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【挨拶】平成30年全国証券大会における挨拶

日本銀行総裁 黒田 東彦
2018年9月27日

1.はじめに

本日は、平成30年全国証券大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。日本証券業協会、全国証券取引所協議会、投資信託協会に加盟の皆様におかれましては、常日頃より証券市場の発展に尽力され、これを通じて日本経済の安定的な成長に貢献されています。皆様のご努力に対し、日本銀行を代表して、心より敬意を表します。

また、先般の西日本集中豪雨、台風21号、北海道胆振(いぶり)東部地震によって被災された地域の皆様には、心よりお見舞い申し上げます。各地の財務局と日本銀行の連名で「金融上の措置」を要請しておりますが、被災地の金融機関におかれては、引き続き弾力的な対応に努めていただくようお願いします。日本銀行としても、中央銀行の立場から、適切な貢献をしてまいりたいと考えています。

本日は、最初に、最近の金融経済情勢と日本銀行の金融政策運営についてご説明し、次に、金融システムの現状と証券業界への期待についてお話しします。

2.最近の金融経済情勢と日本銀行の金融政策運営

まず、わが国の経済情勢についてお話しします。わが国の景気は、緩やかに拡大しています。実質GDP成長率をみますと、1~3月期は9四半期ぶりのマイナスとなりましたが、4~6月期は年率で+3.0%としっかりとした伸びになりました。先行きについても、最近の保護主義的な動きなどには注意が必要ですが、景気は緩やかな拡大を続ける可能性が高いとみています。

一方、消費者物価の前年比は、プラス基調を続けていますが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べ、なお弱めの動きとなっています。これについては、長期にわたる低成長やデフレの経験などから、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスや家計の値上げに対する慎重な見方が根強く残っていることが、大きく影響しています。加えて、企業の生産性向上余地が大きいことや近年の技術進歩が、コストの高まりにもかかわらず、企業が値上げに対して慎重なスタンスを維持することを可能にしている面もあります。もっとも、こうした物価上昇を抑制してきた要因の多くは、景気の拡大に伴い、次第に解消していくものです。実際、最近では、労働需給の着実な引き締まりを背景に、パート賃金の上昇が続いているほか、夏の賞与も大きく増加しています。こうしたもとで、幅広い企業で販売価格を引き上げる動きも見られています。先行き、需給ギャップがプラスの状態を続けることにより、実際に価格引き上げの動きが拡がっていけば、人々の予想物価上昇率も高まっていくとみられます。この結果、消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えています。

金融政策運営面では、現在の強力な金融緩和を粘り強く続け、需給ギャップの改善を起点とした物価上昇メカニズムを維持していくことが重要です。こうした認識のもと、7月の金融政策決定会合において、次のとおり、現在の政策の枠組みを強化することを決定しました。

第1に、政策金利のフォワードガイダンスを導入しました。具体的には、「2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」ことを、対外的に約束しました。政策金利に関するこうした明確なコミットメントは、強力な金融緩和を粘り強く続けるという日本銀行の金融政策運営に対する信認の確保に繋がると考えています。「物価安定の目標」の実現に向けた日本銀行の政策スタンスに揺るぎはありません。

第2に、今後とも強力な金融緩和を継続していくため、金融市場調節や資産の買入れをより弾力的に運営することとしました。例えば、長期金利については、「ゼロ%程度」という操作目標を維持したうえで、実際の金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうることを示しました。金利形成の柔軟性を高め、市場機能への負の影響を和らげることは、政策の持続性強化に繋がります。7月の決定以降、国債市場では、一頃に比べて値動きが幾分増しており、8月に実施した「債券市場サーベイ」では、約3年ぶりに、市場機能度が「改善した」と答えた先が「低下した」と答えた先を上回りました。市場機能の回復度合いについては、これからも、しっかりと確認していきたいと考えています。

今回の政策対応は、強力な金融緩和をさらに継続していくという意味で、金融政策の緩和効果を全体として強化するものです。こうした対応は、経済や金融情勢の安定を確保しつつ、2%をできるだけ早期に実現することに繋がると考えています。日本銀行は、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行いながら、引き続き、適切な政策運営に努めてまいります。

3.金融システムの現状と証券業界への期待

次に、金融システムの現状と、証券業界に期待する役割について、お話ししたいと思います。

わが国の金融システムの現状をみると、国内の金融仲介活動は引き続き積極的な状況にあり、景気の緩やかな拡大を支えています。金融機関は、貸出や有価証券投資において積極的なリスクテイクを行っており、金融資本市場における金融仲介活動を見ても、CPや社債による企業の資金調達は、発行レートがきわめて低い水準で推移するもとで増加基調を続けています。こうしたなか、企業や家計の資金調達環境はきわめて緩和した状態にありますが、金融循環の面で目立った過熱感は窺われません。

今後も、日本経済の持続的成長を実現していくうえで、証券業界の果たす役割は大きいものがあります。こうした認識を踏まえつつ、皆様に期待する役割を3点申し上げます。

第1に、金融資本市場を通じたリスクマネーの円滑な供給です。企業は、景気拡大に伴って増加する設備投資資金や事業拡大のためのM&A関連資金の調達を目的として、社債やCPの発行を増やしています。また、投資適格に満たない企業の社債が国内で初めて発行されるなど、発行企業の裾野も広がりが見られます。一方、投資家サイドでも、低金利環境が続くなか、より高い利回りを求め、積極的な社債購入スタンスを維持しています。今後とも、証券業界においては、事業の拡大や財務基盤強化にかかる企業の資金調達ニーズと投資家の運用ニーズを積極的に汲み取り、双方のニーズを満たしていくことが期待されます。

第2に、家計の中長期的な資産形成を支援していくことです。家計はリスク性資産の積み増しに引き続き慎重ですが、一方で、個人のライフサイクルに応じた運用収入の獲得や老後の生活資金の確保といった資産形成ニーズを抱えています。こうした家計の資産形成ニーズの強さは、本年1月に「つみたてNISA」が開始された「NISA」関連の口座数の大幅な増加や、昨年1月から加入対象範囲が拡大された「個人型確定拠出年金(iDeCo)」の新規加入者の増加にも表れています。金融機関は、こうした投資環境の整備と歩調を合わせながら、投資信託等の商品の充実やラップ口座の拡充に取り組んでいますが、引き続き、スマートフォン、AI、ビッグデータ分析などの新しいデジタル技術を活かした金融サービスも提供しながら、家計の多様な資産形成ニーズに応えていくことが期待されます。

第3に、市場インフラの整備に取り組んでいくことです。国内の証券取引では、本年5月に国債決済期間のT+1化が実現されたほか、来年7月には株式決済期間のT+2への短縮が実施される予定です。この間、分散型台帳など新たな技術の証券決済への応用が様々な国で試みられています。こうした動きも踏まえつつ、今後とも、証券業界には、決済リスク削減や効率性向上を通じて、わが国金融資本市場の機能や競争力の向上を進めることが期待されます。

日本銀行としては、今後も皆様方と協力しながら、決済サービスの高度化、市場慣行の整備などを通じ、わが国金融資本市場の安定性と機能度の向上に貢献していきます。また、金融広報中央委員会の活動を通じ、家計の金融リテラシー向上にも証券業界の皆様とともに貢献していきたいと考えています。

4. おわりに

最後になりましたが、今後とも、皆様方のビジネスの発展、そしてわが国金融資本市場のさらなる発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。