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日本銀行における外国為替市場介入事務の概要

作成
2000年6月
改訂
  • 2007年1月
  • 2010年7月
  • 2018年3月
  • 2023年6月

日本銀行金融市場局為替課

1.はじめに

日本経済は、変動相場制度へ移行した1973年2月以降、為替相場の大幅な変動を経験してきました。わが国では、こうした為替相場変動がもたらす実体経済への悪影響を緩和するために、必要に応じて外国為替市場への介入(「外国為替平衡操作」とも言われます。以下、「為替介入」ないし「介入」)を行ってきています。以下では、為替介入について、実務を中心に出来るだけ分かりやすく解説します。

2.為替介入とは何か

為替介入とは、外国為替相場の急激な変動を抑え、その安定化を図ることを目的に、通貨当局が外国為替の売買を行うことを言います。わが国では、財務大臣が円相場の安定を実現するために用いる手段として位置付けられており、『外国為替及び外国貿易法』第7条第3項(「財務大臣は、対外支払手段の売買等所要の措置を講ずることにより、本邦通貨の外国為替相場の安定に努めるものとする」)を踏まえ、財務大臣の権限において実施されます。なお、為替介入の実施状況については、財務省ホームページに公表されています。

日本銀行は、財務大臣の代理人として、財務大臣の指示に基づき、財務省所管の「外国為替資金特別会計」(後述。以下、「外為特会」)の資金によって為替介入を行っています1

また、財務大臣の代理人としての日本銀行が、海外の通貨当局に為替介入を委託することもあります(「委託介入」)。こうした場合も、財務大臣の指示に基づき、外為特会の資金によって介入が実施されます2

これらの他に、海外の通貨当局から日本銀行が委託を受けて為替介入を行うこともある(「逆委託介入」)3ほか、複数の通貨当局が協議のうえで、各通貨当局の資金を用いて同時ないし連続的に為替介入を実施することもあります(「協調介入」)。

  1. 1『日本銀行法』では、日本銀行は、「本邦通貨の外国為替相場の安定を目的とするものについては、(中略)国の事務の取扱いをする者として行うものとする」(第40条第2項)と規定されています。また、『特別会計に関する法律』は、「財務大臣は、前条の規定による外国為替資金の運営に関する事務を、日本銀行に取り扱わせることができる」(第77条)と定めています。
  2. 2「委託介入」はあくまで日本の資金が用いられているという意味で、海外の通貨当局が自己の資金を用いて行う介入とは異なります。
  3. 3逆委託介入では、委託した海外通貨当局の資金を用いて行われることとなります。

3.為替介入の実務

前述の通り、日本銀行は、財務大臣の代理人として為替介入を実行しますが、そのフロント事務を担うのが金融市場局為替課(以下、日銀為替課)、バック事務を担うのが国際局国際業務課バックオフィスグループです。

情報収集

日銀為替課では、為替ディーラー等の市場参加者や、日本銀行の海外事務所および海外中銀と緊密にコンタクトをとる一方、内外の情報提供サービス会社の情報も利用することによって、為替相場動向を注意深く把握・分析しています。さらに、海外における債券・株式市場の動向、商品市況等についての情報収集・調査も行っており、為替相場を軸にした多面的なモニタリング体制を敷いています。

このようにして集められた情報は、日本銀行内において、金融経済情勢に関する判断材料の一つとして政策委員会等に報告を行っているほか、介入に関する財務大臣の代理人としての立場から、毎日、財務省の為替介入担当部署である国際局為替市場課(以下、財務省為市課)に報告しています。

為替介入の決定

為替相場が急激に変動し、財務大臣が為替介入が必要と決断すると、財務省為市課は日銀為替課にその旨の連絡を行います。日銀為替課は、為替相場の変動要因や、介入決定の判断に資するようなマーケット情報を財務省為市課に提供します。

これを受けて財務省為市課は、日銀為替課に対し介入実行の具体的指示を行い、日銀為替課が介入を実施します。日銀為替課は、介入の実行と平行してマーケット情報を集め、市場の反応等を財務省為市課へ提供し、これを基に実施方法が見直されることもあります。

資金決済

介入に係る取引条件についての合意(約定)が成立すると、それから先の作業はバック事務を行う日本銀行国際局のバック・オフィス(国際業務課バックオフィスグループ)に引継がれます。

バック・オフィスでは、まず日銀為替課から回付された約定内容の記録を基に、取引先と電話やSWIFT4を用いて内容を照合・確認します。次に、決済のための作業に入りますが、介入資金の決済は、原則として介入に用いられた通貨を発行している国の中央銀行預け金勘定間の振替えによって行われています。

  1. 4国際間の金融機関取引に伴うメッセージの伝送を行うデータ通信システムのこと。

4.為替介入資金の調達と運用

最後に、為替介入に要する資金の調達や、介入を通じて得た外貨の運用等について、簡単に説明することとします。

日本銀行が財務大臣の代理人として行う為替介入は、すべて政府の外為特会5の資金を用いて行われます。例えば、ドル買い・円売り介入の場合には、「政府短期証券(FB)」を発行することによって円資金を調達し、これを売却してドルを買い入れる一方、ドル売り・円買い介入の場合には、外為特会の保有するドル資金を売却して、円を買い入れることになります。

これまでの円高局面での外貨買い・円売り介入等の結果、外為特会が保有することとなった外貨資産は、(1)金融・為替市場への攪乱的な影響を及ぼさぬよう最大限配慮するとともに、(2)安全性及び流動性に最大限留意した運用を行うこととし、この制約の範囲内で可能な限り収益性を追求する、という基本原則の下、流動性・償還確実性が高い国債等による運用が行われています。前述のバック・オフィスは、こうした外貨資産運用に関する決済や経理等の実務にも携わっています。

  1. 5同特会は「外国為替資金」と、その運営に関する経理を行う狭義の外為特会との2本の柱から成り立っています。外国為替資金は、政府の行う外国為替等の売買等のために設けられた資金で、これに属する外貨資金の受払いは外為特会の歳入歳出外のものとして取り扱われます。他方、狭義の外為特会では、外国為替等の売買損益や介入に係る資金の運用調達金利等を歳出・歳入として経理しています。