このページの本文へ移動

国際金融危機を踏まえた金融機関の流動性リスク管理のあり方

2010年7月2日
日本銀行

要旨

2007年夏以降の国際金融資本市場の動揺と、それに続く金融危機は、金融機関のリスク管理面で多くの重大な教訓を残した。そのひとつは、たとえ自己資本が充実していても、流動性の逼迫が金融機関経営の根幹を揺るがしかねないことである。適切な流動性リスク管理は、金融機関の安定的な経営の実現にとっても、金融システムの安定性維持にとっても、きわめて重要である。こうした認識が広がる中、各国中央銀行や規制・監督当局は、現在、流動性規制を含めた金融規制・監督の枠組みを見直す作業を進めている。

国際化が高度に進んだ金融資本市場のもとでは、流動性リスクはいったん顕在化すると瞬く間に伝播し、国際的な流動性危機をひきおこす可能性がある。金融機関は、流動性リスク管理の改善に向けて不断の努力を続ける必要がある。金融当局も、将来の金融危機発生を未然に防ぐため、金融機関がそうした取り組みを進めるよう促していくことが求められる。

日本銀行は、わが国の中央銀行として、金融機関に対し、補完貸付やオペレーション等の信用供与を行っている。こうした信用供与の適切な実施に備えるため、日本銀行は、考査やオフサイト・モニタリングを通じて金融機関の業務および財産の状況を調査している。その際、流動性リスクの状況とその管理体制は重要な調査事項である。また、「流動性リスク管理の適切性」は、補完貸付やオペレーションの相手方となるための資格要件としても明示されている。このように、日本銀行は、金融機関の流動性の状況を日常的にモニタリングしており、改善が必要な場合には助言・指導を行って、流動性リスク管理の向上を促してきている。

日本銀行の流動性モニタリングや助言・指導は、その時々の金融環境を踏まえ、対象金融機関との日常的な対話を通じた機動的かつきめ細かい対応が特徴である。こうした日本銀行の流動性モニタリング手法は、今次金融危機下でも有効に機能した。このことは、金融機関の取り組みとも相俟って、わが国が深刻な流動性危機を回避しえたことに大きく貢献したと考えられる。

一方、今次国際金融危機を通じて、金融機関の流動性リスク管理面での課題も明らかになった。第一に、金融機関は、自己の業務内容や調達手段の特性等を踏まえた流動性リスク・プロファイルを把握し、それに応じた流動性リスク管理体制を整備することが必要である。これは、とくに預金という安定的な資金調達源を持たない金融機関にとって優先すべき課題である。第二に、流動性ストレス局面での対応力を一段と強化することが求められる。例えば、コンティンジェンシー・プランの策定に加え、平時より流動性ストレステスト等を踏まえて十分な流動資産を保有することが重要である。第三は、国際的に活動する金融機関の課題である。まず、各拠点の現地市場での資金調達とグループ内の資金融通の各々にかかるリスクを十分認識する必要がある。そのうえで、グローバルな流動性リスク管理体制を一層充実させることが求められる。

日本銀行は、こうした課題や最近の国際的な議論も踏まえて、金融機関に対して流動性リスク管理のさらなる向上を促すことが必要と考えている。このため、今後は、考査とオフサイト・モニタリングの両面で、以下の項目に重点をおいて金融機関の流動性リスク管理体制を確認していくこととする。これらの項目は、2009年6月に公表した「金融機関の流動性リスク管理に関する日本銀行の取り組み」で掲げたポイントに、今次金融危機の経験を踏まえて新たな事項を追加したものである。また、これらは、日本銀行が補完貸付やオペレーションの相手方としての資格要件のひとつである「流動性リスク管理の適切性」を検証するためのチェック項目としても活用していく考えである。

  1. (1)リスク管理にかかるガバナンス体制の整備
  2. (2)流動性リスク・プロファイルの把握とバランスシート運営
  3. (3)日々の資金繰りの安定性確保
  4. (4)ストレス局面での対応力の強化
  5. (5)緊急時における対応
  6. (6)グローバルな流動性リスク管理体制の整備

日本銀行は、本稿で示した流動性リスク管理面でのチェック項目がその時々の金融経済環境、金融取引手法等に照らして適切かどうか、定期的に確認していく予定である。それとともに、モニタリングと助言・指導の有効性のさらなる向上のため、金融機関からの情報収集、意見交換のあり方や得られた情報の分析手法についても、金融機関の負担にも配慮しつつ、改善の努力を続けていく方針である。

以上