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銀行における流動性管理のためのサウンド・プラクティス

(“Sound Practices for Managing Liquidity in Banking Organisations”)
(日本銀行仮訳)

2000年2月
バーゼル銀行監督委員会

日本銀行から

 全文は、こちら (bis0002b.pdf 170KB) から入手できます。

はじめに

  1. 流動性、すなわち資産の増加に対応して資金を調達し、期限が到来する債務を履行する能力は、いずれの銀行にとっても存続していくうえで必要不可欠なものである。従って、流動性管理は銀行が行う業務の中で最も重要なものの一つである。健全な流動性管理を行うことで重大な問題が発生する可能性を低くすることができる。実際、流動性の重要性は個別銀行の範囲に止まらない。何故ならば、一つの銀行における流動性の不足がシステム全体に反響をもたらすことがあるからである。このため、流動性を分析する際は、銀行の経営陣が継続的にその流動性ポジションを測定するだけでなく、不利な状況を含め様々なシナリオの下でどのように資金調達の必要性が生じていくのかを検証する必要がある。
  2. バーゼル委員会は、流動性の監督に関する作業において、銀行がグローバル・ベース、かつ連結ベースで流動性を管理する方法について更に理解を深めることに努力してきた。最近の技術・金融革新は、銀行が業務活動のために資金を調達し、その流動性を管理するうえでの新しい手法を銀行に提供している。さらに、コア預金に頼りうる度合の低下、ホールセール資金への依存度の上昇、及び最近の世界的な金融市場の混乱は、銀行の流動性に対する見方を変化させた。こうした変化の全てが銀行に新しい課題をもたらしている。
  3. 1992年9月に「流動性の測定および管理のためのフレームワーク(“A framework for measuring and managing liquidity”)」が公表されて以降、銀行の流動性管理の標準的な実務が変化してきたという事実に照らし、バーゼル委員会はこの改訂ペーパーを公表することとした。当ペーパーでは、流動性を効果的に管理するうえでの主要な要素に焦点を当てた幾つかの原則について述べている。
  4. 流動性管理に使用されるプロセスが定式化されている度合いや洗練度は、その銀行の業務の性質や複雑さのほか、銀行の規模や洗練度にも依存する。当ペーパーは、大手行に焦点を当てているが、その原則は全ての銀行に広く適用できるものである。特に、適切な経営情報システム、複数のシナリオの下でのネット要調達額の分析、資金調達源の多様化、コンティンジェンシー・プランの策定は、銀行の業務規模や範囲に関わらず、堅実な流動性管理にとっての必要不可欠な要素である。しかし、一般的には、中小規模の銀行や、取引を行っている市場の数が少ない銀行においては、大型で複雑な銀行よりも流動性管理のアプローチを実行するために必要となる情報システムや分析が要する資源は少なく、複雑度も低いであろう。
  5. バーゼル委員会によって最近発表されたその他のペーパーと同様に、当ペーパーは流動性管理のための幾つかの主要な原則に沿って構成されている。これらの原則は、以下の通りである。

銀行における流動性管理を評価するための諸原則

流動性管理体制の構築

原則1:各銀行は日々の流動性管理について合意された戦略を有すべきである。この戦略は組織全体に周知されるべきである。

原則2:銀行の取締役会は、流動性管理に関する戦略や重要な方針を承認すべきである。取締役会はまた、流動性リスクをモニターし管理するために必要な手続きを上級管理職が実行することが確実となるようにすべきである。取締役会は銀行の流動性の状況について定期的に報告を受けるべきであり、また、現在あるいは将来における銀行の流動性ポジションに関する重大な変化がある場合には、直ちに報告を受けるべきである。

原則3:各銀行は流動性の戦略を効果的に実行するための管理体制を有するべきである。この体制においては、上級管理職のメンバーが継続的に関与しているべきである。上級管理職は、流動性が効果的に管理されることを確実にし、流動性リスクを管理、抑制するための適切な方針や手続きが確実に設定されるようにすべきである。銀行は一定の期間における流動性ポジションの規模に対して上限を設定し、定期的にレビューすべきである。

原則4:銀行は流動性リスクの測定、モニタリング、管理、報告のために適切な情報システムを有さなければならない。報告は適時に銀行の取締役会、上級管理職、その他の然るべき職員に対してなされるべきである。

ネット要調達額の測定とモニタリング

原則5:各銀行はネット要調達額を継続して測定、モニタリングするためのプロセスを設定すべきである。

原則6:銀行は仮定に基づく様々なシナリオを活用した流動性分析を行うべきである。

原則7:銀行は流動性を管理する上で利用される仮定を頻繁にレビューし、それらが持続的に有効であるか否かを見極めるべきである。

市場へのアクセスの管理

原則8:銀行は、債務者との関係を構築・維持し、債務の多様性を維持する努力を定期的にレビューし、また、確実な資産売却の可能性を確保するよう努めなければならない。

コンティンジェンシー・プランの策定

原則9:銀行は、流動性危機を乗り切るための戦略を取上げ、かつ緊急時における資金不足を埋め合わせるための手続きを含めたコンティンジェンシー・プランを確実に備えているべきである。

外貨流動性管理

原則10:銀行は取引を行っている主要通貨の流動性ポジションを測定し、モニターし、管理する体制を備えているべきである。必要な外貨流動性の総量や、国内通貨での運用・調達との関係で許容し得るミスマッチについて評価することに加えて、銀行は取引している通貨毎の戦略を分析すべきである。

原則11:原則10で示されているような分析の下、適切な場合には、銀行は外貨の総額および銀行が取扱っている主要な通貨毎に、期間毎のキャッシュ・フローのミスマッチの規模に関する上限を設定し、定期的にレビューすべきである。

流動性リスク管理のための内部管理

原則12:各銀行はその流動性リスク管理プロセスに関して、適切な内部管理体制を備えていなければならない。内部管理体制の基本的な構成要素には、定期的で独立したレビュー、流動性管理体制の有効性の評価、そして必要な場合には内部管理体制の適切な変更ないしは強化の着実な実施、が含まれる。こうしたレビューの結果は銀行監督当局にも利用可能であるべきである。

流動性の改善における情報開示の役割

原則13:銀行の組織及びその健全性に関する社会一般の評価に対処するために、銀行に関する情報の開示が適切な水準となるようにする仕組みを整備しなければならない。

監督当局の役割

原則14:監督当局は、銀行の流動性管理に関する戦略、方針、手続き、実務について、独立した評価を下すべきである。監督当局は銀行に対して、流動性リスクを測定し、モニターし、管理する効果的な体制を求めるべきである。監督当局は銀行から、その流動性リスクの水準を評価するための十分かつ適時の情報を取得すべきである。また、監督当局は、銀行が流動性に関する適切なコンティンジェンシー・プランを確実に備えているようにすべきである。