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電子バンキングおよび電子マネー業務のリスク管理

(日本銀行仮訳)

1998年 3月20日
バーゼル銀行監督委員会

日本銀行から

 全文は、こちら(bis9803a.lzh 36KB [MS-Word])から入手できます。

プレス・ステートメント

 バーゼル銀行監督委員会(以下、バーゼル委)は、G-10諸国の中央銀行総裁の了承を得て、本日、「電子バンキングおよび電子マネー業務のリスク管理」に関するペーパーを発表する。本ペーパーの目的は、電子バンキングや電子マネーに伴うリスクを識別、評価、管理、コントロールする方法を策定するにあたり、監督当局や金融機関が考慮すべき諸要素を提示することである。

 電子的な支払手段は、電子商取引が発展する中でその重要性を増しつつある。現時点において、電子バンキングと電子マネーは、未だ発展と利用の初期段階にある。電子バンキングや電子マネー業務は銀行に対して新たな機会を提供する一方、便益と共にリスクももたらすため、こうしたリスクを認識し、慎重に管理することが重要である。

 バーゼル委は、電子的な小口商品・サービスの技術進歩に関する監督上の問題や対応について検討と議論が進められている中で、本ペーパーがその第一歩になるものと考えている。今後の技術的発展や市場展開が不確実であることを前提とすれば、監督当局が有益なイノベーションや実験を阻害するような政策を回避することが重要である。本ペーパーは、電子バンキング・電子マネー業務のリスク管理に対する適切な監督アプローチの構築に資することを期待して、世界中の監督当局に配布される。

 なお、本ペーパーの原文は、3月20日以降BISホームページ(http://www.bis.org)(外部サイトへのリンク)に掲載されるほか、各国監督当局、国際決済銀行にあるバーゼル委事務局から入手可能である。

第1章 はじめに

 電子的な支払手段は、電子商取引が発展する中でその重要性を増しつつあり、電子マネーを含む小口の電子バンキング・サービスや商品は、銀行にとって意味のある新たな機会の提供を可能としている。電子バンキングは、銀行が伝統的な預金・貸出業務の市場を拡大すること、新しい商品・サービスを提供すること、あるいは現行の支払サービス提供における競争上の地位を強化することを可能にするとみられる。さらに、電子バンキングは銀行の運営経費を削減する可能性をもっている。

 より一般的には、電子バンキングと電子マネーの発展が続くことは、「銀行および決済システムの効率性向上」や、「国内外の小口取引における費用削減」につながるものと考えられる。この結果として、潜在的には生産性の向上と経済厚生の増大が実現する可能性もある。消費者や小売店は、資金受払いの効率性を高めることができ、より大きな利便性を享受できるようになるかもしれない。また、電子バンキングは、これまで金融システムへの参加が制限されていた消費者にとって、アクセス経路の拡大をもたらすと考えられよう。

 本報告書の対象は、2つの点において限定されることとなる。第1に、本報告書は電子バンキングおよび電子マネー業務のリスク管理について銀行監督の視点からのみ扱うものであり、例えば、金融面への影響を考察するものではない。第2に、本報告書で記述されているリスクの多くは、銀行、ノンバンク双方の発行者および提供者に当てはまるものであるが、本報告書は銀行のみを対象とする。

1.1.目的および構成

 電子マネーや幾つかの形態の電子バンキングは、未だ発展や利用の初期段階にある。電子バンキングと電子マネーの分野における今後の技術的発展や市場展開が不確実であることを前提とすれば、監督当局が有益なイノベーションや実験を阻害するような政策を回避することが重要である。また、バーゼル委員会としては、電子バンキングや電子マネー業務が金融機関に対して便益と共にリスクをももたらすこと、またこうしたリスクが便益に対して釣合いがとれたものでなければならないこと、を認識している。

 本ペーパーの目的は、電子バンキングと電子マネーに伴うリスクを識別、評価、管理、コントロールする方法を策定するにあたり、監督当局および金融機関が考慮すべき諸要素を提示することである。バーゼル委員会としては、電子的な小口商品・サービスの技術進歩に関する監督上の問題と対応について検討と議論が進められている中で、本ペーパーがその第一歩になるものと考えている。

 バーゼル委員会では、電子バンキング・電子マネー業務のリスク管理に対する適切な監督アプローチの構築に資することを期待して、本ペーパーを世界中の監督当局に配布する。監督当局の中には、その管轄下の金融機関に対し本ペーパーの配布を希望する先もあろう。

 電子バンキングと電子マネーの技術は急速に変化しており、将来の商品やサービスが今日利用可能なものとはかなり異なると考えられるため、ここでの議論は一般的なものとならざるをえない。電子バンキング・電子マネー業務の中には、比較的発展の初期段階にあるものがみられるため、リスクの多くの側面は、必ずしも完全には認識されていないほか、その測定が容易にできない状況にある。早計な規制的アプローチをとることは、こうした分野におけるイノベーションや創造性を阻害する危険を冒すこととなろう。したがって、監督当局としては、既知の重大なリスクに対処するのに十分厳格かつ包括的であり、そして電子バンキング・電子マネー業務に伴う重大なリスクのタイプ・程度の変化にも十分柔軟に対応できるようなリスク管理プロセスを銀行が策定するよう奨励すべきである。また、リスク管理プロセスは、不断の改訂が行なわれている場合にのみ有効である。

 本ペーパーの次節以下の構成は次のとおりである。まず、次節では、電子バンキングおよび電子マネーを定義し、電子マネー業務の担い手としての銀行の主な役割について述べる。続く第2章では、電子バンキングと電子マネーにおいて銀行が直面すると思われるリスクを明らかにする。ここでのリスクの識別・分析は、網羅的であることを目指してはおらず、むしろ、銀行が直面すると考えられる問題のタイプを記述することを意図している。分析の結果、こうした問題の中では、オペレーショナル・リスク、評判(reputational)リスクおよび法的リスクの発生可能性が、相対的に高いことが示唆されている1

 電子バンキングと電子マネーの発展が進むにつれ、国境を越えた銀行と顧客との取引は増加すると考えられる。このような関係は銀行や監督当局に対し、別の論点とリスクを提起すると考えられる。こうした点に鑑み、第2章はクロスボーダー・リスクについても論述する。

 リスクの識別・分析に基づき、第3章では電子バンキングや電子マネー業務を行う銀行のリスク管理プロセスにおける主な手順を概説する。こうしたプロセスには、リスクの評価、リスク・エクスポージャーをコントロールするための施策の実施、およびリスクのモニタリングという3つの主要な手順がある。

1.2.電子バンキングおよび電子マネーの定義

1.2.1

 電子バンキングとは、電子的手段による小口・少額の銀行商品・サービスの提供を指す2。このような商品・サービスには、預金受入れ、貸出、口座管理、財務相談、電子小切手による支払い、(後に定義する)電子マネー等その他の電子的な支払商品・サービスの提供が含まれる。

 電子バンキングには、業務を行うデリバリー・チャネルとしての性格と、こうした経路への顧客のアクセス手段という2つの基本的側面がある。一般的なデリバリー・チャネルの類型としては、「クローズ型」および「オープン型」のネットワークがある。「クローズド・ネットワーク」では、参加条件に関する約定を結んだ参加者(金融機関、顧客、小売店、第三者たるサービス提供者)にアクセスが制限される。「オープン・ネットワーク」にはこのような参加条件がない。現在、顧客に電子バンキング商品・サービスを提供するために幅広く利用されているアクセス機器には、POS端末、ATM、電話、パーソナル・コンピューター、スマート・カード等がある。

1.2.2

 電子マネーは、POS端末経由で、または2つの機器間の直接転送で、もしくはインターネット等のオープン・コンピューター・ネットワーク上で、支払いを行う「ストアード・バリュー型」ないしプリペイドの支払メカニズムを指す3。ストアード・バリュー型商品には、「ハードウェア型」ないし「カード型」の仕組み(「電子財布」とも呼ばれる)と、「ソフトウェア型」ないし「ネットワーク型」の仕組み(「デジタル・キャッシュ」とも呼ばれる)が含まれる。ストアード・バリュー・カードは「単一目的」ないし「多目的」である4。単一目的カード(テレホン・カード等)は、一種類の財またはサービス、あるいは一つのベンダーからの商品の購入に利用される。多目的カードは、幾つかのベンダーからのさまざまな購入に利用される5

 銀行は発行者として電子マネー・スキームに参加すると考えられるが、それ以外の機能も果たすであろう。その中には、他の主体によって発行された電子マネーの流通、小売店の電子マネーによる売上げの換金、電子マネー取引の処理・清算・決済、および取引記録の維持が含まれる。

  1. 銀行は、株主の権利の価値に影響を及ぼしうるリスクにも直面すると考えられる。例えば、競合する新技術の選択に際し、銀行の経営陣は、普及せずに終わる技術を選択するリスクを負う。あるいは、他の商品・サービスにうまく適合しない技術を選択することもあろう。経営陣が行うあらゆる決定の場合と同様に、電子バンキング・電子マネーがもたらす財務的成功に関するリスクは、経営陣と株主にとって最大の関心事である。しかし、監督当局は銀行システムの安全性や健全性の確保には責任をもつが、銀行の収益力確保には責任をもたないため、こうした「株主の価値」という論点は、金融機関の存続性が脅かされない限り、監督当局にとって直接の関心事ではない。したがって、本ペーパーは、電子マネーや電子バンキングのリスクに関するこうした視点には基本的に立入らない。
  2. 本ペーパーは小口の電子バンキングと電子支払サービスに焦点を当てる。大口電子支払いおよび電子的に伝達される他の大口銀行サービスは、ここでの議論の対象外とする。
  3. 幾つかの公的機関がそれぞれに独自の電子マネーの定義を発表している。電子マネーに関する最近のG-10報告書に指摘されているように、技術革新によってプリペイド型電子メカニズムの型の区別が曖昧となっていくこと等もあって、電子マネーの正確な定義付けは困難である(これら一連の研究については、「電子マネーについて——消費者保護、法執行、監督、クロスボーダー問題——(Electronic Money: Consumer protection, law enforcement, supervisory and cross-border issues)」、<G-10電子マネーに関する作業部会、1997年4月>参照)。本ペーパーでは、電子マネーの定義に際し、G-10報告書と「電子マネーのセキュリティ(Security of Electronic Money)」(国際決済銀行、1996年8月)を引用している。後者の報告書は、ストアード・バリュー型商品の技術的な実現方法(technical representation)の区別について説明している。この中で、「残高型(balanced-based)」商品は、残高に対する入金、引落しの記帳により元帳を管理するものであり、「証書型(note-based)」商品は、一定の額面金額を表す「電子紙幣(電子コインやトークンとも呼ばれる)」の相当額を、機器から機器へ移転することにより取引を実行するものである。デビット・カードやクレジット・カードは、小口の電子支払メカニズムであるが、プリペイド型ではないため、電子マネーとはみなされない。
  4. ストアード・バリュー・カードは、カードに搭載された磁気ストライプやコンピューター・チップの利用により特徴付けられるであろう。コンピューター・チップを搭載したプラスチック・カード(「スマート・カード」として知られる)は、デビットおよびクレジット・アプリケーションといった機能に加え、ストアード・バリュー・アプリケーションも実行するであろう。
  5. 多目的、多機能という言葉は、カードや機器が幾つかのタイプの支払手段(クレジット・カード、デビット・カード、ストアード・バリュー・カード等)として機能することや、こうしたカードが金融取引以外の目的(IDカード、個人の医療情報の保管等)に利用されること、を指しても用いられるようになってきている。用語法の統一が図られていないのは、おそらくは急速な技術革新のためであろう。

目次

  • 第1章 はじめに
    • 1.1.目的および構成
    • 1.2.電子バンキングおよび電子マネーの定義
  • 第2章 リスクの識別・分析
    • 2.1.オペレーショナル・リスク
    • 2.2.評判リスク
    • 2.3.法的リスク
    • 2.4.その他のリスク
    • 2.5.クロスボーダー問題
  • 第3章 リスク管理
    • 3.1.リスクの評価
    • 3.2.リスクの管理・コントロール
    • 3.3.リスクのモニタリング
    • 3.4.クロスボーダー・リスクの管理
  • 別添小口電子バンキングおよび電子マネーにおいて想定されるリスクとリスク管理策の例