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「自己資本に関する新しいバーゼル合意」第二次市中協議案の解説(仮訳)

2001年 1月17日
バーゼル銀行監督委員会事務局

第二次市中協議案

  • 1988年7月  現行合意の公表
  • 1992年末   現行合意の適用開始期限
  • 1999年6月  新しい合意に関する第一次市中協議案の公表
  • 2001年1月  第二次市中協議案の公表
  • 2001年5月末 コメント期限
  • 2001年末頃  新しい合意の最終案の公表
  • 2004年   「自己資本に関する新しいバーゼル合意」の適用開始

 1988年にバーゼル銀行監督委員会(バーゼル委員会)が現行の自己資本合意を定めてから、既に10年以上が過ぎた。その間、銀行業の内容も、リスク管理の実務も、監督の手法も、金融市場も、いずれも著しく変化した。こうした変化を踏まえ、1999年6月、バーゼル委員会は、現行合意を見直してリスクの違いをより正確に反映するものにするための提案を公表した。この提案に対しては、200以上ものコメントが寄せられた。バーゼル委員会は、寄せられたコメントを踏まえ、また、銀行界や世界中の監督当局と議論を続けてきた成果をも踏まえ、今回より具体的な提案を示すこととした。関心のある方々は、2001年5月31日までに、今回の提案に対するコメントを寄せて頂きたい。バーゼル委員会としては、新しい合意の最終案を2001年末頃に公表し、2004年にはその適用を始めたいと考えている。

見直しの理由:より柔軟に、よりリスク感応的に

表:見直しの理由:より柔軟に、よりリスク感応的に
現行合意 新しい合意の案
単一のリスク計測手法が中心 銀行自身の内部管理手法と、監督上の検証と、市場規律とを重視
多様な銀行に一律の枠組みを適用
one size fits all
柔軟性を持った枠組み
複数の手法をメニューとして提示
リスク管理向上へのインセンティブを提供
大雑把なリスク把握 リスクの違いをより正確に反映

 今日の金融システムはダイナミックかつ複雑なものとなっており、その安全性と健全性を保つためには、銀行自身による経営管理と、市場規律と、監督とが三位一体で効果的に行われることが不可欠である。現行合意は、銀行の保有する資本の総額をまず重視している。資本の額は、銀行破綻のリスクを小さくするためにも、また、銀行が破綻した場合に預金者の被る損害を小さくするためにも重要である。今回の案は、こうした現行合意を基礎としつつも、銀行自身による内部統制、経営管理、監督当局による検証プロセス、市場規律に一層重点を置くことにより、金融システムの安全性と健全性を更に高めようとするものである。

 新しい仕組みは国際的に活動する銀行を中心的なターゲットとするものであるが、その根底にある諸原則は、複雑さや高度さの異なる銀行への適用にもふさわしいものとなるようにと意図されている。バーゼル委員会は、新しい仕組みを作り上げるに当たって、世界中の監督当局との協議を行ってきており、一定の期間内には主要な銀行の全てが「新しい合意」に沿うようになっていくことを期待している。

 1988年のバーゼル合意は、国際的に活動している銀行が持つべき資本の水準を計測するために、本質的には一つの方法しか用意していなかった。しかし、リスクを計測し、管理し、削減するためにどのような方法が最も良いかは、銀行ごとにさまざまである。1996年にはトレーディング業務のリスクを把握するための見直しが行われたが、市場リスクを自分自身のシステムを用いて計測することがここで初めて一定の銀行に認められるようになった。今回の見直しでは、信用リスクについても、オペレーショナル・リスクについても、単純な手法から先進的な手法まで、多様な手法が用意されていて、銀行にはその中から選んだ手法でリスクを計測し、自己資本の水準を計算することが認められている。今回の見直しによってもたらされる柔軟な枠組みのもとでは、銀行は、当局による検証のもとで、自らの水準とリスクの特性に最も適した方法を選択することができるようになるわけである。また、新しい枠組みには、より強力で正確なリスク計測手法を採用することへのインセンティブが意識的に盛り込まれている。

 新しい枠組みでは、規制上必要とされる全般的な自己資本の水準を現行合意並に維持しつつ、より包括的で、リスクの違いをより正確に反映する手法を提供することが意図されている。規制上の所要自己資本額が実際に銀行がとっているリスクに沿ったものとなれば、銀行は業務をより効率的に運営することができるようになる。

 新しい枠組みは、現行合意よりも自由度の高いものである。最も単純な手法を選択する場合には、現行に比べ複雑さがやや増す程度となっている。しかし、リスクをより正確に反映する分析手法を活用する能力のある銀行には、更にいろいろな選択肢が提供されている。そうした選択肢については、適用に関しより詳細な規定が必要となるので、合意案の頁数も多くならざるを得なかった。

 実際にとっているリスクに沿った資本を求める仕組みのもとでは、金融システムはより安全で、健全で、効率的なものとなるであろう。バーゼル委員会は、そうした便益は、計測の正確化を図るコストを大きく上回るものと信じる。

「新しい合意」の構成

新しい合意の3つの柱

  • 第一の柱 最低所要自己資本
  • 第二の柱 監督上の検証プロセス
  • 第三の柱 市場規律

 新しい合意は3つの柱からなっている。3つの柱は互いに補強し合って金融システムの安全性と健全性に一体として寄与するものである。3つの柱全てをきちんと適用することが必要であり、バーゼル委員会としては、新しい合意の全ての内容が効果的に実施されるよう、各国の監督当局と積極的に協力し合っていく考えである。

第一の柱 最低所要自己資本

自己資本充実度の測り方

  • 自己資本充実度の測りかた

信用リスク計測手法のメニュー

  • 標準的手法(現行方式の修正版)
  • 基礎的内部格付手法
  • 先進的内部格付手法

市場リスク計測手法のメニュー(変更なし)

  • 標準的手法
  • 内部モデル手法

オペレーショナル・リスク計測手法のメニュー

  • 基礎的指標手法
  • 標準的手法
  • 内部計測手法

 第一の柱は最低所要自己資本について定めている。新しい仕組みでも、資本の定義と、最低自己資本比率の8%は現行合意のまま維持する。銀行グループ全体が持つリスクが勘案されることを確実にするため、見直し後の合意の適用範囲は、銀行グループの持ち株会社にも拡大され、連結ベースで適用されることとなる。

 見直しの中心は、リスクの計測方法の改善、すなわち、自己資本比率の分母の計算の仕方の改善にある。信用リスクの計測方法は、現行合意のものより精緻化される。オペレーショナル・リスクについては、今回初めて計測方法が提案されている。市場リスクについては、変更がない。

 信用リスクの計測方法としては、大きく二つの手法が提案されている。標準的手法と、内部格付手法である。内部格付手法には、基礎的手法と先進的手法の二つの種類がある。内部格付手法を利用するためには、バーゼル委員会が定める基準に随い、当局の承認を得なければならない。

信用リスクのための標準的手法

 標準的手法の基本概念は現行合意と同じだが、よりリスクを正確に反映するようになっている。銀行は、それぞれの資産とオフバランスのポジションに一定のリスク・ウェイトを掛けてリスク・アセット額を計算し、その総額を出す。ある与信のリスク・ウェイトが100%であるというのは、与信の額面をそのままリスク・アセット額に換算するということで、額面の8%の資本が必要ということになる。同様に、リスク・ウェイトが20%であれば、8%の20%に相当する1.6%の資本が必要になる。

 現行合意では、個別の与信のリスク・ウェイトは、借り手の大雑把な区別(政府か、銀行か、事業法人か)によって定まる。新しい合意では、一定の厳格な要件を満たす外部の信用評価機関(格付会社など)が付している格付を参照して、リスク・ウェイトを細分化することとなっている。たとえば、事業法人向けの貸出についていえば、現行合意では100%という単一のリスク・ウェイトしか用意されていないが、新しい合意では20%、50%、100%、150%の4つのリスク・ウェイトが用意されている。

内部格付手法(IRB)

 内部格付手法を採用する銀行は、手法の内容と開示に関する厳格な基準に服することを条件に、借り手の信用力に関する自らの内部的な評価を利用して、ポートフォリオの信用リスクを評価することが認められる。事業法人向けか、リテールか、といった与信の種別に応じて損失特性が異なるので、種別ごとに異なる分析の枠組みが用意されている。

 内部格付手法のもとでは、まず銀行が借り手の信用力を評価し、その結果が将来損失となる可能性がある額の推計値に換算され、それをもとに最低所要資本額が計算される。事業法人向け、政府向け、銀行向け与信については、基礎的手法と先進的手法の二種類が用意されている。基礎的手法の場合、銀行は個々の借り手のデフォルト確率を推計するが、その他の入力情報については当局が指定した計数を用いる。内部管理上の資本配賦のために十分に進んだ仕組みを有している銀行は、先進的手法を選択して、デフォルト確率以外の必要な入力情報についても自ら推計することが認められる。

 基礎的手法であれ、先進的手法であれ、内部格付手法のもとでは、リスク・ウエイトの範囲は標準的手法に比べてはるかに広くなり、リスクをより正確に反映するようになる。

信用リスク削減手法及び証券化

 新しい枠組みでは、担保や、保証や、クレジット・デリバティブや、ネッティングや、証券化の取り扱いに関し、リスクをより正確に反映する手法が、標準的手法と内部格付手法の両方について、取り入れられている。

オペレーショナル・リスク

 1988年の合意は、銀行にとって中心的なリスクである信用リスクとの関係でのみ所要自己資本を規定していた。もっとも、所要自己資本額の全般的水準である8%は、その他のリスクをもカバーできるように設定されていた。1996年には、市場リスク分を取り出して別に扱うようになった。信用リスクをより正確に反映する方法を導入しようと努める中で、バーゼル委員会は、オペレーショナル・リスク(例えば、コンピューターの故障や、契約の不備や、不正行為などによって損失を被るリスク)に適切な自己資本を求める方法を開発するために、銀行界との共同作業を続けてきた。現状では主要行の多くは自己資本の20%ないしそれ以上をオペレーショナル・リスクに割り当てている。

 オペレーショナル・リスクに関する作業はまだ開発段階にあるが、三種類の手法が特定されている。それらは、単純なものからより水準の高いものへ、基礎的指標手法、標準的手法、内部計測手法である。基礎的指標手法は、銀行の全業務のオペレーショナル・リスクを単一の指標で計測する。標準的手法は、業務ラインごとに別々の指標を用いる。内部計測手法では、銀行は内部の損失データを用いて所要自己資本額を推計する。これまでの作業から判断して、バーゼル委員会は、オペレーショナル・リスクは、新しい仕組みの下での所要自己資本総額の20%程度を占めることになるだろうと考えている。より進んだ手法を認めるための準備として、オペレーショナル・リスクに関する所要自己資本額の水準を定める上で、今後数ヶ月の間に、損失に関するデータを十分に集めることが重要である。

所要自己資本額の全般的な水準

 1999年6月に公表された市中協議文書に示したとおり、バーゼル委員会の目的は、標準的手法を採用する国際的に活動する銀行については、オペレーショナル・リスク分を含んだ上で、全体としての所要自己資本額を引き上げも引き下げもしないということである。

 内部格付手法については、バーゼル委員会の最終的な目標は、リスクをカバーするに十分で、しかも、銀行に標準的手法から内部格付手法に移行するインセンティブを与えられるような所要自己資本額を定めることである。バーゼル委員会としては、この目的を達成するために、銀行界の協力を得て十分なテストを行うとともに、銀行界との対話を行なっていきたいと考えている。

第二の柱:監督上の検証プロセス

 監督上の検証プロセスとして、監督当局は、各行が、自らの抱えるリスクに対する十全な評価に基づいて、自己資本の充実度を検討するための健全な内部プロセスを有することを確保しなければならない。新しい枠組みでは、銀行の経営陣が、自己資本充実度を評価するための行内プロセスを設け、その銀行に固有のリスク特性と管理の状況に即した目標自己資本比率を設定することの重要性が強調されている。監督当局は、銀行が自らの抱えるリスクとの関係での自己資本充実度をどれだけ適切に検討できているかについて評価する責任を有することになる。銀行の内部プロセスは、監督上の検証を受け、必要に応じ当局からの働きかけを受けることになる。

 こうしたプロセスを実施するためには、多くの場合、当局と銀行の間に、これまでよりはるかに詳細な対話が必要になる。このため、銀行監督者の研修や専門性の問題にも影響を与えることになる。この点について、バーゼル委員会とBISの金融安定化研究所は、支援を提供していく考えである。

第三の柱:市場規律

 新しい仕組みの第三の柱は、銀行が行なう開示を充実させることにより、市場規律を強化することを目指している。効果的な開示を行なうことは、市場参加者が銀行のリスクの特性と自己資本の充実度を評価するために不可欠である。新しい仕組みでは、銀行がどのように自己資本の充実度を計算し、どのような方法によってリスクを評価しているかなど、いくつかの領域について、開示に関する要件と推奨項目とを定めている。開示推奨項目のうち主要なものは全ての銀行を対象としているが、これに加え、信用リスクに関する内部格付方式の利用、信用リスク削減手法や資産証券化の効果の監督上の認識のための条件として、より詳細な開示に関する要件が定められている。

第二次市中協議案の構成

2001年1月の公表文書パッケージは以下の3つの部分からなっている。

  • 概論。見直しの理由を説明し、現在進行中の作業について特にコメントと協力を求めている。
  • 「自己資本に関する新しいバーゼル合意」。新しい合意の骨格と内容の詳細を定めている。

 最終規則の草案にあたる。

  • 7つの補論。個別の問題について、技術的な分析を示したり、現在進行中の作業について説明

したり、実施のための指針を示したりしている。

 バーゼル委員会は、今後本件に関心のある方々と活発な議論を行ないたいと考えており、市中協議案の諸側面に関しコメントを歓迎する。コメントは、2001年5月31日までに各国の監督当局と中央銀行宛に提出されたい。また、バーゼル銀行監督委員会宛にも送付することができる。電子メールで5月31日までに届いた、内容のあるコメントについては、匿名希望と明示されていない限り、BISのホームページに掲載される。コメントの送付先は、スイス国バーゼル郵便番号CH-4002国際決済銀行内バーゼル銀行監督委員会である。BCBS.Capital@bis.org1宛の電子メールないしバーゼル委員会事務局宛のファックス((41)61-280-9100)でコメントを送るよう特に求めたい。

  1. このアドレスは第二次市中協議案へのコメントのためのものであり、連絡のためのものではない。