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金融経済月報(基本的見解1)(1999年 5月)2

  1. 本「基本的見解」は、5月18日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、5月18日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

1999年 5月20日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp9905.pdf 664KB)から入手できます。


 足許の景気は、下げ止まっているが、回復へのはっきりとした動きはみられていない。

 最終需要面をみると、設備投資は減少基調を続けており、個人消費についても、全体として回復感に乏しい状態が続いている。また、純輸出(輸出−輸入)は横這い圏内の推移となっている。一方、住宅投資は、このところ持ち直しており、公共投資は、春先の発注大幅増を受けて、高水準で工事が進捗しているとみられる。

 このような最終需要の動向や、在庫調整が引き続き進捗していることを背景に、鉱工業生産は下げ止まっている。これらに加えて、金融システム不安の緩和や株価の持ち直し等の金融環境の改善もあって、企業・消費者心理は下げ止まっているように窺われる。ただ、企業収益は引き続き低迷しているほか、失業率が既往ピークを更新し続けるなど、家計の雇用・所得環境も悪化している。また、企業金融面でも、改善の動きが続いているものの、先行きの資金繰りに対する不安感は、未だ払拭し切れてはいない模様である。

 今後の経済情勢については、在庫調整の進展により生産回復の条件が次第に整いつつあるもとで、政府の経済対策や日本銀行による金融緩和措置などが、引き続き下支え効果を発揮することが見込まれる。また、金融環境の改善も、景気に対して徐々に好影響を及ぼしていくことが期待される。しかし他方で、企業行動をみると、収益の長期低迷が続き、リストラの動きが本格化しつつある。こうした企業リストラは、生産性向上につながると期待される一方、短期的には、設備投資の抑制に働くほか、雇用・所得環境の悪化などを通じて家計支出にもマイナスの影響を及ぼす可能性がある。これらを踏まえると、民間需要の速やかな自律的回復は依然として期待しにくい状況にある。今後は、このような点に留意しつつ、経済情勢全般の動向を注意深くみていくとともに、経済の中期的な成長力確保に向けた構造改革を、その環境を整備しつつ、円滑に進めることが重要と考えられる。

 物価面をみると、大幅な需給ギャップなどを背景に、国内卸売物価が下落傾向を続け、企業向けサービス価格も軟化している。なお、輸入物価については、原油など国際商品市況の底入れを映じて上昇している。一方、消費者物価は引き続き弱含みで推移している。先行きについては、足許の景気が下げ止まっているもとで、当面、需給ギャップが明確に縮小することは依然見込み難い。また、賃金の軟化が続いていることなども、物価の低下要因として作用すると考えられることから、物価は、今後とも軟調に推移する公算が大きい。

 金融面をみると、短期金融市場では、オーバーナイト物金利がゼロ%に近い水準で推移するもとで、金融機関の多くには流動性確保に対する安心感が広がっている。また、ターム物金利は、金融緩和が長期化するのではないかとの市場の見方などを背景に、一段と低下した。ジャパン・プレミアムも、ほぼ解消された状態が続いている。

 長期金利は、景気回復へのはっきりとした動きが依然窺われないもとで、ターム物金利の動向などを受けて、全般に低下した。株価も、3月以降の米国株価の一段の上伸などもあって、総じて底固い動きを示した。

 この間、コール市場残高は、緩やかな減少傾向を続けている。これまでのところ資金決済面で支障が生じるといった事態はみられていないが、今後ともその動向を注視していく必要がある。

金融の量的側面に関連して、企業の資金需要面をみると、設備投資などの実体経済活動に伴う資金需要は低迷を続けている。資金調達環境の厳しさを意識した手許資金積み上げの動きも収まってきている。この結果、民間の資金需要は一段と低調な状態にある。

 一方、民間銀行は、基本的に慎重な融資姿勢を維持している。ただ、民間銀行自身を巡る資金繰り面や自己資本面からの制約は緩和されてきており、そうしたもとで、大手行などでは、信用リスクの小さい融資案件を手はじめに、徐々に融資を回復させる姿勢に変わりつつある。

 これらの結果、企業金融を巡る逼迫感は和らいできている。

 今後、民間銀行の融資態度の変化がさらにどの程度進み、企業の投資意欲などにどのような影響を与えていくことになるか、十分注目していく必要がある。

以上