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金融経済月報(基本的見解1)(2000年 3月)2

  1. 本「基本的見解」は、 3月 8日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、 3月 8日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

2000年 3月10日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp0003.pdf 536KB)から入手できます。


 わが国の景気は、このところ、持ち直しに転じている。こうしたもとで、企業収益の回復など、民間需要を巡る環境は改善を続けている。もっとも、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない。

 最終需要面をみると、住宅投資と公共投資は、緩やかに減少している。個人消費は、雇用・所得環境に目立った改善がみられない中で、回復感に乏しい状態が続いている。一方、これまで減少基調にあった設備投資は、概ね下げ止まったものとみられる。また、純輸出(実質輸出−実質輸入)は、海外景気の好転を背景に増加傾向を辿っている。

 このような最終需要の動向のもとで、鉱工業生産は増加を続けている。また、企業収益の改善も明確化しつつあり、こうした動きを背景に、企業の業況感の改善が続いている。雇用面でも、雇用者数の減少には歯止めが掛かりつつある。もっとも、多くの企業では、設備・雇用過剰感がなお強く、借入金返済等による財務体質改善が強く意識されるもとで、収益や業況感の改善は、必ずしも積極的な企業行動には繋がっていない。また、企業が人件費抑制スタンスを堅持する中で、家計の所得環境は引き続き厳しい状況にある。

 今後の経済情勢については、補正予算の執行に伴い公共投資が増加に転ずるほか、日本銀行による金融緩和措置などによる良好な金融環境も、引き続き下支え効果を発揮していくことが期待される。海外景気の回復が生産面に及ぼすプラス効果も当面継続し、それが企業、ひいては家計の所得・支出面にも好影響を及ぼしていくとみられる。しかし、住宅投資は、今後も緩やかに減少する可能性が高い。また、企業部門では、リストラによる収益改善が相応の成果をあげつつあり、成長性の高い分野では投資活動積極化の動きもみられ始めているが、多くの企業では、控え目な売上見通しのもとで、設備投資に対する慎重なスタンスを続けるものと考えられる。昨年夏場以降の円高は、当面企業収益の減少要因として作用するとみられる。これらを踏まえると、民間需要を巡る環境が改善を続けているとはいえ、今後の展開については、なお注意深くみていくことが必要である。また、民間需要の立ち直りを促すような構造改革を進めていくことも重要と考えられる。

 物価面をみると、輸入物価は原油等国際商品市況の上昇に加え、最近の円安の影響もあって、上昇している。国内卸売物価は、電気機器等の下落が続いているものの、原油価格上昇を受けた石油・化学製品の上昇等から、横這いの動きとなっている。一方、消費者物価は、これまでの円高による輸入製品価格の低下等から、幾分弱含んでいる。企業向けサービス価格も小幅の下落が続いている。先行きについては、在庫等の動きからみて国内の需給バランスが緩やかに改善していることや原油価格上昇分の転嫁が、物価に対し上昇方向に作用するとみられる。一方、技術進歩を背景とする機械類の趨勢的な下落や、これまでの円高による輸入製品価格の低下が下落方向に作用することから、総じてみれば物価は当面概ね横這いで推移していくものと考えられる。しかし、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きが依然みられず、賃金の軟化傾向が続く中にあっては、需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力に対し引き続き留意していく必要がある。

 金融面をみると、短期金融市場では、オーバーナイト物金利は、「2月29日問題」に伴うコンピューター誤作動懸念を背景に一時的に強含んだ局面を除けば、ゼロ%に近い水準で推移しており、オーバーナイト資金の確保に対する懸念は払拭された状況が続いている。この間、コール市場残高は、2月末にかけて若干増加したが、その後は再び減少した。

 ターム物金利は、きわめて低い水準で、総じて安定的に推移している。ジャパン・プレミアムも、ほぼ解消された状態が続いている。

 長期国債流通利回りは、2月中は概ね1.8%台で推移していたが、3月入り後は若干軟化し、最近では1.7%台での動きとなっている。この間、国債と民間債(金融債、社債)の流通利回りスプレッドは、低格付のものを中心に、引き続き縮小傾向を辿っている。

 株価は、総じて堅調に推移しており、最近では2万円前後での動きとなっている。

 円の対米ドル相場は、2月中は総じて円安方向への動きが進んだが、2月末以降は円高方向に戻し、最近では106〜107円台での値動きとなっている。

 金融の量的側面をみると、民間銀行は、基本的に慎重な融資姿勢を維持している。ただ、民間銀行自身を巡る資金繰り面や自己資本面からの制約は緩和されており、そうしたもとで、大手行などでは、融資先の信用力などを見きわめつつ、融資を回復させようとする姿勢を強めている。

 しかし、企業の資金需要面をみると、設備投資などの実体経済活動に伴う資金需要が低迷を続けているほか、企業はバランスシート調整の一環として、借入金を圧縮していくスタンスを維持している。この結果、民間の資金需要は引き続き低迷しており、民間銀行貸出は弱含みで推移している。社債やCPの発行も、落ち着いた動きとなっている。

 上述のような状況を受けて、マネーサプライ(M2+CD)は、伸び率の鈍化傾向が続いている。

 以上のような環境のもとで、企業金融には緩和感が広がりつつあり、企業からみた金融機関の貸出姿勢も厳しさが後退しつつある。今後とも、こうした企業金融を巡る環境の改善傾向が、実体経済活動にどのような影響を与えていくのか、見守っていくことが必要である。

以上