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総裁記者会見要旨 2022年1月18日(火)
午後3時半から約60分

2022年1月19日
日本銀行

(問)本日の決定会合の決定内容について、展望レポートの内容も含めてご説明ください。

(答)本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針について、現状維持とすることを賛成多数で決定しました。長期国債以外の資産の買入れ方針に関しても、現状維持とすることを全員一致で決定しました。また、本年6月末に期限を迎える「貸出増加支援資金供給」について、1年間延長することも決定しました。

本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、経済・物価の現状と先行きについての見方を説明します。

わが国の景気の現状については、「内外における新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に和らぐもとで、持ち直しが明確化している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、国・地域毎にばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復しています。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響を残しつつも、基調としては増加を続けています。また、企業収益や業況感は全体として改善を続けています。設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しています。雇用・所得環境をみますと、一部で改善の動きもみられますが、全体としてはなお弱めとなっています。個人消費は、感染症によるサービス消費を中心とした下押し圧力が和らぐもとで、持ち直しが明確化しています。金融環境については、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあります。先行きについては、感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみています。その後も、所得から支出への前向きの循環メカニズムが家計部門を含め経済全体で強まる中で、わが国経済は、潜在成長率を上回る成長を続けると予想しています。

次に、物価ですが、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられるものの、エネルギー価格などの上昇を反映して、小幅のプラスとなっています。また、予想物価上昇率は、緩やかに上昇しています。先行きについては、消費者物価の前年比は、当面、エネルギー価格が上昇し、原材料コスト上昇の価格転嫁も緩やかに進むもとで、携帯電話通信料下落の影響も剥落していくことから、振れを伴いつつも、プラス幅を拡大していくと予想しています。その後は、エネルギー価格上昇による押し上げ寄与は減衰していくものの、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどによる基調的な物価上昇圧力を背景に、見通し期間終盤にかけて1%程度の上昇率が続くと考えています。

前回の見通しと比べると、成長率については、2021年度は供給制約の影響から下振れる一方、2022年度は政府の経済対策の効果や挽回生産などを背景に上振れています。物価については、資源価格の上昇やその価格転嫁などを反映して、2022年度が幾分上振れています。リスク要因としては、引き続き、オミクロン株などの変異株を含む感染症の動向や、それが内外経済に与える影響に注意が必要です。また、供給制約の影響を受けるもとでの海外経済の動向に加え、資源価格の動きやその経済・物価への影響についても、先行き不確実性は高いと考えています。そのうえで、リスクバランスは、経済の見通しについては、感染症の影響を中心に、当面は下振れリスクの方が大きいですが、その後は、リスクは概ね上下にバランスしているとみています。物価の見通しについては、リスクは概ね上下にバランスしているとみています。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。また、引き続き、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」、国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていきます。そのうえで、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。

(問)まず、年初でもあり、今年の世界経済の展望についてお伺いします。世界経済は回復基調にあるもとで、インフレの高まりもみられており、海外の主要中銀は昨年末から金融政策の正常化の方向に舵を切っていますが、その世界経済に与える影響や、先行きの世界経済のリスク要因などについてどのようにご覧になっているか、お聞かせください。

次に、物価上昇についてお伺いします。日本でも物価の上昇圧力が高まっていますが、要因としては、資源高であるとか、円安によるコストプッシュの面が大きいかと思います。日銀が期待する好循環による物価上昇とは異なる形になっていますが、こうした物価上昇の持続性についてどのようにお考えかお聞かせください。また、こうした環境下で、金融政策運営で配慮すべき点についてお考えをお聞かせください。

(答)先ほど申し上げたように、世界経済は、国・地域毎のばらつきを伴いつつも、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、先進国を中心とした積極的なマクロ経済政策にも支えられて、高めの成長を続けると予想しています。当面は、物流の停滞や労働力不足といった供給制約が、米国を中心とした先進国の経済活動の重しとして作用するほか、インフレ率の押し上げ要因となりますが、そうした供給制約は次第に和らいでいくと考えています。ただし、こうした見通しを巡っては、不確実性が大きいと思います。具体的には、第一に、先進国の供給制約が想定以上に長期化・拡大する場合には、世界経済の成長率が下振れする可能性があります。第二に、一部先進国でみられるインフレ率の高止まりに対しては、各国中銀が金融政策により適切に対応すると考えていますが、国際金融市場への波及などを通じて、グローバルな金融環境が想定以上に引き締まる場合には、新興国を中心に世界経済が下振れするリスクがあります。第三に、中国経済についても、中長期的な成長力の低下が徐々に進むもとで、不動産セクターの調整の影響などにより、減速感が一段と強まる惧れがあります。以上のような下方リスクの一方で、各国の家計部門における、いわゆる「強制貯蓄」の取り崩しが急速に進むことなどを通じて、海外経済が消費活動を中心に上振れる可能性もあると思います。日本銀行としては、これらのリスクを含め、先行きの世界経済の動向を注意深く見ていく所存です。

次に、物価ですが、先ほど申し上げた通り、消費者物価の前年比は、既に小幅のプラスとなっており、先行きは、今回の展望レポートでお示しした通り、見通し期間終盤にかけて1%程度の上昇率が続くと予想しています。こうした状況のもとで、現在の金融緩和を修正する必要は全くありません。日本銀行としては、2%の「物価安定の目標」を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていく方針です。そう申し上げたうえで、最近の物価上昇圧力の背景としては、わが国経済の持ち直しに伴う需給ギャップの改善に加え、エネルギー価格の上昇や原材料コストの高まりも影響しています。過去のわが国経済を振り返ると、資源価格の上昇を主因とする物価上昇は、リーマンショック前の2008年に典型的にみられた通り、一時的なものにとどまることが多かったように思います。そうした経験も踏まえると、持続的な物価上昇が実現するためには、中長期的な予想物価上昇率が高まる必要があります。すなわち、家計の間で値上げ許容度が高まり、物価がある程度上昇するとの物価観が、経済主体の間に定着することが重要になります。この点、企業収益がはっきりとした改善を続ける中、人手不足感の強まりを反映して、このところ賃金は緩やかに上昇しています。また、政府も税制等を通じて企業の賃上げを促しているほか、コロナ下で蓄積したいわゆる「強制貯蓄」の存在もあります。これらは、家計の値上げ許容度を下支えする要因として期待できます。一方で、雇用の改善や賃金の上昇が本格化する前に、物価上昇が家計の所得環境やマインドに悪影響を及ぼさないか注視していく必要があると思います。日本銀行としては、今後とも、強力な金融緩和を粘り強く続けていくことで、企業収益の増加や労働需給の改善を促し、その結果として、賃金と物価が持続的に上昇していく、いわゆる好循環の形成を目指していく所存です。

(問)二点お伺いします。一点目ですが、一部で、日銀が物価2%目標を達成する前の利上げを議論しているとの趣旨の報道がありました。そうした議論を実際に行っておられるのか、事実関係を教えてください。現在のイールドカーブ・コントロール政策の枠組みでは、物価目標の実現前に長短金利を引き上げることは可能だと思いますが、総裁はどのような経済・物価・金融情勢になれば、目標実現前に利上げを行うこと、もしくは議論することが可能とお考えでしょうか。

二点目は、今回の展望レポートで物価見通しのリスク評価を、これまでの下振れから中立に引き上げていますが、この金融政策へのインプリケーションを教えてください。正常化が近づいているのか、あるいは追加緩和までの距離が拡がったと言えるのかどうか、総裁のご見解をお願いします。

(答)まず、利上げを議論しているかについては、そうした議論は全くしていません。展望レポートやその前の短観、その他でも示されているように、物価が2%の「物価安定の目標」に向けて着実に上昇しているという状況にはないわけです。商品価格の上昇等、主として一時的な要因で若干物価が上がっていることは事実ですが、それでも0.5%程度ということで、展望レポートでも示されている通り、委員方の中心的な見通しは、2023年度、この展望レポートの終盤にかけても、1%程度の物価上昇率というものです。そうしたもとで利上げや現在の緩和的な金融政策を変更するというようなことは、全く考えていませんし、そうした議論もしていません。また、今回の「当面の金融政策運営について」という公表文でも、はっきりと書かれている通り、日本銀行は2%の「物価安定の目標」を実現し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、そしてマネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、としています。公表文の最後には、「当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」としていますので、利上げというようなことは全く考えられないということです。

次に物価について、リスクが概ね上下にバランスしていると修正したのは、先ほど申し上げたように、物価の先行きについて、中心的な見通しでは需給ギャップの改善が続くもとで、企業の価格設定スタンスは徐々に積極化し、原材料コスト上昇の価格転嫁も緩やかに進むと考えているためです。前回の展望レポートまでは、感染症や海外経済に起因する経済の下振れが物価に波及するリスクに加えて、物価は上がりにくいことを前提とした企業慣行や考え方が根強く残るもとで、需給ギャップの改善や原材料コストの上昇との対比で、物価の上昇ペースが鈍くなる下振れ方向のリスクを、より強く意識する見方が大勢だったわけです。もっとも、今回はこうした下振れリスクだけでなく、最近の企業物価の上昇あるいは短観における企業のインフレ予想の高まりなどを踏まえると、上振れ方向のリスクも同時に意識する必要があるということです。そういう意味で、リスクは上振れリスクと下振れリスクが概ね見合っているということで、上下にバランスしているとしています。ただ、その中心的な見通しは、見通し期間の最終時点でも1%程度にとどまるということであり、そうした点は十分考慮しつつ、金融政策について先ほど来申し上げている通り、現在の金融の大幅な緩和を粘り強く続けていくということを今回も確認したということです。

(問)足許、オミクロン株の感染拡大が急速に進んでいますが、供給制約が再び起きる懸念も持たれています。そうした中で、今後物価が更に上昇していく可能性についてどのように考えているか、単月で2%に近づく可能性というのを総裁自身どのように考えていらっしゃいますか。

一方で、2%の物価目標が達成される可能性がある中で、賃金は緩やかに上昇しているとはいえ物価上昇には追い付いていないペースだと思うのですが、そうした中で強力な金融緩和を続ければ、更なるインフレを招く可能性もあると思いますが、その辺、緩和の調整というのをどのように考えていらっしゃるか、お聞かせください。

(答)まず、オミクロン株の状況・動向については、海外の動向も踏まえつつ、わが国の状況を注意深く見ていく必要があると思っています。ただ、感染症の影響は二つの方向であり得るわけです。一方で対面型サービスを中心に消費が下押しされるという影響と、他方で、仮に様々な公衆衛生上の措置を通じて生産あるいは供給に制約が加わっていくことになれば、供給を減らすということになり得るわけで、需要を減らす要因と供給を減らす要因の両方があります。このため、オミクロン株の動向を十分注視はしますが、これによって、物価が非常に上昇して2%に近づくという可能性はきわめて低いと思っています。物価については、先ほど来申し上げている通り、リスクは上下にバランスしているとみています。その中心的な動きは、2022年度に入って1%程度になり、2023年度でも1%程度ということですので、リスクが上下にバランスしているとはいえ、直ちに2%に近づくという状況は考えにくいと思っています。

一方で、賃金については、確かに私どもとしては非常に注視しており、そもそも物価上昇の範囲が拡がり持続するためには、やはり賃金が上がっていかないとそういうふうになりません。あくまでも私どもが目指しているのは、景気が拡大し、需給ギャップが改善するもとで物価が徐々に上がっていく、そして賃金も上がっていく、そうした中で予想物価上昇率も上がっていくという形で、所得が増える中で物価上昇が進んでいくことであり、そうなるように金融緩和を行っているわけです。仮に、賃金の上昇を伴わずに資源価格、国際商品価格の上昇を主因とする物価上昇が起こったとしても、それはリーマンショック前の2008年に典型的にみられた通り、一時的にとどまるということであって、やはり持続的なものにはなり得ないというふうに思っています。私どもとしては、あくまでも、景気が拡大し、あるいは需給ギャップがプラスに転化していく中で、賃金・物価が上昇していくという好循環のもとでの2%の「物価安定の目標」の達成を目指しており、そのようになるように、必要な金融緩和を粘り強く続けていくつもりです。

(問)先ほどの質問とも絡むのですが、2022年度の物価見通しが1.1%と、目標とする2%には遠い状況が続く中で、黒田総裁の任期も来年の4月までと限られていると思います。現段階のお考えとして、任期中にちまたでいわれているような正常化の議論をする可能性があるのかないのか、ご自身として今どのように思われているのかを改めて教えてください。

(答)私の任期は2023年4月までですが、任期と合わせて正常化を議論するとか、そういうつもりは全くありません。展望レポートでも示した通り、見通し期間の終盤の2023年度でもまだ2%にかなり遠い1%程度ということですので、正常化や出口などという議論ができるような状況ではないと思っています。

(問)円安についてお伺いします。昨年10月の決定会合後の記者会見で、黒田総裁は現時点では悪い円安ではないという発言をなさいました。その頃は1ドル113円近辺だったと記憶していますけれども、その後一時1ドル116円台まで円安が進む局面もありました。現段階でも悪い円安ではないという認識は変わっていないでしょうか。また、今後アメリカの利上げなどが進んでいけば、円安が更に進んでいく可能性もあります。どこまで許容するのかというのをお伺いしても、なかなかお答えにはならないと思いますので、聞き方を色々考えていたのですが、どういう状況になったら日本にとって悪い円安になっていくのでしょうか。

(答)為替相場の水準などについて、具体的にコメントするのは差し控えたいと思いますが、いつも申し上げている通り、為替相場は経済や金融のファンダメンタルズを反映して、安定的に推移するということがきわめて重要であると思っています。そのうえで一般論として申し上げますと、為替相場の変動というものは、財・サービスの輸出の数量、輸出採算や海外事業の収益、そして輸入原材料のコストなど、様々なルートを通じてわが国の経済に影響を及ぼします。これらの影響は、わが国の経済・貿易構造の変化に伴って変化しているわけですが、為替円安が全体として経済と物価をともに押し上げて、わが国経済にプラスに作用しているという基本的な構図に今のところ変化はないと考えています。従って、悪い円安ということは考えていません。ただ、為替円安の影響が、業種や企業規模、あるいは経済主体によって不均一であるということには十分留意しておく必要があると思っています。いずれにしても、悪い円安というようなものは、今考えていませんし、考える必要がないと考えています。

(問)まず、なかなか物価が上昇しない、賃金の上昇が伴わなければ持続的にならないという点は理解できるのですが、日銀が、なかなか2%にいかないよ、と言い続けると、人々も、そうか、いかないのか、となって予想インフレに悪影響を及ぼしてしまう惧れも、異次元緩和の日銀のロジックから考えるとあり得るかなと思うので、むしろ追加緩和すべきではないかとの発想もあるかと思うのですけれども、それについてのご所見を伺いたいと思います。

また、2%を目指して、2%が安定的に達成できるまで、必要な時点まで、今の緩和を粘り強く続けると思うのですが、これは、すなわち、長短金利操作目標についても現行水準で維持することをコミットしているということでしょうか。

(答)まず、物価につきましては、展望レポートでは政策委員会の各メンバーが示した各々の考え方の中央値を示していますが、私は、今の委員の見通しの中央値が非常にネガティブともポジティブともどちらにも考えておらず、きわめてまっとうな見通しだと思っています。ただ、見通し期間の最終時点でも2%に達しないというのは大変残念であることは事実です。展望レポートでも示している通り、2022年度は、携帯電話通信料の下落の影響が剥落するとともに資源価格の影響が若干続いているというもとで1%程度ですが、2023年度は、当然のことながら、資源価格の物価に対する貢献は剥落していきます。その中で、むしろ需給ギャップの改善や予想物価上昇率の上昇といった持続可能な要素で物価が1%台の上昇になるという見通しですので、その先を想定すれば、2%に向けて徐々に物価が上昇していくという形にはなっているのではないかと思います。そうしたもとで、現在の大規模な金融緩和というものを、イールドカーブ・コントロールのもとで、短期政策金利を-0.1%、10年物国債金利をゼロ%程度に維持することで必要かつ十分な金融緩和が行われていると考えており、これを引き続き、粘り強く続けていく必要があると考えています。

二点目については、先ほど申し上げたように、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、感染症だけでなく、必要があれば躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるとしているうえに、政策金利については、現在の長短金利の水準またはそれを下回る水準で推移することを想定しているとしているわけです。従って、当然、金利については、引き上げることは全く想定していませんし、必要があれば更に長短金利を引き下げるということをコミットしているということです。

(問)安定的に2%が達成されるまでそうするということですね。

(答)そうです。

(問)2%の物価目標の導入から丸9年を迎えるので、長い目で見た政策運営の考え方についてお聞かせください。総裁は、就任当初、物価目標の達成のために、マネタリーベース、つまり量の急拡大を前面に打ち出されました。2016年には金融調節の方針を量から金利に変更したものの、枠組みとしては量的緩和を続けています。9年近く経っても物価が鈍いということは、量の緩和というのは、物価に与える効果は、当初期待したほどのものではなかったという解釈でよろしいでしょうか。それに関連してもう一点ですが、短期国債を含めた国債の保有残高は2021年に年間で減少しました。それからマネタリーベースもコロナ対策の資金繰り支援策の終了に伴って、一時要因とはいえ今年は減少する可能性があるかと思います。先ほど質問しました量の拡大が物価に与える効果に対するお答えも踏まえて、量の面での金融政策運営を今どのように整理しているのかお聞かせください。

(答)2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入して以来、量的・質的と言っているように、量も質、金利も十分に考慮しながらやってきたわけです。ご指摘のように、当初は2年程度を目途に大規模な金融緩和をするということだったわけですが、その後、様々な状況のもとで、2年程度というのは落とし、できるだけ早期に2%の「物価安定の目標」を達成するという、2013年1月の政府との「共同声明」、あるいは同月の金融政策決定会合におけるコミットメントを維持して行ってきています。量か質かというか、量か金利かというのは、量といっても実際は金利を通じて経済に影響が出るので、そうしたことを踏まえて、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」でイールドカーブ・コントロールというものにして、現在に至っているわけです。そういう意味で量か質かといっても裏表のような関係で、量を無視することではないわけですし、フォワードガイダンスでも「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続すると言うとともに、マネタリーベースについて、消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続するということも言っています。量を無視してということではなくて、量と質、量と金利、両方考えているわけです。先ほど来申し上げているように、金融政策の影響のチャネルとしては、基本的には金利を通じて経済活動に影響を与えていくということはその通りだと思いますが、量について一定のコミットメントを示すという意味もあろうかと思いますので、現在のフォワードガイダンスは、マネタリーベースについてこういったことを述べています。ただ、これはあくまでも拡大方針ということで、ご指摘のように、短期的には振れたり一時的にマイナスになったりすることがあったとしても、基本的にマネタリーベースの拡大方針を続けるということのコミットメントの意味は大きいのではないかと思います。

(問)先ほど総裁は、物価上昇が家計の所得環境やマインドに悪影響を及ぼさないか注視していく必要があるとおっしゃいました。仮定の質問で恐縮ですけれども、このコストプッシュ型のインフレが、一時的ではなく家計に悪影響を及ぼすことが確認された場合、日銀としてどういった対応を取る余地があるのかお聞かせ頂けますでしょうか。

(答)これは、いわば金融政策についての国際的なコンセンサスというものがあると思います。かつての第二次石油ショック以来、一次産品価格が急上昇した場合に、それ自体を全部止めるような金融引締めは適切でなく、それが二次的にその他の品目、更には賃金の上昇につながり、インフレ率を持続的に高めていくという懸念があれば防止する必要がありますが、資源価格・商品価格の一時的な上昇を金融政策で止めるというのは適切でないということです。従って、一時的な資源価格・商品価格の上昇によって物価が一時的に上がっても、それでも2%を超えるような上昇になるとは思いませんが、それに対応して金融政策を発動して、金融引締めを行うということは全く考えていません。あくまでも、賃金・物価が、いわば好循環の中で持続的に、また拡がりをもって上がっていくという状況を目指しており、そうした意味で2%が持続的に達成されるという状況になれば、当然、金融政策の正常化、出口の議論になると思いますが、今のところそういった状況は全く想定されないということです。

(問)先ほど総裁が言われていた、政策のフォワードガイダンスのところで、政策金利については、現在の長短金利の水準、またはそれを下回る水準で推移することを想定されているということですが、これは2019年10月からずっと使われています。先ほど冒頭で言われていたリスクバランスのところで、当面、経済に関しては下振れリスクが大きいということですが、こことの関係をお伺いしたいと思います。すなわち、経済のリスクが下振れからバランスになれば、現状の政策金利を下回る水準で推移することの必要性がなくなるのかどうなのかということをお伺いしたいと思います。

(答)そういうことではないと思います。あくまでも、金融政策については、2%の「物価安定の目標」が安定的に達成されることが目標です。その過程で、当然、経済の動向がどうかということと、経済のリスクが上下にどのように分布しているかということは、物価の動向をはかるうえでは重要な要素ではありますが、経済の見通しのリスクバランスが上下バランスするかしないかによって、金融政策自体が変わるということはありません。

(問)先ほどから2%の物価安定の目標を達成するのに大事なのは賃金であると、まさにその通りだと思います。今日、経団連が春闘の方針、経労委報告を発表しまして、去年に比べて積極的な賃上げを促しました。賃金の上昇というのは金融政策でなかなかどうこうするというのは難しいところだとは思うのですけれども、そうだからこそ日銀として考えをこれまで以上に明確に打ち出していく必要もあるのではないかと思います。賃上げに向けて、政府や企業に対して、日銀として期待すること、求めることは何か、改めてお願いします。

(答)賃金の上昇は、個人消費の増加をもたらし、更には、それは次の賃上げの原資となる企業収益の改善につながっていくと考えています。このため、わが国経済が、感染症の影響から脱して、本格的な回復軌道に復していくうえで、賃金の上昇はきわめて重要な要素であると考えています。この点、日本銀行としては、強力な金融緩和を粘り強く続けていくことで、企業収益の増加や賃金の上昇を伴いながら、物価上昇率が緩やかに高まっていくという好循環を作り出すことを目指しており、実際、昨年12月の短観で確認された通り、企業収益ははっきりとした改善を続けています。この間、政府は来年度の税制改正大綱で賃上げを行う企業への税制支援を強化する方針を示すなど、賃金上昇に向けた環境整備に注力しています。日本銀行としても、労使双方の取り組みによって、経済全体として賃上げと景気回復の好循環が実現していくことを強く期待していますし、その旨を明確にしておきたいと思います。

(問)先ほどの質問と関連して、現行の金融政策についてですが、間もなく異次元緩和政策が始まって10年目で、マイナス金利政策も7年目を迎えようとしていますけれども、改めて現行の金融政策の効果と副作用についての認識を伺えればと思います。

あと、そもそも量的・質的緩和ですとか、世界の中央銀行の中でも日銀が先駆けて取り入れている政策がある意味多いと思うのですけれども、時期はいずれにせよ、政策の出口とか手じまいという発想がそもそもあるのかということと、そのような発想がある場合、政策手段とか市場とのコミュニケーションにおいて、前例がないということもあると思うのですが、そのようなリスクについて現状どのように考えているのか、認識を伺えればと思います。

(答)あくまでも、金融政策として2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するということを目指して、大規模な金融緩和を粘り強く続けてきましたし、今後も2%の「物価安定の目標」の実現を目指して粘り強く行っていくつもりです。そうしたもとで、「量的・質的金融緩和」という形で、いわゆるイールドカーブ・コントロールという形で、先ほどより申し上げている通り、量と質と両方考えているわけですが、あくまでもそのチャネルとしては、どうしても金利が中心で、もちろんアべイラビリティやその他もありますが、やはり金利が経済活動にどのような影響を及ぼすかということであると思います。その意味で、明らかに日本経済の回復を助けてきたということは言えると思います。金融政策であれ何であれ、効果というためには何と比較するかということが必要であり、あり得ないような政策と比較しても意味がないわけですので、実際にあり得た他の金融政策と比べてみてどうかと言われたら、紛れもなく経済の回復を助け、デフレからの脱却を助け、企業収益を改善し、雇用も大幅に伸びてきているわけです。そうした意味で効果は十分あったと思いますが、残念ながら2%の「物価安定の目標」は達成されていないということであり、その意味では引き続き粘り強く続けていくということになると思います。

出口というのは、先ほどより申し上げているように、2%の「物価安定の目標」が実現される、あるいはされそうになるという時点になれば、当然政策委員会で出口に関する議論を行い、適切な市場とのコミュニケーションを図るということになると思います。それ自体が何か非常に難しいということはないと思います。むしろ問題は、残念ながらまだ2%に達していない、展望レポートの最終年度である2023年度でも1.1%というところですので、まだ出口について議論するのは時期尚早であると思います。出口について議論し、コミュニケーションするということ自体が、何か非常に困難だということはないと思います。

(問)先ほど総裁は、コストプッシュ型のインフレは長続きしないと、2008年の動向を引き合いにおっしゃいましたけれども、2008年と現在では事情が違うのかとの観点からの質問です。2008年当時の資源高の原因としては、台頭する新興国の需要の急増や、ドル安に伴う投機マネーの流入といったことが主因だったのではないかと思います。他方で、今回の供給制約というのは、ご承知の通り、新型コロナウイルスが主因でして、2008年を引き合いにコストプッシュ型のインフレが長続きしないで終わると、そのように判断されている根拠をもう少しお伺いできますか。

(答)当然のことながら、今回の資源価格、特にエネルギー価格の上昇については、様々な要因があると思います。欧米を中心に、感染症からの回復がきわめて著しく、需要が急増したことに対して、特に天然ガス、石炭、あるいは石油といったエネルギーの供給が、一部のボトルネック等で追い付かないということもあって、価格が上昇したということですが、例えば、欧州における天然ガスの価格上昇にしても、ずっと続くとは殆どの人が考えていませんし、先物価格の動きなどをみても垂れていくということになっていますので、一時的でないという人は殆どいないと思います。ただ、それがその他の様々な状況と絡んで、賃金あるいはその他の商品、消費財等の価格上昇に結び付いていくとインフレになり得るということですが、商品価格の上昇自体が一時的でないということではないと思います。そういう面からみると、確かに先進国の一部では、単に資源価格、エネルギー価格が上昇しているだけでなく、賃金が上昇し、その他各種の財やサービス価格の上昇が起こっている国があります。そうした国は、新興国の中にもあり、既に金利を上げたり、あるいはこれから上げようというところもあるわけです。他方で、わが国をみた場合には、そうした状況にないのは明らかですので、資源価格の上昇が2008年のようなことではなく、ずっと続くとか、あるいはわが国の消費者物価の上昇率に幅広い、そして持続的なものをもたらす可能性は、今のところ見当たらないということだと思います。

(問)先ほど来、物価目標の話に質問が色々出ていますが、日銀は、物価目標とは別に、それと別の違った意味で重要な目標として、女性の幹部比率を2023年までに10%にするという目標を掲げています。早いものであとその目標年次までもう1年となりましたが、この目標に向けた進捗状況はどのようになっていて、目標達成が現時点で見込めているのでしょうか。最近のFRBの理事人事などをみても、海外の中央銀行では女性の活用が更に拡がっている中、日本を代表する公的機関である日銀の取り組みは相応の重要性を持つと理解しておりますので、その点について教えてください。

(答)2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するという目標は8年半以上経ってまだ実現されていないわけですが、女性の採用、あるいは女性の幹部比率という目標は、十分達成できる状況にあるとみています。ちなみに、この目標は、内部で十分議論して立てた目標ですが、政府が政府および政府機関に対してそういう目標を立てる確か1年前かなんかに日本銀行として独自に目標を立てて進んでおり、これは達成できると私は考えています。

(問)先ほどの副作用の話と若干重なる部分があるのですけれども、当座預金に関して、大手行の一部でマイナス金利が適用というところの動きも出ているようです。改めて、大規模な緩和の長期化とそれに伴う副作用ということについて、最近の動きも含めまして見解をお伺いできればと思います。

(答)確かに一部の主要行でマイナス金利の残高が出ていますが、逆に言うとこれまでマイナス金利が適用されないように色々なことをしておられたようですが、これ自体何か特に意味があるとは思っていません。マイナス金利にならないよう色々なことを行うこと自体が、必ずしもその金融機関にとって利益を最大化することではなかったのだと思います。そこで、そうした観点から見直しをされたのではないかと思いますが、個別の金融機関がどのような考えで行っているのかはよく分かりませんし、これが、いわゆるマイナス金利政策の副作用をもたらす、または大きくするといったことはないと思います。ご案内の通り、マクロ加算残高を調整してマイナス金利の対象は小幅にとどめて、しかしそれで十分短期金利が-0.1%の政策金利の周りに収束するようにしています。当座預金は、プラス金利の部分と、変動してかなり大きくなっているゼロ金利の部分と、小幅の-0.1%の部分の三層構造になっており、金融機関に対するマイナスの影響をミニマイズしつつ短期金利を政策金利の-0.1%周辺にするという効果を持っていますので、今回のそれがマイナス金利の副作用をもたらす、または大きくするとは考えていません。

以上