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【挨拶】最近の金融経済情勢と金融政策運営岡山県金融経済懇談会における挨拶

日本銀行副総裁 雨宮 正佳
2019年12月12日

1.はじめに

日本銀行の雨宮でございます。本日は、岡山県の行政および金融・経済界を代表する皆様との懇談の機会を賜りまして、誠にありがとうございます。皆様には、日頃より、私どもの岡山支店の様々な業務運営にご協力いただいております。この場をお借りして、改めて厚くお礼申し上げます。

本日の懇談に先立ち、昨日、「平成30年7月豪雨」により大きな被害を被った真備町などの地域の復興状況を拝見いたしました。1年半が経つものの未だ被災の影響が残っていることには心が痛む思いでしたが、同時に、地域の方々により、復興に向けた取り組みが着実に進められていることを知り、大変心強くも感じました。皆様のご努力に、深く敬意を表したいと思います。

さて、皆様との意見交換を始めるにあたり、先ずは、私から、世界経済を含めた経済・物価情勢についての日本銀行の見方と、そのもとでの金融政策運営の考え方についてお話します。特に、最近多くいただく質問の3つ、「世界経済の減速はいつまで続くのか」、「その影響は国内需要に及ばないのか」、「消費税率の引き上げの影響はどうか」について焦点を当てながら、ご説明したいと思います。

2.金融経済情勢

それでは、世界経済の動向から始めます。まず、ここ数年の世界経済の動きを振り返りたいと思います(図表1)。2017年から2018年半ばにかけては、世界的なIT関連需要の盛り上がりや、それを受けた設備投資の活発化、各国の底堅い内需などに支えられて、世界経済は堅調に推移しました。ところが、昨年半ば頃から、米中貿易問題を巡る不確実性の高まりや、データセンターやスマートフォン向けの需要鈍化を受けたグローバルなITサイクルの調整などから、世界の成長率や貿易量が鈍化しました。特に、世界的な貿易量は、今年半ばには減少に転じました。このような今回の世界経済の減速の特徴は、貿易の減速を背景に、製造業部門が弱めの動きとなっていることです(図表2)。世界的に製造業部門の業況感は、低下した状態が続いています。そうしたもとで、機械投資は弱めの動きが続いています。また、自動車販売も、機械投資と同じように法人需要が弱含んでいるほか、各国での環境規制の厳格化の影響、一部新興国での金融環境の引き締まりなど様々な要因が重なり、弱めの動きがみられています。こうした世界経済の減速について、当初は、2019年内には持ち直しに向かうとの見方が多かったものの、実際にはその時期が遅れ、IMF(国際通貨基金)や日本銀行も含めて、多くの機関が世界経済見通しの下方修正を余儀なくされました。持ち直しが遅れている背景には、米中貿易摩擦が拡大・長期化してきたことや、中国において成長率の低下が続いていることなどが挙げられます。

それでは、世界経済の成長ペースが鈍化した状態はいつまで続くのか、言い換えれば、持ち直しの時期はいつになるのでしょうか。日本銀行では、不確実性は大きいものの、来年の半ばにかけて緩やかに成長率を高めていくとみています。最新のIMFの世界経済見通しでも、世界全体の成長率見通しは、2019年は3.0%まで減速したあと、2020年は、過去平均並みである3.4%まで復する姿となっています(前掲図表1)。

このように、先行き世界経済が持ち直していくと考えられるメカニズムの一つに、各国のマクロ経済政策の効果が発現していくことが挙げられます。今年に入ってから、多くの新興国・資源国が利下げを行っています。また、先進国でも、FRBは、世界経済の弱さや通商動向がもたらすリスクによって米国の景気・物価が実際に下振れることを未然に防ぐため、7月から10月まで3会合連続で利下げを行いました。ECBも9月に金融緩和を行っています。こうした緩和的な金融政策運営は、各国の経済・物価動向を安定化させることを通じて、世界経済の持ち直しをサポートすると考えられます。FRBが今朝の会合で、政策の現状維持を決めた背景として、これまでの保険的な利下げによって、先行きの米国経済が支えられることを指摘しています。

世界経済の持ち直しを牽引するもう一つの原動力として、今回の減速のきっかけとなったグローバルなITサイクルの持ち直しが挙げられます(図表3)。世界的な半導体需要は底を打ちつつあり、この先、スマートフォンやデータセンター向け需要の持ち直しが見込まれます。また、やや長い目でみれば、世界的に5G通信関連の需要増加も期待されるようです。こうした中で、日本における在庫削減局面も概ね終了しており、輸出や生産も、IT関連財については、増加の動きがみられ始めています。

さらに、世界経済を巡る最も大きな不確実性である米中通商問題については、10月の対中追加関税の引き上げ見送りの後も、さらなる進展に向けて交渉が継続しているようです。こうした動きは、国際金融市場でも好感されており、投資家のリスクセンチメントは、ひと頃に比べて改善しています。今後、グローバルに安定的な通商関係が再構築されていくのであれば、縮小してしまった世界貿易を再び活発化させることに繋がることが期待されます。

このように、世界経済については、持ち直しに向けた兆しが少しずつみられ始めていますが、先行きの不確実性には引き続き注意が必要であり、日本銀行では今後の動向を慎重にみています。米中通商交渉については、前向きな動きがみられていますが、米中両国の間には、なお様々な問題に関して対立点が残っており、今後の交渉の行方については、引き続き不透明感が強いと言わざるを得ません。また、中国経済を始めとする新興国経済の足取りや、本日総選挙が予定されている英国のEUからの離脱問題の展開、さらには地政学的リスクなど、注視が必要なリスクが数多くあります。先行き、企業が、世界経済のリスクを意識した状態が長く続くことになれば、設備投資スタンスが再び積極化するまで、予想以上に時間がかかる可能性もあります。このように、世界経済に関する下振れリスクについては、注視が必要な局面が続くと考えています。

これまで、世界経済の動向についてお話してきましたが、次に、わが国の経済情勢に目を転じたいと思います。世界経済の成長ペースが鈍化した状態が続いていることの影響は、製造業や輸出関連の業種を中心に、わが国にも及んでいます(図表4)。わが国の製造業の業況感は、今年に入ってからはっきりと慎重化しています。また、輸出や生産活動については、特に、設備投資に使われる資本財や自動車関連で、弱めの動きが続いています。先行きについても、世界経済の持ち直しが遅れるもとで、当面、こうした状況が続くことが見込まれます。

このように外需が弱めの一方で、国内需要が底堅い、という対照的な動きが続いていることが、今回局面の特徴として指摘できます(図表5)。わが国経済は、過去、世界経済の変調を受けて、製造業へのマイナスの影響が内需にも波及するかたちで、大きな景気変動が生じる局面がしばしばみられました。ただし、今回局面では、輸出は弱めの動きが続いていますが、国内需要は企業、家計、公的部門の3部門ともに増加を続けるなど、これまでのところ、世界経済の減速による内需への影響は限定的です。日本銀行では、この先も、所得と支出の好循環メカニズムが働くもとで、内需は増加基調をたどり、世界経済の減速による内需への影響は限定的にとどまるとみています。すなわち、短期的には、世界経済の減速や消費税率引き上げの影響から内需の増勢はいったんは鈍化するものの、大きな落ち込みは回避されるものと見込んでいます。そこで、設備投資、個人消費、公共投資の順に、先行きの見通しをやや詳しくお話したいと思います。

はじめに、設備投資です。わが国の設備投資は、全体として増加傾向を続けています。世界的には設備投資が弱めの動きとなっている一方で、わが国の設備投資が増加傾向を続けている理由として、わが国では、短期的な景気動向に左右されにくい息の長い投資が増えていることが指摘できます(図表6)。一つは、タイトな労働需給を反映した省力化投資です。労働需給の引き締まった状態が続く中、長い目でみても人手不足が継続するとの見方から、特に労働集約的な非製造業で、省力化・効率化ニーズが高まっています。こうした状況は、有効求人倍率が全国上位3位に入るようなきわめてタイトな労働需給に直面している岡山県の皆様は、より強く感じられているのではないかと思います。人手不足に直面している小売業や宿泊・飲食業、建設業といった業種では、省力化・効率化に向けた取り組みを進めるもとで、機械投資に加えて、ソフトウェア投資も活発に行われています。また、成長分野に対する研究開発投資も増勢を維持するとみています。足もとでは世界経済減速の影響を受けている自動車や化学といった業種でも、長期的な視点に立った競争力向上を目的に、研究開発投資の増加ペースを維持する計画となっています。さらに、建設投資も、都市の再開発や、eコマース普及に伴う物流施設の建設、インバウンド需要の取り込みを企図した宿泊施設の建設など、様々な需要を受けて高水準を続けています。このように、わが国の設備投資は、全体として増加傾向にありますが、当然、一部には世界経済減速の影響もみられています(図表7)。例えば、製造業の機械投資です。特に、設備投資に使われる資本財関連の業種や、自動車関連業種の機械投資が最近は弱めとなっており、先程、輸出や生産活動に関して世界経済減速の影響が大きいと申し上げた業種では、設備投資にも同様の影響が生じています。先行きの設備投資は、息の長い投資が下支えすることで、均してみれば増加基調を維持するとみていますが、目先は、世界経済の持ち直しが遅れるもとで、製造業の機械投資を中心に増勢が鈍化すると考えています。

次に、個人消費です。個人消費は、消費税率引き上げなどの影響による振れを伴いつつも、雇用・所得環境が着実な改善を続けるもとで、緩やかに増加しています。当面の個人消費の動向に関しては、10月の消費税率引き上げの影響がポイントになります(図表8)。まさに、多くの質問をいただく3つめの点です。そこで、まず、税率引き上げ前の消費動向を確認すると、直前の9月には、テレビなどの家電製品や日用品、ブランド品といった高額品などで、需要の大きな増加、いわゆる駆け込み需要がみられました。もっとも、前回の消費税率引き上げ時には、かなり長い期間にわたって駆け込み需要がみられたのに対して、今回は8月までは大きな需要の増加はみられず、今回の駆け込み需要は、前回引き上げ時と比べると抑制的なものとなりました。次に、税率引き上げ後の動きですが、10月は、台風などの自然災害の影響による下押しがあったため、基調的な動きが読みにくくなっていることには留意する必要があります。実際、10月以降の消費関連統計は、やや大きめの減少を示していますが、これには今申し述べたような特殊要因も影響しているとみられます。そうした影響を除くと同時に、関連業界の感触などを踏まえて総合的に判断すると、これまでのところは、税率引き上げ後の反動減は、前回ほどは大きくないようです。また、これに加え、政府による各種の家計支援策が下支えとなることから、個人消費に対する下押し圧力は、前回と比べれば小幅にとどまる可能性が大きいとみています。ただし、消費税率引き上げの影響は、人々のマインドや物価動向などによって変わり得ることから、引き続き注意する必要があると考えています。

最後に、公共投資です。昨年は、岡山県を含めた西日本における豪雨被害や北海道の地震被害があったほか、今年も、東日本を中心に複数の台風による被害が発生するなど、自然災害による大きな被害が相次いでいます。被災地域では災害からの復旧・復興関連の工事が進んでいます。また、自然災害時でもインフラ機能を維持できる対応力の強化を目的とする国土強靱化関連工事が、2020年度にかけて全国で集中的に実施される計画です。岡山県でも、「真備緊急治水対策プロジェクト」として、昨年の豪雨で大きな被害を出した小田川などで治水対策が進められています。さらに、先日、政府が決定した経済対策でも、最近の自然災害からの復旧・復興や防災体制の強化に向けた取り組みが盛り込まれています。こうしたことから、公共投資は、先行き、増加していくことが見込まれます。

ここまでの話をまとめますと、先行きのわが国経済については、世界経済の持ち直しが遅れるもとで、当面、輸出や生産は弱めの動きが続くとみています。また、国内需要についても、世界経済減速や消費税率引き上げの影響から、いったん増勢が鈍化すると予想しています。もっとも、やや長い目でみれば、国内需要の底堅さは維持されるとみられますし、また、IMFの見通しにあるように世界経済も先行き成長率を高めると予想されることから、わが国経済は、緩やかながら、拡大基調を続けることができると考えています。

3.物価情勢

続いて、わが国の物価情勢についてご説明します(図表9)。長期的な視点で物価動向を振り返りますと、1990年代末以降、長年にわたって、物価が持続的に下落する、いわゆるデフレの状況が続いてきました。そうした状況を受けて、日本銀行は、2013年に「量的・質的金融緩和」を導入し、それ以降、強力な金融緩和を推し進めてきました。現在、わが国の経済は大きく改善し、消費者物価の前年比はプラスの状況が定着しており、既に「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではなくなっています。

そのうえで、最近の物価動向をみますと、既往の原油価格の下落の影響や携帯電話関連の値下げもあって、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は+0%台半ばにとどまっています。長期にわたる低成長やデフレの経験から、賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が家計や企業に根強く残っていることなどから、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、物価は弱めの動きが続いています。こうした中で、10月に消費税率が引き上げられました。税率引き上げを受けて、企業の価格設定スタンスが変化しないかという点は、今後の物価動向をみるうえで重要なポイントになります。特徴的な動きを、2点ご紹介したいと思います(図表10)。一つは、耐久消費財の価格の動きです。テレビや家電などの耐久消費財については、消費税率引き上げ前後に需要の増加と反動減がみられています。そうしたもとで、価格の動きについては、需要増加がみられた税率引き上げ前は、強含んでいました。一方、需要の反動減が生じる税率引き上げ後の価格設定は、区々となっています。例えば、比較的価格変動の大きいテレビやノートパソコンの価格は前年比マイナスに転じている一方で、冷蔵庫や掃除機などが含まれる家事用耐久財の価格については、高めの前年比プラスが続いています。もう一つは、外食などのサービス価格の動きです。サービス価格については、税率分をしっかりと転嫁する動きが確認できます。今回、外食の消費税率は10%に引き上げられた一方、軽減税率の導入により、惣菜などのいわゆる「中食」も含めた食料品の消費税率は8%で据え置かれました。そのため、外食の価格は、「中食」との価格競争を意識して、税率分を転嫁しきれず、税抜きの価格が弱含む可能性が指摘されていました。しかし、10月の外食の価格の動きをみると、税率分をほぼ完全に転嫁している姿となっています。外食産業では、人件費や物流費などのコスト上昇を受けて省力化・効率化の取り組みが行われていますが、その努力で吸収しきれないコスト分を徐々に価格に転嫁する動きがみられています。こうした中で、多くの外食関連企業が、今回引き上げられた税率分を販売価格に転嫁したということです。このように税率分を販売価格に転嫁する動きは、他のサービス価格でも確認できます。もちろん、今後の消費動向次第で、企業の価格設定行動も変わり得ることには注意が必要ですが、今のところ、企業の価格設定スタンスに大きな変化はみられておらず、消費税も含めたコストを転嫁する動きが続いていると考えています。

こうした状況も踏まえて、物価の先行きについての日本銀行の見方をご説明します。当面は、既往の原油価格下落の影響から、エネルギー価格の前年比はマイナスが続き、消費者物価の下押し要因として作用すると考えています。しかし、日本銀行では、やや長い目でみれば、景気の拡大基調が続くもとで、企業や家計の物価観も改善しながら、物価上昇率が徐々に高まっていく姿を予想しています。2%の「物価安定の目標」の実現には、なお時間がかかりますが、物価上昇率は、2%に向けて徐々に高まっていくと考えています。こうした物価上昇が実現するために想定している重要なメカニズムの一つが、経済全体の需給ギャップです(図表11)。マクロ的な需要と供給のバランスを示す需給ギャップの動きをみると、ここ数年、需要が供給を上回るプラスの状況が定着しています。先程お話した経済の見通しをもとにすると、先行き、世界経済減速の影響や消費税率引き上げの影響などから、いったん、需給ギャップはプラス幅を縮小すると予想されますが、均してみれば、現状程度のプラスを維持すると考えています。こうしたもとで、賃金上昇を背景に家計の値上げに対する許容度が高まり、企業の価格設定スタンスがさらに積極化していけば、コスト転嫁だけでなく、需要に応じた積極的な価格引き上げの動きが一段と拡がっていくと考えられます。賃金や物価の上昇が続く中で、人々の間で根強く残っている賃金や物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行も次第に変わっていき、先行きの物価動向に関する人々の予想である予想物価上昇率も高まっていくことが見込まれます。このように、プラスの需給ギャップを起点に現実の物価が上昇し、それが予想物価上昇率の高まりに繋がり、物価上昇率が徐々に高まっていくという、「物価安定の目標」に向けたモメンタムは引き続き維持されていると考えています。

4.日本銀行の金融政策運営

続いて、日本銀行の金融政策運営についてご説明します。

現在、日本銀行では、2%の「物価安定の目標」の実現を目指して、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策」を実施しています(図表12)。具体的には、短期の政策金利を「▲0.1%」、10年物国債金利の操作目標を「ゼロ%程度」と定め、国債市場において大規模な国債買入れを行うなど、強力な金融緩和を推し進めています。

そのうえで、日本銀行として、現状、もっとも注意が必要なのは、世界経済の動向を中心とした経済・物価の下振れリスクであると考えています。世界経済を巡って様々な下振れリスクがあることはお話しましたが、そうしたリスクが顕在化し、世界経済の成長ペースの持ち直し時期がさらに遅れたり、世界経済が一段と減速すれば、わが国経済への影響は避けられません。その場合、物価を規定する重要な要素の一つである需給ギャップが下押しされることを通じて、物価にも相応の影響が及ぶ可能性があります。こうした認識のもと、日本銀行では、7月以降、緩和方向を意識して政策運営を行うスタンスをはっきりと示してきました。10月には、現在のように下振れリスクがかなり高い状況が続く間は、政策金利は、現在の水準を維持する、あるいは、状況によっては、現在の水準よりも引き下げるという方針を明確にしました。今後も、世界経済の動向を中心とした経済・物価の下振れリスクについて注視が必要な局面が続くと考えており、当面、緩和方向を意識した金融政策運営が適当と考えています。引き続き、様々なリスクを注意深く点検したうえで、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる方針です。

以上が、日本銀行の基本的な金融政策運営の考え方ですが、その際、金融市場や金融仲介機能に及ぼす影響などを含め、政策の効果と副作用の両方を考慮することが重要だと考えています。この点に関して、日本銀行は、低金利環境や金融機関間の厳しい競争環境が続くもとで、金融機関収益の下押しが長期化すると、金融仲介が停滞方向に向かうリスクや、金融システムが不安定化するリスクがあることを認識しています。現時点では、金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどから、これらのリスクは大きくないと判断していますが、今後とも、こうした点を含め、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえながら、適切な政策運営に努めていきたいと考えています。

5.おわりに

最後に岡山県経済について申し上げます。

岡山県経済は、底堅い内需を背景に、基調としては緩やかに拡大しつつあります。米中貿易摩擦や中国経済の弱めの動きの影響が輸出・生産面にみられていますが、設備投資は高水準を維持しています。個人消費も、消費税率引き上げに伴う需要変動がみられていますが、基調としては持ち直しています。昨年の豪雨により甚大な被害を受けながらも、住民の方々、企業、行政の懸命な努力に支えられて、岡山県経済は、拡大に向けた好循環メカニズムを維持しています。

岡山県は「晴れの国」と称される恵まれた気候のもと、歴史的に交通の要衝として商業や物流が発展し、製造業も水島臨海工業地帯に代表されるように、わが国のモノづくりを牽引してきました。また、多くの古城、備前焼、後楽園、倉敷美観地区などにみられる文化的厚み、温泉、フルーツ、瀬戸内の幸に代表される自然の恵みも、内外にアピールする力となっています。これらを活かした観光振興も進んでおり、今年は「岡山芸術交流」や「瀬戸内国際芸術祭」も開催されて、内外から多くの人々が岡山県を訪れています。

一方、このような豊かさを持つ岡山県も、少子高齢化や人口減少への対応が課題であることは他の地域と同様です。ただ、岡山の方々は、時代の先を見据えながら、その時々の課題を乗り越えてこられたように思います。江戸時代には、池田家の藩政下で児島湾の干拓を進め、農業生産力を飛躍的に向上させました。明治時代、大原孫三郎は、当時の最新技術を導入して繊維産業発展の礎を築くとともに、今日の働き方改革の考え方にも通ずるような労働環境の整った工場を設立しました。その後も、戦争の傷跡の残る1952年に水島の開発構想が打ち出され、そこに形成されたコンビナートは、日本の製造業の発展をリードしました。最近では、県北の林業を軸にした地域振興が成果をあげており、全国の地方創生のモデルとなっています。

今日、県民の方々、企業、行政が連携して、豪雨被害を乗り越えようとしているように、これからも地域が一体となって岡山県の強みに磨きをかけることで、成長力を高めていくことを期待しています。日本銀行も、岡山支店を中心に、岡山県経済の一層の発展に貢献して参りたいと考えています。ご清聴ありがとうございました。