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【発言要旨】

欧州債務問題、国債の希少性プレミアムおよび中央銀行間の協力・協調について

アジア開発銀行研究所・ブレトンウッズ再生委員会共催ワークショップにおける発言要旨の邦訳

日本銀行政策委員会審議委員 白井 さゆり
2012年10月12日

目次

1. はじめに

皆さま、おはようございます。日本銀行政策委員会審議委員の白井さゆりでございます。本日は、アジア開発銀行研究所(Asian Development Bank Institute)とブレトンウッズ再生委員会(Reinventing Bretton Woods Committee)共催ワークショップ「国際金融システムの新しい現実に向けて世界はどう調整していくのか?」においてお話しする機会を頂きまして大変光栄に存じます。

昨今、世界の不確実性が高まっておりますが、この震源地が欧州債務問題にあるとの現実を踏まえて、本日は、まず欧州債務問題の現状について申し上げます。次に欧州債務問題が日本や他の先進諸国に対して金融チャネルを通していかにして影響を及ぼしているのか、国債の希少性プレミアムという観点から、考えてみます。最後に中央銀行間の協力・協調の重要性について触れて参りたいと思っております。

2. 欧州債務問題の現状

さて、ご存じのように、ユーロ圏では、政治・経済情勢の不確実性が高い状態が続いております。欧州債務問題は、当初は(ギリシャ、アイルランド、ポルトガルといった相対的に経済規模が小さい)周縁諸国に集中しており、これらの諸国では、財政再建による(短期的な)影響も重なって、経済状態が著しく悪化しておりました。

しかし、その後、問題は域内の(ドイツを含む)コア国の経済にも貿易・金融チャネルあるいは企業・家計のマインドの悪化を通じて、影響を及ぼしています。このため、ユーロ圏全体で再び景気後退入りしており、世界経済の減速につながっています。先月公表された欧州中央銀行(ECB)スタッフの推計によると、ユーロ圏の景気低迷は少なくとも年末までは続くようです。同推計の中央値によりますと、2012年の経済見通しは6月段階の▲0.1%の見通しから▲0.4%へと下方修正されています。

周縁国の金融セクターが直面する資金調達難に取り組むために、ECBは過去1年ほどの間にさまざまな対策を打ち出しています。その対策には、3年物の長期リファイナンスオペ(昨年12月と今年2月に実施)、国債の流通市場からの買い入れを目的とする「証券市場プログラム(SMP)」、預金準備率の引き下げ、政策金利の引き下げ、担保要件の緩和などが含まれています。本年7月にはさらに政策金利を0.25%引き下げました(メインリファイナンスオペ金利<MRO>は1%から史上最低の0.75%へ、限界貸出ファシリティ金利は1.75%から1.5%へ、預金ファシリティ金利は0.25%からゼロ%への引き下げ)。

こうした施策は、ユーロ建て短期金利の低下やユーロ圏の金融市場の緊張緩和に効果を発揮しています。長期国債利回りも域内全体で低下しており、つれて金融セクターの適用する貸出金利も低下しています。しかしながら、周縁国の長期国債利回りや貸出金利の低下幅が不十分であるため、コア諸国とのギャップがなかなか縮小していません(図表1)。この背景として、周縁国においてソブリンと金融の間の悪循環が生じており、それが信用収縮を通じて実体経済へ悪影響を及ぼしている構図が未だに改善していない点を指摘できます。

周縁国の貸出金利の高止まりは、これらの国の国債利回りに対して投資家が上乗せする「リスクプレミアム」が高いことに深く関係しています。これは「恐怖プレミアム」とも呼ばれており、周縁国の貸出金利がマクロ経済のファンダメンタルズから説明できる水準をかなり上回っていることを示しています。図表2は経済協力開発機構(OECD)による同プレミアムの推計値です(OECD[2012])。同様に国際通貨基金(IMF)もこうしたプレミアムについて、各国特有のマクロ経済リスクや流動性リスクではなく、域内共通の要因が影響していると指摘しています(IMF[2012])。この恐怖プレミアムの根底には、顕在化する可能性が極めて小さいテールリスクですが、ユーロ圏の信認が揺らぐ(reversibility of the euro)リスクも含まれていると考えられます。今後、投資家がこうしたリスクをさらに意識する場合、ECBだけで周縁国の国債利回りを持続的に引き下げるのはきわめて困難だと思います。

さらに、恐怖プレミアムによって、ユーロ圏内のコア国と周縁国の間でかつて見られた民間レベルの国境を越えた金融取引が減少しており、金融市場の分断をもたらしています。このため、市場からの資金調達に難がある周縁国の金融セクターはECBのリファイナンスオペや各国中銀が提供する緊急流動性支援(ELA)に依存するようになっています。こうした中央銀行による資金供給の結果、ユーロシステムの連結バランスシートが拡大しています。

しかしながら、こうしたきわめて緩和的な金融政策によっても、期待されたほど、金融セクターによる貸出の活発化、その先にある設備投資、消費などの内需喚起が実現していないとの認識も広まりつつあるように思われます(図表3)。実際、ユーロ圏では、貸出が停滞しており、8月の信用伸び率では企業が▲1.1%、家計は▲0.4%といずれもマイナスとなっています。この原因として、まず信用需要の減少が指摘できますが、景気見通しの悪化、バランスシート調整の進行、リスク回避姿勢の強まりとこれに伴う貸出金利の引き上げや貸出基準の厳格化といった複数の要因が関係しています。また、資金供給側では貸出姿勢が慎重化していますが、先行きの不確実性の高まり、資金調達コストの上昇、金融規制の強化などが影響しているようです。

金融緩和が民間セクター向けの貸出の伸びになかなか結び付かない現象は、ユーロ圏だけでなく、日本や米国を始めとする他の先進国でも共通しています。このことは、この現象の背景に景気循環的な要因だけでなく構造的要因が作用していることを示唆しているように思います。ただし、構造的要因といっても、その根本的原因は国・地域によって異なります。欧州の場合、緊縮財政と銀行セクターによる民間セクター向けの貸出のデレバレッジによって、短期的な景気下押し圧力がもたらされており、しかもこの状態が恐怖プレミアムによってさらに増幅されているため、現状において、銀行セクターの貸出増加を促すことは難しいように思われます。

言い換えれば、さまざまなデータが示しているとおり、欧州においては、現在、金融政策の実体経済に及ぼすトランスミッションメカニズム(伝達経路)が阻害されており、それは主として恐怖プレミアムによって国債市場で深刻な歪みが生じていることに起因しています。こうした事情を背景にして、ECBが先月新しい国債買い入れ策(OMTs)を発表しましたが(代わりに既存のSMPを終了)、この発動において欧州金融安定ファシリティ(EFSF)/欧州安定メカニズム(ESM)の支援プログラム(包括的なマクロ経済プログラムや予防的プログラム)に付随する厳格で幅広いコンディショナリティを必要条件としています。そのうえで、ECB政策理事会ではOMTsの開始、継続、停止をマンデートに沿って最終決定するとしています。

資産買い入れプログラムの開始にあたりコンディショナリティを適用するということは、近年の中央銀行の歴史上あまり見られない思い切った決定のように思います。ECBは、金融政策の適切なトランスミッションメカニズムの回復には、財政再建、構造改革(労働市場改革、規制緩和、民営化、行政の効率化など)、地域の制度・体制づくり(すなわちEFSFや ESMによるプライマリーマーケットでの国債買い入れの可能性に加えて、ある国で発生する危機を他国へ伝播させないためのファイヤーウォールの強化)を同時に進めることが不可欠であるとの明確な意思表示をしたものと私自身は受け止めています。つまり、金融政策は需給ギャップを縮小し、ディスインフレを防止するのに貢献できますが、政府や地域レベルの組織(欧州連合<EU>あるいはユーログループ)が恐怖プレミアムを引き下げ、潜在成長率(あるいはトレンド成長率)を引き上げるのに必要な構造的問題に取り組むための「時間を買う政策」だということを改めて対外的に発信したものだと考えられます。また、欧州債務問題の改善に向けてIMFが果たす役割も重要だと思います。

さて、我が国についてですが、(欧州同様に積極的に)金融緩和を行い段階的に強化して参りましたが、なかなか民間セクターの積極的な信用拡大につながりにくい状況にあります(図表4)。とはいえ、こうしたつながりの弱さの根本的な原因が、ユーロ圏と我が国とで異なっていることは明らかです。

日本では金融環境は緩和した状態にあります。金融セクターでは相対的にバランスシートが健全であり、レバレッジが低く、多くの預金を抱えている(しかもさらに増え続けている)こともあり、欧州債務問題の影響は限定的です。さらに貸出姿勢は総じて緩和的です。このことからも、貸出が大きく伸びない主因は借入需要が大きく伸びていないことに帰着すると思います。実際、企業の設備投資額はキャッシュフローやGDP対比でみて減少しているほか、住宅投資も緩やかな持ち直しに止まっています。

こうした資金需要の伸び悩みは、我が国の潜在成長率(トレンド成長率)の低下、長期間続く緩やかなデフレ、比較的長く続く需給ギャップといった現象と深く関連しています。これらの現象は我が国経済を特徴づけるものとして内外で広く知られており、部分的には景気循環的な要因によって発生していることは否定できません。しかし、より重要なポイントは、構造的な要因が影響しているということです。構造的な要因とは、人口動態の変化(例えば、世界最速のペースで進む高齢化、1990年代半ばからの生産年齢人口の減少、2011年からの継続的な人口減少の開始など)、産業間や産業内の調整を阻害する構造的な硬直性、世界的な競争の激化などが含まれると思います(白井[2002]を参照)。

こうした実情を踏まえて、金融政策の有効性について検討する際には、景気循環的な要因と構造的な要因を分けて考えていくことがますます必要になっていると日々感じています。現在の緩和的な金融環境が維持されるもとで、こうした金融環境を活用した官民による前向きな取り組みがあってこそ、我が国が潜在的な成長力を高めてデフレ局面を脱却していくことができると考えています。

3. 欧州債務問題の金融チャネルを通じた我が国および他の先進諸国への影響

欧州債務問題は、貿易・金融チャネルを通じて世界経済減速の一因となっています。我が国においても、ここ数か月は、欧州向け輸出の直接的な減少と中国を生産基地とするサプライチェーンネットワークを介した欧州向け輸出の間接的な減少に直面しています。こうした輸出の動向などを踏まえて、日本銀行では、先月の金融政策決定会合において経済・物価を巡る情勢判断を下方修正すると同時に、日本経済が物価安定のもとでの持続的成長経路に復していくことを確実にするために、一段の金融緩和を決定しました。

さらに、欧州債務問題を契機として日本、米国、欧州コア国などのいわゆる「セーフヘイブン」とみなされる諸国に向けて資本が流入しています。このため、これらの諸国の長期国債利回りには相当程度のプレミアム(これは「安全への逃避プレミアム」あるいは「希少性プレミアム」とも呼ばれています)が織り込まれています。

こうしたプレミアムを測定する方法はいくつか考えられます。簡便的なアプローチとしては、実際の長期金利(例えば、10年物国債利回り)と名目GDP成長率の予想(実質経済成長率の予想と長期インフレ予想の合計)の差を求める方法があります。最近のデータによると、日本、米国、ドイツ、英国ではこの差がマイナスの符号を示しており、乖離幅は▲1%から▲3%の間となっています。このことから、これらの諸国では希少性プレミアムが存在しているように思われます。

より洗練されたアプローチとしては、長期金利を被説明変数、さまざまな構造的指標や関連する指標(例えば、財政、対外債務、労働生産性、人口動態、インフレなどの指標)を説明変数として回帰分析する方法があります。この統計分析で得られる残差は、希少性プレミアム、金融政策の影響、その他の要因を反映しているとみなすことができます。同分析から金融政策の影響を取り除くために、10年物国債利回りに代えて5年先5年物のフォーワードレートを用いる方法もあります(一上・清水[2012])。この分析で得られた残差は、モデルで説明できないその他の要因が限定的だと仮定すれば、希少性プレミアムを反映していることになります。

この残差は、実際の5年先5年物フォーワードレートとモデルから導出される推計値の差を示しており、日本、米国、英国、ドイツではマイナスの符号を示しています(図表5)。つまり、これらの諸国の実際の長期金利は推計値を下回っていることを示しており、希少性プレミアムの存在を示唆しています。こうした現状は、(OECDの推計が示している)欧州周縁国の国債利回りに恐怖プレミアムが上乗せされている状態と対照的になっています。

こうした希少性プレミアムが高まる背景には、いわゆる「安全資産」の供給不足があると考えられます。幾度も繰り返される国債の信用格付けの引き下げによって欧州では高格付けの国債の数が減っています。そもそも、リーマンショックを契機に発生した国際金融危機により、(米国を中心にそれまで沢山存在していた)トリプルA格の民間債券(モーゲージ担保証券やその他の資産担保証券など)の数が既に減少していることもあり、世界的に安全資産の供給が不足しています。その一方で、世界的により安全で流動性の高い資産(つまり国債)への需要が高まっています。ここには、欧州債務問題の先行きへの懸念、新興諸国や石油産出国が外貨準備保有を増やし続けていること、金融規制の強化などの要因が関係しているとみています。

その結果、(世界からセーフヘイブンとみなされている諸国に向けて)対外証券投資が拡大し、日本などの諸国では自国通貨の増価要因となっています(図表6)。このことが、2011年3月11日の東日本大震災で受けたサプライチェーンのダメージとそれによる輸出の減少(あるいは昨年末からのタイの洪水の影響)からようやく立ち直りつつある日本の輸出産業に、暗い影を落としています。

さらにいえば、希少性プレミアムが高まることは借り手の資金調達コストを引き下げる効果がありますが、一方で、日本やその他の先進諸国では国債利回りが突然反転上昇するリスクが相応に高まっている可能性を念頭に置く必要があります。この点、IMFは2012年版「スピルオーバー報告書」において中期的な問題としてそうした反転上昇するリスクについて強調しています。平時における日本の国債利回りと他の主要国の国債利回りの相関は高いことからも、ひとつの国で突然国債利回りが急上昇すると他の国の利回りもそれに連動して上昇する可能性があります。同報告書では、主要先進諸国の政策金利がいずれもゼロ金利に近い状態にあるなかで、突然利回りが急上昇すると、日本やそのほかの諸国のGDPがベースラインとなる成長見通しを下回ってしまうリスクを指摘しています。

4. 中央銀行間の協力と協調について

最後に、中央銀行間の協力と協調についてお話ししたいと思います。日本を含むいくつかの先進諸国では、力強さに欠ける景気に対処し、ディスインフレを防ぐために(日本の場合は、緩やかなデフレから脱するために)、実質ゼロ金利政策や資産買い入れなどによる金融緩和政策を実施しています。これらの政策は、各中央銀行が、自国の経済情勢に照らして必要であって、中央銀行の根拠法にあるマンデートとも整合的であると判断したものですが、こうした政策が他国にプラスやマイナスの影響を及ぼしうることも念頭に置く必要があると思います。

この点について、先進諸国において実施されている極めて低い金利と非伝統的手段による潤沢な資金供給が、新興諸国の資本流出入と為替相場の変動を高め、その結果、景気変動を拡大しているという見解がしばしば聞かれます。こうした連関の一例として、国際決済銀行(BIS)のカルアナ総支配人[2012]は、最近の講演で、米国の家計と企業向けの貸出は世界金融危機の発生以降ほとんど増えていない一方、その間に米国外の借り手に向けたドル建て貸出は最大20%伸びていることを指摘しています。カルアナ総支配人は、国際的に統合が進んだ債券市場において、FRBの大規模な債券買い入れが世界の債券利回りの引き下げに寄与していると述べています。

他方で、新興諸国の中央銀行では、為替の大幅な変動を和らげるために先進国とは非対称的な金融政策を実行しているように見えます。例えば、新興諸国の一部には大量に海外から資本が流入するときに相対的に低い金利を維持する一方、資本の流出が進む局面では比較的速やかに金利を引き上げているケースがあります。こうした背景には、各新興国が自国通貨高により貿易上の競争相手国に対して価格競争力を失うことを回避すべく、お互いに駆け引き(相手が先に金利引き上げに転じるかどうかといった相手の出方を見る姿勢)を行っていることもあると思います。つまり、新興諸国間のいわゆる「協調の失敗」とも言える現象です。このように新興諸国においては、(インフレ圧力が高まった場合でも)長期間にわたり金利を引き上げないことにより、世界的なコモディティ価格の上昇、信用の急速な伸びや経済の過熱につながっている面があるように思います。

以上のように、先進諸国も新興諸国も金融緩和的なスタンスを長く維持することにより「合成の誤謬」が発生している可能性があり、この点を踏まえて、カルアナ総支配人は各中央銀行の政策が世界経済に及ぼす影響を十分に評価していくことが重要だと強調しています。この点、IMFが2011年から実施している「スピルオーバー報告書」において主要国の政策の対外的な影響に注目する試みはこうした問題の理解を促進するうえで歓迎すべき第一歩です。さらに、G20などの国際会議の場においてこうした問題を活発に議論していくこともこの問題に対する世界的な認識を高めるうえで重要な契機になると思われます。

各中央銀行が自らに与えられたマンデートを達成することは重要であることに変わりはありませんが、その一方で各中央銀行は物価の安定と金融の安定のトレードオフの可能性に注目する必要性が高まっていると感じています。こうした認識は、低インフレ状況のもとで相対的に低い政策金利を維持してきたことがその後の金融不均衡の拡大につながったという世界金融危機から得られた教訓に基づくものと考えています。金融取引はますます国境を越えた広がりをみせており、これにあわせて金融市場も急速に統合が進んでおりますので、中央銀行がグローバルな投資家のリスクテイク姿勢や資本移動の動向に注意を払うことは、金融政策のトランスミッションメカニズムを考える上でも重要になってきています。以上を踏まえて、私は各中央銀行間における情報共有をさらに促進することがより一層重要になっていると考えています。

また、金融市場の連関の高まりに伴い、中央銀行間の政策面での協力・協調も重要になってきています。比較的効果が見られている最近の事例をひとつご紹介します。世界金融危機への対応として、2011年11月に6中央銀行 ――カナダ銀行(BOC)、イングランド銀行(BOE)、日本銀行、ECB、米国連邦準備制度(FRS)、スイス国民銀行(SNB)―― が決定した、米ドルを始めとする流動性支援の提供能力を拡充するための協調策です(図表7)。この協調策では、各中央銀行が、既に締結していた米ドル・スワップ取極の適用金利を0.5%引き下げる(新しい適用金利は米ドルOISレート+0.5%)ことで合意しました。このほか、不測の事態への対応措置として、市場の状況によって必要とされる場合に、各国・地域においてこれらの中央銀行のいずれの通貨でも流動性供給を行えるよう、各中央銀行間でそれぞれ時限的なスワップ取極を締結することでも合意しています。

こうした協調策(特に米ドル・スワップ取極における適用金利引き下げ)により、それまで高水準で推移していた欧州系金融機関のドル調達金利コストは劇的に低下し、市場安定に大きな効果がありました(図表8)。さらに、資金繰り難に直面していた欧州系金融機関のドル調達コストが低下したことにより、これらの金融機関によるドル建て資産の投げ売りや急速な融資抑制などのドルベースのデレバレッジをひとまず回避できたと私は考えています。

最後に、世界金融危機と欧州債務問題は、金融市場の統合が深化している中で、ある国で発生したショックが他国へ即座に伝播する相互連関が相当高まっている実態を如実に示しています。こうした相互連関についての理解を深めていくため、中央銀行を含めた国際的なレベルでの努力を続けていくことが、最終的には世界の持続的な成長と物価の安定の達成に向けた重要な布石になっていくことを申し上げて、私の発言を締めくくりたいと思います。

ご清聴ありがとうございました。

参考文献

一上響、木村武、中村俊文、長谷部光、「安全資産の需給と国債の希少性プレミアム」、日銀レビューシリーズNo. 2012-J-1、2012年1月

一上響、清水雄平、「長期金利の変動要因:主要国のパネル分析と日米の要因分解」、日本銀行ワーキングペーパーシリーズNo. 12-J-6、 2012年5月

白井さゆり、「人口動態の変化は我が国のマクロ経済に影響を与えているのか? ―金融政策へのインプリケーション―」、フィンランド中銀、スウェーデン中銀、ストックホルム大学セミナーにおける講演の邦訳、2012年9月7日

白川方明、「金融危機に対する国際的な政策対応」、カンザスシティ連邦準備銀行主催シンポジウム(米国ワイオミング州ジャクソンホール)における講演の邦訳、2009年8月22日

Caruana, Jaime, "Policymaking in an Interconnected World," Luncheon Speech at the Federal Reserve Bank of Kansas City's 36th Economic Policy Symposium on "The Changing Policy Landscape," Bank for International Settlements, 2012.

International Monetary Fund, "2012 Spillover Report," 2012.

Organisation for Economic Co-operation and Development, "What is the Near-Term Global Economic Outlook? An Interim Assessment," 2012.

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