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「通貨及び金融の調節に関する報告書」概要説明

平成18年 2月21日、参議院財政金融委員会における福井日本銀行総裁報告(武藤副総裁代読)

2006年2月21日
日本銀行

目次

はじめに

 日本銀行は、昨年12月、平成17年度上期の「通貨及び金融の調節に関する報告書」を国会に提出いたしました。本日、日本銀行の金融政策運営について詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

日本経済の動向

 最初に、最近の経済金融情勢について、ご説明申し上げます。

 わが国の景気は、一昨年後半から昨年夏頃にかけて一時的に成長が鈍化していましたが、その後、この「踊り場」を脱却して、着実に回復を続けています。

 この点をやや詳しくご説明しますと、輸出や生産は、増加を続けています。また、企業収益は高水準で推移しており、こうしたもとで、設備投資も引き続き増加しています。家計部門では、雇用者数の増加が続き、賃金も増加に転じていることから、雇用者所得は緩やかに増加しています。雇用・所得環境が着実に改善しているもとで、個人消費は底堅く推移しています。

 先行きについてみると、海外経済の拡大を背景に、輸出は増加を続けていくとみられます。また、企業の過剰債務などの構造的な調整圧力が概ね払拭されたもとで、高水準の企業収益や雇用者所得の緩やかな増加を受けて、国内民間需要も引き続き増加していく可能性が高いと考えられます。このように、外需と内需、そして企業部門と家計部門がともに回復し、前向きの循環メカニズムが働く環境が整っていることから、緩やかながら息の長い景気回復が続いていくとみています。もとより、高騰を続ける原油価格やそのもとでの海外経済の動向など、景気に対するリスク要因については、引き続き十分注意を払っていく必要があると考えています。

 物価面では、物価を巡る環境は好転を続けています。すなわち、潜在成長率を上回る成長が続く中、需給ギャップは引き続き緩やかに改善しています。ユニット・レーバー・コストは、生産性上昇による押し下げが続いていますが、賃金が上昇に転じているもとで、一頃に比べ、低下幅が縮小してきています。この間、各種アンケート調査などでみた企業や家計の物価見通しも、徐々に上方修正されてきています。

 物価指数に即してみると、国内企業物価の前年比は、国際商品市況高や昨年後半における円安などを背景に、90年3月以来の高い上昇幅となっており、先行きも上昇を続けるとみられます。消費者物価(全国、除く生鮮食品)は、緩やかな下落が続いていましたが、昨年11月、12月と2か月連続で小幅の前年比プラスとなりました。1月以降の前年比は、電話料金引き下げの影響が剥落していくこともあって、比較的はっきりとしたプラスになると見込まれます。その後も、需給ギャップが緩やかな改善を続け、ユニット・レーバー・コストからの下押し圧力が減じていく中、プラス基調が定着していくとみています。

 金融面では、企業金融を巡る環境は、総じて緩和の方向にあります。CP・社債の発行環境は良好な状況にあるほか、民間銀行の貸出姿勢は積極化してきています。また、民間の資金需要は下げ止まりつつあります。こうしたもとで、CP・社債の発行残高は前年を上回る水準で推移しており、民間銀行貸出も、貸出債権の流動化や償却を調整したベースでみますと、昨年8月に前年比プラスに転じた後、プラス幅が拡大してきています。

 この間、地価は、全体としては、なお下落傾向が続いていますが、このところは下落幅を縮小しており、都心部など一部の地域では上昇に転じてきています。

最近の金融政策運営

 次に、最近の金融政策運営について、申し述べさせて頂きます。

 日本銀行は、量的緩和政策のもとで潤沢な資金供給を続けております。今月8日、9日に開催された金融政策決定会合においても、「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することを決定いたしました。

 量的緩和政策の枠組みは、日本銀行が、金融機関が準備預金制度等により預け入れを求められている額を大幅に上回る日本銀行当座預金を供給することと、そうした潤沢な資金供給を消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで続けることを約束すること、の2つの柱から成り立っています。

 こうした政策の効果は、経済・物価情勢や金融システムの状況に応じて変化してきています。金融システムに対する不安感が強かった時期においては、潤沢な資金供給は、金融機関の流動性需要に応えることによって、金融市場の安定や緩和的な金融環境を維持し、経済活動の収縮を回避することに大きな効果を発揮しました。

 現在は、不良債権問題が概ね克服されたことなどから、金融システムは安定を取り戻しており、金融機関の予備的な流動性需要は大きく減少しています。また、既に述べましたように、消費者物価の前年比は、足許若干のプラスに転じており、やや長めの金利形成における「約束」の果たす役割はかなり縮小しています。そうしたもとで、量的緩和政策の経済・物価に対する刺激効果は、短期金利がゼロであることに伴う効果が中心になってきています。

 景気・物価情勢が好転する中で低金利が維持されていることにより、金融緩和の効果は強まってきています。こうしたもとで、量的緩和政策の枠組みの変更については、今後の経済・物価情勢を十分点検したうえで、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)に基づく約束に沿って、適切に判断していきたいと考えています。

おわりに

 以上申し述べましたとおり、日本経済は着実に回復を続けています。内閣府の景気基準日付によると、今回の景気拡大は2002年1月に始まってから4年を経過しており、景気の拡大期間としては既に戦後3番目の長さになります。先行きについても、緩やかながら息の長い景気回復を続けていくとみられますが、この点については、今後とも丹念にみて参ります。地域経済の状況についても、支店における調査などを通じて、引き続きしっかりと点検していきたいと考えております。

 日本銀行は、物価の安定を通じて、日本経済が持続的な成長を実現していくことを目指し、金融政策を運営しています。今後とも、先行きの経済・物価情勢の変化をしっかり見極めながら、緩和的な金融環境を維持することにより、物価安定のもとでの持続的成長の実現に向けて金融面からしっかりとサポートしていく所存です。

 ありがとうございました。

以上