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【概要説明】通貨及び金融の調節に関する報告書

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参議院財政金融委員会における概要説明

日本銀行総裁 黒田 東彦
2014年10月28日

目次

はじめに

日本銀行は、毎年6月と12月に「通貨及び金融の調節に関する報告書」を国会に提出しております。本日、わが国経済の動向と日本銀行の金融政策運営について詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

わが国の経済金融情勢

最初に、わが国の経済金融情勢について、ご説明申し上げます。

わが国の景気は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などの影響から生産面を中心に弱めの動きがみられていますが、家計部門・企業部門ともに、所得から支出への前向きの循環メカニズムはしっかりと維持されており、基調的には緩やかな回復を続けています。

まず、家計部門ですが、雇用・所得環境は着実に改善しています。すなわち、完全失業率は3.5%とほぼ構造失業率と同じ水準まで低下しているほか、9月短観における全産業全規模ベースの雇用人員判断DIは92年5月以来の「不足」超となっており、労働需給の引き締まりは着実に進んでいます。こうした雇用環境の改善を背景に、今春のベースアップの実施などから所定内給与が前年を上回っているほか、夏季賞与もしっかりと増加するなど、1人当たり名目賃金は緩やかに上昇しています。こうした雇用・賃金動向を受けて、雇用者所得は前年比上昇率を緩やかに高めています。家計支出に目を転じると、駆け込み需要の規模が大きかった自動車などの耐久財消費や住宅投資では反動減の影響が長引いているほか、夏場にかけては天候不順も個人消費に悪影響を与えたとみられます。しかし、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は基調的に底堅く推移しており、駆け込み需要の反動の影響は、自動車などの耐久消費財以外の分野では和らいできています。

次に、企業部門ですが、わが国の輸出は、ASEAN諸国の一部などわが国と関係が深い新興国経済のもたつきもあって、弱めの動きとなっています。鉱工業生産は、こうした輸出の動きに加え、駆け込み需要の反動減の影響が長引いている自動車や住宅に関連する業種で在庫調整の動きがみられており、このところ弱めの動きとなっています。一方、設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかに増加しています。この点、今月初に公表した9月短観の結果をみますと、企業の業況感は良好な水準を維持しており、2014年度の事業計画についても、収益見通しが上方修正されるもとで、設備投資をしっかりと増加させていく計画となっています。これは、多くの企業が、消費税率引き上げ後の需要の落ち込みは一時的なものとみていることを示唆していると考えています。

わが国の景気の先行きについては、家計・企業の両部門において所得から支出へという前向きの循環メカニズムが引き続き働くもとで、緩やかな回復基調を続け、駆け込み需要の反動などの影響も次第に和らいでいくと考えられます。

こうした経済活動を支えるわが国の金融環境は、緩和した状態にあります。銀行の貸出金利が既往最低の水準まで低下するなど、企業の資金調達コストは低水準で推移しています。企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向が続いており、CP・社債市場では良好な発行環境が続いています。銀行貸出残高は、中小企業向けも含めて緩やかに増加しており、前年比2%台前半で増加しています。

物価面をみると、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみた消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、このところエネルギー価格の動向を反映して幾分プラス幅が縮小していますが、1%台前半で推移しています。「量的・質的金融緩和」導入以来、物価上昇の基本的な背景となってきたのは、需給ギャップが改善し、予想物価上昇率が上昇していることです。すなわち、需給ギャップは、労働面を中心に改善を続けており、最近では過去の長期平均並みのゼロ近傍となっています。また、予想物価上昇率は、全体として上昇しており、こうした動きは賃金・物価形成にも影響を及ぼしています。消費者物価の先行きについては、暫くの間、1%台前半で推移したあと、本年度後半から再び上昇傾向をたどり、2014年度から16年度までの見通し期間の中盤頃に、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高いとみています。

こうした経済・物価見通しに対するリスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州債務問題の今後の展開、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。したがって、金融市場の動向を含め、今後の経済情勢には十分注意していく必要があると考えています。

金融政策運営

次に、日本銀行の金融政策運営について、ご説明申し上げます。

日本銀行は、昨年4月、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するため、「量的・質的金融緩和」を導入し、その後、これを着実に進めてきています。そのもとで「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本経済は2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を順調にたどっています。

もとより、2%への道筋はなお途半ばです。日本銀行としては、今後も2%の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続していきます。また、仮に何らかのリスク要因によってこうした見通しが下振れ、「物価安定の目標」の実現のために必要になれば、躊躇なく調整を行っていく方針です。

今回、平成24年度下期の「通貨及び金融の調節に関する報告書」を説明することといたします。日本銀行は、日本銀行法第54条の定めにしたがって、半年ごとに「通貨及び金融の調節に関する報告書」を国会に提出し、その説明に努めてまいることになっておりますが、遅滞なく国会提出、国会説明が行われるように日本銀行法の趣旨に沿って引き続き鋭意努力してまいりますので、ご審議を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。

ありがとうございました。