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【挨拶】ブンデスバンクの東京での新たな門出に寄せて

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ブンデスバンク駐日代表事務所開設25周年祝賀レセプションにおける挨拶の邦訳

日本銀行総裁 白川 方明
2012年9月6日

目次

はじめに

本日は、ドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)東京事務所の開設25周年および拡大した新たな事務所への移転をお祝いするレセプションにお招きいただき、大変光栄に存じます。ドイツよりご列席のDombret理事、Nagel理事、Bischofberger金融安定局長、そして駐日代表事務所のMerk所長ほかブンデスバンクの皆さま、本日は誠におめでとうございます。一言お祝いの言葉を述べさせていただきます。

日本とドイツの交流

昨年は、日本とドイツとの間で修好通商条約が締結されて150周年の記念の年でした。日独各地においてさまざまなイベントが開かれ、私自身も昨年3月にフランクフルト大学において講演を行う機会をいただきました1。日本とドイツに共通するイメージと言いますと、勤勉な国民性や高い製造業の技術力といったことが挙げられます。英国BBCワールドサービスによるGlobal Poll、いわゆる好感度調査で、「世界に良い影響を与えている」国を調査したところ、昨年はドイツが1位で、今年は日本が1位、ドイツが2位といった結果だったそうです。両国に共通して評価された項目は、経済や産業といった面での世界への貢献でした。

日本の近代化の歴史を振り返ってみると、19世紀に経済的発展の基礎となる社会のインフラを整備するにあたって、ドイツから多くのことを学んだ歴史があります。ドイツ人医師のシーボルトが鎖国中の江戸時代に長崎の出島の近くに鳴滝塾を開設して西洋医学の教育を行ったことや、民法をはじめとする日本の法律制度の多くがドイツの法律を基礎としたことは、日本では誰もが知っている有名な話です。中央銀行員としては、日本の紙幣についてドイツの大きな貢献があった点にも、触れておかなければなりません。今日、日本は最も先進的な紙幣の偽造防止技術を有していますが、初めて紙幣を製造した際には、ドイツから印刷技術の多くを学んだ歴史があります。明治時代、日本銀行が開業する10年前の1872年に、政府は最初の円単位の統一政府紙幣である明治通宝を発行しましたが、当時の日本の技術では偽造防止のための微細な図柄を盛り込んだ原版を作成することが困難でした。このため、ドイツのフランクフルトにあったドンドルフ・ナウマン社という印刷会社に原版の製造を依頼すると共に、印刷技術の供与を受けた歴史があります。こうした点で、ドイツには円紙幣の誕生にあたっても、一方ならぬ恩義があります。

  1. 1  白川方明「通貨管理におけるイノベーションと挑戦の150年」、日独交流150周年記念講演(ゲーテ大学フランクフルト・アム・マイン)の邦訳、2011年3月8日を参照。

ブンデスバンクと日本銀行の交流

さて、ブンデスバンクについて、かつてドイツのコール首相は、「政治家としてブンデスバンクの金融政策決定を好ましく思ったことはあまりないが、一市民としての自分はブンデスバンクの存在を喜ばしく思う」と述べたと伝えられています。このエピソードが示すように、ブンデスバンクが独立した中央銀行として物価の安定を実現してきた実績はつとに有名です。

日本銀行は、1956年——ブンデスバンクが前身の独レンダーバンクを引き継ぐ形で設立される前年——にフランクフルトに事務所を開設しています。その後、今日に至るまで経済や金融に関するその時々の重要なテーマについて、事務所員がブンデスバンクを訪問するなど様々な形で率直かつ頻繁に意見交換する機会をいただき、両行の協力と友好関係を育んでまいりました。これまでの長きに亘りこうした緊密な関係の構築に尽力いただいた全ての方々に、この場をお借りして改めて厚く御礼申し上げます。近年、経済や金融のグローバリゼーションがかつてない速さで進むもとで、中央銀行間の人的なネットワークがますます重要となっているとの思いを強くしています。

こうした両行の友好と協力に加えて、1年半前にはブンデスバンクより心温まる支援を頂いたことに感謝申し上げます。日本は、昨年3月11日に東日本大震災に見舞われました。その際、ブンデスバンクのフランクフルト支店では、支店長のご厚意により、店内の講堂でチャリティー・コンサートを催して下さいました。さらに、ドイツの多くの方々からは、赤十字社を通じて多額の救援金をいただきました。まさに"In der Not erkennt man den wahren Freund"(人は困ったときに真の友人を知る)であります。

ブンデスバンク東京事務所の拡充

今回、ブンデスバンクが東京事務所開設25周年を機に、新たに東京事務所を拡大し、移転することに、改めてお祝い申し上げます。ブンデスバンクは、世界の中では2ヵ所、ニューヨークと東京にのみ自前の事務所を置いています。さらに、今月中には、東京に新たにトレーディング・オフィスを設置すると聞いています。このようにブンデスバンクが東京事務所の機能を拡大することは、わが国の経済やアジア・太平洋地域における東京市場の役割を重視した動きと受け止めています。日本銀行としては、ブンデスバンクの今回の決定を喜ばしく思うとともに、わが国の全ての金融市場関係者にとっても大変歓迎すべきことであると思います。

最後に、今回の東京事務所の拡大が、ブンデスバンクと日本銀行両行の間に止まらず、日独両国の友好や協力関係の一段の発展につながるものと強く確信していることをお伝えし、私の挨拶とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。