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「通貨及び金融の調節に関する報告書」概要説明

平成17年 8月 2日、衆議院財務金融委員会における福井日本銀行総裁報告

2005年 8月 2日
日本銀行

[目次]

はじめに

 本日、日本銀行の金融政策運営について詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

日本経済の動向

 最初に、最近の経済金融情勢について、ご説明申し上げます。

 わが国の景気は、IT関連分野における調整の動きを伴いつつも、回復を続けています。

 この点をやや詳しくご説明しますと、輸出は、昨年半ばにかけて大幅に増加した後、このところ中国向けを中心に伸び悩んでいますが、IT関連分野の在庫調整が進むもとで、生産は緩やかな増加傾向にあります。企業収益が高水準を続ける中、企業の景況感にも再び改善がみられ、設備投資は増加を続けています。また、雇用面の改善や賃金の下げ止まりから、雇用者所得は緩やかながら増加しており、そのもとで個人消費は底堅く推移しています。

 こうしたことを踏まえますと、わが国の景気は、「踊り場」を脱却しつつあると言えます。

 先行きについても、海外経済の拡大が続くもとで、輸出の伸びが次第に高まっていくとみられるほか、国内民間需要も、高水準の企業収益や、雇用者所得の緩やかな増加を背景に、引き続き増加していく可能性が高いと考えられます。こうしたことから、緩やかながらも息の長い景気回復が続くとみられます。

 物価面についてみますと、経済全体の需給バランスが基調として改善を続ける中で、国内企業物価は、原油価格上昇の影響などから、上昇しています。先行きは、上昇基調を続ける可能性が高いものの、当面の上昇テンポは鈍化するとみています。消費者物価の前年比は、規制緩和等に伴う電気・電話料金の引き下げの影響もあって、基調としては小幅のマイナスとなっています。先行きについても、当面は小幅のマイナスで推移すると予想されます。ただ、本年末から来年初にかけては、米価格の下落や電気・電話料金引き下げといった一時的な要因の影響が剥落していく過程で、前年比がプラスに転じる可能性が高いと考えられます。

 金融資本市場では、株価は総じて底堅い動きであり、長期金利は安定的に推移しています。また、企業金融を巡る環境は、総じて緩和の方向にあります。すなわち、金融機関の貸出姿勢は積極化しており、こうしたもとで、民間銀行貸出は減少幅が緩やかに縮小してきています。また、CP・社債といった資本市場を通じた資金調達環境も良好な状況にあります。

最近の金融政策運営

 次に、最近の金融政策運営について、申し述べさせて頂きます。

 日本銀行は、量的緩和政策のもとで潤沢な資金供給を続けています。量的緩和政策の枠組みは、日本銀行が、金融機関が準備預金制度等により預け入れを求められている額を大幅に上回る日本銀行当座預金を供給することと、そうした潤沢な資金供給を消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで堅持することを約束することから成り立っています。先週7月27日の金融政策決定会合では、「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することを決定しました。

 この間、短期金融市場では、金融システム不安の後退を背景に、金融機関の流動性需要が減少しており、資金余剰感が強まってきています。日本銀行では、こうした情勢を踏まえ、5月の金融政策決定会合以降、市場機能への影響にも配慮しながら最大限の資金供給努力を行ったうえで、金融機関の資金需要が極めて弱いと判断される場合には、当座預金残高が一時的に目標値を下回ることがありうることとしています。これは、量的緩和政策の方針転換を企図するものではなく、むしろ量的緩和政策をより円滑に運営していく観点から実施しているものです。

ペイオフ全面解禁後の金融システム面への対応

 最後に、金融システム面ですが、先ほど申し上げたとおり、わが国の金融システムは安定を取り戻しつつあり、4月からのペイオフ全面解禁も円滑に実施できました。今後、金融機関としては、顧客ニーズに応えて創造的な業務展開を図りつつ、経済を支えていくことがより一層求められています。このため、日本銀行の金融システム面への対応も、これまでの危機管理重視から、金融システムの安定を確保しつつ、リスク管理や経営管理の高度化など、金融の高度化に向けた民間の取組みを支援していく方向へと切り替えているところです。

 日本銀行としては、金融システムの機能度や頑健性の向上に貢献していくため、金融機関の新しい業務展開などの動きを積極的に後押ししていくほか、私どもの業務についても様々な工夫を凝らしていきたいと考えております。

おわりに

 以上申し述べましたとおり、日本経済は、世界経済の拡大が続くもとで、回復を続けております。先行きについても、緩やかながらも持続性のある成長軌道に移行していくものと見込まれます。

 日本銀行といたしましては、今後とも、情勢の変化を良く見極めながら、適切に政策運営を行って参ります。現在、消費者物価指数がなお小幅の下落基調を続けているもとにおいては、先程申し上げた「約束」に沿って金融緩和を続けることで、物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現のために、金融面からの支援を行って参る所存です。

 こうした政策面での対応に加え、日本銀行が、わが国の中央銀行として、国民のみなさまから負託された責務を適切に果たしていくためには、私どもが提供する様々な中央銀行サービスの高度化を進めるとともに、規律ある組織運営に努めていくことが一層重要になっていると考えております。このような認識を踏まえ、日本銀行では、今後5年間の経営方針を示した「中期経営戦略」を策定したところです。こうした取り組みを通じて、国民の信認を高め、経済の健全な発展に貢献するという使命達成のために、今後とも努力して参りたいと考えております。

 ありがとうございました。

以上