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【挨拶】全国信用組合大会における挨拶

日本銀行総裁 植田 和男
2023年10月20日

1.はじめに

本日は、全国信用組合大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。このように大会が盛大に開催されましたことを心よりお慶び申し上げます。

信用組合は、協同組織金融機関として、「相互扶助」の理念に基づき、中小企業・小規模事業者、また、勤労者や地域住民の皆様に寄り添いながら、その活動や生活を支え、ひいてはわが国経済の発展に大きく貢献してこられました。あらためてこれまでのご尽力に対し、日本銀行を代表し、深く敬意を表します。また、日頃より、日本銀行の政策・業務運営にご理解・ご協力を賜り、厚く御礼を申し上げます。

本日は、はじめに、最近の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営についてご説明し、次に、金融システム面の話題についてお話しします。

2.経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営

はじめに経済情勢についてです。

わが国の景気は、緩やかに回復しています。海外経済の回復ペースは鈍化していますが、輸出や生産は、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっています。企業収益は全体として高水準で推移しています。企業の業況感は、半導体の供給制約の緩和や個人消費の回復、価格転嫁の進展などを背景に、製造業・非製造業ともに改善を続けています。こうしたもとで、設備投資は、人手不足対応やデジタル・脱炭素関連などを中心に緩やかに増加しており、9月短観における今年度の設備投資計画も、2桁の高い伸び率を示しています。また、雇用・所得環境は、緩やかに改善しています。今春のベースアップを受けて一般労働者の所定内給与が伸び率を高めているほか、夏季賞与も増加したとみられます。こうしたもとで、個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、緩やかなペースで着実に増加しています。先行きのわが国経済は、当面、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、感染症下で抑制されてきた需要、いわゆるペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかな回復を続けるとみられます。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えています。

物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果などによって、ひと頃に比べればプラス幅を縮小していますが、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、足もと9月は+2.8%となっています。先行きは、こうした価格転嫁の影響が減衰していくもとでプラス幅を縮小するとみています。その後は、マクロ的な需給ギャップが改善し、企業の賃金・価格設定行動などの変化を伴う形で中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、再びプラス幅を緩やかに拡大していくと考えています。

リスク要因としては、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高いと考えています。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があります。

日本銀行としては、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指していく方針です。

3.金融システム面の話題

次に、金融システム面の話題です。

わが国金融システムは、引き続き、世界的な金融環境の引き締まりとそれに起因する様々なストレスのもとでも、全体として安定性を維持しています。他方で、世界的な経済・物価情勢を巡る先行きの不確実性は高く、ストレス局面が長期化する可能性があります。こうしたもとで信用組合を取り巻く環境や課題について、3点お話ししたいと思います。

1点目は、取引先企業に対する経営支援についてです。

この数年間を振り返ってみますと、信用組合は、感染症の流行が拡大する中でも、中小企業・小規模事業者の資金繰りをしっかりと支えてこられました。もっとも、足もとでは、経済活動の再開が進む一方で、感染症拡大以前からの業況不芳先を中心に経営悪化や倒産する企業も増えています。加えて、仕入価格の上昇や人手不足など、企業を取り巻く経営環境が大きく変化する中で、企業は製品・サービスの高付加価値化やデジタル化による生産性向上などを通じて成長力を高める必要に迫られています。

そうしたもとでは、企業の実情に応じて、資金繰りの支援のみならず、ビジネスマッチングや人材紹介等のコンサルティング、事業承継等の事業構造転換に向けた支援など、多面的なサポートが求められます。取引先企業に寄り添いながら、きめ細かな支援を継続されてきた信用組合に期待される役割はきわめて大きいと考えています。

2点目は、金利リスク管理についてです。

今年3月の米国の銀行破綻の原因については、この間、国際的にも検証が続けられています。主として破綻した銀行に固有のビジネスモデル等に大きな問題があったと考えられていますが、他方で、金利リスク管理の重要性が再認識されました。この点、わが国においても、経済・物価を巡る不確実性がきわめて高いもとで、金利リスク管理の重要性は一段と増しています。金利環境の変化が、保有有価証券の評価損益のみならず、貸出や預金の市場金利に対する金利追随率や金利感応度などを通じて金融機関収益に与える影響についても十分意識して、引き続き、適切なリスク管理を行っていただきたいと思います。

3点目は、持続的な経営基盤の強化についてです。

信用組合が今後も持続的に地域経済や企業を金融面から支えていくためには、信用組合自身が、適切なガバナンスとリスク管理のもとで、収益力強化と経営効率化の両面から経営基盤を強化していくことが不可欠です。対面の経済活動が一段と活発化するもとで、これまで培われてきた地域に深く密着した信用組合の強みをさらに発揮されるとともに、インターネット・バンキングの活用や取引先のデジタル化支援など新しいアプローチもうまく組み合わせながら、業務の効率化やサービスの向上・高度化を図っていかれることを期待しています。

4.おわりに

最後に、信用組合業界の皆様の今後のますますのご健勝とご発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶といたします。ご清聴ありがとうございました。