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総裁記者会見要旨 2022年6月17日(金)
午後3時半から約60分

2022年6月20日
日本銀行

(問) 本日の金融政策決定会合の決定事項について、ご説明をお願いします。

(答) 本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針について、指値オペの運用も含め、現状維持とすることを賛成多数で決定しました。長期国債以外の資産の買入れ方針に関しても、現状維持とすることを全員一致で決定しました。

次に、経済・物価動向について説明します。わが国の景気の現状については、「感染症や資源価格上昇の影響などから一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、一部に弱めの動きがみられるものの、総じてみれば回復しています。輸出や鉱工業生産は、基調としては増加を続けていますが、足許では、供給制約の影響が強まっています。また、企業の業況感は、供給制約や資源価格上昇の影響などから、このところ改善が一服しています。企業収益は全体として高水準で推移しています。設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しています。雇用・所得環境は、一部で改善の動きもみられますが、全体としてはなお弱めとなっています。個人消費は、感染症の影響が和らぐもとで、サービス消費を中心に持ち直しています。金融環境については、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っていますが、全体として緩和した状態にあります。先行きのわが国経済を展望すると、ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみています。

物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響が剥落するもとで、エネルギーや食料品の価格上昇を主因に、2%程度となっています。また、予想物価上昇率は、短期を中心に上昇しています。先行きについては、当面、エネルギーや食料品の価格上昇の影響により、2%程度で推移するとみられますが、その後は、エネルギー価格の押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくと予想しています。この間、生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、原材料コスト上昇の価格転嫁の動きもあって、プラス幅を緩やかに拡大していくと考えています。

リスク要因をみますと、引き続き、内外の感染症の動向やその影響、今後のウクライナ情勢の展開、資源価格や海外経済の動向など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高いと考えています。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があります。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。そのうえで、当面、感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。

(問) 6日に行った講演で、総裁の「家計の値上げ許容」に関する発言は様々な反響がありました。総裁ご自身は「家計が値上げを受け容れている」との発言について、表現が適切ではなかったとして撤回されたところではありますが、家計の値上げ耐性については、むしろ低下し、節約志向が高まっているのではないかというデータを示す民間シンクタンクもあります。改めて、6日の講演で総裁が伝えたかった内容と、足許の物価上昇が家計および日本経済に及ぼす影響、それに対する日銀の政策対応についてどのようにお考えかお聞かせください。

(答) ご指摘の発言につきましては、家計が自主的に値上げを受け容れているという趣旨ではなく、苦渋の選択として、やむを得ず受け容れている、ということは十分認識しています。「家計の値上げ許容度が高まっている」あるいは「受け容れている」との表現は、全く適切ではなかったと考えており、撤回したところです。もとより、日本銀行は、常日頃から、消費者物価などの物価統計だけではなく、生活意識に関するアンケート調査等の各種サーベイ調査や、全国の支店網を活用して得られる企業からのヒアリング情報など、物価を巡る幅広いデータや情報をきめ細かく点検しています。最近の物価上昇が家計の行動に及ぼす影響について、一層きめ細かく把握するとともに、私どもの真意が適切に伝わるよう、丁寧な情報発信に努めてまいりたいと考えています。先日の講演では、デフレ期以降、企業が十分に価格転嫁できない状況が続いてきましたが、こうした状況が変化する可能性について申し述べました。そして、そのためには何よりも、賃金の上昇が必要であると繰り返し指摘しており、該当箇所も、賃金上昇の重要性を強調する文脈の中で言及したものです。わが国経済は、感染症からの回復途上にあるうえ、資源価格上昇という下押し圧力も受けています。こうした中で、賃金の本格的な上昇を実現するためには、金融緩和を粘り強く続けることで、経済をしっかりとサポートしていくことが必要であると考えています。

(問) 最近の為替市場と債券市場は、非常に、きわめてボラティリティの高い状況になっております。どのようにご覧になっているか、お考え、ご見解をお伺いできればと思います。

(答) 債券市場では、米欧の長期金利上昇などを背景に、金利上昇圧力が生じています。こうしたもとで、日本銀行は、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが形成されるよう、10年物に加え、先物市場に対応する7年ゾーンも対象に、連続指値オペを実施するなどの対応を講じています。これらの対応の結果、わが国の長期金利は、調節方針と整合的な水準で推移しています。もっとも、この間、先物市場では投機的な動きが続いており、流動性が低下しているもとで裁定取引が働きにくいこともあって、現物市場と先物市場の値動きの乖離やボラティリティの高まりが生じていることは認識しています。為替相場については、従来から申し上げている通り、経済・金融のファンダメンタルズに沿って安定的に推移することが重要です。この点、最近の急速な円安の進行は、先行きの不確実性を高め、企業による事業計画の策定を困難にするなど、経済にマイナスであり、望ましくないと考えています。わが国経済にとって大事なことは、円安によって収益の改善した企業が、設備投資を増加させたり、賃金を引き上げたりすることによって、経済全体として所得から支出への前向きの循環が強まっていくことです。わが国経済は、先ほど申し上げたように、感染症による落ち込みからの回復途上にあるうえ、資源価格上昇による下押し圧力も受けており、金融面からしっかりと支えていかなければならない状況にあります。また、金融・為替市場の動向や、そのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があります。先行きの金融経済情勢を巡っては、きわめて不確実性が大きいと考えており、日本銀行としては、そうした先行きの情勢を見極めながら、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を安定的・持続的に実現できるよう、金融緩和を実施していく必要があると考えています。

(問) 今お話のあった債券市場についてお尋ねします。まさに、先ほどお話もありましたように、市場では10年物国債と10年よりも短い国債の利回りが逆転するような現象が発生しており、変調を来しています。その要因として、日銀の金融政策、長短金利操作がこういった歪みをもたらしているのではといった指摘もあります。この点に関して、どうお考えでしょうか。

二点目は、日銀は15日にチーペスト銘柄で指値オペを実施していますが、こうした指値オペによる金利抑制に限界が来るのではないかといった見方が市場に出始めています。この点についてお考えをお聞かせください。

(答) まず、イールドカーブ・コントロールにつきましては、従来から申し上げている通り、短期の政策金利について、いわゆる政策金利残高に対して-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、10年物国債の金利をゼロ%程度、「ゼロ%±0.25%程度」の範囲内に収めることによってイールドカーブ全体を低位で安定させ、それによって経済の回復をしっかりと支えるということで行ってきており、この考え方に変更はありません。そのために、先ほど来申し上げているように、国債の買入れを弾力的に行っており、それから、海外の長期金利の高騰を反映してわが国の長期金利に上昇圧力が生じたということで、それに対しては指値オペ、特に連続指値オペを行って、全体としてのイールドカーブを、イールドカーブ・コントロールのもとで低位に安定させています。

二問目でおっしゃったように、指値オペを実施していることもあり、わが国の長期金利は金融市場調節方針と整合的な水準で推移していますが、足許で長期国債先物に強い売り圧力がみられる中で、7年ゾーンに金利上昇圧力が強まっていたということがあり、そのゾーンを対象とするご指摘のチーペスト物に対する連続指値オペを追加で実施するなどの対応を講じたところです。今後とも、日本銀行としては、10年物国債金利がゼロ%程度で推移し、10年物以外のゾーンについてもこれと概ね整合的なイールドカーブが実現するように、指値オペあるいは国債買入れ金額の増額、オファー日程の追加など必要な措置を講じていく所存であり、イールドカーブ・コントロールに限界が生じているということはないと考えています。

(問) 為替についてお伺いします。先ほど総裁は、急激な円安の進行は経済にマイナスであるというお話でしたけれども、これまで総裁は、円安は経済全体にとってプラスであるというご説明を繰り返されてきました。この見解に変更があったということなのかどうか教えて頂けますか。

(答) 従来から為替レートについては、特定の水準を云々するということではなく、あくまでも経済・金融のファンダメンタルズを反映して、安定的に推移することが経済にとって最も好ましいということを申し上げてきたわけです。そうした意味で、先ほど申し上げたように、このところ起こった急速な円安の進行は、そうしたことに反しており、経済にマイナスになるということですので、この点を明確に申し上げるとともに、今後とも金融・為替市場の動向についてはよく注視していく必要があると考えています。特に、先ほど来ご質問にありましたように、欧米で長期金利がかなり急速に上昇しており、その影響がわが国の金利にもそれなりのインパクトを与えてきたわけです。そうしたことも踏まえて、適切なイールドカーブ・コントロールをしっかりと行っていく必要がありますし、金融・為替市場についてはよく注視し、その経済・物価に対する影響をみていく必要があるということです。

(問) 二問お願いします。一問目は最近の急激な為替の変動が、企業や家計の心理に悪影響を及ぼし得ると思うのですが、既にそうした悪影響が及んでいるのか、またそうした動きによって経済が悪化してしまった場合は、現行の緩和政策を維持するだけではなく、緩和の強化ということになるのかどうか、そういう措置をとると、また更に円安が進んでしまうというデメリットもあると思うのですが、そこをどう考えていらっしゃるのでしょうか。

また、ちょっとこれは確認ですけれども、10年金利ターゲットの上下0.25%に収めると。この0.25%の金利よりも高い金利水準、あるいはこの金利ターゲットの上限、今0.25%、これを上に引き上げるというような、要は市場でいわれているレンジの拡大というのは、利上げ、金融引締めと同等であるという理解でよろしいでしょうか。

(答) まず、為替の問題については先ほど来申し上げているように、具体的な水準についてコメントすることは差し控えたいと思いますが、過去数週間に起こったような急速な為替の変動は、企業の計画策定に関して大きな不確実性をもたらすということで好ましくない、経済にマイナスになると考えています。具体的に今それが、例えば設備投資等に影響が出ているかといわれると、今のところは、企業収益は高水準で推移していますし、設備投資も一部に弱さはみられますが、全体としてはかなりしっかりした動きをしています。今のところ、直ちに為替の変動が企業の心理などに大きな影響を与えたということではないかもしれませんが、様々な経済界の方も言っておられるように、急激な為替の変動というのはやはり好ましくないということは、全くその通りであると思っています。なお、今申し上げたように、それから最初にも申し上げた通り、日本経済は全体として回復途上にあり、そういう中で、金融政策はしっかりとそれを支えていく必要があると思います。また、仮に、必要があれば、先ほど申し上げたように、躊躇なく更なる金融緩和を行う用意があるということです。もっとも、今のところ日本経済は、内外の色々な状況を反映して一部に弱めの動きも残っていますけれども、他方で感染症の影響が和らぎ、消費が回復しつつあり、それから設備投資も先ほど来申し上げているように高水準の企業収益を反映してかなりしっかりした動きをしています。従って、今の時点で何か更なる金融緩和をしなければいけないということではないと思いますが、必要があれば当然そういったことも行うということです。

それから、±0.25%のレンジというのは、昨年3月の点検で、長期金利の変動が一定の範囲内、具体的には上下に±0.25%程度であれば、金融緩和効果を損なわず、市場の機能度にプラスに作用するということを定量的に確認したことを踏まえた措置です。先ほど来申し上げている通り、様々なオペその他で、こうした金融市場調節方針と整合的なレンジ内で推移していますが、このところ欧米金利の動きに起因する金利上昇圧力がかかる中で、変動幅の上限に近い水準が続いています。こうした状況で、仮に変動幅の上限を引き上げれば、長期金利は0.25%を超えて上昇すると予想され、金融緩和効果は弱まると考えられますので、そういうことを行おうとは考えていません。

(問) 先ほどから総裁のお答えの中でも何度か出てきている文言で、今回の公表文のリスク要因のところで金融・為替市場の動向を十分に注視する必要があると、為替という文言を盛り込んでいます。これは日銀としても為替の動向を注視するというスタンスを明確にされたということだと思いますが、その注視したうえでどうなさるのかという部分が気になります。為替の動向を、今後金融政策を決める際に、判断材料に加えるということなのでしょうか。

そしてもう一点は、先日米国はFOMCで政策金利を0.75%引き上げました。米国は景気後退リスクを負いながらもインフレ抑制をしていくということになるのかもしれませんが、それでも米国が早期に、またしっかりめに、インフレを抑えるということが、日本経済それから日本の金融政策の行方にとっても重要だと考えていらっしゃるのでしょうか。

(答) 為替につきましては、従来から申し上げている通り、経済・金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいということです。過去数週間は、やや急速な為替の変動が起こったということで、これは好ましくないとはっきりと申し上げるとともに、そうした為替の動きが経済や物価に与える影響について、十分注視していく必要があるということです。ただ、どこの国の金融政策もそうですが、為替レートをターゲットにして金融政策を運営しているというところはないわけです。あくまでも金融政策は物価の安定のためということです。ご承知のように、日本銀行法でも明確に、金融政策の運営にあたっては、物価の安定を通じて、国民経済の健全な発展に資するようにとうたわれています。当然のことながら、従来から申し上げているように、経済が持続的な成長経路に乗って、労働市場がタイトになり、賃金が上昇して、賃金の上昇と物価の上昇とが進むことによって、2%の「物価安定の目標」を安定的に達成するということが目標です。そうした観点から金融政策を運営していますが、為替が経済や物価に様々な影響を与えることは事実なので、その動向についてはやはり十分注視していく必要があるということだと思います。

それからFRBは、ご指摘のように最近のFOMCで政策金利を0.75%引き上げることを決定しました。パウエル議長自身、労働市場が非常に強く、消費者物価上昇率が高めに推移している――ご承知の通り8.6%という非常に高い水準で推移している――ことを指摘されました。また、先行きについても、継続的な利上げが適切という考え方を示しています。日本銀行としては、米国の経済・物価情勢やそのもとでのFRBの金融政策運営、更にはその世界経済への影響について、もちろん注視していきます。FOMC参加者の先行きの経済見通しでも、インフレ率が引き上げられ、実質成長率は引き下げられ、そういった意味で不確実性が高まっているということをパウエル議長も指摘されていますが、ソフトランディングを実現するパスは可能であるとも述べています。いずれにせよ、米国の経済・物価情勢は、世界の経済・物価情勢に影響を与えますので、引き続き注視していきたいと考えています。

(問) 為替市場への動向を注視する、このようにステートメントで明記されるのは最近では異例、おそらくYCC導入以降では初めてではないかと思います。チーペスト銘柄に指値を打ったなどオペの追加もあって、債券市場の流動性が最近一層低下するなど、金融政策の副作用が一層目立ってきている状況です。こうした観点で、緩和政策の持続性を高めるという目的で、昨年3月以来の政策の点検というのを現時点で計画する必要性があるかどうか、総裁の考えを伺います。

(答) ご指摘のように、最近の為替あるいは金利の動きというのは、経済や物価に影響を与えるファクターですので、十分注視していかなければならないと思います。かつても、為替について注視すると申し上げたことがあると思いますが、そのときは確か円高方向に為替が急速に進んだ頃だったと思いますので、今回とは少し違うと思います。いずれにせよ、為替の変動、急速な変化が、経済・物価に影響を及ぼす可能性がありますので、十分注視していく必要があるということだと思います。なお、イールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節については、先ほど来申し上げている通り、国債買入れ額を弾力的に運営していく、更には指値オペ、あるいは連続指値オペといったものも活用して、イールドカーブ・コントロールのもとで、適切なイールドカーブが形成されていくようにしています。それは十分実現できていますし、今後とも実現できると思いますので、それ自体が何かイールドカーブ・コントロールの持続性に疑問を投げかけているということではないと思っています。なお、イールドカーブ・コントロール等の金融政策については、昨年3月に点検を行って、その結果を踏まえて様々な微調整も加えて政策運営を行っており、現時点で更なる点検が必要とは考えていませんが、常に世界の経済・金融情勢の変化に応じて、適切な金融政策を行っていく必要があるということは間違いないわけです。そうした観点から、常に、毎回の金融政策決定会合において、金融政策の効果、それから経済・物価の先行きの展望を十分議論・分析し、適切な対応をしていくということに尽きると思います。

(問) 今月の値上げ許容の発言についてですけれども、物価上昇に対して消費者からの反発の声が多くあったと思うのですが、総裁はこういった声に触れて、消費者の今のおかれている状況、苦しいという声が、総裁が想定されていた以上に多かったのか、それとも総裁の現状の認識とそんなに齟齬はなかったのか、この点見解をお伺いしたいです。また、先ほど来おっしゃっているように、賃金上昇が重要であるという文脈でのご発言ではありますけれども、総裁ご自身も、来年度以降のベースアップを含めた賃金上昇と講演でもおっしゃっていまして、来年度までに一般の生活者からすると相当の時間差があります。この点に照らして、日銀法2条の国民経済の健全な発展に資するための物価安定、この日銀の理念を、今、日銀が体現できているのか、この点についても見解をお願いします。

(答) 確かに、現在の物価上昇は、基本的には国際的な資源価格の上昇によるものですので、一種のコストプッシュ型のインフレで、日本の交易条件が悪化して、所得が海外に流出するという形で起こっていますので、私どもが目指している物価上昇とは異なっているということは間違いありません。先ほど来申し上げている通り、経済が持続的に成長し、そのもとで労働市場が十分タイトになり、賃金の上昇とともに物価も上昇していくという形を目指して金融政策を運営しなければならないと思っています。そうした意味で、今コロナ禍からの回復過程で、まだコロナ前のGDPの水準よりもちょっと低いところですし、GDPギャップもまだ残っているということですので、ここはしっかりと経済の回復を支えて、GDPギャップが解消し、労働需給がタイトになり、賃金も更に上がっていくという形で、2%の「物価安定の目標」を実現しなければならないと思っています。もちろん、今年の春闘での賃上げは、数年ぶりの高さであることは事実だと思いますし、夏季のボーナスはかなり良い見込みが示されていますが、それでもまだ不十分だと考えていまして、やはり経済がしっかりと回復して、労働需給がタイトになり、賃金が本格的に上昇していくという形で、2%の「物価安定の目標」が達成されるように、日本銀行としては最善の努力をしなければならないと思っています。

(問) 二点ほどお願いしたいのですが、今ほどもおっしゃっていましたけれども、金融緩和はコロナ禍からの経済回復を下支えするためというふうにおっしゃっておりましたが、為替市場においては、急激な変動の背景には日銀の低金利政策があるのではないかという指摘もあるわけですが、その辺りは、総裁はどのようにお考えになっているかお聞かせください。

もう一点、債券市場ですが、今朝方も、10年金利が0.25%を超えたり、7年とか更に短いところが超えているわけですが、これでも総裁、先ほどおっしゃっていますが、金融調節方針でいっているものと整合的にイールドカーブが形成できていると言えるのでしょうか。その辺りのご説明をお願いします。

(答) 為替の動きについては、色々な要因で為替は動いているわけでして、内外金利差の影響を受ける部分がありますし、またその背後にある経済・物価情勢の違い、更には国際金融資本市場の動向、輸出入の需給など、様々な要因で変動するということであります。実際、現在の内外金利差の背景には、インフレ状況の違いがあるため、現在は、市場は特に金利差の方に注目している状況にあるということではないかと思います。こうした要因のうち、どれが為替相場に影響を与えるかというのは、その時々の経済・金融情勢などによって変わり得るものだというふうに思っています。

もう一つのご質問はイールドカーブ・コントロールのことですが、確かに、今朝方、海外の金利の上昇を受けて、それから一部に日本銀行が金融政策について何らかの変更を加えるのではないかという思惑などもあって、金利が0.25%を上回った局面もあったようです。けれども、それはごくわずかなことであって、現在はまた0.25%以内にしっかりと収まっています。従って、確かに欧米の金利の上昇が相当急速だったということで、その影響が出たことはあったと思いますが、私どもとしては、そうしたもとでも、様々なオペの工夫によってしっかりとしたイールドカーブを形成することができると考えています。

(問) 先ほど来、今後も10年物金利というものを指値など色々なオペ、買入れを通じて抑えていくということですが、そこにきて、今、足許マーケットの中で国債の流動性について懸念をする声があるのですけれども、その点について総裁はどのように考えていらっしゃるのか、対応する考えがあるのかというのがまず一つです。

あと、先ほど来、限界というのは生じていないということですけれども、今週主要な中央銀行が引締め方向の動きをみせて、日銀は違う方向をはっきりとみせたわけですけれども、今後も限界は来ないと総裁ははっきり言って頂けるのかどうか、お願いします。

(答) これはやや哲学的な議論になってしまうと思いますが、私どもの「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、先ほど来申し上げているような、短期の政策金利と、10年物国債の金利についてターゲットを作ってそれを維持することによって、適切なイールドカーブを形成するものです。そのためには、国債の買入れ額を必要なだけ買い入れることによって、それを実現するということですので、理論的には可能であり、海外の金利が上がっても、上昇圧力に対して国債の買入れ額を増額する、あるいは指値オペを行うなど様々な形で、基本的にイールドカーブ・コントロールを維持できると考えています。

それから、最近の連続指値オペその他によって、イールドカーブをしっかりとした形で安定させようとしているわけですが、他方で先物市場がかなり大きく動いて、現物と先物の値動きが乖離している、あるいは流動性が低下しているのではないかということも言われているわけですので、そうしたことに対しては、適切な対応を取っていきます。例えば、従来から日本銀行の買入れに伴って、特定の銘柄の流動性が低下するということがあった場合には、国債補完供給制度などを通じて対応してきたところであり、いずれにせよ国債の流動性については、十分注視して適切な対応を取っていくということに尽きると思います。

(問) 先ほどの為替の質問に関連して、総裁は、為替が変動する要因は様々で、時期によってどれが重視されるか変わるとおっしゃいましたが、今足許をみれば、やはり各国の中央銀行の金融政策の違い、そして金利差が意識されて、もしかしたら合理的じゃないのかもしれませんが、市場参加者がかなりそれを材料視しているということが言えると思うのですけれども、総裁のお考えはいかがでしょうか。それに関連し、材料視されて急速に円安が進んでいるとして、更にそれが今後も続いたり深刻化するとなれば、今の金融政策を見直すという余地はあり得るのでしょうか。

(答) 先ほど来申し上げている通り、金利差というものが為替に影響するということは十分あり得るわけですし、ご指摘のように、今そういったことを材料視して市場が動いているという可能性は否定できないと思いますが、そもそも為替は様々な要因によって動きます。その為替について、中央銀行が為替をターゲットにして金融政策を運営するということはないわけであり、あくまでも物価の安定を目標にして金融政策を運営するということに尽きるわけですので、為替をターゲットにして金融政策を運営するということはないと申し上げられると思います。

(問) 先ほど、0.26%がついたというご質問があったのですけれども、これについては、わずかなことというようなことではなくて、総裁がラストリゾートと言っておられた指値オペが破られたわけですから、これは相当なことだと言った方がいいと思うんですね。その危機感が、この会見ではあまり伝わってこないのが少し残念ですし、これは総裁の責任だとは全く思わないのですけれども、破られたことについては、やはり市場の担当者の責任ではあると思うんですね。そういう意味で、極端に言えば、市場の担当者は更迭すべきではないかと思うのですけれども、それについて総裁はどうお考えになるか、これが一点目です。

二点目は、イールドカーブ・コントロールについては、最初、2016年にマイナス金利の打開策として導入をされて、最初はゼロ%程度から始まって、0.1、0.2、それから昨年3月に0.25まで幅を拡げてきているわけですね。この0.25は今回のステートメントに載っていなくて、公表をきちんとすることについては総裁が主導してこられたのにもかかわらず、前回は点検に載っているからということなのかもしれませんけれども、文書に載せなくなったことについては、甚だ不安を感じなくはないと。なぜ今回は載っていないのかということと同時に、幅を拡げてきて、更に点検以降、日銀の中で事務方の方々は、これをもっと拡げるとか、出口に向けてもっと政策を拡大していこうというような意見を随分具申されていたようですけれども、それに対して、総裁は常に蹴飛ばされていたという事実があったと思うのですね。それについて、極端に言うと、日銀の中に、プロパーの方と総裁の間で対立があるといってもいいような内容ではないかと思うのですけれども、そういう事実についてと総裁のご見解を賜りたいと思います。

(答) 従来から申し上げているように、±0.25%程度のレンジの中で、10年物国債金利が変動するということを認めるということでありまして、それを超えるような場合には、指値オペその他各種の手段でこれをその範囲内に入るようにしてきています。従いまして、ご指摘のようなことは当たらないと思います。

また、次のご質問で、日本銀行の中で意見が割れているのではないかというようなことを言われましたが、そういうことは全くありません。

(問) 総裁がおっしゃる通り、今のコストプッシュ型インフレに金融緩和が有効でないというご説明はよく分かるのですけれども、それでも今、世論はこの物価上昇に対して、非常に警戒し反発しているわけですが、その中で物価を上げるための金融政策を引き続き続けるということは、民意と逆の政策をやっているということではないのでしょうか。せめてこの金融緩和、超金融緩和を、もっとニュートラルな政策に正常化するという選択肢はないのでしょうか。今のままですと異次元緩和を10年続けて総裁は交代されることになるわけですが、このまま異次元緩和を続けたまま総裁が日銀を去るというのは、無責任ということになりませんでしょうか。

(答) そういうふうに全く考えておりません。今の物価上昇は、基本的に国際商品市況、エネルギー・食料品の国際価格が上昇したことを受けて2%程度上昇しているわけですので、これはむしろ景気に対する下押し圧力になっているわけです。従って、そういう時に金利を上げると、あるいは金融を引き締めると、更に景気に下押し圧力を加えることになってしまいます。それは何回も申し上げますが、日本経済がコロナ禍から回復しつつあることを否定してしまう、経済が更に悪くなってしまうということにほかなりませんので、そうした金融政策は適当ではないと考えています。

(問) CBDCの件でお伺いしたいのですけれども、先月、FEDのブレイナード副議長が、CBDCに関しては米国がリード役を果たすことが重要だというようなことを言われ、一方、スタッフも、米国でもしCBDCの導入を決めるようなことがあった場合には5年くらいかかると言っています。総裁は、先日、国会で、2026年までには導入するかどうかを決めるというような方向性を言われていたかと思うのですが、現状での検討状況をできればお伺いしたいのですけれども、よろしくお願いします。

(答) ご案内の通り、日本銀行は昨年4月に実証実験を開始して、本年3月までにCBDCの基本機能に関する検証を終了しました。4月からは実験の第二段階として、CBDCに様々な周辺機能を付加して、その実現可能性や課題を検証しています。また、CBDCの活用方法、中央銀行と民間事業者の協調・役割分担のあり方など、制度設計面の検討にも取り組んでいます。この間、海外の多くの中央銀行でも、CBDCの検討が進んでいるようであり、欧州では来年9月にデジタルユーロに関する2年の「調査フェーズ」を終えて、本番システムの開発を意味する「実現フェーズ」へ移行するかどうかを判断すると言っており、「実現フェーズ」と合わせて5年くらいかかるということを言っていますけれども、わが国でCBDCを導入するかどうかは、こうした内外の情勢を十分踏まえて、今後、国民的な議論の中で決まっていくものと考えており、日本銀行としては、その前提になるものとして、CBDCに関する技術面および制度面の検討をしっかりと進めてまいりたいと考えています。

(問) 総裁のご認識の確認ですが、前回の展望レポートの政策委員見通しで、新たにコアコア物価の予測を出され、その中央値をみますと、22年度が0.9%、23年度が1.2%、24年度が1.5%と、0.3%ポイントずつ、いわゆる等差で高まっています。日銀の先々の物価見通しを踏まえて、仮にではあるのですが、その上昇ラインを伸ばすと2026年度に、物価安定の目標の2%を超えることになります。4月時点ではあるのですが、政策委員の中心的な見方として、今の緩和政策の出口について、足許では距離を置きつつも、26年度には手をかける環境が整うとみていらっしゃるのか、もしくはそもそも今申し上げた予測値のとらえ方というのは間違っているのか、その点を伺えればと思います。

(答) 予測値といいますか、生鮮食品とエネルギーを除いた見通しはご指摘の通りです。次回の展望レポートで、更にその後の状況も踏まえて新たな委員の見通しが出てくると思いますが、ご指摘のような一定のトレンドになるのかどうかは分かりませんし、あくまでも委員の見通しの中央値は、2022、2023、2024年度までを示しているだけです。その先のことについてまで、何か政策委員の合意があるとか、あるいは見通しが提示されているということはないと思います。いずれにせよ、そうしたことを毎回の政策委員会で議論して適切な金融政策を運営して、安定的・持続的な形で2%の「物価安定の目標」を実現することを目指すということに尽きると思います。

(問) 先ほど総裁は、為替をターゲットに金融政策を運営することはないと繰り返しおっしゃいました。値上げに苦しむ家計や企業の一部では、日銀の金融政策の修正による円安の是正を望む声さえあります。現在の日本の経済環境で、仮に日銀が金融引締め的な政策修正をした場合に、経済にはどのような影響があるとお考えでしょうか。

(答) これは非常にシンプルな話で、先ほど来申し上げているように、コロナ禍からの回復途上で、まだGDPもコロナ前の水準よりも2%強下回っているという状況にあります。そうしたところで金融引締めを行う、金利を引き上げるということをすれば、当然経済は更に下向きに動いてしまいます。景気も悪くなるというだけでなくて、経済成長も大きなマイナスになるといった惧れがありますので、今の時点で金融引締めを行うということは適切でないと思っています。

(問) 東京大学の吉川洋名誉教授は、先進国の中で物価高と賃金下落を招いたのは日本だけだと金融緩和政策を批判しているのですが、結局、アベノミクスの柱である金融緩和は大企業、お金持ちは株安、円安でもうかっても、庶民は物価高で苦しむというのが結果だと思うのですが、これを是正しないのはなぜなのでしょうか。大企業・金持ち優遇、庶民二の次というのが日銀のお考えなのか、アベノミクスを否定すると安倍さんに怒られるとか忖度しているとか、そういう理由なのでしょうか。このままだと黒田インフレと言われかねないと思うので、ご反論をお願いします。

(答) 全くそういうふうに考えておりません。2013年1月に日本銀行の政策委員会の独自の判断で2%の「物価安定の目標」を決め、それが政府と日本銀行の「共同声明」にも採用され、2013年4月から「量的・質的金融緩和」が始まったわけです。そうしたもとで、それまで15年続いたデフレは、デフレでない状況になり、ベアも復活し、経済成長も復活し、先ほど来申し上げているようにデフレではなくなったわけですが、残念ながら2%の「物価安定の目標」は達成されていなかったということです。しかしそうした中で、雇用も非常に大きく拡大し、そうした面では所得も幅広く上昇したということがありますので、ご指摘のようなことは全くなかったと考えています。足許の2%の物価の上昇は、そうしたことによって上昇しているのではなくて、国際的な資源価格の上昇によるコストプッシュ型のインフレです。交易条件が悪化し、所得が海外に流出して経済を下押しするという惧れがあるわけですので、今、コロナ禍からの回復過程にある日本経済をしっかりと支えていく必要があると考えています。

以上