工夫をしたということです。点検の中でも申し上げているように、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、想定されたメカニズムに沿って、金融緩和を改善させ、需給ギャップのプラス幅拡大、それからプラスの物価上昇率の定着という効果を発揮してきたことを確認しています。同時に、わが国では、予想物価上昇率に関する複雑で粘着的な適合的期待形成のメカニズムが根強いということを主因に、物価上昇率が高まるのに時間がかかっていることも改めて確認されました。もっとも、このことは、人々が実際に物価上昇を経験すれば、物価上昇は徐々に人々の考え方の前提に組み込まれていくことを意味しているわけでもあります。実際に、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで経済活動が活発化する中、デフレ期にはみられなかったベアが実現するなど、賃金は緩やかに上昇し、基調的な物価上昇率はプラスの状況が定着したわけです。今回の対応で、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の持続性や機動性が増したと考えており、こうしたもとで、強力な金融緩和を粘り強く続けることによって、2%の「物価安定の目標」は達成できると考えています。

また、足許、特に新型コロナウイルス感染症の影響に対する対応として、「特別プログラム」と、国債買入れやドルオペ等による円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、それからETF・J-REITの大幅な買入れによって、企業の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めているわけです。これは2%の「物価安定の目標」を差し置いて良いということではなく、むしろそういう形で経済の安定維持を支援することによって、経済の回復と「物価安定の目標」の達成をより可能にしていくというものです。足許での市場安定の対応と「物価安定の目標」の達成は、全く矛盾するものではなく、いわば表裏一体といいますか、足許の状況のもとで2%の「物価安定の目標」を達成するためにも、こういった形で企業の資金繰りを支援し、金融市場の安定維持をすることは必要だと考えています。

(問)ETF、J-REITについては、機動的な買入れをするということだと思うのですが、そうだとすると、上限の12兆円、J-REITでいうと1,800億円を撤廃するという考え方もあると思うのですけれども、これを残した理由は何でしょうか。

また、「貸出促進付利制度」ですが、これは金融機関の副作用対策、収益悪化を考慮するということだと思うのですが、そうであればマイナス金利政策自体をやめれば良いのではないか、という考え方もあると思います。新しい制度を設けることによって、より日銀の政策が分かりにくくなるのではないかという意見もあると思うのですが、その点についてどう思われますか。

(答)昨年3月、新型コロナウイルス感染症の影響で市場が非常に不安定化したときに、ETF・J-REITの買入れの上限を倍増し、ETFについては12兆円としました。そのとき、年換算で約12兆円くらいのペースで買い入れていたと思いますが、それによって、あのような市場の不安定化もかなり急速に収束しました。今後感染症の収束があったとしても、どのようなショックが来るか分からないので、あのときに最大限の効果があった12兆円という上限を維持して、その中でメリハリを利かせて、必要に応じて弾力的、柔軟に、ETF・J-REITを購入することにしたものです。上限の数字を示さないことで、特にETFやJ-REITの買入れがより柔軟に行えるということはなく、十分な大きさの上限を示すことにより、その範囲でかなり大胆かつ大規模に購入する姿勢を示したとご理解頂きたいと思います。

「貸出促進付利制度」については、先ほど来申し上げている通り、現在、政策金利-0.1%と10年物国債金利ゼロ%程度で適切なイールドカーブが構築できるように、満遍なく短中長期から超長期まで国債の買入れを行っているわけです。政策金利の-0.1%というマイナス金利は、イールドカーブ全体を低位にして経済を支え刺激し、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するための、金融緩和政策のイールドカーブ・コントロールの不可欠な要素であり、それ自体は緩和的な効果を十分持っていると思います。そういう意味で、必要があれば、長短金利の更なる引き下げを、マイナス金利の深掘りを含めて行う必要があれば、躊躇なく行います。その場合に、金融仲介機能に影響が出るのではないか、あるいは金融機関の収益に大きな影響が出るのではないかということで、マイナス金利の深掘りあるいは長短金利の更なる引き下げが困難ではないかという議論もありますが、私どもはそのように考えていませんので、当然、必要があれば長短金利を引き下げるということになります。ただ、その際に、金融機関に金融仲介機能を十分発揮してもらい、先ほど申し上げたように、インセンティブを更に強化して貸出を更に進めてもらうような付利制度を導入したわけですので、これはマイナス金利政策と整合的ですし、むしろ、マイナス金利政策を更に強化し得るものと考えています。

(問)物価上昇率2%が実現できていないことについて、2016年の総括的検証では、原油価格や消費税率の引き上げなどの外的要因を具体的に挙げています。一方で、今回はデフレマインドからの脱却は時間がかかるということを書いていますが、どれくらい時間がかかって、いつ2%の目標を達成できるのか、例えば総裁の任期は2023年4月までですが、それまでに達成できるのかなど、改めて見通しを教えてください。

そして、長期金利について、背景説明の資料の7ページの冒頭の方で、「過去6か月の変動域が50bpsを超える場合を除けば、金融緩和が設備投資に影響を及ぼす度合いは、概ね不変である」という理由を提示していますが、これを踏まえると、将来長期金利のレンジを拡大する余地はもうないのでしょうか。

(答)「総括的な検証」のときも、基本的なこととして、どこの国の中央銀行もそうですが、需給ギャップとインフレ期待の二つの要素によって、物価上昇率が規定されています。そうした中で、わが国の場合は、インフレ期待の形成過程が、実際の物価が上がってくるとインフレ期待も上がり、物価が下がるとインフレ期待も下がってしまい、例えば米国のように2%のところにインフレ期待がアンカーされているところと若干違うことを指摘しています。一時は、実際の物価上昇率も1.5%程度、インフレ期待も1.5%程度になったのですが、その後、物価上昇率がかなり下がってしまいました。その非常に大きい要素は原油価格であり、ご案内の通り120ドルくらいから一時30ドルを割る程度まで大幅に下がり、消費者物価の上昇率を大幅に引き下げました。それが適合的期待という形でわが国のインフレ期待自体も引き下げて、物価の上昇率を引き下げてしまいました。ただ、そのもとでも、一時的な要因を除けば、プラスの物価上昇率は今まで維持されているわけです。そういう意味で、「総括的な検証」の時と現在とで、違ったことを言っているわけではありません。ただ、インフレ期待の形成過程について、今回、かなり詳しく分析し、適合的期待形成の中身をよくみてみると、粘着的な要素がかなり大きいことが明らかになったので、その点を指摘しています。いずれにしても、ご案内の通り、欧米も含めて、実はリーマンショック後、殆ど2%に達していないわけです。わが国の場合も、依然として2%に達していないことは事実ですが、点検の分析の中であるように、これまでやってきた金融緩和、特に「量的・質的金融緩和」や「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、効果がなかったということではなく、需給ギャップを縮め、あるいは縮めるだけではなく、むしろプラスにして大きくして、そしてGDPをこれらの金融緩和がない場合よりも引き上げました。物価上昇率も、金融緩和がない場合よりもかなり引き上げられたとの分析結果も出ています。点検でも詳しく申し上げている通り、「量的・質的金融緩和」や「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組み、2%の「物価安定の目標」、オーバーシュート型コミットメント、基本的にこれらを続けていくことが適切ですが、その中で、イールドカーブ・コントロールの運営について、若干の改善や改正を今回の点検を踏まえて指摘したということです。

それから、長期金利の変動幅についても、かなり詳しく分析していまして、50bps程度の変動は、実質金利を下げる金融緩和の効果を阻害するものではないことが計量的に明らかになっていますので、そうしたことも念頭に置きつつ、従来のプラスマイナス0.1%の上下倍程度というものを、より明確にしたということです。逆にいうと、変動幅を拡大する考えは、今は持っていません。

(問)ETFをTOPIX連動にしたというのを、もう少し詳しく理解したいというのがあります。マーケットも反応していて、先ほど個別銘柄に偏らないようにというようなご説明もあったかと思いますし、この点検の背景説明の中にもありましたが、今や日本の最大株主は日銀と言われているような状況の中で、このTOPIX連動にした意味合いといいますか狙いといいますか、もう少し詳しくご解説頂ければ幸いです。

また、金融緩和の持続性を高めるための点検というのが必要な一方で、やっぱり金融緩和をやめるにやめられない状況を回避するためにも、一方で出口を見据えた議論といいますか、そうした議論の必要性というのはないのでしょうか、なお時期尚早だということなのでしょうか。その辺の総裁のお考えを改めてお聞かせ頂ければと思います。

(答)TOPIXについては、先ほど来申し上げている通り、ここまでETFの買入れが進んでいますので、個別銘柄に偏った影響ができるだけ生じないようにすることは、やはり必要と思います。指数の構成銘柄が最も広く多様になっているTOPIXに連動するものだけを買うことが、個別銘柄に偏った影響が出ないようにする観点から重要だと思いますので、そういった点が最も大きな必要性であると思います。

また、現時点ではやはり、出口を議論するのはまさに時期尚早です。コロナ云々というだけでなく、そもそも2%の「物価安定の目標」がまだまだ実現されていない状況で、出口のことを議論するのは全く時期尚早ですし、適切でないと思います。

(問)資産買入れについてお伺いしたいのですが、本日の変更、0.25%ということを受けて、総裁は明確にしたのみだとおっしゃっていましたが、今後もう少し動いて良いということも含まれていると思うのですが、今後日銀のオペというか、イールドカーブ・コントロールの中で、これまでと違った運営になっていくのでしょうか。というのも0.25%というのは、より今後マーケットの中では注視されていくことになると思うのですが。

(答)従来申し上げてきたプラスマイナス0.1%の上下倍程度という変動幅も、ある程度、適正な状況でしたが、その後は変動幅が非常に縮んでしまい、それに合わせて国債市場の機能度が低下したのではないかということがありました。一方で低金利、実質金利を下げることによって、経済を支えるということは維持しつつ、機能度に配慮して、従来申し上げてきたことをより明確化してプラスマイナス0.25%程度としたわけです。プラスマイナス0.25%程度ということで、何かその上下で、特に下について抑える、そこからどんどん下がらないようにオペの量を変えたりするということがあるかと問われれば、そういうことはありません。下の方にある程度、-0.25%より下がってもそれ自体が金融緩和の効果を阻害するということにはならないと思いますので、そこはある程度フレキシブルに対応できると思います。上の方はやはり適切ではないので、従来も指値オペでがっちり上昇を止めたこともありますが、更に一定の金利を前提に無制限に国債を買い入れるという強力な「連続指値オペ制度」も導入しました。そういう意味では、プラスマイナス0.25%程度の変動を認めて国債市場の機能度を確保するということはありますが、あくまでもイールドカーブ・コントロールで金利を低位に維持することによって経済を支えることに支障がないように、しっかりとした対応をしていくことを併せて申し上げたわけです。

(問)バックワードルッキングな話になって恐縮ですが、総裁は3月5日に国会で変動幅について、はっきりご自身のお考えとして、「適当とも必要とも思っていない」ということをおっしゃいました。個人的には総裁が決定会合前にああいったことをおっしゃるということはすごく珍しいことだと思いました。というのも、ヨーロッパなどでは以前、総裁が先に政策を言ってしまって何かボードが形骸化するとか、色々なことがあったと思いますが、総裁は何かそこについての狙いはあったのでしょうか。

(答)私の記憶では、確か質問された方が、前に私が申し上げたプラスマイナス0.1%程度、その上下倍程度ということを、プラスマイナス0.2%とおっしゃって、色々とお話しされました。今回、申し上げている通り、基本的にプラスマイナス0.1%程度に縮んでいるものの倍程度の変動としてきたことを、より明確化したということです。そのように申し上げたことは、変動幅が拡大するということではないとの趣旨でして、そうしたことは、そもそも議論にもなっていませんでしたので、そのように申し上げただけです。そうしたうえで、何か点検の結果を先取りして申し上げることはできませんと常に申し上げていたところです。

(問)「連続指値オペ制度」についてお伺いします。今回導入されましたけれども、具体的にどういった場面で、この連続指値オペというのを発動されるのをイメージされていらっしゃるかということと、非常に強力な手段というお話ですが、発動した場合に、市場機能という意味では、金利が停滞してしまうのではないかと、機能が相殺されてしまうのではないかという懸念もありますが、この点はいかがでしょうか。

(答)まさにその点は、今回申し上げている通り、イールドカーブ・コントロールで金利を低位に維持することによって経済を支えるという効果を阻害しない、そうした範囲内での一定の変動は、国債市場の機能度を高める意味で適当だと思います。一方で、それを超えるような変動は、点検の計量分析でも明らかなように、金融政策の効果に影響を与えますので、それは認めるつもりはないということです。その点をはっきりさせるためにも、特に、上方にいってしまい、金融緩和の効果が影響を受けてしまうのは、絶対に避けなければなりません。従来の指値オペも結構強力だったとは思いますが、更に必要があればより強力な連続指値オペという形で、どういう時点でどのように行うかはその時点での判断ですが、ある日この指値で無制限に国債を買いますというだけでなくて、例えば1週間にわたって買いますということで、金利の上方への移行を強力に阻止することができます。基本的に、金融緩和の効果を絶対に阻害しないように、その範囲内で一定の変動は従来から認めていたのですが、それをより明確にしたということです。

(問)為替市場で現状円安が多少進んでいるような状況で、よく言われる製造業の収益にはプラスだと思うのですが、一方でやはり交易条件の悪化で、また原油高もあって、輸入業者とか運送業者に関しては結構マイナスだと思います。その辺の、円安のプラスマイナスの影響と先行きをどのようにみていらっしゃるかをお伺いします。

(答)もちろん、為替レートの動きは、経済活動や物価に影響を与えることは事実ですが、よく言われているように、基本的にファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいと考えられており、今の時点で、為替の動きがそういったことに矛盾するとは考えていません。従って、何か大きな問題があるとも考えていません。

(問)物価安定目標に対するスタンスについて伺います。昨年4月の時点で、物価のモメンタムはいったん失われたと言及されていると思います。足許は、個別要因とはいえ実際に物価は下がっている状況です。指摘されているような粘着的な適合的期待形成の観点からいうと、コロナ後にもモメンタムすら戻らない惧れについてどのように考えていらっしゃいますか。そもそも異次元緩和によって2年間の達成を目指していたけれど、今や黒田総裁の任期後も物価目標には長く到達しない見込みもあるというのが実情かと思うのですが、物価目標との距離というのを冷静にどのように考えていらっしゃいますか。

(答)2%の「物価安定の目標」は堅持していますし、できるだけ早期に実現すべく大胆な金融緩和を進めてきたわけです。現時点で2%の「物価安定の目標」が達成されていないことは事実ですが、これまで行ってきた金融緩和、特に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が間違っていたということではなく、そうした金融緩和がない場合に比べれば、かなり物価上昇率を引き上げていたことも明らかになっていると思います。引き続き、粘り強く金融緩和を続けて、2%の「物価安定の目標」を達成したいと考えています。そのためにも、今回、金融緩和の持続性と機動性をより高める工夫をしたということです。

(問)先ほどの2%の目標達成に関連してお伺いします。今回の点検結果は2%の物価目標に向けた最終的な対応決定ということでよいのでしょうか。それとも、今後も定期的に今回のような点検を重ねていくのでしょうか。また、今回の政策点検によって、どれくらい目標達成が近付いたとお考えでしょうか。2022年度というのは0.7%予想でしたが、2023年度予想では目標達成に向けて確実にステップアップできるのか、また総裁任期中に目標達成、もしくはそれに近い状態に持っていけるのか、総裁の考えをお伺いします。

(答)2%の「物価安定の目標」の達成は、日本銀行法に定められている物価の安定という使命に則したものであり、これを堅持するという方針に全く変わりはありません。ただ、今回の点検でも示したような様々な要因があることも事実ですので、それに対応すべく、より持続可能で機動的な金融政策運営を行うために、イールドカーブ・コントロールやフォーワードルッキングなコミットメントを維持しつつ、その中で、資産買入れについて、より持続可能で機動的な形に修正したということです。2%の「物価安定の目標」に向かって着実に進んでいけると考えています。

(問)先ほどの国会答弁の話でちょっと恐縮なのですが、総裁の発言の直後に、副総裁が、また変動する方が望ましいという逆方向にみえるような発言をされて、我々ちょっとびっくりしたわけです。このときの発言を、総裁はどのようにみておられたのかということと、今回、プラスマイナス0.25%というのは決して拡大ではないと総裁は説明されましたが、一種、二人の発言を踏まえると、折衷案みたいな形にもみえるのですが、その辺もご説明頂ければと思います。

(答)私の発言も、雨宮副総裁の発言も、何か矛盾したことを言っているとは考えていませんし、今回、プラスマイナス0.25%程度ということで、従来申し上げていたプラスマイナス0.1%の上下倍程度というものを以前よりも明確化した、そして公表文にも明らかにしたということで、明確化であるととらえています。

(問)金融システムに関連してですが、今回の点検結果を踏まえた政策面の対応として、展望レポートの議論のときの決定会合に、金融機構局の報告を求めることとしています。金融機構局に関する報告は、これまで政策委員会通常会合で受けてきたと思うのですが、金融政策決定会合内で報告を受けることにした目的や背景を改めて伺いたいと思います。

(答)金融システムの安定と物価の安定は日本銀行の二つの使命ですので、当然といえば当然なのですが、金融政策を決定する際には、様々なリスクも併せて検討しており、その際に、金融システムへの影響や金融システムの状況も検討していて、従来から、実は展望レポートにもかなり詳しく書いています。それから、政策委員会通常会合では、時折、金融機構局から詳しい説明を受けていますが、改めて金融政策決定会合において金融政策を決定する際にも、特に展望レポートを議論する際に、金融機構局の意見もよく聞いて議論していこうというものです。金融システムの安定が金融政策にもより影響し得るとの認識を新たにしたということであり、何か質的に変えたということではないと思いますが、金融システムの安定を考慮しつつ金融政策運営を図ることをより明らかにしたということだと思います。

(問)今週、国会に参考人として呼ばれた民間エコノミストが、今の株式市場について、バブルではないかという質問に対して、財政と金融政策に支えられた合理的バブルであるというふうに答えました。こういう見方はマーケットでかなり大勢だと思いますが、こういう見方をマーケットからされているということについて総裁はどう受け止められているでしょうか。

また、それに関連するのですが、今回の基本的見解の中で、ETFについては、市場が大きく不安定化した場合に大規模な買入れを行うことが効果的だというふうにありますが、では今後、日経平均株価が大きく下げたときには、必ず日銀が買いに入るということになるのでしょうか。

(答)株価について、私から何か結論めいたことを申し上げるのは適当でないと思いますし、よく言われているように、経済や企業収益の現状あるいは見通しを踏まえて、株価が形成されているということだと思います。

それからETFの買入れについては、冒頭申し上げた通り、また公表文でも示されている通り、12兆円という新型コロナウイルス感染症対応で倍増した上限を感染症の収束後も維持し、その範囲内で機動的、弾力的に買入れを行うということです。

(問)総裁は、かねて総括検証の後から、いわゆる超長期債の利回りの過度の低下の弊害ということを指摘されてきて、本日の点検あるいは声明にもそういった記述が改めて記されています。本日決められた10年債利回りの変動幅の明確化というのは、こうした超長期債利回りの過度の低下を防いだり、あるいは超長期債の利回りをもう少し望ましいところに持っていったりという効果を期待しているものなのかどうか、あるいはそうしたもののために、何がしかオペの工夫をされるということもあるのかどうか、その点についてご見解をお聞かせください。

(答)前回の「総括的な検証」でも今回も、計量的な分析を行いつつ、超長期金利が過度に低下することは、消費者マインド等に対する影響もあり好ましくない、ということを申し上げています。もっとも、今回の10年債金利の変動幅の明確化とそのこととは特別な関係はありませんし、今の時点で何か超長期債の金利を上げるように、あるいはイールドカーブを立てるように何かするということも全く考えていません。

以上