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平成25年度入行式における黒田総裁挨拶

2013年4月1日
日本銀行

皆さん、日本銀行へのご入行、おめでとうございます。本店と支店、合わせて105名の新しい仲間をお迎えすることができ、大変うれしく感じています。日本銀行の役職員を代表して、心より歓迎の意を表したいと思います。

皆さんもご存知のように、日本経済は約15年にわたってデフレが続き、根強い閉塞感に覆われています。米国や欧州でも、深刻な金融危機の影響から、景気の低迷が長引いていますが、日本のような物価下落には至っていません。わが国のデフレは、世界的にもきわめて異例なものです。「物価の安定」を使命とする日本銀行は、これに果敢に立ち向かって行かなければなりません。

わが国の直面している状況は厳しいものですが、私は、日本経済の将来を全く悲観していません。何といっても、わが国は世界第三位の経済大国であり、戦後の荒廃からこれだけの経済的成功を築き上げてきた底力があります。国民の勤勉さ、誠実さは、世界のどの国も真似のできない日本の強みです。わが国は、現下の困難を乗り越えて、さらなる発展を続けていく力を十二分に持っている、私はそう確信しています。

そして、日本銀行は、わが国のポテンシャルを引き出していくために、主体的な役割を果たしていくことができます。持てる力を総動員して経済の再生に貢献していく、その断固たる決意をもって、必要と思う政策を果断に実行していきたいと考えています。皆さんも、今日から日本銀行の一員です。同じ決意を、しっかり心に刻んでおいて下さい。

皆さんが、日本銀行でのキャリアをスタートするにあたり、当面、心がけていてもらいたいことを、二つ、述べておきます。

一つ目は、どんどん視野を広げ、多様な価値観を積極的に受け入れていく「たくましさ」を身につけて欲しい、ということです。

金融経済のグローバル化に伴って、国際的な仕事の場が増えると同時に、実に多様な国民性、考え方を持った新興国が台頭してきています。ビジネスの世界はもちろん、当局間の調整や合意形成においても、互いの価値観や主張をぶつけ合う中から、共通理解を作り出していく、そんな力が必要になっています。国内の仕事も本質的には同じです。属する組織や、日本という国の常識に閉じこもっていてはいけません。内外の幅広い人たちと積極的に交流して、オープンな心で、未知の世界に目を向けて下さい。そして、相手の考え方を理解しようと努めながら、自分の立場をしっかり主張できる、そんな人になっていって頂きたいと思います。

二つ目は、プロの自覚を持ち、中央銀行員としての専門性を貪欲に身につけていって欲しい、ということです。

中央銀行が備えているべき専門性とは、金融取引を確実に実現していく「実務遂行力」、そして金融経済の実態を的確に把握する「調査力」の二つです。中央銀行の政策は、この二つの力に支えられています。日本銀行という組織、皆さんの先輩たちには、高い専門性が培われています。そして、その専門性は、時代とともに進化を続けていくものです。

まずは目の前の仕事に全力で取り組むこと。そして周囲の人に信頼される存在となること。そうすることで、どんどんチャレンジングな仕事が与えられることになるでしょう。そうして、一日も早く、中央銀行のエクスパティーズを受け継ぎ、発展させていく一翼を担っていってもらいたいと思います。

私からの話は以上です。皆さんの希望に満ちた眼差しを拝見していると、若い力が加わって、組織が新たな活力を得たことを実感します。日本銀行の使命達成に力を尽くす仲間として、一緒に頑張っていきましょう。皆さん一人ひとりが元気に活躍されることを祈念して、私からの歓迎の挨拶とさせて頂きます。