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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2020年4月27日開催分)

2020年6月19日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2020年6月15、16日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2020年4月27日(9:00~12:01)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
雨宮正佳 (副総裁)
若田部昌澄(  副総裁  )
布野幸利 (審議委員)
櫻井 眞 (  審議委員  )
政井貴子 (  審議委員  )
鈴木人司 (  審議委員  )
片岡剛士 (  審議委員  )
安達誠司 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
財務省 遠山 清彦 財務副大臣
内閣府 西村 康稔 経済財政政策担当大臣
(執行部からの報告者)
理事 前田栄治
理事 内田眞一
企画局長 加藤 毅
金融市場局長 清水誠一
調査統計局長 神山一成
国際局長 福本智之
(事務局)
政策委員会室長 松下 顕
政策委員会室企画役 山城吉道
政策委員会室企画役 本田 尚
企画局政策企画課長 飯島浩太
企画局企画調整課長 矢野正康
企画局企画役 東 将人
企画局企画役 法眼吉彦
調査統計局経済調査課長 川本卓司

I.金融政策決定会合の日程変更の趣旨説明および承認

冒頭、議長より、本日の金融政策決定会合の日程変更の趣旨について、以下のとおり説明があった。

  • 新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、政府の緊急事態宣言が発出されている。こうした状況を踏まえ、今回の金融政策決定会合については、感染症の拡大防止に万全を期す観点から、会合の時間を短縮することが適当である。

そのうえで、議長は、4月27、28日に開催を予定していた金融政策決定会合の日程を変更し、本日昼頃を目途に会合を終了するよう議事を進めることを提案した。本提案は、全員一致で承認された。

II.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(3月16日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、積極的な国債買入れを行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。また、同会合における決定等に基づき、一層潤沢な資金供給の実施、企業金融支援のための措置、ETF・J-REITの積極的な買入れを行った。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。無担保コールレート(オーバーナイト物)は-0.07~-0.01%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、担保需要等から3月末にかけて大きく低下したあと、4月入り後は-0.2~-0.1%程度で推移している。

株価(日経平均株価)は、各国・地域の政府や中央銀行が積極的な対応を行うもとで、米欧株価と同様に上昇している。長期金利は、3月半ばに幾分上昇する場面もあったが、日本銀行による機動的な国債買入れ等もあって、期間を通じてみれば、ゼロ%程度で概ね横ばいで推移している。為替相場をみると、円の対ドル、対ユーロ相場は、円高方向の動きとなっている。株価、債券、通貨のボラティリティはともに、3月に大きく上昇したあと、4月入り後は低下しているが、引き続き高めの水準にとどまっている。国債市場では、市場参加者の取引執行体制が分散勤務体制へ移行するもとで、先物・現物の取引高が大幅に減少するなど、流動性が低下している。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行の影響により、急速に落ち込んでいる。3月のグローバルPMIは、製造業・サービス業ともに大幅に低下しており、特にサービス業は既往最低水準となっている。先行きについては、感染症の拡大が収束に向かうまで、経済活動の抑制が続くと予想され、その間、落ち込んだ状態が続くと考えられる。その後は、ペントアップ需要や挽回生産が押し上げに作用し、各国・地域の積極的なマクロ経済政策の効果も発現すると予想されることから、成長ペースは高まっていくと考えられる。もっとも、先行きについては、感染症の拡大が収束する時期や経済に与える影響の大きさによって変わり得るため、不透明感がきわめて強い。

地域別に動きをみると、中国経済は、感染症拡大による影響が和らぐ中、落ち込んだ状態から持ち直す動きが窺われる。生産や輸出、個人消費、固定資産投資は、感染症拡大の影響によって大きく減少した水準から持ち直しつつある。製造業関連の石炭消費量や非製造業関連の都市の渋滞遅延指数などの高頻度データをみても、経済活動が持ち直しつつある様子が窺われる。

欧州経済は、感染症拡大の影響から、急速に落ち込んでいる。ユーロエリアでは、都市封鎖など厳格な感染拡大防止策によって、営業・生産活動が大きく制約されている。こうしたもとで、PMIなど企業の業況感が大幅に悪化しているほか、雇用・所得環境にも深刻な影響が生じ、消費者マインドも急速に冷え込んでいる。

米国経済は、感染症拡大の影響から、急速に落ち込んでいる。外出・出入国制限や営業・生産活動の停止措置などの感染拡大防止策が、米国のほぼ全域でとられた結果、製造業、非製造業ともに、企業の業況感が大幅に悪化している。また、新規失業保険申請数が急増するなど、雇用・所得環境にも深刻な影響が生じており、消費者マインドも急速に冷え込んでいる。

中国以外の新興国経済でも、感染症拡大の影響から、急速に落ち込んでいる。多くの国・地域で、外出・出入国制限や営業・生産活動の停止措置などの感染拡大防止策が導入、強化されており、経済活動が大きく抑制されている。この間、新興国の金融環境をみると、資金流出が一時的に増加したものの、米国をはじめとする各国の政策対応の効果もあり、足もとでは落ち着きつつある。

海外の金融市場をみると、各国・地域の積極的な金融・財政政策等を受けて、市場センチメントは幾分改善したが、不安定な状況がなお続いている。株価は、米欧とも3月下旬以降、上昇に転じている。クレジット・スプレッドは、米欧とも低格付け社債を中心に3月下旬頃にいったん大幅に拡大したあと、幾分縮小している。長期金利は米欧ともいったん上昇したが、足もとでは低位で推移している。この間、原油価格は、産油国による減産に向けた動きがみられているものの、原油在庫の急増などから大幅に下落している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、内外における新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により、厳しさを増している。先行きについては、当面、内外における新型コロナウイルス感染症の拡大の影響から、厳しい状態が続くとみられる。

輸出や鉱工業生産は、海外経済が急速に落ち込んでいるもとで、減少している。実質輸出を財別にみると、情報関連はデータセンター向けや5G関連向けを中心に底堅く推移しているものの、自動車関連と資本財は、先進国を中心に需要が大きく落ち込んでおり、ここにきて減少基調が一段と明確になっている。訪日入国者数の急減に伴い、インバウンド需要はほぼ蒸発している。

個人消費は、感染症拡大の影響が強まる中で、飲食・宿泊等のサービスを中心に大幅に減少している。サービス需要に関連して、携帯電話の位置情報データを用いて人々の動きをみると、旅行需要を表すとみられる国内の世界文化遺産の滞在者数や、飲食需要を表すとみられる東京の繁華街における夜間人口は、3月に大きく減少したあと、4月7日の緊急事態宣言を受けて一段と減少している。財消費については、自動車や家電、衣服等の販売は来店客減少の影響から減少する一方、いわゆる「巣ごもり消費」の拡大からスーパー販売額が前年を上回るなど、区々の動きとなっている。

企業の業況感は、企業収益にかかる下押し圧力が強まっていることを反映して、悪化している。設備投資はこのところ増勢の鈍化が明確となっている。

感染症拡大の影響が強まる中で、有効求人倍率や新規求人倍率の低下傾向がより明確になるなど、雇用・所得環境には弱めの動きがみられ始めている。

物価面について、企業向けサービス価格(除く国際運輸)の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、マイナスに転化した。消費者物価の前年比は、除く生鮮食品、除く生鮮食品・エネルギーのいずれも0%台半ばとなっている。先行きの消費者物価は、当面、感染症の拡大や原油価格の下落の影響を受けて弱含むとみられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、全体として緩和した状態にあるが、企業の資金繰りが悪化するなど企業金融面で緩和度合いが低下している。

予想物価上昇率は、弱めの指標がみられている。

企業の資金調達コストは、総じてみれば低い水準で推移しているが、CPを中心に市場調達レートが上昇する場面もみられている。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。発行環境について、社債市場では、総じてみれば良好な発行環境が続いている。CP市場では、発行残高は前年比プラスを維持しているが、需給環境にタイト化の動きがみられる。資金需要面をみると、これまで設備投資向けや企業買収関連などが資金需要の伸びを支えてきたが、足もとでは感染症拡大の影響を受けた売上げの減少や予備的な需要などによる資金需要が増加している。企業の資金繰りについて、3月短観や商工会議所の調査結果をみると、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた売上げの急減などから、宿泊・飲食などのサービス業や小売業、とりわけ相対的に規模の小さい企業を中心に資金繰りが悪化している。大企業の資金繰りについても、CP市場で発行需要が旺盛な中、4月入り後、発行レートが急上昇するなど、資金調達面のストレスが強まっている。

III.ETF等の銘柄別買入れ方法の見直しについて

1.執行部からの説明

ETF等の買入れ方法について、引き続き、円滑な買入れを行う観点から、従来の、銘柄毎の買入れ割合を、各銘柄の時価総額に概ね比例する方法から、時価総額から本行保有残高を減じた銘柄毎の市中流通高に概ね比例する方法へと変更したい。

2.委員会の検討・採決

上記を内容とする「『指数連動型上場投資信託受益権等買入等基本要領』の一部改正に関する件」が採決に付され、全員一致で決定された。

IV.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融市場について、委員は、各国・地域の政府・中央銀行の積極的な対応もあり、ひと頃の緊張が幾分緩和しつつあるが、流動性の低い状態が続くなど、引き続き、神経質な状況にあるとの認識で一致した。多くの委員は、中央銀行による潤沢な資金供給や機動的な資産買入れにより、各市場が連鎖的に不安定化する事態はひとまず回避されたとの認識を示した。このうち、ある委員は、主要6中銀によるドル資金供給オペの拡充は、所期の効果を発揮しており、市場で好感されているとの見方を示した。複数の委員は、低迷が続く実体経済と株価の間に乖離が生じつつあることを注視していると述べた。何人かの委員は、感染症が世界的に拡大する中、多くの地域で市場運用業務がBCP体制に移行していることもあり、債券市場などで流動性が低下していると指摘した。また、何人かの委員は、経済活動の停滞により原油価格が急落していることを受けて、OPECプラスなどで協調減産が合意されたものの、当面、石油需要の回復は見込みがたいとの見方を示した。

海外経済について、委員は、新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行の影響により、急速に落ち込んでいるとの認識で一致した。多くの委員は、感染症が世界中で急速に拡大するもとで、各国・地域では、外出・出入国制限や営業・生産活動の停止措置などの感染拡大防止策がとられるもとで、経済活動が大きく制約されているとの認識を示した。何人かの委員は、中国では国内感染が落ち着き、経済活動が再開されているものの、感染症が世界的に拡がっていることを踏まえると、その影響は長引き、かつ大きくなっていると述べた。何人かの委員は、各国における企業や家計のマインドは急速に悪化しており、歴史的な低水準となっていると指摘した。何人かの委員は、世界経済は、IT関連や日用品などを除けば、需要が著しく減少しており、特にこれまで成長を牽引してきたサービス業で深刻さが増しているとの認識を示した。

中国経済について、複数の委員は、感染症の流行が落ち着くもとで、工場の操業率が回復するなど、落ち込んだ状態から持ち直す動きが窺われていると述べた。一方で、米欧経済について、委員は、感染症拡大の影響から、急速に落ち込んでいるとの見方で一致した。何人かの委員は、感染者数の急増により、経済活動が制限されるもとで、米国では、新規失業保険申請数が急増するなど、雇用・所得環境にも深刻な影響が生じているとの認識を示した。ある委員は、社会生活の制約、雇用環境の悪化、株式市場の逆資産効果などから、米国の個人消費がどの程度下押しされるか注視していると述べた。別の一人の委員は、欧米の一部で経済再開に向けた議論が始まっているが、感染症の収束に向けた展望はひらけておらず、当面、強い下押し圧力がかかり続ける可能性が高いとの見方を示した。

わが国の金融環境について、委員は、全体として緩和した状態にあるが、企業の資金繰りが悪化するなど企業金融面で緩和度合いが低下しているとの認識で一致した。何人かの委員は、感染症拡大の影響により売上げが減少しており、企業規模を問わず、資金繰りが悪化していると指摘した。このうち、複数の委員は、手許流動性の薄い零細企業から資金繰りが枯渇し始めており、資金繰りのために破綻する企業も出てきていると指摘した。複数の委員は、CP市場では、発行需要が旺盛で、4月以降発行レートが急上昇しているほか、社債の調達金利も幾分上昇するなど、大企業の資金繰りでもストレスが強まっていると指摘した。

以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、内外における新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により、厳しさを増しているとの見方で一致した。多くの委員は、感染症拡大の影響は、輸出・生産やインバウンド消費への影響に加え、外出自粛などによる個人消費の落ち込みなどを介して、わが国経済に深刻な影響を及ぼしているとの認識を示した。何人かの委員は、わが国における感染者数は他国対比抑えられているものの、感染症の収束までには相応の時間がかかるとの認識を示した。このうち、ある委員は、感染症の収束に向けた医療面、経済面での政策措置について、その内容、タイミング、規模、ロジスティクスを含む展開状況等の影響を注視していると述べた。雇用・所得環境に関して、委員は、弱めの動きがみられ始めているとの認識を共有した。そのうえで、何人かの委員は、雇用は、現時点では、大きく悪化していないものの、感染症の影響が長引くほど、企業業績の悪化や倒産を通じて、その影響は大きくなると指摘した。そのうえで、複数の委員は、本年4~6月期の実質GDP成長率は、1~3月期に続き、相当低くなる可能性が高いと述べた。

物価面について、委員は、消費者物価の前年比は、除く生鮮食品、除く生鮮食品・エネルギーのいずれも0%台半ばとなっており、予想物価上昇率については、弱めの指標がみられているとの見方を共有した。

2.経済・物価情勢の展望

2020年4月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、当面の経済・物価の見通しについて議論を行った。わが国経済について、委員は、内外における新型コロナウイルス感染症の拡大の影響から、当面、厳しい状況が続くとの認識を共有した。委員は、海外経済について、感染症拡大が収束に向かうまでは落ち込んだ状態が続くとの認識を共有した。そのうえで、委員は、インバウンド消費を含めたわが国の輸出は低迷した状態を続けるとの認識を共有した。国内需要について、委員は、政府の経済対策が下支えとなるものの、感染症拡大の影響を受けて経済活動が抑制されるなか、個人消費を中心に落ち込んだ状態が続くとの見方で一致した。物価について、委員は、消費者物価の前年比は、プラスで推移しているものの、先行きは、当面、感染症の拡大や原油価格の下落などの影響を受けて弱含むとの認識を共有した。

続いて、委員は、やや長い目でみた経済・物価の見通しについて議論を行った。経済の見通しについて、委員は、先行きはきわめて不確実性が大きいが、今回の見通しでは、感染症拡大の経済への影響が、世界的にみて、本年後半にかけて和らいでいくことを想定するのが適当であるとの認識を共有した。ある委員は、感染症拡大が収束に向かうタイミングについて確たることはいえないが、現時点では、IMF同様、本年後半頃を前提とするしかないとの見方を示した。委員は、そうした想定のもとで、海外経済は、本年後半頃から、ペントアップ需要や挽回生産が押し上げに作用し、各国・地域の積極的なマクロ経済政策の効果も発現すると予想されることから、成長ペースは高まっていくとの見方を共有した。わが国経済についても、委員は、内外で感染症拡大の影響が和らいでいけば、改善していくとの認識を共有した。委員は、輸出は、海外経済の成長ペースが高まっていくもとで再び増加に向かっていくほか、国内需要は、ペントアップ需要の顕在化が予想されることに加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策にも支えられて持ち直しに転じ増加していくとの見方を共有した。

物価の見通しについて、委員は、景気が改善していくもとで、消費者物価の前年比は、徐々に上昇率を高めていくとの見方を共有した。ある委員は、先行きの経済動向や適合的なインフレ予想形成を踏まえると、見通し期間の終期にあたる2022年度でも、物価が2%にしっかりと近づいていく姿は見通しがたいと述べた。別の一人の委員は、感染症拡大の影響の帰趨にもよるが、短期的には、1930年代の大恐慌以来の急激な経済収縮も起きかねないもとで、「物価安定の目標」の達成は後ずれするとの見方を示した。ある委員は、経済成長率の低下に伴い需給ギャップと予想インフレ率に下押し圧力がかかり、原油価格の大幅下落も加わることで、物価上昇率は来年度までマイナス圏で推移し、その後、小幅のプラスに戻る公算であると述べた。

次に、委員は、見通しの背景となる金融環境について議論を行った。委員は、感染症拡大の影響を受けて、内外の金融資本市場で不安定な動きがみられているほか、世界的にみて企業金融に影響が生じているとの認識を共有した。もっとも、委員は、わが国を含め各国・地域の政府・中央銀行が金融市場の安定を維持し、企業金融の円滑を確保するために、積極的な対応を行っているもとで、緩和的な金融環境は維持され、金融面から実体経済への下押し圧力が強まることが回避されると想定されるとの見方を共有した。

そのうえで、委員は、経済・物価の見通しのリスク要因(上振れ・下振れの可能性)について、感染症拡大の影響が収束するまでの間、特に注意が必要な点について、議論を行った。

まず、経済のリスク要因について、委員は、先行きの見通しは、新型コロナウイルス感染症の拡大が収束する時期や内外経済に与える影響の大きさによって変わり得るため、不透明感がきわめて強いとの見方を共有した。何人かの委員は、仮に感染症拡大が収束に向かったとしても、パンデミックの再燃懸念から人やモノの移動が回復しないリスクがあるほか、所得の減少や資金繰り悪化を受けて、家計や企業の行動が以前より慎重化してしまうリスクがあると指摘した。ある委員は、現時点における、日本経済の中長期的な見通しは、きわめて不確実性が高いため、楽観、悲観、両方のシナリオを想定することが可能であると述べた。別の一人の委員は、経済見通しの不確実性の大きさに鑑みて、海外中銀の中には、見通しの公表を見送る先や、複数のシナリオを示す先などがみられていると指摘した。ある委員は、歴史を紐解けば、人類は何度も感染症を乗り越えながら、グローバル化、都市化、サービス化を進めてきたため、こうした傾向は今後とも維持されると考えられるが、公衆衛生に配慮したサプライチェーンの再構築など、一定の変化は起こり得るため、先行きの不確実性は大きいと述べた。

また、委員は、今回の見通しは、感染症拡大の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下しないことや、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されることなどを前提としており、そうした前提には大きな不確実性があるとの認識で一致した。ある委員は、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、人々の需要行動に構造的な変化が生じ、そうしたもとで企業や家計の中長期的な成長期待が低下する可能性があると指摘した。これに対し、ある委員は、わが国経済への下押し圧力は、感染拡大防止策に伴い経済活動が制約されることによる面が大きいため、こうした短期的な経済の落ち込みが、中長期的な成長経路を規定するとは必ずしもいえないと述べた。金融システムのリスクについて、何人かの委員は、感染症の影響で実体経済の悪化が長引き、企業の信用力が低下するようなことがあれば、銀行の信用コストの増加などから金融仲介機能が低下する可能性があるとの認識を示した。ある委員は、感染症の影響で資金繰りが悪化した企業を金融機関が支援していく中では、貸出の一定割合が不良化する可能性を念頭に、金融システムの状況を慎重に注視していく必要があると述べた。

次に、物価のリスク要因について、委員は、経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも相応の影響が及ぶとの見方で一致した。また、委員は、原油価格をはじめとする国際商品市況の動向や今後の為替相場の変動が物価に与える影響についても、注意してみていく必要があるとの認識を共有した。

以上の議論を経て、委員は、リスクバランスについては、経済・物価のいずれの見通しについても、新型コロナウイルス感染症の影響を中心に下振れリスクの方が大きいとの見方を共有した。

V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

金融政策面での対応の方向性について、委員は、内外における新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、わが国経済は厳しさを増しており、金融環境も企業の資金繰りが悪化するなど企業金融面で緩和度合いが低下していることを踏まえると、金融緩和を一段と強化することが適当であるとの認識で一致した。多くの委員は、感染症拡大の収束に目途が着くまでの間は、雇用や事業、国民生活を守ることが何よりも大事であり、金融政策の面からは、円滑な資金調達環境と金融市場の安定維持に全力を傾ける必要があると述べた。ある委員は、今回も、流動性供給を中心としたさらなる緩和措置が必須であるほか、一層の状況悪化の可能性にもしっかり備えておくことが肝要であると指摘した。別のある委員は、大恐慌の再来を避けるべく、政策当局は果断に対応しなければならないと述べた。一人の委員は、政策対応においては、政府と中央銀行間、および主要中央銀行間で緊密な情報交換を行い、課題認識を共有するなど協力体制を維持することが肝要であると指摘した。

そのうえで、委員は、金融緩和の強化の手段について議論を行った。委員は、企業金融面でのストレスが強まっていることを踏まえ、CP・社債等買入れの増額や3月に導入・開始した特別オペなどを拡充すべきであるとの認識を示した。複数の委員は、CP・社債等買入れを増額するに当たっては、発行体毎の買入限度などの要件を緩和すべきであると述べた。特別オペの拡充について、複数の委員は、金融機関が、企業を中心に幅広く民間部門に対する金融仲介機能を一層発揮することを、しっかりと支援するために、対象担保範囲と対象先金融機関を拡大するべきであるとの見方を示した。ある委員は、金融緩和の一層の長期化が想定される中、厳しい状況にある金融機関経営を念頭に、融資に対する金融機関の積極姿勢を後押しする措置を講じることが重要であると指摘した。このほか、何人かの委員は、中小企業等の資金繰り支援の工夫を、政府の緊急経済対策における制度なども踏まえて検討すべきであるとの意見を述べた。

金融市場の安定維持に資する措置として、何人かの委員は、政府の緊急経済対策を受けた国債発行の増加の影響も踏まえ、イールドカーブ全体を低位で安定させる観点から、国債買入れをさらに積極的に行うことが望ましいとの認識を示した。ある委員は、イールドカーブ・コントロールのもとで金利目標を実現していくために必要な金額の国債買入れを、上限を設けずに行っていくべきであると述べた。そのうえで、この委員は、同措置は、政府と日本銀行が連携して厳しい経済情勢に対応していくという姿勢を訴える効果もあると付け加えた。

こうした委員の意見を踏まえ、議長は、執行部に対し、金融緩和を一段と強化する具体策として、どのような対応が考えられるか説明するよう指示した。

執行部は、以下を主な内容とする政策案を提示した。

  • CP・社債等買入れの増額等については、CP・社債等の追加買入枠を、CP等、社債等それぞれ1兆円から7.5兆円へと大幅に拡大し、既存分と合わせ、最大約20兆円まで買入れを可能とする。発行体毎の買入限度については、現在の一発行体当たりの上限1,000億円、発行総額に占める割合の上限25%を、CP等については5,000億円と50%、社債等については3,000億円と30%に緩和する。さらに、社債については、買入対象とする残存期間を、現在の1~3年から、1~5年に延長する。
  • 3月に導入・開始した特別オペの拡充策としては、次の3つが考えられる。(1)対象担保に家計債務を含めた幅広い民間債務を追加する。これに伴い、オペの名称は「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ」と改める。この結果、対象担保は、3月末時点でみて、約8兆円から約23兆円に増加する。(2)対象先に、系統会員金融機関および政策投資銀行を追加する。(3)本オペの利用残高に相当する当座預金へ+0.1%を付利する。
    これに加えて、中小企業等の資金繰りをさらに支援するため、政府の緊急経済対策等における資金繰り支援制度も踏まえた金融機関への新たな資金供給手段を早急に検討することも考えられる。新たな資金供給手段の骨子は以下のとおり。
    • 資金供給を受けられる金額は、対象先の金融機関が、緊急経済対策における信用保証付き融資の保証料・利子減免制度を利用して行う貸出の状況等を踏まえて算出した金額とする。対象とする貸出の範囲などについては、今後、検討する。
    • 資金供給の方法は、全ての共通担保を担保とする貸付とする。
    • 金融機関が、民間部門に対する金融仲介機能を発揮することを促すため、日本銀行から金融機関に対して有利な条件で資金供給を行う。特別オペと同様、貸付利率はゼロ%とし、利用残高の2倍の金額を「マクロ加算残高」に加算するほか、利用残高に相当する当座預金へ+0.1%を付利する。
  • 金融市場の安定維持に資する措置については、債券市場の流動性の低下と国債増発の影響を踏まえ、さらに積極的な国債買入れを行う旨を公表する。また、金融市場調節方針でも、イールドカーブ・コントロールの実現に必要なだけ、金額の上限を設けず国債買入れを行うことを明示する。

執行部が提示した政策案について、委員は、金融機関や企業等の資金調達の円滑確保や金融市場の安定維持の観点から、金融緩和を強化するパッケージとして適切なものであるとの認識で一致した。ある委員は、経済情勢が厳しさを増す中、執行部の提案は思い切った施策であり、これを迅速に実行することは、国民の中央銀行への信認を維持することにも繋がるとの見方を示した。一人の委員は、日本銀行が中小企業の資金需要を直接把握することが容易でないことを踏まえると、提案にあるように、系統会員金融機関と協力して中小企業を支援することは望ましいことであると述べた。複数の委員は、金融機関経営が厳しくなる中で、特別オペの残高に付利することは、金融機関の積極的な融資姿勢を後押しするために有効な手段であるとの見方を示した。ある委員は、新たな資金供給手段については、議長から執行部に検討を指示し、改めて金融政策決定会合に報告する形にするのが良いと述べた。

委員は、政策金利のフォワードガイダンスについても議論を行った。ある委員は、「物価安定の目標」に向けたモメンタムは、いったん損なわれていると判断せざるを得ず、政策金利のフォワードガイダンスは「感染症の影響」に紐付けたものに変更することが適当であるとの見方を示した。別の一人の委員は、政策金利のフォワードガイダンスは、「物価安定の目標」に向けたモメンタムではなく、金融経済活動の下支えに資する対応を最優先し、必要があれば政策対応するという、現在の政策スタンスと紐付けることが適切であると述べた。そのうえで、この委員は、こうしたガイダンスは、企業や家計のマインドが急落するもとでは、人々の安心感に繋がる可能性があると付け加えた。

以上の議論に加えて、一人の委員は、大きな経済危機においては、財政・金融政策の緊密な連携・協調が必要不可欠であるとしたうえで、インフレ率の高騰リスクは、「物価安定の目標」が堅持されている限り制御することができ、現在はデフレが懸念される局面であるため、更なる財政・金融政策の連携は十分に可能であると述べた。ある委員は、経済・物価に強烈な逆風が吹き、不確実性がきわめて高い現況下では、感染症が早期に収束する、あるいは収束前後で経済に構造変化が起きない、といった前提が満たされない可能性を考慮に入れて、金融政策を運営する必要があると述べた。一人の委員は、デフレの再定着を避け、「物価安定の目標」を実現するには何が必要なのか、現行政策の有効性の評価も踏まえた検討を行っていくべきであると指摘した。ある委員は、政府の緊急経済対策と合わせ、金利の低下を企図して積極的な国債買入れを行うことで、政府との連携強化をより明確にし、企業・家計の金利負担の軽減を図るとともに、今後のデフレ圧力を可能な限り抑制することが適当であると述べた。これに対し、一人の委員は、感染症に伴う経済の悪化により金融機関のバランスシートが毀損していくと考えられる中、既に貸出利鞘がきわめて小さくなっている状況で、金利がさらに低下することになれば、リバーサル・レートへの抵触が早まるとの見方を示した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、前回会合以降、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

そのうえで、以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針とすることが適当であるとの見解を示した。

「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする。」

これに対し、ある委員は、今後の物価下押し圧力の強まりへの対応と、企業・家計の金利負担軽減を企図して、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。なお、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、それぞれ約2兆円、約3兆円の残高を維持する。これに加え、2020年9月末までの間、それぞれ7.5兆円の残高を上限に、追加の買入れを行うこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、大方の委員は、政策金利について、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、新型感染症の深刻な影響を念頭におくと、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、デフレの定着を容認せず、かつ具体的な条件下で行動することを約束する観点から、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見を述べた。

VI.政府からの出席者の発言

以上の議論を踏まえ、政府からの出席者から会議の一時中断の申し出があった。議長はこれを承諾した(11時00分中断、11時27分再開)。

内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 景気は新型コロナウイルス感染症の影響により急速に悪化しており、極めて厳しい状況にある。政府は、今月、全都道府県を対象に緊急事態宣言を発出した。外出自粛や休業要請により経済活動は抑制されており、短期的には経済の相当な落ち込みが避けられない。早期の収束こそが経済の回復に何よりも重要であり、政府としては、収束に向けて全力で取り組んでいく。
  • 先日、過去最大規模となる「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を閣議決定した。本経済対策の迅速な実行に向けて、裏付けとなる令和2年度補正予算の早期成立を図っていく。政府としては、必要に応じて臨機応変かつ果断に対応していく。
  • 今回の提案は、企業金融のさらなる円滑化とともに、政府・日本銀行のポリシーミックスをより強化するものであり、現下の金融経済情勢を踏まえた時宜を得たものと認識している。日本銀行には、事態の推移を注視して、引き続き、適切な金融政策運営を行っていただきたい。
  • 引き続き、政府との間で危機感を共有しつつ、緊密な連携を行っていただきたい。

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 新型コロナウイルス感染症の経済的影響に対しては、政府・日本銀行が危機感を共有し、緊密な連携の下、難局に立ち向かうことが重要である。提案の事項は、企業金融の円滑確保や金融市場の安定維持に万全を期す観点などから実施するものであり、適切な対応と評価している。
  • 感染症は内外経済に甚大な影響をもたらしており、先行きも、極めて厳しい状況が続くと見込まれる。こうしたもと、先週、事業規模117兆円の「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を閣議決定した。また、この緊急経済対策の実行等のため、令和2年度補正予算を、本日、国会に提出する。政府としては、引き続き、内外における感染症の収束までの期間と拡がり、経済や国民生活への影響を注意深く見極め、必要な対応策を迅速に取ることで、経済財政運営に万全を期していく。
  • 日本銀行には、引き続き、企業金融の円滑確保や金融市場の安定維持等に万全を期すとともに、「物価安定の目標」の実現に向けて努力されることを期待する。

VII.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、安達委員
反対:
片岡委員

片岡委員は、今後の物価下押し圧力の強まりへの対応と、企業・家計の金利負担軽減を企図して、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。なお、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、それぞれ約2兆円、約3兆円の残高を維持する。これに加え、2020年9月末までの間、それぞれ7.5兆円の残高を上限に、追加の買入れを行う。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、片岡委員、安達委員
反対:
なし

3.「コマーシャル・ペーパーおよび社債等買入基本要領」の一部改正等および「系統中央機関の会員である金融機関による新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーションの利用に関する特則」の制定等

上記の執行部説明を内容とする「『コマーシャル・ペーパーおよび社債等買入基本要領』の一部改正等に関する件」および「『系統中央機関の会員である金融機関による新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーションの利用に関する特則』の制定等に関する件」が採決に付され、全員一致で決定された。

4.対外公表文(「金融緩和の強化について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、片岡委員からは、新型感染症の深刻な影響を念頭におくと、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「金融緩和の強化について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

VIII.「経済・物価情勢の展望」の検討

続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、議案が提出された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、4月28日に公表することとされた。

IX.議事要旨の承認

議事要旨(2020年3月16日開催分)が全員一致で承認され、5月1日に公表することとされた。

以上


  • (注) 「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし 、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」 本文に戻る

別紙

2020年4月27日
日本銀行

金融緩和の強化について

  1. わが国の景気は、内外における新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により、厳しさを増している。また、金融環境も、政府や日本銀行の対応が一定の効果を発揮しているものの、企業の資金繰りが悪化するなど企業金融面で緩和度合いが低下している。
  2. こうした情勢を踏まえ、日本銀行は、金融機関や企業等の資金調達の円滑確保に万全を期すとともに、金融市場の安定を維持する観点から、(1)CP・社債等買入れの増額、(2)新型コロナ対応金融支援特別オペの拡充、(3)国債のさらなる積極的な買入れ、により金融緩和を一段と強化することが適当と判断した。
  3. このため、本日の政策委員会・金融政策決定会合では、以下の決定等を行った。
    1. (1)CP・社債等買入れの増額等(全員一致)

      CP・社債等の追加買入枠を大幅に拡大し、合計約20兆円の残高を上限に買入れを実施する1。あわせて、CP・社債等の発行体毎の買入限度を大幅に緩和するほか、買入対象とする社債等の残存期間を5年まで延長する(別紙)。

    2. (2)新型コロナ対応金融支援特別オペの拡充(全員一致)

      3月に導入・開始した新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペについて、金融機関が、企業を中心に幅広く民間部門に対する金融仲介機能を一層発揮することを、しっかりと支援するため、(1)対象担保範囲の家計債務を含めた民間債務全般への拡大(対象担保:約8兆円→約23兆円<3月末>)、(2)対象先の拡大(新たに、系統会員金融機関等を含める)、(3)本オペの利用残高に相当する当座預金への+0.1%の付利、の3つの措置を講じる2。なお、名称は「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ」と改める。

      これに加えて、日本銀行として、中小企業等の資金繰りをさらに支援するため、政府の緊急経済対策等における資金繰り支援制度も踏まえた金融機関への新たな資金供給手段(骨子は別紙)の検討を早急に行い、その結果を改めて金融政策決定会合に報告するよう、議長より執行部に対し、指示がなされた。

    3. (3)国債のさらなる積極的な買入れ

      債券市場の流動性が低下しているもとで、政府の緊急経済対策により国債発行が増加することの影響も踏まえ、債券市場の安定を維持し、イールドカーブ全体を低位で安定させる観点から、当面、長期国債、短期国債ともに、さらに積極的な買入れを行う。

  4. 金融市場調節方針、ETFおよびJ-REITの買入れ方針については以下のとおりとする。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)
      短期金利:
      日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
      長期金利:
      10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする3
    2. (2)ETFおよびJ-REITの買入れ方針(全員一致)

      ETFおよびJ-REITについて、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行う4

  5. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。
    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している(注2)
  6. 日本銀行は、本日の決定を含め現在実施している強力な金融緩和措置が、新型コロナウイルス感染症拡大への政府の各種対策や各国・地域の政府・中央銀行による様々な対応と相俟って、金融経済活動の下支えに貢献するものと考えている。

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、安達委員。反対:片岡委員。片岡委員は、今後の物価下押し圧力の強まりへの対応と、企業・家計の金利負担軽減を企図して、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、新型感染症の深刻な影響を念頭におくと、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとして反対した。 本文に戻る

  1. CP等、社債等の追加買入枠を、それぞれ1兆円から7.5兆円に増額する。追加買入枠以外の既存のCP等、社債等については、それぞれ約2兆円、約3兆円の残高を維持する。増額買入れは、2020年9月末まで継続する。 本文に戻る
  2. 付利は5月積み期(5月16日~6月15日)から実施する。利用残高の2倍の金額を「マクロ加算残高」に加算する措置は継続する。本オペは、2020年9月末まで実施する。 本文に戻る
  3. 金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する。 本文に戻る
  4. ETFおよびJ-REITの原則的な買入れ方針としては、引き続き、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行い、その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。 本文に戻る

(別紙)

CP・社債等の発行体毎の買入限度の緩和等および新たな資金供給手段の骨子

  1. CP・社債等の発行体毎の買入限度の緩和等
    1. (1)一発行体当りの買入残高の上限を、これまでの1,000億円から、CP等は5,000億円、社債等は3,000億円に緩和する。
    2. (2)一発行体の総発行残高に占める日本銀行の保有割合の上限を、これまでの25%から、CP等は50%、社債等は30%に緩和する。
    3. (3)買入対象とする社債等の残存期間を、これまでの1年以上3年以下から、1年以上5年以下に延長する。
  2. 新たな資金供給手段の骨子
    1. (1)資金供給を受けられる金額

      対象先の金融機関が、緊急経済対策における信用保証付き融資の保証料・利子減免制度を利用して行う貸出の状況等を踏まえて算出した金額。対象とする貸出の範囲などについては、今後、検討する。

    2. (2)資金供給の方法

      全ての共通担保を担保とする貸付け。

    3. (3)貸付利率

      貸付利率はゼロ%。

    4. (4)「マクロ加算残高」への加算措置

      利用残高の2倍の金額を「マクロ加算残高」に加算する。

    5. (5)当座預金への付利

      利用残高に相当する当座預金へ+0.1%を付利する。

以上