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【挨拶】第3回カナダ銀行・日本銀行共催ワークショップにおける開会挨拶の抄訳

日本銀行総裁 黒田 東彦
2016年9月30日

本日は、第3回カナダ銀行・日本銀行共催ワークショップにご参加下さり、誠にありがとうございます。ジャンルカ・べニーニョ教授、マービン・グッドフレンド教授、ローレンス・サマーズ教授におかれては、特別講義を引き受けて頂き、光栄に存じます。もとより、グレゴリー・バウアー氏、リース・メンデス氏率いるカナダ銀行の皆さんには、ワークショップの企画段階から多大な協力を頂戴したうえ、本日ご参加頂いたことについて、日本銀行を代表してお礼を申し上げたいと思います。

先週の金融政策決定会合において、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、これまでの政策枠組みを強化する形で、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入することを決定しました。その主な内容は、第1に、長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」、第2に、消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%の「物価安定の目標」を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」です。

今回の政策決定に際し、日本銀行は、「量的・質的金融緩和」および「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のもとでの経済・物価動向と政策効果について「総括的な検証」を行いました。今回の総括的検証には多くの計量経済学に基づく分析が含まれており、政策の分析と実施との間における連携が、よりよい政策運営にとって重要な基盤となることを示すものとなっています。

カナダ銀行のウェブサイトには、「一国の中央銀行総裁は、金融市場と経済について完全な(thorough)理解を備え、国際金融に関する幅広い経験を有していなければならない」との記述があります。カナダ国民が中央銀行総裁という役職に対して高い基準を設定していることに対し、敬意を表したいと思います。その一方で、今日においても、多くの中央銀行が各々に与えられた責務を果たすために、様々な課題に直面しているということ、そして、中央銀行が万能(omnipotent)ではないということもまた事実です。だからこそ、中央銀行は本日のワークショップのように、互いの知恵と見識を持ち寄り、交換する機会を持つことを重視しています。本日のワークショップでは、「物価と金融の安定に向けた中央銀行政策の課題」をテーマとして議論を行います。最新の研究成果をまとめた4本の論文報告と深い洞察に基づく3つの講義を頂く予定であり、多くのことが学べるものと期待しています。

今申し上げたように、中央銀行は様々な課題に直面している訳ですが、本日のワークショップに因み、カナダ人作家、ルーシー・モード・モンゴメリによる「赤毛のアン(Anne of Green Gables)」の一節を引用したいと思います。ご承知の通り、「赤毛のアン」はカナダではもちろんのこと、ここ日本でも大変よく知られている名作です。物語の中で、アンは育ての父親である年老いたマシューに対して、「これから発見することがたくさんあるって、すてきだと思わない?(中略)もし何もかも知っていることばかりだったら、半分もおもしろくないわ1Isn't it splendid to think of all the things there are to find out about?... It wouldn't be half so interesting if we knew all about everything)」と言います。アンの言葉は、日々、新しい知恵や解決策、政策ツールを見つけ出そうと多大な努力を続けている全ての中央銀行職員とエコノミストにとって大きな励ましとして心に響くものです。

アンからの励ましの言葉を心に留めつつ、本日のワークショップにおいて、参加者の皆さんが、中央銀行の直面している課題に挑むうえで、何か少しの——あるいはたくさんの——面白いこと、知的なこと、有益なことを発見して頂ければ幸いです。

ご清聴ありがとうございました。

  1. 「赤毛のアン」、村岡花子訳、新潮文庫。