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【概要説明】通貨及び金融の調節に関する報告書

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参議院財政金融委員会における概要説明

日本銀行総裁 黒田 東彦
2016年5月12日

目次

はじめに

日本銀行は、毎年6月と12月に「通貨及び金融の調節に関する報告書」を国会に提出しております。本日、わが国経済の動向と日本銀行の金融政策運営について詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

熊本地震への対応

まず、このたび熊本地震によって犠牲となられた方々に哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げます。日本銀行は、熊本支店を中心に現金の供給など決済インフラの維持に努めております。また先月末の金融政策決定会合では、熊本地震の被災地の金融機関を対象に、復旧・復興に向けた資金需要への対応を支援するため、総額3,000億円の被災地金融機関支援オペの導入を決定しました。この措置が、被災地の復旧・復興を後押しすることを期待しています。

わが国の経済金融情勢

次に、わが国の経済金融情勢について、ご説明申し上げます。

わが国の景気は、新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、企業部門・家計部門ともに所得から支出への前向きの循環メカニズムが作用するもとで、基調としては緩やかな回復を続けています。先行きについては、当面、輸出・生産面に鈍さが残るとみられますが、国内需要が増加基調をたどるとともに、輸出も、新興国経済が減速した状態から脱していくことなどを背景に、緩やかに増加するとみられます。このため、わが国経済は、基調として緩やかに拡大していくと考えられます。

物価面をみると、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、0%程度となっています。もっとも、生鮮食品・エネルギーを除く消費者物価の前年比は、30か月連続でプラスを続け、最近では1%を上回る水準で推移するなど、物価の基調は着実に改善しています。先行き、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられますが、需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の上昇を背景に物価の基調は着実に高まり、「物価安定の目標」である2%に向けて上昇率を高めていくと考えています。原油価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2%程度に達する時期は、2017年度中になると予想しています。

金融政策運営

次に、金融政策運営について、ご説明申し上げます。日本銀行は、1月の金融政策決定会合において「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入しました。本年入り後、原油価格の一段の下落に加え、中国をはじめとする新興国・資源国経済に対する先行き不透明感などから、金融市場は世界的に不安定な動きとなりました。こうした状況のもとで、企業コンフィデンスの改善や人々のデフレマインドの転換が遅延し、物価の基調に悪影響が及ぶリスクが増大していました。「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入は、こうしたリスクの顕在化を未然に防ぎ、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するために行ったものです。「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入によって、国債のイールドカーブは大幅に低下しており、これを受けて貸出の基準となる金利や住宅ローン金利もはっきりと低下するなど、金利面では政策効果は既に現れています。今後、その効果は、実体経済や物価面にも、着実に波及していくものと考えています。もっとも、金融政策の効果の波及には、ある程度時間が必要であるほか、現状では、国際金融市場において、新興国や資源国の経済の先行きに関する不透明感などから、不安定な動きが続いているもとで、前向きな変化が現れにくい状況にあります。このため、先月末の金融政策決定会合では、政策効果の浸透度合いを見極めていくことが適当であると判断し、現行の政策運営の方針を維持しました。

もとより、世界経済の不透明感が強く、金融市場の不安定な動きが続くもとで、わが国の経済・物価の下振れリスクは引き続き大きいと考えています。今後、毎回の金融政策決定会合において、経済・物価のリスク要因を点検し、「物価安定の目標」の実現のために必要と判断した場合には、躊躇なく、「量」・「質」・「金利」の3つの次元で、追加的な金融緩和措置を講じます。日本銀行としては、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のもと、2%の「物価安定の目標」の早期実現を図って参ります。

ありがとうございました。