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【概要説明】通貨及び金融の調節に関する報告書参議院財政金融委員会における概要説明

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日本銀行総裁 黒田 東彦
2019年11月19日

はじめに

日本銀行は、毎年6月と12月に「通貨及び金融の調節に関する報告書」を国会に提出しております。本日、わが国経済の動向と日本銀行の金融政策運営について詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

わが国の経済金融情勢

まず、わが国の経済金融情勢についてご説明いたします。

わが国の景気は、輸出・生産や企業マインド面に海外経済の減速の影響が引き続きみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大しています。やや詳しくみますと、海外経済の減速の動きが続くもとで、わが国の輸出は弱めの動きが続いています。一方で、国内需要は増加しています。すなわち、設備投資は、企業収益が総じて高水準を維持するなか、増加傾向を続けているほか、個人消費も、消費税率引き上げなどの影響による振れを伴いつつも、緩やかに増加しています。先行きも、当面、海外経済の減速の影響が続くものの、国内需要への波及は限定的となり、景気の拡大基調が続くとみられます。

物価面をみると、消費者物価の前年比はプラスで推移していますが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いています。先行きは、当面、原油価格の下落の影響などを受けつつも、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けるもとで、中長期的な予想物価上昇率は高まっていくとみています。このように、「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されており、消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えています。

金融政策運営

次に、金融政策運営について、ご説明申し上げます。

日本銀行は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みのもとで、強力な金融緩和を推進しています。このうち、長短金利操作については、「物価安定の目標」の実現のために最も適切と考えられるイールドカーブの形成を促すよう、短期政策金利を-0.1%、10年物国債金利をゼロ%程度とする「金融市場調節方針」を掲げ、市場において国債の買入れを実施しています。

先行き、わが国経済は、拡大基調を続け、物価も、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくとみていますが、引き続き、海外経済の動向を中心に、下振れリスクに注意が必要な情勢にあると考えています。こうした情勢判断のもと、日本銀行は、緩和方向を意識した金融政策運営が適当な状況にあると考えています。先月の金融政策決定会合では、政策金利についての新たなフォワードガイダンスを決定し、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、政策金利について現在の水準を維持する、あるいは、状況によっては、現在の水準よりも引き下げる方針を明確にしました。

日本銀行は、こうした政策運営スタンスのもとで、今後も、「物価安定の目標」の実現に向けて、強力な金融緩和を推進していきます。その際、金融市場や金融仲介機能に及ぼす影響などを含め、政策の効果と副作用の両方を考慮することが重要だと考えています。

この点に関し、日本銀行は、低金利環境や金融機関間の厳しい競争環境が続くもとで、金融機関収益の下押しが長期化すると、金融仲介が停滞方向に向かうリスクや金融システムが不安定化するリスクがあることも認識しています。現時点では、金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどから、これらのリスクは大きくないと判断していますが、今後とも、こうした点を含め、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえながら、適切な政策運営に努めていく方針です。

ありがとうございました。