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【概要説明】通貨及び金融の調節に関する報告書

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参議院財政金融委員会における概要説明

日本銀行総裁 白川 方明
2011年8月9日

目次

はじめに

日本銀行は、本年6月に、平成22年度下期の「通貨及び金融の調節に関する報告書」を国会に提出いたしました。今回、日本経済の動向と日本銀行の金融政策運営について詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

わが国の経済金融情勢

まず、わが国の経済金融情勢について、ご説明申し上げます。

わが国経済の現状をみると、関係者の努力によって、震災による供給面の制約が和らぐ中で、着実に持ち直してきています。先行きについても、生産活動が回復していくにつれ、輸出の増加や、資本ストックの復元に向けた需要の顕現化などから、緩やかな回復経路に復していくとみられます。

しかしながら、日本銀行としては、こうした見通しを巡る不確実性が高いことも認識しており、このところ、景気の下振れリスクにより留意すべき情勢になっていると判断しています。海外経済をみますと、米国においては、債務上限問題が一応の決着をみた後も、市場では、財政健全化を巡る懸念は払拭されておらず、景気の先行きに関する見方も慎重化しています。これに加えて、欧州では周縁国のソブリン・リスク問題が、また新興国については物価安定と成長の両立という課題があるなど、海外経済には、大きな不確実性があります。こうした海外情勢や、それらに端を発する為替・金融資本市場の変動は、わが国の企業マインドひいては経済活動にマイナスの影響を与える可能性があります。

物価面では、消費者物価の前年比は、小幅のプラスで推移していますが、今月に予定されている物価指数の基準改定に伴い、下方改定される可能性が高いと認識しています。その点も踏まえますと、物価安定の実現までにはなお時間を要するとみられます。

この間、最近の国際金融市場の緊張に対して、G7の財務大臣・中央銀行総裁は、緊密な連絡と適切な協力のもとで、金融市場の安定と流動性を確保するため行動をとる準備があることを、昨日、明らかにしました。

金融政策運営

次に、日本銀行の金融政策運営について、ご説明申し上げます。

第1に、日本銀行は、包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和を推進しています。この包括的な金融緩和政策のもとでは、資産買入等の基金を通じて、長めの市場金利の低下と、各種リスク・プレミアムの縮小を促しています。先週開催した金融政策決定会合では、先ほど述べた景気の下振れリスクに対応するため、資産買入等の基金を10兆円程度増額し、50兆円程度とすることを決定しました。

第2に、日本銀行は、金融市場の安定確保に努めています。

第3に、日本経済の最大の課題である成長基盤の強化については、この目的に資する融資や投資を実施した金融機関に対し、日本銀行は、国債等の担保を裏付けとして、きわめて低い金利で資金を供給しています。本年6月には、この枠組みをさらに効果的なものとする観点から、金融機関による出資や動産・債権担保融資、いわゆるABLなどの取り組みに対して、新たに5000億円の貸付枠を設定することを決定しました。

日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することがきわめて重要な課題と認識しています。そうした強い認識のもとに、以上述べた3つの措置を通じて、今後とも、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく方針です。

ありがとうございました。