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「通貨及び金融の調節に関する報告書」概要説明

平成17年 3月31日、参議院財政金融委員会における福井日本銀行総裁報告

2005年 3月31日
日本銀行

[目次]

はじめに

 日本銀行は昨年12月、平成16年度上期の「通貨及び金融の調節に関する報告書」を、国会に提出いたしました。本日、日本銀行の金融政策運営について詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

日本経済の動向

 最初に、最近の経済金融情勢について、ご説明申し上げます。

 わが国経済は、IT関連財の生産・在庫調整が深まったことなどから、「踊り場」的な局面が続いています。もっとも、景気回復の基本的なメカニズムはしっかりと維持されており、最近では、ひと頃弱めの動きとなっていた生産も横這い圏内に持ち直しております。わが国経済は、遠からず「踊り場」的な局面を脱し、持続性のある成長軌道に向けて回復を続けていくものと考えています。

 やや詳しくご説明しますと、まず前提となる海外経済は、米国や中国を中心に拡大基調を続けると考えられます。また、IT関連財の調整は、需要が伸びを持続している中で、メーカーが早めの対応を行ってきたこともあって、遠からず一巡すると見込まれます。こうしたもとで、輸出や生産は増加していくものとみております。また、企業の過剰設備・過剰債務などの構造的な調整圧力は和らいできており、企業収益や設備投資は増加基調を続けると予想されます。さらに、雇用面の改善傾向が続くもとで、雇用者所得の下げ止まりが明確になっています。このため、個人消費は、緩やかな増加に向かう可能性が高いと思われます。

 もっとも、IT関連財の需要動向や、このところ高値圏で推移している原油価格の動き、およびこれらが内外の経済に与える影響については、引き続き注意してみていく必要があると考えております。

 次に、物価面についてみますと、国内企業物価は、昨年初来上昇していましたが、足許は弱含んでいます。先行きは、原油価格や内外の商品市況の上昇を受けて、再び強含んでいく可能性が高いとみています。一方、消費者物価は、企業部門の生産性の向上や人件費の抑制を背景に、景気回復に物価が反応しにくい状況が続く中で、前年比小幅のマイナスで推移しています。先行きについても、規制緩和等に伴う電気・電話料金の引下げの影響もあって、当面小幅のマイナスで推移すると予想されます。

 金融面では、日本銀行の潤沢な資金供給のもとで、短期金融市場は総じて落ち着いた状況が続いております。明4月1日には、ペイオフの全面解禁を迎えますが、金融機関の健全性回復に向けた対応が進んできていることから、金融システムに対する不安感は大幅に後退しています。こうしたもとで、市場には資金調達に対する安心感が定着しており、日本銀行の資金供給オペに対して十分な応募が集まらないケースがみられるなど、金融機関の流動性需要も低下しています。

 資本市場では、株価は総じて底堅い動きとなっており、長期金利は、一時強含む局面もみられましたが、概して安定的に推移しています。

 企業金融を巡る環境は、総じて緩和される方向にあります。金融機関の貸出姿勢は緩和してきており、企業からみた金融機関の貸出態度も引き続き改善しています。こうしたもとで、貸出の動きを民間銀行についてみると、その減少幅が緩やかに縮小しています。さらに、CP・社債といった資本市場を通じた資金調達環境も良好な状況が続いています。

最近の金融政策運営

 次に、最近の金融政策運営について、申し述べさせて頂きます。

 日本銀行は、現在、日銀当座預金残高という「量」を操作目標として金融緩和政策を実施しています。具体的には「30〜35兆円程度」という、法律等の定めにより金融機関に保有が義務付けられている金額を大幅に上回る目標値のもとで、金融市場に潤沢な資金供給を行っています。このことは、金融市場の安定を通じて緩和的な企業金融の環境を維持することに貢献していると考えております。

 日本銀行は、この金融緩和政策を「消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで継続する」という「約束」をしています。この「約束」は、市場金利を安定させる効果があり、そのもとで、企業にとっては引き続き低利での資金調達が可能となる環境が整えられています。このような金利を通じた景気支援効果は、景気が回復し企業収益が改善する状況において、より強まっていくと考えられます。

ペイオフ全面解禁後の金融システム面への対応

 最後に、金融システム面ですが、先ほど申し上げたとおり、わが国の金融システムは安定を取り戻しつつあり、明日からはペイオフが全面解禁となります。金融機関としても、顧客ニーズに応えて創造的な業務展開を図りつつ、経済を支えていくことがより一層求められるようになります。こうした変化を受け、日本銀行の金融システム面への対応も、これまでの危機管理重視から、金融システムの安定を確保しつつ、公正な競争を通じ金融の高度化を支援していく方向へと切り替えていく必要があると考えております。

 日本銀行としては、金融システムの機能度や頑健性の向上に貢献していくため、金融機関の新しい業務展開などの動きを積極的に後押ししていくほか、私どもの業務についても様々な工夫を凝らしていきたいと考えております。

おわりに

 以上申し述べましたとおり、日本経済は、現在「踊り場」的な局面にありますが、世界経済の拡大が続き、IT関連財の調整が進捗するもとで、回復を続けていくと予想されます。これを持続的な成長に繋げていくためには、引き続き、幅広い経済主体の経済活性化に向けた取り組みが重要だと考えております。

 日本銀行といたしましては、消費者物価指数の前年比が小幅のマイナスを続けている現状においては、先程申し上げた「約束」に沿って粘り強く金融緩和を続けることで、日本経済を金融面からしっかりと支援して参る所存です。

 また、日本銀行が、わが国の中央銀行として、国民のみなさまから負託された責務を適切に果たしていくためには、私どもが提供する様々な中央銀行サービスの高度化を進めるとともに、規律ある組織運営に努めていくことが一層重要になっていると考えております。こうした認識を踏まえ、日本銀行では、先日、新たな試みとして、今後5年間の経営方針を示した「中期経営戦略」を策定・公表しました。日本銀行としては、こうした取り組みを通じて、国民の信認を高め、経済の健全な発展に貢献するという使命達成のために、今後とも努力して参りたいと考えております。

 ありがとうございました。

以上