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証券貸借取引:市場の発展とそのインプリケーション

(日本銀行仮訳)

1999年 7月12日
国際決済銀行

日本銀行から

 以下には、プレス・リリースおよび報告書のエグゼクティブ・サマリーの仮訳を掲載しています。

照会先

 本報告書に関するご質問等がございましたら、信用機構室決済システム課(内線2955、同2963)までご照会ください。なお、報告書の原文は、BISのホームページ(http://www.bis.org/)(外部サイトへのリンク)およびIOSCOのホームページ(http://www.iosco.org/)(外部サイトへのリンク)から入手することができます。

プレス・リリース

「証券貸借取引:市場の発展とそのインプリケーション」
—— 証券監督者国際機構と支払・決済システム委員会の新しい報告書 ——

 本日、証券監督者国際機構(International Organization for Securities Commissions、以下、IOSCO)のテクニカル・コミッティーとBIS支払・決済システム委員会(Committee on Payment and Settlement Systems、以下、CPSS)は、両委員会が共同で作成した報告書「証券貸借取引:市場の発展とそのインプリケーション」を公表した。

 本報告書は、IOSCOとCPSSが共同で作成した2つ目の報告書である。最初の報告書である「証券決済システムのディスクロージャーの枠組み」は1997年に公表されている。今回公表する報告書は、両委員会共通の関心事項にかかる継続的な協調の一環として、両委員会合同のワーキング・グループが作成したものである。ワーキング・グループは、16ヶ国の中央銀行および証券監督者によって構成された。

報告書の目的

 証券貸借取引は、近年取引量が大幅に増加した結果、現在では多くの証券決済システムにおいて一日の決済額の相当な部分を占めるに至っており、市場の流動性を高めるうえでも重要な役割を担っている。こうしたことから、ワーキング・グループは、「証券貸借の発展と同取引が証券監督者と中央銀行、特に、証券決済システムに対して有するインプリケーションについて理解を深めること」を目的として本報告書を作成した。

 証券貸借とは、本報告書において概説する様々な種類の取引——証券貸付、レポ、セル・バイバック(sell-buybacks)——の総称である。証券貸借取引においては、証券が通常それと同等以上の価値を持つ現金や証券と一時的に交換されるとともに、将来のある期日に同種同量の証券をもって返還されることが約束されている。上記の各種取引は法的枠組みが異なるものの、経済効果は類似している。

市場参加者の協力

 CPSSのヴェンデリン・ハルトマン議長およびIOSCOテクニカル・コミッティーのミシェル・プラダ議長は、本報告書に対する市場参加者の多大な貢献を次のように強調している。「各国の中央銀行と証券監督者は、本プロジェクトの主要な一部として、市場参加者に対し証券貸借取引の規模と構造、および市場の成長要因について定性的な調査を行った。調査対象である市場参加者には、ディーラー、カストディ銀行、機関投資家、銀行、証券決済システム、清算機関、市場サービスの提供者およびコンサルタントが含まれている。ワーキング・グループの参加者は、十数ヶ国の市場参加者計60先に対して調査を行った」。

報告書の内容

 本報告書は、証券貸借取引の背後にある市場参加者の動機や同取引から生じる法制、規制、税制、および会計制度上の論点など証券貸借市場のダイナミクスを概観している。また、証券貸借取引に伴うリスクと、市場参加者がこれらのリスクを管理・削減するために用いている慣行と手続を紹介している。さらに、報告書は、証券貸借が市場参加者、市場インフラの提供者、ならびに市場当局、特に証券監督者と中央銀行に対して有するインプリケーションを議論している。

報告書の主要点

  • 証券貸借市場は、証券市場、資金市場およびデリバティブ市場に流動性を供給するほか、これらの市場の取引の柔軟性を高めており、今日の国内・国際金融市場にとって不可欠な構成要素である。
  • 証券貸借の規模とその重要性が増大していることから、市場参加者はリスクを識別・管理する健全な慣行を引続き育成すべきであり、こうした取組みは市場の発展と歩調を合わせて進められるべきである。
  • 証券貸借取引は既存の証券決済システムの中で発展してきたものであるが、同取引には固有の特徴点があるため、市場インフラの提供者は、取引処理の一層の自動化や取引処理を円滑化するための仕組みの必要性を検討する必要がある。
  • 証券監督者中央銀行は証券貸借市場における健全な慣行の育成を促進するという共通の目的を持っており、当局自身の政策としてこうした慣行を後押しすべきである。

 ワーキング・グループの議長である玉川氏は、本報告書の主要点に関して、「本報告書が証券貸借という重要な市場について広く議論と検討を喚起することを期待する」とコメントしている。

 なお、本報告書は、国際決済銀行のホームページ(www.bis.org/)(外部サイトへのリンク)とIOSCOのホームページ(www.iosco.org/)(外部サイトへのリンク)に掲載されている。また、報告書のコピーは、国際決済銀行、IOSCOならびにワーキング・グループに参加した各国当局から7月下旬以降入手することができる。

編集者への注記

  1. BIS支払・決済システム委員会(CPSS)は、G10各国中央銀行が支払・決済の仕組みの発展状況をモニター・分析し、関連する政策課題を検討するフォーラムである。なお、非G10諸国の中央銀行によるCPSSの活動への参加も増えてきている。CPSS議長は、ドイツ連邦準備銀行理事ヴェンデリン・ハルトマンである。事務局の機能は、国際決済銀行により提供され、グレゴール・ハインリヒが事務局長を務めている。これまでのCPSSの報告書には、「証券決済システムにおけるDVP」(1992年)や「クロスボーダー証券決済」(1995年)がある。CPSSの報告書一覧ならびに最近の報告書の全文(英語)は国際決済銀行のホームページに掲載されている。
  2. 証券監督者国際機構(IOSCO)は、モントリオールを本拠地とし、現在164ヶ国の証券市場監督者から組織されており、国内・国際証券市場の効率性・健全性を維持するため高い基準の規制を協力して推進してきた。IOSCOの事務総長はピーター・クラークであり、テクニカル・コミッティー(IOSCO側で本報告書の作成を担当)の議長は、フランスの証券取引委員会委員長のミシェル・プラダである。IOCSOは、「新興市場における支払・決済——その青写真(Clearing and settlement in emerging markets - a blue print)」(1992年)および「市場監督当局の協調と破綻対応手続(Cooperation between market authorities and default procedures)」(1996年)等、証券決済に関する数多くの報告書を発表している。IOSCOのその他の報告書は、ホームページに一覧が掲載されている。
  3. 日本の大蔵省金融企画局の玉川雅之企画官がワーキング・グループの議長を務めた。同グループの参加者およびその所属機関のリストは、本報告書に掲載されている。なお、ワーキング・グループの事務局はCPSS事務局の水野正幸氏である。

以上


エグゼクティブ・サマリー

「証券貸借取引:市場の発展とそのインプリケーション」

 証券貸借取引は、今日の金融市場における重要な構成要素となっており、今後もそうあり続けると考えられる。本報告書は、証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions)のテクニカル・コミッティーとBIS支払・決済システム委員会(Committee on Payment and Settlement Systems)の共同ワーキング・グループ(以下、ワーキング・グループ)が作成したものであり、証券貸借市場を概観するとともに、証券貸借取引が市場参加者、証券決済システム、ならびに証券監督者と中央銀行に対して有するインプリケーションを論じている。

 報告書の第1章では、証券貸借市場の一般的な概要が説明されている。証券貸借取引においては、証券が通常それと同等以上の価値を持つ現金や証券と一時的に交換されるとともに、将来のある期日に同種同量の証券をもって返還されることが約束される。報告書は、まず、証券貸借取引の中で「証券の取得を目的とする(securities-driven)取引」と「資金の取得を目的とする(cash-driven)取引」とが区別されるとしている。一般に「証券の取得を目的とする取引」は、特定の証券を、担保と引き換えに貸し借りする取引であるのに対し、「資金の取得を目的とする取引」は、資金調達・運用の担保とする目的で、証券の貸付・借入を行う取引である。報告書は、そのうえで、証券貸借に用いられる主要な取引の構造--証券貸付、レポ、セル・バイバック(sell-buybacks)-- の違いについて説明している。これらの取引は法的枠組みが異なるものの、経済効果は類似している。

 続いて報告書は、市場のニーズを満たすために証券貸借取引がどのように発展してきたか略述している。証券貸借取引はほとんどの市場においてまだかなり目新しい取引であるが、近年、取引量の急速な増加と市場のグローバル化をみている。この点、報告書では、証券貸借市場の規模と伸びに関する情報も提供している。第1章は、最後に証券貸借市場を変貌させつつある最近の動向をいくつか取り上げ、その締めくくりとしている。

 第2章は、証券貸借市場の参加者と典型的な取引構造を概説している。参加者には、証券の借り手と貸し手、資金の運用者と調達者、取引の仲介者、および証券の清算・決済サービスの提供者が含まれる。本章では、証券貸借の背後にある動機ならびに特定の証券の借り入れを含むいくつもの取引戦略について説明している。また、本章では、機関投資家のポートフォリオを管理し、彼らの代理人として証券貸付けを行うカストディ銀行や、ヘッジ・ファンドのようなレバレッジの高い業務を行う顧客等に対して貸付け可能な証券のメニューを提供するプライム・ブローカー等の取引仲介者の役割についても議論している。取引仲介者の中には、自動約定照合・確認サービスを提供する者もある。証券貸借取引の基本的な清算・決済方法は、通常の市場取引の決済プロセスと同様である。しかしながら、証券集中保管機構や清算機関では、貸借取引専用の取引識別・証跡管理の仕組みやセントラル・カウンターパーティーによるクリアリング機能(債権債務の集中計算や貸借尻の算出等を行う仕組み)といったサービスを発展させてきている。

 第3章は、証券貸借取引から生じる法制、規制、税制および会計制度上の論点を議論している。これらの論点は市場により大きく異なっている。近年、各国の当局は、証券貸借市場の発展を促進するためにこれらの枠組みに変更を加えてきている。こうした変更は、その他の事情と相まって、市場参加者にとって証券貸借を規律する契約の法的有効性をより確実にする効果をもたらした。いくつかの国では、証券貸借市場の発展を阻害する規制面や税制面での障害が積極的に除去され、市場の拡大が促進された。もっとも、その一方で、市場の発展を阻害する規制面の障害が残存していることも論じられている。

 第4章では、証券貸借におけるリスクの源泉と種類、ならびに市場参加者がこれらのリスクを管理・削減するために用いている慣行と手続を紹介している。証券貸借取引は、通常は担保付取引であるため相手先の信用リスクが低減しており、そのリスクは比較的小さいとしばしば考えられている。しかしながら、証券貸借取引のリスクの種類と源泉は、市場参加者がその他の市場取引において直面するリスクと同様である。それゆえ、「証券決済システムにおけるDVP」(1992年)や「クロスボーダー証券決済」(1995年)といったこれまでの報告書におけるリスク分析が、証券貸借にもあてはまる。市場参加者は、これらに加えて証券貸借に固有のリスクにも晒されうる。とりわけ、証券貸借取引が比較的複雑な事務を伴うことから、市場参加者は法的リスク、オペレーショナル・リスクおよび決済リスクに晒されると考えられる。また、市場参加者にとっては、証券貸借取引に用いられる担保の市場価格の変動から生じるリスク、すなわち、担保価額が下落することにより担保不足の状態が生じるリスクも問題となろう。

 ワーキング・グループは多くの市場参加者とインタビューを行ったが、これにより、証券貸借にかかるリスクの管理・削減の市場慣行や手続は多くの場合概ね似通っていることが明らかとなった。市場参加者は、通常、取引相手先毎に正式な信用評価を行い、与信上限額を設けている。また、各取引は標準的な契約書に基づいて行われるのが一般的であり、標準的な基本契約書(マスター・アグリーメント)が利用されることが益々多くなってきている。さらに、信用リスクを極力小さくするためには担保が用いられている。オペレーショナル・リスクに対しては、取引の処理をできるだけ自動化することで対応が図られている。もっとも、リスク管理の実務が国毎に異なること、また一国内でも参加者毎に異なること、も明らかである。このため、報告書では、市場参加者によるリスク管理の実務を説明するうえで、こうした違いがあることを明確にしようとしている。

 最終章では、証券貸借の役割を他の金融市場との関係で検討したうえで、市場参加者、市場のインフラならびに市場当局に対して、証券貸借がどのようなインプリケーションを有するかを議論している。証券貸借の役割について、報告書は、証券貸借取引がいくつかの国内市場においてはかなり以前から重要であったが、ここ十年の間にグローバルな金融システムにおいてもその全体としての重要性を増していると結論づけている。今日、証券貸借市場は、国内および国際金融市場にとって不可欠な構成要素となっており、証券市場、資金市場およびデリバティブ市場に流動性を供給しているほか、これらにおける取引の柔軟性を高めている。ワーキング・グループでは、今後も証券貸借取引が増加を続け、各種金融市場において一層重要な構成要素になると予想している。

 証券貸借のインプリケーションに関して、報告書は、まず、証券貸借の規模と重要性が増大していることから、市場参加者がリスクを識別・管理する健全な市場慣行を引続き育成するべきであり、こうした取組みが市場の発展と歩調を合わせて進められるべきであるとしている。とりわけ、市場参加者においては、健全な担保管理策を採用することが望まれる。これには証券の貸付と引き換えに適切な担保を受け取ること、貸借される証券と担保の全てを毎日値洗いすること、ならびに担保の市場価格下落に備えて超過担保を確保すること、が含まれる。また、報告書では、全ての取引相手について綿密な信用評価を実施することや、極度の価格変動がもたらす潜在的な影響を評価するためのストレス・テストを実行すること、また、証券貸借に関するリスクが適切に開示されるように、本人・代理人関係や損失補填条項等の顧客との契約関係を明確にすること、が重要であると強調している。このほか、報告書では、市場参加者が証券貸借取引を管理し処理するための適切なシステムを構築すべきことにも力点が置かれている。また、市場参加者は、証券貸借の取引条件等を定める契約条項を熟知し、これを履行すべきであり、クロス・ボーダー取引に伴うリスク管理上の問題も検討すべきである。

 ワーキング・グループは、証券貸借取引が既存の証券決済システムの中で発展してきたものではあるが、証券貸借取引に固有の特徴点が市場インフラに対するインプリケーションを持つことを指摘している。報告書では、証券貸借市場の流動性をより高めるためには、市場インフラの提供者が、手作業中心の処理に伴うオペレーショナル・リスクを削減すべく、約定照合等の取引処理を自動化することや、セントラル・カウンターパーティーによるクリアリング、多角的ネッティングおよびトライ・パーティー・レンディング(注:カストディ銀行が仲介となる証券貸借サービス)を提供する中央機構を発展させること、さらに、証券貸借取引を通常の市場取引と区別して認識・追跡する自動システムが未だ導入されていない場合にはこれらの開発を検討すること、を提言している。また、決済リスクを極力小さくするために、市場インフラの提供主体はDVP決済(注:証券の引渡しと資金の支払いが相互に条件付けされる決済方法)の利用を引続き促すべきであり、また、証券貸借が他の証券により担保されることが多い市場においては、DVD決済(注:貸出証券と担保証券の引渡しが相互に条件付けされる決済方法)の導入を検討すべきである。クロス・ボーダー取引については、市場インフラに責任を持つ者が、国際証券集中保管機構を含めた証券集中保管機構間の接続やトライ・パーティー・カストディアン(注:トライ・パーティ・レンディングを提供するカストディアン)の利用など、より安全で効率的な決済の選択肢を引続き増やすべきである。また、市場インフラの提供主体が証券貸借市場全体の状況に関する情報(統計等)を提供する努力を続けることも望まれる。

 報告書の最終部分では、証券監督者中央銀行が証券貸借市場における健全な慣行の育成を促進するという共通の目的を持っており、当局自身の政策としてこうした慣行を後押しすべきことを強調している。報告書は、市場当局がそれぞれの国における規制枠組みがどのように証券貸借市場を形成してきたかを十分理解し、安全で効率的な市場慣行を支持・促進する政策を実行すべきと指摘している。こうした政策としては、証券貸借取引の法的不確実性を低減すること、会計処理や自己資本の取扱いの透明性・比較可能性を向上させること、ならびにDVPあるいは他の適切な決済方法(DVD等)など市場インフラの改善を促進すること、が挙げられる。また、市場当局は、一方で相場操縦の可能性を削減しつつ、市場参加者による市場慣行やリスク管理手法の改善努力を後押しすべきである。最後に、他のほとんどの大規模な金融取引の場合と同様に、市場当局は、証券貸借取引が市場の安定性に影響を及ぼしたりシステミック・リスクを高めたりする潜在的な可能性について、評価を行うべきである。

 なお、本報告書には、5つの付属資料が付いている。資料1は証券貸借に関する用語集であり、資料2は上で述べた市場調査に用いられたアンケートである。資料3にはワーキング・グループに参加した国における証券貸借市場の規模と特徴に関する情報が盛り込まれている。資料4は、ワーキング・グループ参加国の証券貸借市場の枠組み、とりわけ、法制、規制、税制および会計制度を要約したものである。資料5では、証券貸借取引に関する証券決済システムの特徴が表にまとめられている。

以上