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金融経済月報(基本的見解1)(2003年 5月)2

  1. 本「基本的見解」は、5月19日、20日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、5月19日、20日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

2003年 5月21日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp0305.pdf 728KB)から入手できます。


 わが国の景気は、全体として横這いの動きを続けているが、先行き不透明感が強まっている。

 最終需要面をみると、設備投資は、先行指標に弱い部分もみられるが、足許緩やかに持ち直してきている。一方、個人消費は弱めの動きを続けているほか、住宅投資は低調に推移しており、公共投資も減少している。このように国内需要に明確な回復の動きがみられない中で、純輸出は横這い圏内で推移している。

 こうした最終需要の動向を反映し、鉱工業生産は、横這い圏内の動きとなっている。雇用面では、新規求人が緩やかな増加基調にあるほか、臨時雇用等を広く含む雇用者数は下げ止まり傾向にあるとみられる。しかし、企業の人件費削減姿勢が根強い中で、賃金が引き続き低下するなど、雇用者所得は減少を続けており、家計の雇用・所得環境は、全体として引き続き厳しい状況にある。

 今後の経済情勢を考えると、まず海外経済については、イラク情勢を巡る不確実性の低下などを背景に、本年後半には米国を中心に成長率が高まるとの見方が一般的である。しかし、当面は、欧米経済の回復力がかなり緩やかなものにとどまると予想されるうえ、堅調に推移してきた東アジア経済についても、新型肺炎問題の影響から、少なくとも一時的には成長率が鈍化するとの懸念が強まっている。これらを踏まえると、当面、輸出は横這い圏内の動きにとどまり、鉱工業生産も、横這い圏内の動きが続くと考えられる。

 一方、国内需要については、公共投資が減少傾向を辿ると見込まれるほか、個人消費も、厳しい雇用・所得環境のもとで、当面、弱めの動きを続ける可能性が高い。設備投資は、輸出や生産が再びはっきりと増加すれば、回復傾向が明確になっていくと考えられるが、当面はごく緩やかな増加にとどまるとみられる。

 以上を総合すると、今後わが国の景気は、海外経済の成長率が本年後半に高まることを前提とすれば、いずれは輸出や生産が増加基調に復することを通じて、前向きの循環が働き始めると考えられる。ただし、過剰雇用や過剰債務の調整圧力が根強い中で、生産が当面横這い圏内で推移するとみられることなどを念頭に置くと、しばらくの間、国内需要の自律的な回復力が高まることは展望しにくい。また、輸出環境の先行きについては、欧米経済の回復力、米ドル相場の動向に加え、わが国と密接な連関を有する東アジア域内での新型肺炎問題の影響を巡って、不透明感が強まっている。国内面でも、金融システム情勢が、今後、株価や企業金融、ひいては実体経済に及ぼす影響について、注視していく必要がある。

 物価面をみると、輸入物価は、春先までの原油高を反映して、なお幾分上昇している。国内企業物価は、機械類の価格低下が続いているものの、輸入物価の上昇や素材業種での需給改善を反映して、全体として下げ止まっている。この間、消費者物価や企業向けサービス価格は、引き続き緩やかに下落している。

 物価を取り巻く環境をみると、輸入物価は、春先以降の原油価格反落を反映して、次第に下落に転じていくとみられる。国内面でも、マクロの需給バランスや機械類における趨勢的な技術進歩、流通合理化といった要因が、引き続き物価を押し下げる方向に作用するとみられる。加えて、素材業種における需給引き締まり方向の動きにも、このところ一服感がみられることなどを踏まえると、国内企業物価は、再び緩やかな下落に向かう可能性が高い。一方、消費者物価については、4月には医療費自己負担率の引き上げなどから前年比下落幅が幾分縮小すると見込まれる。しかしその後は、石油製品がピークアウトする反面、企業の低価格戦略と関係の深い消費財輸入にかつての勢いがみられないことなどからみて、4月と同程度の前年比下落幅で推移するものと予想される。

 金融面をみると、4月中は、日本銀行が金融市場の安定確保に万全を期すため一層潤沢な資金供給を行った結果、日本銀行当座預金残高は20兆円台後半で推移した。5月入り後は、4月30日の金融政策決定会合において決定された金融市場調節方針に沿って、日本銀行が一層潤沢な資金供給を行うもとで、日本銀行当座預金は、最近では25~27兆円程度で推移している。

 こうしたもとで、オーバーナイト物金利は、引き続きゼロ%近辺で推移している。また、ターム物金利も、低水準で安定した動きを続けている。

 長期国債流通利回りは、新年度入り後、銀行や機関投資家による国債投資が一段と活発化したことから、一時0.5%台まで低下した。また、民間債(銀行債、事業債)と国債との流通利回りスプレッドも、機関投資家による社債投資等の拡大を背景に、一段と縮小した。

 株価は、わが国経済の先行きに対する不透明感や需給悪化懸念などを背景に4月下旬にかけていったん大きく下落したが、その後は、欧米株価に連れるかたちで持ち直し、最近では日経平均株価は8千円台を挟んだ動きとなっている。

 円の対米ドル相場は、米国における財政赤字・経常赤字の拡大懸念等を背景とする米ドル軟化基調の継続をうけて上昇し、最近では115~117円台で推移している。

 資金仲介活動をみると、民間銀行は、優良企業に対して貸出を増加させようとする一方で信用力の低い先に対しては慎重な貸出姿勢を維持しているが、このところ利鞘設定などの面で貸出姿勢を幾分緩和する動きも窺われている。この間、企業からみた金融機関の貸出態度は中小企業等ではなお厳しい。社債、CPなど市場を通じた企業の資金調達環境をみると、高格付け企業は引き続き緩和的であるほか、相対的に格付けの低い企業でも幾分持ち直しの動きがみられる。

 資金需要面では、企業の借入金圧縮スタンスが維持されている中で、設備投資が低水準にあることなどから、民間の資金需要は引き続き減少傾向を辿っている。

 こうした中で、民間銀行貸出は前年比2%台の減少が続いているがマイナス幅は幾分縮小している。CP・社債の発行残高は、概ね前年並みの水準で推移している。

 この間、企業の資金繰り判断は、中小企業等では総じて厳しい状況が続いている。

 マネタリーベースは、前年比1割程度の伸びで推移している。マネーサプライは、伸びがやや鈍化し前年比1%台半ばとなっている。

 企業の資金調達コストは、全体としてきわめて低い水準で推移している。

 以上を踏まえて、金融面の動きを総合的に判断すると、金融市場では、日本銀行による追加緩和措置もあり、きわめて緩和的な状況が維持されているほか、長期金利もさらに低下している。マネーサプライやマネタリーベースは、このところ伸びが幾分鈍化しているが、経済活動との対比でみれば高めの伸びを維持している。企業金融面では、CP・社債の発行環境などに幾分改善の動きがみられるものの、信用力の低い企業を中心に資金調達環境は総じて厳しいという基本的な状況に大きな変化はない。株価も、なお不安定な地合いにある。こうした中で、今般、金融危機対応会議が開催され、りそな銀行に対する資本増強の必要性の認定が行われた。この措置の影響も含め、金融資本市場の動向や金融機関行動、企業金融の状況については、引き続き十分注意してみていく必要がある。

以上