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不良債権問題の基本的な考え方

2002年10月11日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、要約を掲載しています。本文および図表を含む全文は、こちら(fss0210c.pdf 64KB)から入手できます。

要約

  1. わが国の不良債権問題は、「バブルの負の遺産の処理」だけでなく、「産業構造や企業経営の転換・調整圧力を背景に新規に発生する不良債権への対処」という性格も加わりつつある。その意味で、金融と産業双方にわたる日本経済の構造調整と密接不可分の問題として捉える必要がある。
  2. 金融機関は過去約10年にわたり、90兆円にのぼる巨額の不良債権処理を実施してきており、問題克服に向けて相応の進捗をみている。しかし、(a)経済の構造調整に伴い、なお不良債権の新規発生が高い水準で続くとみられる一方で、(b)金融機関の貸出利鞘がきわめて薄い状況が続いていること、(c)経営のバッファーとして機能していた含み益がなくなったこと、などを踏まえると、わが国の不良債権問題は、金融機関の経営体力や収益力との対比では、むしろこれまで以上に厳しい状況に直面していると考えられる。
  3. 不良債権問題の克服のためには、不良債権の経済価値の適切な把握、それに基づく早期処理の促進、企業・金融機関双方の収益力の改善などを軸とした、総合的な対応が不可欠である。併せて、金融危機を未然に防ぐとともに、金融機関が不良債権問題の解決に着実に取り組めるような環境や仕組みを整備することが必要である。

(1)不良債権の経済価値の適切な把握と早期処理

 不良債権を早期に処理するためには、経済価値の減価を適切に反映した不良債権の把握とこれに基づく適切な引当を行うことが不可欠である。最近の経済構造の急激な変化や信用リスク管理手法の高度化の流れなどを踏まえ、現在の金融機関の引当手法にさらに改善の余地はないか、検討を深める必要がある。日本銀行としても、そうした検討を踏まえ、考査・モニタリングを通じて、とりわけ大手行に対しては、より適切な引当に向けた金融機関の自主的な努力を促していく方針である。また、整理回収機構(RCC)の活用などを通じて貸出債権流動化市場の拡充を図り、不良債権の市場価格のより適切な形成とオフ・バランス化を促すことも重要な課題である。

(2)金融機関と企業の収益力強化

 金融機関の収益力強化や健全化に向けた経営努力を促すという観点から、金融制度、金融機関の業務規制、税制等のあり方を常に見直していくことが適当である。

 また、不良債権問題克服のためには、産業政策や地域政策の観点も含め、企業の収益力強化や企業再生に向けた総合的な取り組みが不可欠である。この間、円滑な企業金融を確保するために、証券化技術を応用した新たな市場の育成や、その際の公的信用補完などの工夫が有用である。

(3)金融システムの安定性確保

 金融危機のおそれがある場合には、預金保険法第102条の発動による政府の措置と併せて日本銀行による「最後の貸し手」機能の発揮により、適切かつ機動的に対応する必要がある。

 また、そうした金融システムの危機を未然に防ぐとともに、金融機関が不良債権問題の克服に着実に取り組める環境や仕組みを整備することが必要である。そのためには、(a)金融機関保有株式の削減を促進するほか、(b)不良債権を早期に処理する過程で資本が不十分となる金融機関に対しては、その自主的かつ責任ある収益力向上努力を促すかたちでの公的資本の注入が、ひとつの選択肢として検討されるべきであろう。

以上