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デリバティブおよびトレーディングに関し監督上必要とする情報を収集する際の枠組み

(日本銀行仮訳)

1998年 9月 2日
バーゼル銀行監督委員会

プレス・ステートメント

 本日、バーゼル銀行監督委員会と証券監督者国際機構(IOSCO)専門委員会は、1995年5月に公表された「銀行および証券会社の派生商品取引に関する監督上の情報についての枠組み」の改訂を発表する。本改訂は、主にマーケット・リスクの分野におけるトレーディングおよびデリバティブ活動のリスク管理実務の進展を反映した枠組みを提供するものである。

 監督当局がトレーディングおよびデリバティブに関し収集すべき情報の指針を提供した1995年の枠組みは、監督上の目的で銀行および証券会社の当局により幅広く導入されてきた。デリバティブに関し監督上必要とする情報についての共同の枠組みを初めて発表した後、バーゼル委員会は1996年にマーケット・リスクを規制の対象に含める形で自己資本合意を改定したほか、1997年に銀行を対象にした金利リスクに関するリスク管理の指針を公表した。それに加え、IOSCOは証券会社に適用する自己資本規制やリスク管理にかかる基準にマーケット・リスクを含める可能性について検討してきた。

 この作業は、バーゼル委員会およびIOSCOが銀行、証券会社のトレーディングとデリバティブ取引の活動をモニターするための継続的な努力の一環である。この点につき、今般の改訂は、1994年のデリバティブ取引のリスク管理向上のためのガイドラインの共同発表や、1995年から実施している共同のディスクロージャー・サーベイの年次報告書で示されているデリバティブおよびトレーディング取引の分野でのパブリック・ディスクロージャーの向上に関する共同提案など、両委員会で進めてきた作業を土台にしたものである。

 トレーディングやデリバティブ取引活動が引き続き増大している状況下、こうした取引活動が銀行や証券会社の全体のリスク・プロファイルや収益性にどれぐらい影響を及ぼすかについて、監督当局が理解を深めることは重要である。したがって、両委員会としては、この枠組みによって示される情報は、デリバティブ市場において活動しているか、または、マーケット・リスクへのエクスポージャーが大きい、監督対象の金融機関やその主要な子会社において入手可能でなければならず、かつ監督当局に提供できるものでなければならないと考えている。1995年版の監督上必要とする情報についての枠組みは、デリバティブに特化していたが、今回の1998年版では現物およびデリバティブの両方のトレーディングから生ずるマーケット・リスク・エクスポージャーをより包括的に把握するために枠組みを拡張している。

 この枠組みは、金融機関の報告負担を限定する必要性に留意したものとなっており、(1)実地検査・考査、(2)外部監査、(3)金融機関との意見交換、(4)特別なサーベイ、(5)定例報告等、監督上必要とする情報を収集するための柔軟な方法を示している。また、銀行や証券会社がトレーディングやデリバティブ取引活動に伴う様々なリスク・エクスポージャーをモニターするために開発している内部の情報システムを監督当局が活用することを奨励している。さらに、本枠組みはグローバルに活動する銀行や証券会社に適用されるリスク管理にかかる基準や自己資本規制と整合的となるように作成されている。

 この枠組みは、二つの主要な部分から構成されている。ひとつは、トレーディングやデリバティブのリスクを評価する際に重要と両委員会が考えるデータのカタログである。各国監督当局は、自国の報告体制を整備する際に、このカタログを活用することができよう。二つ目は、各国監督当局が入手すべきと両委員会が勧めるデリバティブ取引に関する国際的に調和のとれた基礎的情報(カタログの一部を構成)に関する共通のミニマム・フレームワークである。共通のミニマム・フレームワークについては、当初、金融機関のデリバティブ取引の全容や信用リスクを評価する際に有益な情報に焦点を当てていたが、今回の改正においてトレーディングやデリバティブ取引のマーケット・リスクを評価する際に有益な情報も含めるよう拡張されることとなった。

1998年9月2日

  1. バーゼル銀行監督委員会は、1975年にG10諸国の中央銀行総裁会議により設立された銀行監督当局の委員会である。同委員会は、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ルクセンブルグ、オランダ、スウェーデン、スイス、英国及び米国の銀行監督当局ならびに中央銀行の上席代表により構成される。現在の議長は、ニューヨーク連邦準備銀行のW.J. McDonough総裁である。委員会は通常、常設事務局が設けられているバーゼルの国際決済銀行において開催される。
  2. IOSCO専門委員会は、主要工業国における証券会社の監督当局の委員会である。同委員会は、オーストラリア、フランス、ドイツ、香港、イタリア、日本、マレーシア、メキシコ、オランダ、オンタリオ州、ケベック州、スペイン、スウェーデン、スイス、英国及び米国の証券監督当局の上席代表により構成される。現在の議長は、香港証券先物委員会のAnthony Neoh議長である。
  3. 改訂された本枠組みは、バーゼル委員会の透明性小委とIOSCOの金融仲介者の規制に関するワーキング・パーティの協同で作成された。透明性小委の議長は、米国通貨監督庁のSusan Krause女史で、IOSCOの金融仲介者の規制に関するワーキング・パーティの議長は、英国の金融サービス機構のRichard Britton氏である。
  4. 本レポートのテキストは、公表日より、インターネット上のBIS Web Sitehttp://www.bis.org(外部サイトへのリンク)、および IOSCO Web Siteのhttp://www.iosco.org(外部サイトへのリンク)から入手することができる。

概要(Executive Summary)

 本ペーパーは、銀行および証券会社のデリバティブ取引活動を評価するために、バーゼル銀行監督委員会および証券監督者国際機構(IOSCO)専門委員会が共同で、1995年5月に公表した監督上必要とする情報についての枠組みを拡張するものである。1995年版の枠組みは、監督上の目的で銀行および証券会社の当局によって幅広く導入され、また世界中のデリバティブ市場に関する定期的なデータ収集の基礎として役立った。

 今般の改訂の目的は、金融イノベーションや、主にマーケット・リスクの分野におけるトレーディングおよびデリバティブ活動のリスク管理実務の進展を反映することにある。この作業は、バーゼル委員会およびIOSCOが銀行、証券会社のトレーディングとデリバティブ取引の活動をモニターするための継続的な努力の一環である。この点につき、今般の改訂は、1994年のデリバティブ取引のリスク管理向上のためのガイドラインの共同発表や、1995年から実施している共同のディスクロージャー・サーベイの年次報告書で示されているデリバティブおよびトレーディング取引の分野でのパブリック・ディスクロージャーの向上に関する共同提案など、両委員会で進めてきた作業を土台にしたものである。さらに、デリバティブに関し監督上必要とする情報についての共同の枠組みを初めて発表した後、バーゼル委員会は1996年にマーケット・リスクを規制の対象に含める形で自己資本合意を改定したほか、1997年に銀行を対象にした金利リスクに関するリスク管理の指針を公表した。それに加え、IOSCOは証券会社に適用する自己資本規制やリスク管理にかかる基準にマーケット・リスクを含める可能性について検討してきた。

 変動する市場環境のなかで、トレーディングやデリバティブ取引活動が引き続き増大しており、こうした取引活動の銀行や証券会社のリスク・プロファイル全体や収益性に及ぼす影響について、監督当局が理解を深めることは重要である。したがって、両委員会としては、この枠組みによって示される情報は、デリバティブ市場において活動しているか、または、マーケット・リスクへのエクスポージャーが大きい、監督対象の金融機関やその主要な子会社において入手可能でなければならず、かつ監督当局に提供できるものでなければならないと考えている。1995年版の監督上必要とする情報についての枠組みは、デリバティブに特化していたが、今回の1998年版では現物およびデリバティブの両方のトレーディングから生ずるマーケット・リスク・エクスポージャーをより包括的に把握するために枠組みを拡張している。

 この枠組みは、金融機関の報告負担を限定する必要性に留意したものとなっており、(1)実地検査・考査、(2)外部監査、(3)金融機関との意見交換、(4)特別なサーベイ、(5)定例報告等、監督上必要とする情報を収集するための柔軟な方法を示している。また、銀行や証券会社がトレーディングやデリバティブ取引活動に伴う様々なリスク・エクスポージャーをモニターするために開発している内部の情報システムを監督当局が活用することを奨励している。さらに、本枠組みはグローバルに活動する銀行や証券会社に適用されるリスク管理にかかる基準や自己資本規制と整合的となるように作成されている。

 この枠組みは、二つの主要な部分から構成されている。ひとつは、トレーディングやデリバティブのリスクを評価する際に重要と両委員会が考えるデータのカタログである。各国監督当局は、自国の報告体制を整備する際に、このカタログを活用することができよう。二つ目は、各国監督当局が入手すべきと両委員会が勧めるデリバティブ取引に関する国際的に調和のとれた基礎的情報(カタログの一部を構成)に関する共通のミニマム・フレームワークである。共通のミニマム・フレームワークについては、当初、金融機関のデリバティブ取引の全容や信用リスクを評価する際に有益な情報に焦点を当てていたが、今回の改正においてトレーディングやデリバティブ取引のマーケット・リスクを評価する際に有益な情報も含めるよう拡張されることとなった。本ペーパーは三つのセクションから構成されており、それぞれ以下に要約されている。

I.はじめに

 ここでは、本ペーパーの概要を述べるとともに、監督上必要とする情報についての枠組み全体の根底にある基本原則について説明する。基本原則には以下の点が含まれる。

  • 監督当局が用いるデータは、包括的なものでなければならない。すなわち、データは、すべての種類のデリバティブ、およびそれらに関連する主要なリスクをカバーするとともに、デリバティブが個別金融機関全体の経営やリスク・プロファイルに及ぼす影響を把握できるものでなければならない。必要な場合には、デリバティブのポジションは、関連するオンバランスのポジションとともに評価されなければならない(例えば、マーケット・リスクや収益を評価するときなど)。デリバティブについての定量的情報は、個別金融機関全体のリスク・プロファイルやリスク管理能力に関する定性的情報とあわせて評価される必要がある。
  • 監督当局は、一つの金融機関が、そのグループ内のすべての法人を通じて、異なる法域において実行しているデリバティブ取引について包括的に把握するよう努力すべきである。
  • 金融機関のトレーディングおよびデリバティブ取引活動は、急速に変化する可能性があり、その結果当該金融機関のリスク・プロファイルおよび収益性に影響を与え得る。したがって、デリバティブに関するデータは、金融機関が直面しているリスクについて意味のある形で、かつタイムリーに理解できるよう、十分な頻度で評価されなければならない。
  • 金融機関の報告負担を限定するため、監督当局は銀行および証券会社が内部利用のために用意する情報を活用することが望ましい。監督当局への報告目的用の情報と、その他の監督上の要請を満たす目的で金融機関が既に用意しているデータとは、できるだけ整合的であるべきである。両委員会を構成する国毎に監督制度や会計基準、監督方針等が異なっていることから、監督当局は、それぞれの国の監督状況に最も適したかたちで共通のミニマム・フレームワークを施行する柔軟性を有している。
  • 各国監督当局は、デリバティブ取引を大規模に行い、国際的に活動している金融機関に対して、共通のミニマム・フレームワークを適用するほか、デリバティブ取引の規模が大きいその他の金融機関にもこの枠組みを適用することができる。

II.監督目的のための情報のカタログ

 データ項目のカタログは、金融機関のデリバティブ取引から生じるリスクを評価する上で重要であると監督当局が判断した情報により構成されている。このカタログは、監督当局間でデリバティブに伴うリスク・エクスポージャーを評価するための整合的な手法を発展させていくことができるように作成されている。また、金融機関全体のリスク管理の枠組みの中で把握しようと努力すべき情報について、金融機関と監督当局の間で意見交換を行う際の基盤を提供するということも意図されている。この意味において、監督当局は、金融機関がデリバティブ取引に関する定量的および定性的情報の双方を保有することが確保されるよう努力すべきである。

 カタログに示されている情報は、大きく分けて以下の通り。

信用リスク

 信用リスクとは、取引相手先が債務を完全に履行し得ないかもしれないリスクのことである。この枠組みでは、取引所取引よりもOTC取引のデリバティブにおける信用リスクに焦点を当てている。なぜなら、取引所や清算機関を通じた取引ではマージンの受け払いが行われることによってリスクが削減されているからである。信用リスクの基本的な測定方法は、法的に有効なネッティング契約によるリスク削減効果を勘案した上で、計測されるカレント・エクスポージャーとポテンシャル・エクスポージャーである。さらに、この枠組みは、カレント・エクスポージャーおよびポテンシャル・エクスポージャー双方のための信用補完手段についての情報もカバーしている。最後に、信用リスクの集中および取引相手先の信用力の評価方法についても検討している。

流動性リスク

 この枠組みでカバーされているデリバティブ商品に伴う流動性リスクは、市場流動性リスクとファンディング・リスクである。市場流動性リスクとは、取引を手仕舞ったり反対売買を行ったりして迅速にポジションを解消できなくなるリスクである。ファンディング・リスクとは、デリバティブのポジションによって金融機関の資金繰りやキャッシュ・フローが悪影響を受けるリスクである。

マーケット・リスク

 マーケット・リスクとは、オンバランスもしくはオフバランス・ポジションの市場価値が、株式、金利、為替レートおよびコモディティの市場変動により目減りしてしまうリスクである。この枠組みでは、マーケット・リスクの評価方法として二通り示されている。ひとつは、金融機関のマーケット・リスクを何らかの監督上のモデルを通じて監督当局が独自に評価することができるようなポジション・データに焦点を当てる方法である。もうひとつは、金融機関内部のマーケット・リスクの推計値に関する情報を評価する方法である。推計方法としては、バリュー・アット・リスクを用いる方法、デュレーション分析、シナリオ分析等がある。

収益

 この枠組みでは、デリバティブが金融機関の収益構成に与える影響を評価する上で重要な様々な情報について検討している。そうした情報の中には、商品の種類に関わらず、リスク・カテゴリー(金利リスク、為替リスク、コモディティ・エクスポージャー、および株式エクスポージャー)ごとに分類されたトレーディング収益に関する情報も含まれている。本ペーパーでは、収益についてさらに細目に分類することも監督目的上有用であるかもしれない旨提言している。さらに、この枠組みでは、デリバティブの損失について実現分および未実現分の双方の情報を評価することの重要性についても検討している。

 ここで述べた監督上の関心事項については、別添1および2の表にまとめられている(訳注:本仮訳では別添を省略、以下同じ)。

III.共通のミニマム・フレームワーク

 両委員会は、参加各国の監督当局が、デリバティブ取引規模が大きく、国際的に活動している主要な銀行および証券会社について、カタログで示された項目のうち、最低限入手すべき項目を提案している。共通のミニマム・フレームワークに含まれる情報は、金融機関のデリバティブ取引の特徴・範囲やデリバティブ取引が金融機関全体のリスク・プロファイルに与える影響について、監督当局が評価する際の出発点となる情報であると、両委員会が認めたものによって構成されている。監督当局は、前述のデータ項目のカタログを参考に、共通のミニマム・フレームワークの情報にその他の情報を補足的に追加していくこととなる。

 共通のミニマム・フレームワークは、別添3の表1−5に示されている。本フレームワークは、当初、デリバティブ取引の全容や信用リスクに焦点を当てていたが、トレーディングやデリバティブ取引に伴うマーケット・リスクも含めるよう、拡張されることとなった。トレーディングの対象とはならないデリバティブに加え、トレーディング・ポートフォリオの現物とデリバティブを考える上で、この拡張したアプローチは、グローバルに活動している金融機関がリスク管理上および自己資本充実度を検討する上で、典型的に用意しているマーケット・リスクに関する情報と整合的である。別添4、5は、共通のミニマム・フレームワークを拡張したものであるが、それぞれ銀行と証券会社に対してマーケット・リスク情報の把握について2つのアプローチを提示している。一つめのアプローチは、グローバルに活動する金融機関がリスク管理目的に最近多く使用している内部モデルに基づいている。2つめのアプローチは、金融機関が自己資本充実度を検討するうえで代替的に使用し得る標準的手法である。別添4、5では、グローバルに活動する銀行と証券会社が両アプローチで典型的に用意している情報のタイプの例が示されており、それらは監督上の分析を行う上で有益であろう。

以上