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【挨拶】金融システムの現状と証券業界への期待

平成26年全国証券大会における挨拶

日本銀行総裁 黒田 東彦
2014年9月18日

目次

はじめに

本日は、平成26年全国証券大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。日本証券業協会、全国証券取引所協議会、投資信託協会に加盟の皆様におかれましては、常日頃より証券市場の発展に尽力され、これを通じて日本経済の安定的な成長の実現に貢献されています。皆様のご努力に対し、日本銀行を代表して、心より敬意を表します。

本日は、最初に、最近の金融経済情勢と日本銀行の金融政策運営についてご説明し、次に、金融システムの現状と証券業界への期待についてお話しすることをもって、私からのご挨拶とさせて頂きたいと思います。

最近の金融経済情勢と日本銀行の金融政策運営

わが国の景気は、消費税率引き上げの反動の影響がみられており、特に、駆け込み需要の規模が大きかった自動車など耐久財では、反動減の縮小テンポが鈍くなっています。また、このところ輸出や生産は弱めの動きとなっています。もっとも、雇用・所得環境は着実な改善が続いているほか、家計のコンフィデンスも好転していることを背景に、個人消費は基調的には底堅く推移しており、全体としてみれば、駆け込み需要の反動の影響も徐々に和らいできています。また、企業は、業績が良好なこともあって、積極的な投資スタンスを維持しています。このように、家計・企業の両部門において、所得から支出へという前向きな循環メカニズムはしっかりと作用し続けており、わが国経済は基調的には緩やかな回復を続けています。

先行きについては、輸出は、海外経済の回復などを背景に、緩やかな増加に向かっていくほか、設備投資は、企業収益が改善傾向を続けるなかで、緩やかな増加基調をたどるとみています。また、雇用・所得環境が着実な改善を続けるなかで、個人消費は引き続き底堅く推移すると予想しています。こうした需要動向を背景に、生産も緩やかな増加基調をたどると考えられます。以上を踏まえると、先行きのわが国経済は、緩やかな回復基調を続け、駆け込み需要の反動の影響も次第に和らいでいくとみています。

物価情勢をみますと、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、1%台前半で推移しています。先行きは、暫くの間、1%台前半で推移した後、本年度後半から再び上昇傾向をたどり、2014年度から16年度までの日本銀行の経済・物価見通し期間の中盤頃に、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高いとみています。

この間、金融政策運営については、日本銀行は昨年4月に導入した「量的・質的金融緩和」を着実に進めています。そのもとで、消費者物価は2%の「物価安定の目標」実現に向けた道筋を順調にたどっており、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しています。日本銀行は、今後も2%の「物価安定の目標」を安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続していく考えです。もとより、今後、何らかのリスク要因によって見通しに変化が生じ、2%の「物価安定の目標」を実現するために必要になれば、躊躇なく調整を行う方針です。

金融システムの現状と証券業界への期待

次に、金融システムの現状と、証券業界に期待する役割について、お話ししたいと思います。

わが国の経済・物価情勢が改善に向かうもとで、金融システムや資本市場においても、前向きな動きが明確になってきています。昨年度は、投資家による株式売買や株式投信の設定額が、過去最高の水準となりました。本年度入り後、株価の上昇は緩やかになっていますが、株式投信の残高は、資金流入が続いたことも寄与し、既往ピークを更新しています。また、成長資金の調達のための公募増資や、新興企業の株式公開も、活発化しています。さらに、わが国企業の成長戦略の一環であるM&Aについても、積極的な取り組みが続いています。こうした状況は、証券業界における収益の増加や資本基盤の充実にも繋がっています。

今後、わが国経済が持続的な成長を実現していくためには、金融システムが安定性を保ちつつ、企業や家計の経済活動を力強く支援する機能を高めていくことが重要です。金融資本市場は、企業や個人を含めた幅広い主体が直接参加する市場であるとともに、リスクマネーの仲介において中心的な役割を担っています。また、金融資本市場は、価格発見機能により効率的な資源配分を促進する役割も有しています。証券業界には、こうした金融資本市場の担い手として、わが国経済の活力向上を支援していくことが、期待されています。

こうした観点を踏まえ、現状において、証券業界に期待される役割を、具体的に3点ほど挙げたいと思います。

第一は、外部環境の変化や、これを受けた投資家ニーズの変化に的確に対応していくことです。近年、わが国全体の人口動態を背景として、証券業界の顧客においても高齢化が進んでおり、高齢者のニーズに合った金融商品・サービスの提供が求められています。同時に、人口減少の継続を見越し、新たな投資家層を拡大していくことが課題となっています。また、わが国の経済・物価情勢の改善が続き、長らく続いてきた「デフレマインド」からの脱却が定着していけば、従来の安全資産を中心とする投資家のリスク選好にも、一段と明確な変化が生じてくることが予想されます。

こうした中、証券業界におかれては、高齢者の資産運用・承継ニーズを踏まえた幅広い金融サービスの展開や、本年1月のNISA導入を契機とした若年層顧客の拡大などに、積極的に取り組んでおられます。また、例えばヘルスケアリートやインフラファンドといった、わが国社会構造の変化を捉えた新たな金融商品の市場整備も、進められています。こうした取り組みは、より幅広い投資家からの資金供給や、多様なチャネルを通じた金融仲介の拡充に繋がるものであり、今後の成果に期待しています。

第二は、金融資本市場におけるリスクマネーの供給やコーポレート・ガバナンスの強化を通じ、わが国企業の成長を後押ししていくことです。企業が積極的にリスクテイクを行い、成長戦略を実現していくうえで、資本市場における円滑なエクイティ・ファイナンスが重要であることは、申し上げるまでもありません。さらに、こうした資金調達ニーズへの対応だけではなく、企業に対するM&Aのサポートやリスクヘッジ手段の提供など、証券業界が企業の成長を支援していく役割には、多様なものがあります。

また、最近では、機関投資家による日本版スチュワードシップ・コードの受入れ表明のほか、企業の収益性に着目したJPX日経インデックス400の公表開始やこれに連動する商品の開発など、資本市場におけるコーポレート・ガバナンスを通じて企業の成長を促す取り組みにも、注目が集まっています。

このように、企業の成長を後押しするうえでの証券業界の役割への期待は高まっており、証券業界においても、こうした役割を適切に果たしていくことが期待されます。

第三は、グローバルな観点から、わが国金融資本市場の魅力を高めていくことです。昨年来、わが国の経済情勢の改善を受け、海外投資家のわが国株式市場への関心が高まりました。最近では、わが国の安定した金融環境や旺盛な投資家需要を反映して、円建て外債の発行も増加しています。このような状況は、わが国金融資本市場の魅力を高める取り組みを進める好機と考えられます。こうした取り組みは、人材育成やビジネス環境の整備を含め、幅広い課題を含むものだけに、関係する様々な主体が連携し、成果に繋げていくことが重要と考えています。

金融資本市場は、政策運営の場として、また、金融政策の波及経路のひとつとして、中央銀行にとっても極めて重要な存在です。日本銀行としては、皆様方と協力しながら、新日銀ネットの構築を含めた決済サービスの高度化や市場慣行整備への取り組みなどを通じ、わが国金融資本市場の安定性と機能度の向上に貢献していきたいと考えています。

おわりに

最後になりましたが、今後とも、皆様方のビジネスの発展、そしてわが国金融資本市場のさらなる発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。