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「通貨当局の外貨流動性ポジションに関する透明性向上」

ユーロ−カレンシー・スタンディング委員会作業部会によるレポート

(日本銀行仮訳)

1998年11月10日
国際決済銀行
1998年11月 9日

プレス・ステートメント

本日、国際決済銀行(BIS)は「通貨当局の外貨流動性ポジションに関する透明性向上」に関するレポートを公表した。本レポートは、ユーロ−カレンシー・スタンディング委員会(Euro-currency Standing Committee<ECSC>)の下に設置され、Stefan Ingvesスウェーデン中銀副総裁が議長を務めた作業部会によって作成され、10月にG10諸国の中央銀行総裁によって承認されたものである。IMFと欧州中央銀行も、この作業部会に参加した。本レポートは、BIS World Wide Web site(http://www.bis.org/)(外部サイトへのリンク)から入手することができる。

本レポートは、グローバルな金融システムの透明性を向上させることを目的とする一連のイニシアティブの一つに位置付けられる。これらのイニシアティブは、主要先進国とエマージング・マーケット諸国によって構成されたグループ(Willard Group)によって最近発表された透明性とアカウンタビリティについてのレポート、およびIMFによるSpecial Data Dissemination Standard(SDDS)の強化のための作業を含むものである。ECSCの下で、BISによって進められている国際銀行統計の改善のための努力も、同様のプロセスの一部をなしている。

近年におけるアジア通貨危機およびその余波は、中央銀行やその他の公的機関によるオンバランス、オフバランス双方の外貨建て取引に関する情報が、十分に入手可能ではないことを浮き彫りにした。こうした背景を踏まえ、本レポートは、情報不足の問題を解決することを目的としたディスクロージャー基準の改善を提言する。本レポートは、通貨当局が処分可能で、かつ必要な際に容易に流動化できる外貨資産、およびこれら資産の潜在的流出要因(当局の短期外貨負債に関するもの)からなる、通貨当局の外貨流動性ポジションに焦点をあてている。

レポートは、3つの主要な提言を行っている。第一に、対象となる機関と金融商品の双方に関して包括的であることをめざし、かつ外貨流動性に対する関心と整合的な資産・負債の評価基準を規定する、公表フォーマット(ディスクロージャー・テンプレート)の導入を主張する。中央銀行の専門家は、目下、近い将来に最終的なテンプレートを公表するため、開示されるべき項目について、より詳細な提言を策定すべく作業を行っている。IMFも、この作業に参画している。第二は、適時性(timeliness)の基準に関する提言である。本レポートは、第一ステップとして、月次の計数を遅くとも1ヶ月のラグで公表するという基準を採用し、これを1999年6月末までに実施することを提案している。このことは、現在の慣行と比較した場合、大幅な改善に相当する。最後に、本レポートはこれと並行して、全ての市場参加者に適用される適切なディスクロージャー基準の問題について、望ましい慣行とは何かを明らかにするとの観点から、ECSCが再び検討を行うことを提言している。

  • ユーロ−カレンシー・スタンディング委員会は、G10諸国中銀総裁会議のサブコミティーである。これは、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、オランダ、ルクセンブルク、スウェーデン、スイス、イギリス、米国の各中銀及び欧州中央銀行の幹部からなる。現在の議長は、日本銀行副総裁山口泰である。当委員会は、BISに置かれた事務局によりサポートされている。

1998年9月28日

エグゼクティブ・サマリー

 アジア通貨危機は、中央銀行及びその他の公的機関が行うオンバランス、オフバランス双方の外貨建て取引に関連する情報が、十分に入手可能ではないことを浮き彫りにした。このため、G10諸国の中央銀行総裁は、ユーロ−カレンシー・スタンディング委員会(Euro-currency Standing Committee、ECSC)に対して、こうした問題に対応するため、ディスクロージャーの枠組みを構築するための作業部会を設立するよう要請した。特に、当作業部会に対しては、市場が通貨当局の外貨流動性ポジションをより良く評価できるような統計情報を明らかにすることが要請された。当該ポジションは、当局が処分可能で、かつ必要な際に容易に流動化できる外貨資産、および潜在的に外貨資産の流出につながる要因(当局の短期外貨負債に関するもの)からなっている。また当作業部会は、ディスクロージャーのための最も適切な枠組み、公表されるべき情報の具体的な形式と内容、選択された公表方法の実践に必要な追加的な実務的作業を報告することも、要請された。そのための審議の中で、当作業部会は、G10諸国においてディスクロージャーの慣行を改善することは、エマージング・マーケット諸国における類似の行動を促しうることを認識した。

 作業部会の分析と提言は、他のフォーラムにおいて現在進行中のディスクロージャーに関するイニシアティブを踏まえて、評価されねばならない。これらのイニシアティブは、G22(通称「Willard Group」)の大蔵大臣と中央銀行総裁により委託された、透明性とアカウンタビリティについての作業部会の検討、並びにIMF理事会によるSpecial Data Dissemination Standard(SDDS)の強化に関する作業を含むものである。こうしたイニシアティブに鑑み、当作業部会へはIMFからの参加が要請されたほか、ディスクロージャーの慣行に関する情報はWillard Group作業部会とも共有された。また、欧州中央銀行(ECB)からも、当作業部会への参加が要請された。

 作業部会は、情報の内容、適時性(timeliness)の両面において、ディスクロージャーを強化する方向で思い切った措置をとることが適当であるとの結論に達した。この結論は、中銀総裁によるこれまでの議論において概要が示された「流動性」概念を踏まえて、現行のディスクロージャー慣行を見直し、さらにディスクロージャー強化の費用対効果分析を行った上で、得られたものである。一般に現行のディスクロージャー慣行は、意味のある情報を提供しているとは到底言えず、このことは特に外貨資産の潜在的な短期流出要因に関して顕著である。最近のアジア通貨危機によって浮き彫りにされたように、通貨当局が先物ポジションを開示していないということは、一つの重要な例である。ディスクロージャーを強化することの主たる便益は、当局のアカウンタビリティと市場による金融規律の行使が改善することである。このことは、更に、持続不可能な政策を早期に修正させ、市場参加者に個々の国の情勢についてより的確な認識を持たせることを可能にし、ひいては危機の波及をも抑制するかもしれない。また、効果的な市場規律の仕組みを確立するためには、民間部門によるディスクロージャーや報告の適切な枠組みが必要であるという点も指摘された。ただ、この点については各国の見解に不一致が見られたため、当作業部会はこの問題は更なる分析を行う価値が有ると認識した。当作業部会は、透明性を高めることから生ずる利点と潜在的コストを比較考量した。潜在的コストとしては、主として、外為市場における価格圧力に抗するため秘密介入を行う余地が低下することや、より厳しいディスクロージャー基準への移行に伴う不確実性、新たなディスクロージャーを実施することに伴う実務面の負担、といったものが挙げられた。

 当作業部会の具体的な提言は、(1)開示されるべき情報の内容を示したディスクロージャー・テンプレート、(2)ディスクロージャーの周期およびディスクロージャーまでのラグを含む適時性の基準、(3)実施に向けたタイムテーブル、並びに(4)民間の市場参加者に適用されるディスクロージャーの基準に関し、今後行われるべき検討についての提案、からなっている。

 ディスクロージャー・テンプレートは、次のような3つの特徴を有している。

 第一に、本テンプレートは、対象となる機関および金融商品の範囲に関し、出来る限り包括的であることを企図している。機関に関しては、概念的には、通貨危機への対応に責任があり、あるいは関わりを持つすべての公的部門の主体に本テンプレートが適用されることが意図されている。実際には、対象機関には、中央銀行および中央政府(社会保障を除く)の両方を含むものとしてここで定義される「通貨当局」が少なくとも含まれるべきであるが、その国の制度によっては、他の公的部門の主体に拡大することもありえよう。金融商品に関しては、バランス・シートへの計上、非計上を問わず、全ての意味のある流動性資産および短期債務を対象とすることを企図している。こうした包括的なアプローチをとるのは、有意義な全体像を提供することのほか、流動性ポジションのある要素をディスクロージャー対象外の商品の形態に移す余地を制限することが目的である。

 第二に、本テンプレートは、外貨準備およびその流出の両方に関し、市場参加者が知識に基づいた判断ができる程度に十分に詳細であるよう努めている。詳細さに対する配慮は、幾つかの側面についてなされている。とりわけ、部門別内訳(特に、通貨当局とその他公的部門の主体の別)、流動性やキャッシュ・フローの特徴の面で相違し得る金融商品の識別(例えば、流動性については金、報告対象国に本店を置く銀行に対する預金等、キャッシュ・フローについては債務の偶発性如何、債券の残存期間別内訳から求められるキャッシュ・フローの時間的プロフィール等)、および補完的なメモランダム項目(例えば、引出未実行の無条件信用供与枠、外国通貨にインデックスされた負債)を含んでいる。

 最後に、本テンプレートは、流動性に焦点を当てたアプローチと整合的な、資産・負債の評価原則を規定している。これは、使用可能な外貨準備資産は(大凡の)市場価値ベースで、そして将来におけるこれら資産の流出のプロフィールはその名目価値(流出時点におけるキャッシュ・フローの価値)で、出来る限り報告するよう提案するものである。

 作業部会は、各国が本テンプレートを支持するよう提言する。ただし当作業部会は、これと同時に、本テンプレートに改善の余地があることを認識している。専門家が本テンプレートの詳細について見直すことは、いくつかの項目について公表の仕方を改善したり、テンプレートの効果的な実施を実現するうえで有益である。考慮されるべき論点としては、とりわけ、デリバティブのポジションに関する取扱い、並びに当報告書で用いられている定義と、国際収支の分野で伝統的に用いられている定義(主として居住性の基準に基づくもの)との関係を明確にすることが挙げられる。専門家は、出来る限り早期に、こうした論点について報告することが望ましい。

 作業部会は、適時性(timeliness)の問題に多くの注意を払った。これは、適時性を検討する際には、判断の要素が大きく求められることによるものである。情報のディスクロージャーには、適時性に影響を与える2つの要因がある。第一はディスクロージャーのラグであり、これは、情報が公表された際に、既にどの程度時代遅れのものとなっているかを決定する。第二は、ディスクロージャーの頻度または周期であり、これは、各公表時点間における情報の陳腐化の程度を決定し、また公表内容に含まれる追加的な「ニュース」の大きさに影響を与える。当作業部会は、ディスクロージャーの頻度とラグは、テンプレートの全ての項目(但し、通貨グループ別の通貨構成というメモランダム項目は除く)につき、同一であるべきであるという点について合意した。こうした取扱いをしないと、何であれ最も遅いタイミングで報告を求められる項目に資産・負債等を移すことを通じて、流動性の変化を隠す方法を提供することになり、テンプレートの有用性を大きく減殺しかねない。当作業部会は、また、極めて高い頻度と短いラグで公表を行うことも、技術的には可能であることについて合意した。同時に、こうした形の公表により市場規律の面で得られる利点は、外貨準備運用目的であれ、秘密介入目的であれ、外為市場におけるオペレーションの自由度を確保する必要性と比較考量されなければならない。外貨準備運用の自由度を守るために、当作業部会は、外準ポートフォリオの通貨構成に関しては、ディスクロージャーの頻度と詳細さの程度を落とす余地があるとの結論を得た。更に、先物のポジションは、国内通貨を含む場合に限り報告されるべきである。なぜなら、国内通貨を含む先物取引だけが、外貨準備総額の将来の変化を意味するからである。なお、秘密介入については、そのために必要な自由度の大きさや価値に関する見解が、グループ内で分かれた。見解の相違は、幾つかの要素を反映している。特に、為替相場制度に関する経験の相違、各国の制度的な枠組み、および当局による介入の事実や規模について、市場に不確実感をもたせることが有用であると考えられる状況が、どの程度の範囲および頻度で生じうるかについての意見の相違、といったものが挙げられる。更に2つの点が、可能な限り最も頻繁かつ短いラグでのディスクロージャーに早急に移行することに対する反論として挙げられた。1つは、実施に伴うコストであり、これは特に2000年問題とユーロ導入に対応する必要との関係で重要である。もう1つは、様々な不確実性があることを踏まえると、徹底したディスクロージャーが1度採用されると、たとえそれが不適切であることが後になって判明した場合でも、撤回しにくいのではないかという懸念があることである。

 以上を考慮した上で、作業部会は、第一ステップとして、月次の計数を遅くとも1ヶ月のラグで公表するという基準を採用し、これを1999年6月末迄に実施することを提言する。こうした頻度とラグは、テンプレートの全ての項目—但し1つのメモランダム項目を除く—に適用されるため、現在の慣行と比較した場合、既に顕著な改善に相当する。加えて、当作業部会は、中央銀行が唯一の外貨準備・負債の保有主体ではない以上、提言の完全な実行のためには、他の公的機関、中でも大蔵省または財務省が本提言を受け入れ、それに即した対応をとる必要があることに留意した。

 作業部会は、また、全ての民間金融仲介機関のリスク・ポジション(外貨のポジションを含む)に関し、同様の透明性を実現することの便益についても検討した。当作業部会は、この分野に関して、更なる並行的な検討作業が必要であるという見解に達した。当作業部会は、この点に関する最初の分析は1994年にECSCにより行われており、その成果が「金融仲介機関によるマーケット・リスクおよび信用リスクのパブリック・ディスクロージャーに関する討議用ペーパー」(フィッシャーレポート)として公表されていることに留意した。公的部門に対するディスクロージャー強化の提案との関連で、当作業部会は、全てのマーケット参加者に適用される適切なディスクロージャー基準の問題について、望ましい慣行とは何かを明らかにするという観点から、ECSCが再検討することを提言する。

以上